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2016年度改定の基本方針、12月上旬に取りまとめへ―社保審・医療部会

2015.11.19.(木)

 2016年度の次期診療報酬改定に向け、厚生労働省は19日に基本方針の骨子案を社会保障審議会の医療部会に提出しました。細部に注文は付いたものの骨子案は大枠で了承されており、今後、医療保険部会の議論も待って、12月上旬に基本方針が取りまとめられる見込みです。

 なお、この日は厚労省から、医療費の伸び率を「改定や高齢化などの要因」別に分解した資料が提示されましたが、2014年度の前回改定について消費増税分を含めたため一部の委員から猛烈な批判が出されています。

11月19日に開催された、「第42回 社会保障審議会 医療部会」

11月19日に開催された、「第42回 社会保障審議会 医療部会」

地域包括ケアシステムと医療機能の分化・強化が重点課題

 骨子案では、今後の超高齢者社会を迎えるにあたり、診療報酬と地域医療介護総合確保基金との役割分担を踏まえた対策をとることの重要性を強調。その上で、次の4つの基本的視点に沿って、具体的な方向性を例示しています。

(1)地域包括ケアシステムの推進と医療機能の分化・強化、連携(重点課題)

(2)患者にとって安心・安全で納得できる効率的で質が高い医療の実現

(3)重点的な対応が求められる医療分野を充実する視点

(4)効率化・適正化を通じて制度の持続可能性を高める

 (1)では、患者にとっては「急性期、回復期、慢性期などの状態に応じた質の高い医療」と「切れ目ない提供体制」を確保することが重要であることを強調し、▽医療機能や患者の状態に応じた評価による機能分化の推進▽多職種の活用によるチーム医療の評価▽医療従事者の負担軽減▽勤務環境の改善▽かかりつけ医機能などの評価▽退院支援や医療機関間・医療介護の連携強化▽効率的で質の高い在宅医療・訪問看護の確保▽外来医療の機能分化―などを行うよう求めています。

 ここで「かかりつけ医」という表現が出てきます。一方で、具体的な診療報酬項目について議論する中央社会保険医療協議会では「主治医機能」の評価に関する議論が行われています(関連記事はこちら)。基本方針の骨子案で「かかりつけ医」といった表現が出てきた背景には、まず「かかりつけ歯科医やかかりつけ薬剤師といった表現との統一性」という点があります。さらに厚労省保険局医療介護連携政策課の城克文課長は、「『主治医機能』という表現を用いると個別診療報酬項目に直結する可能性がある。基本方針の中では個別項目に言及すべきではないという役割分担がある」とも説明しています。

 また菊池令子委員(日本看護協会副会長)から「看護師の夜勤制限を具体例の中に盛り込むべき」との要望がありました(関連記事はこちら)。しかし、中川俊男委員(日本医師会副会長)や西澤寛俊委員(全日本病院協会会長)、加納繁照委員(日本医療法人協会会長)らの「医療従事者の負担軽減に含まれており、追記は不要」との意見を受け入れ、要望を取り下げています。

基本方針の視点1「地域包括ケアシステムの推進と医療機能の分化・強化、連携に関する視点(重点課題)」の具体的方向性の例

基本方針の視点1「地域包括ケアシステムの推進と医療機能の分化・強化、連携に関する視点(重点課題)」の具体的方向性の例

アウトカム含めた「医療の質」の評価を重視

 (2)では、質の高い医療を実現するために、アウトカムを含めた「医療の質」の評価を進めていくことの重要性が指摘されました。これは、患者が納得して主体的に医療を選択できる体制の整備にもつながります。

 具体的には、▽かかりつけ医機能などの評価▽ICTを活用した医療連携によるサービス向上の評価▽医療に関するデータ収集・活用による評価▽アウトカムにも着目したリハビリテーションの評価―などが挙げられました。

基本方針の視点2「患者にとって安心・安全で納得できる効率的で質が高い医療を実現する視点」の具体的方向性の例

基本方針の視点2「患者にとって安心・安全で納得できる効率的で 質が高い医療を実現する視点」の具体的方向性の例

 

 (3)では、重点的な対応を行う分野として▽緩和ケアを含むがん医療▽認知症対策▽地域移行・地域生活支援の充実を含む精神医療▽難病対策▽小児、周産期医療▽救急医療―などが例示されています。

基本方針の視点3「重点的な対応が求められる医療分野を充実する視点」の具体的方向性の例

基本方針の視点3「重点的な対応が求められる医療分野を 充実する視点」の具体的方向性の例

後発品の使用促進や調剤報酬の見直しで、効率化を図る

 (4)の効率化に関しては、▽後発医薬品の使用促進や価格の適正化▽退院支援などによる在宅復帰の推進▽医薬品の適正使用の推進▽調剤報酬の見直し▽重症化予防▽医薬品・医療機器などの適正な評価―といった具体例が列挙されました。

 このうち「医薬品の適正使用」について、骨子案では「残薬や多剤・重複投薬の削減」というより具体的な内容が示されていますが、中川委員から「患者の状態や疾病によっては多剤使用もやむを得ない場合もある。本当に考えなければいけない『長期処方の削減』も具体的内容に盛り込むべきである。仮に盛り込まないのであれば、『多剤』の文言も削除しなければおかしい」という注文が付きました(関連記事はこちら)。これに対し厚労省保険局医療課の宮嵜雅則課長は、「長期処方が残薬の原因の一つになっている可能性がある。ただし、『長期処方』の制限は医師の処方権をどう考えるかというテーマとも関係が深く、中医協で検討していく内容である」と説明しましたが、中川委員の納得は得られていません。永井良三部会長(自治医科大学学長)は厚労省に修文すべきか否か検討するよう指示しています。

 また「調剤報酬の見直し」に関連して山口育子委員(NPO法人ささえあい医療人権センターCOML理事長)は、「医薬分業の推進は、薬剤の安全使用という面もあるが、経済的には患者負担を増大させるものである。そうした点も加味した見直しを行うべきである」とコメントしました。

基本方針の視点4「効率化・適正化を通じて制度の持続可能性を高める視点」の具体的方向性の例

基本方針の視点4「効率化・適正化を通じて制度の持続可能性を 高める視点」の具体的方向性の例

 さらに楠岡英雄委員(国立病院機構大阪医療センター院長)や尾形裕也委員(東京大学政策ビジョン研究センター特任教授)、本多伸行委員(健康保険組合連合会理事)は、「退院支援は効率化だけに関係するものではない。別の視点にも再掲として盛り込むべきである」と要望しています。

「消費増税分を含めた改定率は誤解招く」中川委員

 ところで厚労省はこの日、「医療の伸び率の要因分解」に関する参考資料を提示しました。毎年度の医療費の伸びに、診療報酬改定や高齢化、医療の高度化などがどれほどの影響を及ぼしているのかを示したものです。

 この中で2014年度の改定率については、消費増税対応分(プラス1.36%)を含めた「プラス0.1%」とされています。消費増税分とはいえ、医療費の伸びに関連するからです。

 しかし中川委員や西澤委員は「消費増税分は医療機関を素通りする。一部では『3年連続のプラス改定』との報道もあり、大きな誤解を招く資料である」と厚労省を厳しい口調で批判しました。

 これに対し、厚労省の吉田学審議会(医療介護連携担当)は「誤解を招くものであった」と陳謝し、資料を修正することを約束しています。

厚労省は医療費の伸び率に診療報酬改定や高齢化がどの程度影響しているのかを示す資料を提示したが、委員からは「誤解を招く」と強い批判が出されている

厚労省は医療費の伸び率に診療報酬改定や高齢化がどの程度影響しているのかを示す資料を提示したが、委員からは「誤解を招く」と強い批判が出されている

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