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GemMed塾 病院ダッシュボードχ 病床機能報告

病院のコストマネジメントを成功させる6か条(下) 使用の適正化、人件費の流動化、共同購買

2015.11.25.(水)

 コスト=単価×使用量であることを考えると、コストを下げるためには「単価」の削減だけでは不十分で、使用量などの適正化にも焦点を当てる必要があります。これがコストマネジメントの4つ目のポイントです。

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 例えば血管造影用カテーテルの1症例当たりの使用本数を病院ごとに比べると、全症例の半分程度で本数を1本のみに抑えている病院が約15%あるのに対し、すべての症例に2本以上を使用している病院も目立ちます。中には全症例に3本以上を消費している病院もあり、大きなばらつきがありました=図表4=。
201501107_拡大GPOセミナー_渡辺プレゼンスライド④
 大学病院では臨床研修でも使用するため、医療材料の使用量が必然的に多くなりがちだと考えられます。このため渡辺は、使用量を適正化する上では、「病院別」に加えて「医師別」にも分析することが有効だと示唆しました。実際、ある病院で勤務医によるカテーテルの使用本数を比較してみると、勤務医7人のうち1人は全症例の3割近くで使用本数を1本に抑えていましたが、2本や3本の使用がメーンの医師がいるなど使用量はばらばらなことが分かりました=図表5=。
201501107_拡大GPOセミナー_渡辺プレゼンスライド⑤
 償還材料の使用実態は、このようにDPCデータから医師別にも確認することが可能です。渡辺は、これらと医療のアウトカム(再入院率、再手術率、術後感染、術後合併症、在院日数など)のデータを突合させることで、医師1人ひとりの使用コストに対する臨床実績を日本でも検証できる可能性を示唆しました。

 償還可能な材料では償還と購買の価格差、いわゆる差益が発生するため使用量を適正化する動機が働きづらい側面もありますが、入院1件当たりの包括払い(DRG)の手術や検査では材料費の請求をできないため、適正使用のインセンティブが強く働くと考えられます。

■医薬品のコストマネジメントに有効な3つの方法

DPC病院の場合、入院患者に使用する医薬品のコストは1日当たりの診療報酬に含まれるため、使用量の適正化が一層重要です。医薬品について渡辺は、▽エビデンスに基づく適正使用▽注射薬から経口薬への切り替え▽オートマティック・ストップ・オーダー―によってコスト削減につなげられると指摘しました。

 このうち、「エビデンスに基づいた適正使用」の典型例が周術期の抗生剤の投与です。米国疾病予防管理センター (Centers for Disease Control and Prevention=CDC)のガイドラインによると、清潔創に対してはセファゾリンを1V投与するのが基準です。それ以上使用しても感染予防の効果が高まるというエビデンスはないためです。米国では、清潔創への抗生剤の投与を1日で中止するという基準の順守が、「臨床指標」の1つとして使われているほどです。周術期の抗生剤投与の実態をDPCデータから手術別に把握し、ガイドラインに基づいた適正使用にすることで、医療の質を維持し、医薬品のコストを削減することが可能です。これは「医療の価値」を上げる典型例でもあります。

 一方、「注射薬から経口薬への切り替え」について、渡辺は制吐剤を例に説明しました。全米総合がん情報ネットワーク(The National Comprehensive Cancer Network =NCCN)のガイドラインでは、「制吐剤の経口薬は、他のルート(注射薬など)と比べて有効性や安全性が等しく、使いやすさの点で優れ、しかも安価」としています。

 A病院の卵巣・子宮附属器の悪性腫瘍で制吐剤を注射で投与している症例を見たところ、これらの症例にそれぞれ一般食が出されていることが分かりました=図表6=。
201501107_拡大GPOセミナー_渡辺プレゼンスライド⑥
 食事の摂取量をDPCデータから把握することはできませんが、食事を取れていることからすると、注射薬を経口薬に切り替えられる可能性があります。このA病院では、制吐剤「カイトリル」を延べ490症例(年換算)、「セロトーン」を延べ62症例(同)に注射薬で使用しています。経口薬の薬価は注射薬の5分の1程度なので、仮にこれら2つの銘柄を全症例で経口薬に切り替えた場合、2000万円近いコスト削減効果(同)を見込めます。

 渡辺は「すべての症例で経口薬に切り替えるのは無理でも、消化器関連の患者さんでなければ比較的切り替えやすい」と話しました。

一方、「オートマティック・ストップ・オーダー」は高額薬剤の使用を適正するのに有効な手段です。F病院では、心不全に使用する「ハンプ」の使用方法を見直すことで大幅なコスト削減を実現させました。この病院では従来、ハンプの「初回処方日数」を6日間としていましたが、それを3日間に短縮し、投与を継続するかどうか、それまでの効果を見極めて最終日(3日目)に判定する形に切り替えました。

 このように、高額薬剤に関しては初回処方の日数を院内ルールに定め、医師が必要と判断した症例にのみ投与を継続すれば、もしも医師が院内ルールを忘れて長く処方しても自動的にストップがかかるので、「オートマティック・ストップ・オーダー」と呼ばれています。

 F病院では一連の見直しによって、投与日数を従来の6日間から3.7日間まで短縮させることに成功しました。投与本数は15本から9本に削減させ、心不全1症例当たりのハンプのコストは、14年1-6月の平均約3万2500円から翌年同期には約2万円にまで削減できました=図表7=。病院ダッシュボードの「DPC分析」では、疾患別にこの様な高額薬剤の使用実態がベンチマーク可能です。
201501107_拡大GPOセミナー_渡辺プレゼンスライド⑦
 渡辺は、「ハンプだけでなくすべての高額薬剤でこうしたルールを作っておけば、医師がルールを忘れても、薬剤部からの指摘で使用の取り扱いを徹底できる」と述べました。

■業務量に見合った人員配置に

 コストマネジメントの5つ目のポイントは、病院の費用の半分を占める人件費に関わる部分です。院内の人員配置を固定したものと考えるのではなく、業務量に見合った体制にするのがポイントで、これを「人件費の流動化」と呼んでいます。患者が増えたらその分、職員も増やし、患者が減ったら人員も減らす必要があると考えると、病院の人件費は本来、医業収益に比例する変動費とみなすことができます。

 しかし、7対1看護体制に象徴されるように、病院への診療報酬は現在、人員配置に応じて支払われるため、患者の増減(医業収益の増減)とは関係なく人件費は固定費として扱われてしまいます。渡辺は「業務量に応じた人員配置、つまり人件費を固定費ではなく変動費ととらえる人員配置が必要」と述べました。業務量に合わせた人員配置にすることで、人件費をマネジメントする「固定費吸収モデル」という概念です。 

 急性期病院の手術室や検査室での業務量は季節、曜日、1日の時間帯によっても一定ではありません。例えばCT検査の件数は時間帯によってばらつきが大きく、その上、病院によってもまちまちです=図表8=。

 ただ、どの病院も正午から午後1時ごろまでの昼休みの時間帯に稼働が落ち込むのは共通していて、渡辺は「業務量(需要サイド)をならして人員配置(供給サイド)を一定にすることが第一。業務量をならすのが難しければ人の配置を業務量に合わせる必要がある。午前中が忙しければそれなりの配置にする。全員が一斉に昼休みを取る必要はないし、午後は低稼働なりの配置にすればいい」と説明しました。

 ある病院の化学療法室では午前8時-午後5時の固定のオペレーションのうち、午前中の立ち上がりが遅い一方で、午後は早めの時間に終わったり、午後5時以降に2-3時間の超過勤務が続いたりしていて、業務量の変動が激しいことが分かりました。

 渡辺は「(時間帯によって業務量に)これだけ差がある。それなのに看護師の配置は一定。まずはケモのスケジュールを均一化するための努力が必要」と述べ、柔軟な対応の必要性を強調しました。

■共同購買は「地域ごと」がカギ

 コストマネジメントの6つ目のポイント「医薬品や医療材料の共同購買」については、同じ地域や地元の病院同士で連携するのが意思決定も早く効率的だとの見方を示しました=図表9=。
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 日本では諸外国に比べて病院が多く、しかも200床未満の中小病院が全体の7割近くを占めています。そのため、病院単独では「規模の経済」を作用させるのが極めて難しく、地域の病院による連携は今後、こうした観点からも重要になると考えられます。

 GHCでは現在、同じ地域にある急性期病院同士の医療材料の共同購買を支援していて、渡辺は最終的にこうした連携を全国規模に拡大して、メーカーとの交渉力を高めていきたいとの考えを示しました。

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解説を担当したコンサルタント 森本 陽介(もりもと・ようすけ)

morimoto 株式会社グローバルヘルスコンサルティング・ジャパンのコンサルタント。
慶応義塾大学経済学部卒業後、国家機関で薬事行政に携わり、入社。DPC・外来・財務・看護必要度・地域連携・人口動態等、多岐に渡るデータの解釈による現状分析・将来予測などを得意とする。公立がん拠点病院(関東甲信越400床台)など多数の医療機関のコンサルティングを行う。
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