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予防医療を保険給付の対象とすべきか、診療・支払側で激論―中医協総会

2015.10.21.(水)

 たばこ対策の1つである「ニコチン依存症管理料」の算定対象を広げるべきか―。この点について、21日に開かれた中央社会保険医療協議会の総会は診療側委員と支払側委員の間で熱い議論が交わされました。

 議論は「予防医療を保険給付の範囲に含めるべきか否か」というテーマに広がりつつあり、医療保険の制度体系にまで発展する可能性すら秘めています。

 また同日の中医協では、306疾患に拡大された難病について、療養病棟の医療区分などの中で適切に評価していく方向が認められました。

10月21日に開催された、「第307回 中央社会保険医療協議会 総会」

10月21日に開催された、「第307回 中央社会保険医療協議会 総会」

ニコチン依存症管理料、若年者で要件緩和すべきか

 たばこ対策はがん対策の重要な柱の1つで、喫煙率が十分に下がっていないことが「がんの年齢調整死亡率減少目標を達成できなかった」大きな要因であると指摘されます(関連記事はこちら)。

 診療報酬上は、ニコチン依存症患者に対して「禁煙に関する総合的な指導および治療管理を行い、かつその内容を文書で情報提供した」場合には、ニコチン依存症管理料を算定することができます(5回を限度とする)。

 ここで「診療報酬上のニコチン依存症患者」と認められるためには、(1)ニコチン依存症にかかるスクリーニングテスト(TDS)で依存症と診断される(2)ブリンクマン指数(1日の喫煙本数×喫煙年数)が200以上である(3)直ちに禁煙することを希望し、説明を受け、同意をしている―という3つの要件を満たすことが必要です。

ニコチン依存症管理料を算定するためには、患者が(1)ブリンクマン指数200以上である(2)TDSスコア5点以上である―ことなどが必要

ニコチン依存症管理料を算定するためには、患者が(1)ブリンクマン指数200以上である(2)TDSスコア5点以上である―ことなどが必要

 このうち(2)のブリンクマン指数は「1日の喫煙本数×喫煙年数」で算出されるため、若年者では指数が低くなりがちで、「ニコチン依存症患者」と認められるケースは少なくなります。

ブリンクマン指数は「1日の喫煙本数×喫煙年数」で計算されるため、若年者では200以上となる人は少なくなる

ブリンクマン指数は「1日の喫煙本数×喫煙年数」で計算されるため、若年者では200以上となる人は少なくなる

 この点について厚労省は、「若年層が治療対象になりにくいが、若年からの喫煙はニコチン依存症となるリスクが高い」ため、若年者について(2)の要件(ブリンクマン指数200以上)を緩和してはどうかと提案しました。

 この提案は診療側委員には歓迎されたものの、支払側委員からは反対意見が出されました。さらに「予防を保険給付対象とすべきか」という論点も絡み、両側で熱い意見が交わされました。

●白川修二委員(健康保険組合連合会副会長)「喫煙は自己責任の面も強い。保険給付の拡大には効果を示すデータを用いて慎重に議論すべきではないか」

●中川俊男委員(日本医師会副会長)「日本ではタバコ対策を進めており、これを診療報酬で評価する流れは大事だと思う」

●松本純一委員(日本医師会常任理事)「喫煙に基づく疾病の医療費は7.7%に上るというデータもある。重症化予防が重要ではないか」

●白川委員「保険給付は治療が原則で、予防は給付外である。自分の意思で禁煙する人もいる中で、成功率の低い医師による禁煙指導に保険財源を使うべきであろうか」

●中川委員「意思の弱い人もいる。医療には包容力が必要で、そのためには保険給付の拡大も積極的に検討すべきであろう」

●石山惠司委員(日本経済団体連合会社会保障委員会医療改革部会部会長代理)「医療の包容力は重要だが、保険財政がそれを許さないところまで来ている。タバコを購入する時点で本人の意思が働いている」

 こうした議論を静観していた診療側の鈴木邦彦委員(日本医師会常任理事)は「議論が『診療側vs支払側』から、『喫煙側vs禁煙側』に移りつつある」と冗談交じりに指摘。

 鈴木委員の指摘は、この議論を続けると、個別診療報酬を超えて「保険給付の範囲をどう考えるか」「予防給付を認めるべきか」という大きな議論になる可能性があるためになされたものです。田辺国昭会長(東京大学大学院法学政治学研究科教授)も「ニコチン依存症管理料について、予防と治療の線引きをどう考えるか」に論点を絞ることが重要である旨のコメントを行いました。

 なお、厚労省健康局健康課の正林督章課長は、タバコ対策が医療費適正化に与える効果について「現行のブリンクマン指数200以上を対象とすると7.6億円だが、指数200未満も対象にすると132.5億円になる」との試算を口頭で発表しています。

医療費助成対象の難病拡大、療養病棟の医療区分などで評価

 既にお伝えしているとおり、医療費助成の対象となる難病の範囲が今年(15年)7月より、従前の56疾患(特定疾患治療研究事業)から306疾患に拡大されました(関連記事はこちら)。

医療費助成の対象となる難病(指定難病)は今年(2015年)7月から306疾病に拡大された

医療費助成の対象となる難病(指定難病)は今年(2015年)7月から306疾病に拡大された

 特定疾患治療研究事業の対象である56疾病については、診療報酬上、▽療養病棟入院基本料の医療区分(2または3に該当する)▽難病外来指導管理料―などで評価されています。

現在の診療報酬では、特定疾患治療研究事業の56疾患について療養病棟入院基本料の「医療区分」などで評価している

現在の診療報酬では、特定疾患治療研究事業の56疾患について療養病棟入院基本料の「医療区分」などで評価している

 厚労省は、今般、医療費助成対象となる難病(指定難病)の対象疾患が拡大されたことを受け、希少で長期療養が必要であるため「診療報酬上、従前と同様に評価する」ことを提案しました。この提案に異論は出ていませんが、診療側の鈴木委員は「指定難病の対象が拡大された場合には、自動的に診療報酬で評価される仕組みとすべき」「指定難病から除外されたスモンについては、引き続き診療報酬で評価すべき」との注文を付けています。

 306の疾患が医療区分2と3のいずれに該当するか、スモンを現行通り医療区分3とするかなどは今後、検討される見込みです。

 なお、感染症・結核対策として次の2つの提案が厚労省から行われ、診療・支払双方ともに同意しています。

▽エボラ出血熱など一類感染症に入院治療を行う「一類感染症患者入院医療管理料」について、「検査や注射などを出来高とする」(治療に未知の部分が多いため)、「感染症法の入院措置中は、14日という算定上限を超えても算定できる」(治療終了後も病原体を保有していないことを確認するための隔離が必要なため)こととする

エボラ出血熱患者などに入院医療を行う場合に算定する「一類感染症患者入院医療管理料」は算定日数制限や包括範囲などの点で診療実態との齟齬がある

エボラ出血熱患者などに入院医療を行う場合に算定する「一類感染症患者入院医療管理料」は算定日数制限や包括範囲などの点で診療実態との齟齬がある

一類感染症患者では、治療を終えた後も「病原体を保有していないことを確認」するための入院が必要となる

一類感染症患者では、治療を終えた後も「病原体を保有していないことを確認」するための入院が必要となる

▽「結核に感染した精神疾患患者」を精神病床で収容する際の基準を策定するためのモデル事業の対象となっている精神病床では、「二類感染症患者入院診療加算」と「二類感染症患者療養環境特別加算」の算定を認める

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