DPC入院患者への持参薬、「病院・医師の方針」による使用は認めず―DPC評価分科会
2015.10.16.(金)
DPCにおける「持参薬」使用について、これまで通り「原則禁止」「特別の理由がある場合には使用を認めるが、理由の記載を求める」こととするが、「病院や医師の方針」といった理由は認めない―。このような方針が、14日に開かれた診療報酬調査専門組織のDPC評価分科会で固まりました。
近く親組織である中央社会保険医療協議会の診療報酬基本問題小委員会に報告され、そこで正式に決まります。
DPCでは薬剤費(一部の高額な新薬は除く)が包括点数に含まれています。このため、例えば外来で当該入院治療に必要な薬剤を処方し(出来高算定できる)、それを持参させれば、2重に薬剤費を請求できることになります。また、他医療機関で処方された薬剤を持参させた場合には、2重請求にはなりませんが、他医療機関にコストを転嫁していることになります。
一方、「単科のDPC病院では備蓄している医薬品も限られているため、すべてを院内で処方させることは酷である」「既往症として生活習慣病があり、それとは別の疾患で入院した場合、生活習慣病治療薬を持参させることは、重複投薬の是正にもつながるのではないか」といった指摘もあります。
そこで厚生労働省は、前回の2014年度診療報酬改定において次のような持参薬使用ルールを定めました。
(1)入院の契機となった傷病の治療に持参薬を用いることは原則禁止する
(2)やむを得ず持参薬を用いる場合には、その理由(特別な理由)を診療録に記載する
このルールの下で持参薬使用がどのようになっているのか、厚労省が実態調査を行ったところ、次のような状況が明らかになりました(関連記事はこちら)。
▽99.6%の病院が持参薬を使用している
▽63.2%の病院が「入院の契機となる傷病」の治療に用いており、98.9%の病院が「入院の契機となる傷病以外」の治療に用いている(重複回答)
▽「入院の契機となる傷病」治療に用いた場合の理由では、「担当医の要請」が最も多い
▽使用数量が多かった持参薬は、▽消化性潰瘍用剤▽血圧降下剤▽制酸剤▽血管拡張剤▽解熱鎮痛消炎剤▽その他の血液・体液用剤▽糖尿病用剤▽高脂血症用剤―など
▽9割の病院で、持参薬の管理は薬剤師が行っている
さらに厚労省がDPCデータを用いて調査・分析したところ、「化学療法のような薬剤費の割合が多い症例では、持参薬を使用すると1日当たり170点(1700円)程度の差額が発生している(持参薬を使用していない医療機関のほうが、多くの薬剤費を負担している)」ことも分かりました。
厚労省は、こうした状況について「持参薬使用の有無で医療機関の負担に差が生じており、好ましくない」「資源投入量の不合理な差によって包括点数設定が歪められている可能性もあり、望ましくない」と判断。16年度の次期診療報酬改定でも、上記の(1)と(2)の持参薬ルールを継続することを提案しました。
ただし、(2)の「特別な理由」には、「病院側の方針」や「医師の方針」などは含まれず、こうした理由で持参薬を使用することは認められません。厚労省は「特別な理由」の具体例として、次の2つを挙げています。
▽臨時採用薬が使用可能となるまでの入院初期(2日程度)の持参薬使用
▽退院後不要となる薬剤の使用
また、持参薬を使用した場合には、その使用量をEFファイルに入力することも求められます。「EFファイルへの理由の記載も求めてはどうか」(伏見清秀委員・東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科環境社会医歯学講座医療政策情報分野教授)との意見も出ましたが、自由記載では集計が困難なため当面は使用量の記載にとどまる見込みです(診療録へは理由の記載が義務である)。
なお、DPCの包括点数には入院中の薬剤費が予め評価されているため、厚労省保険局医療課の担当者は「入院の契機傷病以外の治療に用いる場合も、持参薬使用を容認しているわけではない」点も併せて強調しています。
持参薬ルールの一部見直し提案はDPC分科会として了承され、近く中医協に報告されます。
ところで、特別な理由なく持参薬を使用しても、現行制度上、医療機関へのペナルティはありませんが、DPC制度の原則に照らして好ましくない持参薬使用は厳に慎むべきでしょう。化学療法などの予定入院では、外来時点から薬剤師が積極的に関与し、後の入院をも勘案して処方量をコントロールすれば重複投薬を是正することができます。中医協ではチーム医療の推進(関連記事はこちら)を図る方針が示されており、薬剤師と医師との連携がこれまで以上に期待されます。
この厚労省提案に対し、瀬戸泰之委員(東京大学大学院医学系研究科消化管外科教授)は「入院で化学療法を行うにあたり、初日に処方担当の医師が不在という場合には持参薬使用を認めてもよいのではないか」と質問。
これに対し厚労省保険局医療課の担当者は、「抗がん剤などを投与する以上、患者の状態を十分に把握しておく必要がある。処方当日に担当医がいないというケースは考えられないのではないか」と答え、「特別な理由」には該当しないことを明らかにしました。
また、これに関連して小山信彌分科会長(東邦大学医学部特任教授)は、「抗がん剤や制吐剤などは、あらかじめ使用が分かっている。持参薬使用を認めるのであれば、包括範囲から除外して、その分DPCの包括点数から減算するということも考えられる」とコメントしています。
なお、この日のDPC分科会では、懸案となっていた「退院患者調査」における退院時転帰の「治癒」と「軽快」問題に一応の決着が付きました。
DPC制度では、粗診粗療を是正するために「退院患者の状況はどうであったのか」「再入院が増加していないか」などを調査(退院患者調査)し、その結果を基に評価を行っています。
13年度の「退院患者調査」結果からは、▽治癒による退院が減少▽予期せぬ再入院が増加―しており、その理由として「『治癒』は退院後の外来治療が一切ない状態だが、病院・病床の機能分化が進む中で、外来通院の可能性がある『軽快』に移行している」ことなどが分かりました。
このためDPC分科会では、退院時転帰の記載項目の修正に向けた検討を行い(関連記事はこちら)、(A)治癒と軽快を合わせて「治癒・軽快」とする(B)軽快を「経過観察のみ」と「軽快」に分ける(C)治癒に「経過観察のみの外来通院を含める」―という3案が浮上しました。
この日の議論では、「シンプルで分かりやすい」「治癒と軽快の合計が分かれば、粗診粗療の有無は把握できる」としてA案を推す意見が数多く出ました。しかし、石川広巳委員(社会医療法人社団千葉県勤労者医療協会理事長)らの「臨床感覚に近いC案」を指示する意見もあったことから、両案(A案とC案)を中医協に報告することで落ち着いています。
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