地域包括ケア病棟の設置、「患者構成」を予め明確にすることが必要―GHC改定セミナー(高知)
2015.10.7.(水)
GHCが2016年度の次期診療報酬改定に備えるためのセミナー第2弾を、高知市で開催しました。GHCマネジャーの湯浅大介は、実例をもとに「7対1の維持が難しいので、とりあえず地域包括ケア病棟を作る、ということでは良くない。地域包括ケア病棟を設置するのなら、どういった患者を入院させるのかを予め明確にしておくべきである」と訴えました。
次期改定は、大幅なマイナス改定になると見込まれ、特に7対1入院基本料の施設基準などは大変厳しくなると予想されます。そうした中では、最新情報を把握し、早めの対策をとることが必要となります。GHCでは、全国17都市で次期診療報酬改定に対応するためのセミナーを開催しています。是非、お近くの会場へ足をお運びください。
GHCの改定セミナーは、▽第1部「次期改定の最新動向」▽第2部「次期改定の対策と病院大再編を生き残るための経営戦略」―の2部構成です。
第1部では、メディ・ウォッチ編集部が綿密な取材に基づいた改定内容の詳細な説明を行いました。
診療報酬改定の中でも、入院医療の見直しを検討する「入院医療等の調査・評価分科会」では、「重症度、医療・看護必要度」(以下、看護必要度)を大きく見直す方向性が示されています。
一般病棟では、▽A項目に「開胸・開腹手術後2-3日であること」「無菌治療室での治療」などを追加する▽重症患者を「A項目2点以上かつB項目3点以上」だけでなく、「A項目が一定以上(例えば3点)」(B項目は不問)を加える▽B項目から「起き上がり」「座位保持」を除くと同時に、新たに「診療・療養上の指示が通じる」「危険行動」を追加し、さらにICU・HCU・一般病棟でB項目を統一する―などの見直しが行われるとともに、「重症者割合15%以上」の基準値が引き上げられる見込みです(関連記事はこちら)。
また特定集中治療室(ICU)では、「心電図モニター」「輸液ポンプ」「シリンジポンプ」のみでA項目3点を満たす患者が極端に多い病院があることが分かり、「項目の統合」や「重み付けの見直し」などが検討されています(関連記事はこちら)。
大幅なマイナス改定と見込まれる次期改定では、こうした看護必要度の見直しにより、特に7対1入院基本料のハードルが上がることは必至です。メディ・ウォッチ編集部は「地域医療構想や病床機能報告制度とも関係するが、次期改定では多くの病院で大きな決断を迫られる」と強調しました。
今後、機能分化が進み、7対1病棟からの早期退院がさらに促進されます。その際、転院・転棟先として「信頼関係を築いた地域包括ケア病棟など」が選ばれることになるでしょう。信頼関係構築には時間が必要ですし、「地域における回復期機能」には上限があります。こうした点を踏まえてメディ・ウォッチ編集部は「7対1からの転換を考えているのであれば、決断を早急に行い、その後の体制整備などに時間をかけるべき」と述べています。
第2部では、経験豊富なGHCのベテランコンサルタントが今後の対策について詳説しています。高知市の改定セミナーに登壇したGHCマネジャーの湯浅は、(1)看護必要度データ精度の向上(2)平均在院日数の短縮(3)重症患者の集患―の3点が非常に重要と強調します。
GHCが、病院における「看護必要度データ」と「DPCデータ」「請求データ」を比較したところ、両者には相当の差異があることが分かっています。ある病院では、20日間の入院の中で、DPCデータから「Aという処置を18日間実施した」ことが分かりましたが、看護必要度データを見ると「Aという処置の実施日は12日」にとどまっています。つまり6日間は、実際には行っていたAという処置が、看護必要度の面からは行ってないとになっているのです。
また別の病院では、アルブミンの投与について、請求データの半分程度しか看護必要度のA項目チェックを行っていないことも分かりました。
逆に、DPCデータからは「術後に輸液と抗菌剤の投与のみ」となっているにもかかわらず、看護必要度データでは「シリンジポンプ」にチェックを行っている事例などもあります。
このようにデータの精度が低い状態では、看護必要度の項目見直しに向けた対策を十分にとることができません。湯浅は「看護必要度データの精度を高めることが非常に重要」と強調。さらに、「看護必要度の評価を日々行っている看護師に、十分に看護必要度の教育をしているかどうかを確認すべき。定期的に看護部と医事課でミーティングを行ってはどうか」と提案しました。
湯浅は「正確な看護必要度データ」を揃えた上で、今後、病院がどのような経営戦略をとるべきかについても説明しました。
7対1入院基本料の施設基準が厳しくなる中では、▽機能分化をせず7対1(急性期)のみを維持する▽他の特定入院料とのケアミックスを模索する―という大きく2つの選択肢があります。
その際には、▽人口動態▽在院日数の短縮▽外来化の推進▽市場シェアの動向―といった要素を勘案する必要があると湯浅は説明します。
ある病院では、2014年度には必要な病床数が380床と試算されました。しかし、▽人口の高齢化によりプラス12床▽在院日数の短縮化でマイナス88床▽外来化の推進でマイナス4床―が必要と判断され、15年度には「必要な病床数は300床に過ぎない」ことが分かりました。つまり80床程度が過剰となり、「ダウンサイズ」や「他の機能への転換」を考える必要があるということです。
ここで湯浅は、17年4月からスタートする「新専門医制度」に注目(関連記事はこちら)。「各診療科に専門医がどの程度在籍し、今後、どうなるのか」を把握する必要があると指摘しました。新専門医制度では、大学病院をはじめとする「基幹病院」(要件は今後検討)で多くの症例を確保する必要があります。その結果、例えば「1人専門医」や「1人部長」の診療科では症例数を確保することが難しくなるため、将来的には「自院の強味」でなくなる可能性が出てきます。
この点、ある病院には糖尿病の専門医が5名も在籍しており、「糖尿病を軸とした地域包括ケアシステム」を構築し、自院の立ち位置を明確にしていったといいます。強味を明確にすることで、他院との棲み分け・連携が円滑に進むことが期待できます。
湯浅はこの事例をもとに「地域包括ケア病棟を設置するのであれば、そこにどういった患者さんを入院させるのかを明確にしなければいけない。7対1の維持が難しいので、とりあえず地域包括ケア病棟を作るという考え方は失敗する」と訴えました。
さらに湯浅は、「入院基本料の届け出が病棟単位になることも想定しておく必要がある」とも指摘。病棟別に看護必要度をチェックすると、「重症者割合15%」の基準を満たせないところが出てきます。
この場合、他の病棟と患者構成を調整する(重症割合がとても高い病棟と、低い病棟とで一部患者を入れ替え、両方で15%を満たすことを目指す)ことが考えられますが、それにも限界があります。この場合には「クリニカルパスの見直しを決断し、在院日数の短縮と、看護必要度の向上を目指す必要がある」と湯浅は訴えました。
最後に湯浅は、「今後、急性期病院がスタンドアローン(単独)で生き残っていくことは難しい。連携や統合を視野に入れる必要がある」とも強調しています(関連記事はこちら)。
改定セミナーでは、メディ・ウォッチではお伝えしきれない情報も満載です。GHCでは来年(16年)の2月にかけて、全国各地で診療報酬改定セミナーを開催いたします。是非、お近くの会場まで足をお運びください。
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