介護施設などの「資金繰り」把握に向け、介護経営実態などで長期借入金の返済額も調査―介護事業経営調査委員会
2015.12.8.(火)
介護報酬改定のベースとなる「介護事業経営実態調査」は前回改定から2年後の1年分を対象とし、「介護事業経営概況調査」は前回改定をはさむ2年分を対象とするほか、介護施設などの資金繰り状況を把握するための調査を行う―。こうした方針が、8日に開かれた社会保障審議会・介護給付費分科会の「介護事業経営調査委員会」で固まりました。
14日に開催される予定の介護給付費分科会に報告され、そこでの了承を待って、具体的な調査票の作成が進められます。
介護報酬改定は3年に一度、実施されますが、その際、介護事業所や施設の経営状況を改定率や改定内容に反映させる必要があります。
このために、介護事業経営実態調査(改定後2年目の1か月分)と介護事業経営概況調査(改定後1年目の1年分)が行われていますが、季節変動や特殊要因の影響が大きいことから、委員会では次のように対象期間を見直す方向を固めました。
▽介護事業経営実態調査は改定後2年目の1年分を対象とする(直近では2016年度が調査対象となる)
▽介護事業経営概況調査は改定をはさむ2年分を対象とする(直近では2014年度と15年度が調査対象となる)
この方針はすでに、親組織である介護給付費分科会でも了承されています(関連記事はこちら)。ただし、介護給付費分科会では「実態調査と概況調査の対象を一致させ、比較可能なものとすべき」との意見が出ていました(関連記事はこちら)。この点について8日の委員会では、「事業所の負担(結果として3年分の調査に協力しなければならない)などを考慮すると難しい」ことを確認し、「一致させない」との結論を導いています。
新たな実態調査・概況調査では、次の3項目の追加・見直しが行われます。
(1)長期借入金返済支出を新たに把握する
(2)調査結果を公表する際には、税引前収支差率と税引後収支差率の双方を記載する
(3)国庫補助金等特別積立金取崩額について、社会福祉法人の会計基準見直しに合わせて、「介護事業収益」への記載から、「介護事業費用」の中の控除額として記載することに改める
(1)は、いわば介護事業所・施設の「資金繰り」を調べるものです。例えば介護施設については、建物の建設といった多額の費用が初期に発生し、多くの施設ではこの費用を金融機関などからの長期借入金で賄っています。
当然、借入金は返済しなければなりませんが、この返済を「介護事業の収支差(つまり利益)」と「減価償却費」で賄えるのかどうかを新たに調べることになりそうです。介護給付費分科会からは「キャッシュフロー(CF)」を把握すべきとの指摘も出ていましたが、調査に協力する介護施設などの負担を考慮して、いわば簡易版CFとして「長期借入金返済支出」を調べるものです。
調査対象は、過去5年間(2007-2011事業年度)に1億円以上の投資(主に建物整備と考えられる)を行った施設がある介護サービスで、具体的には▽介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)▽介護老人保健施設▽介護療養型医療施設▽短期入所生活介護▽特定施設入居者生活介護▽小規模多機能型居宅介護▽任意章対応型共同生活介護▽地域密着型特定施設入居者生活介護▽地域密着型介護老人福祉施設▽看護小規模多機能型居宅介護(旧、複合型サービス)―の10類型です。
厚労省では、サービスごとの収入・費用を把握するための按分ルールを定めており、長期借入金返済額についてもこのルールに則った按分を行い、「サービスごとの長期借入金返済額」を把握する考えです。
なお、11月24日に開かれた介護給付費分科会では、一部委員から「借入金額も把握すべき」との指摘が出ていますが(関連記事はこちら)、この点は委員会では議論されず、14日の分科会で再度検討されることになります。
また(2)の見直しは、既に調査項目に含まれている「税引後の収支差率」を、公表時にも明確にわかるようにするにとどまります(関連記事はこちら)。(3)は会計基準の見直しに伴う技術的な見直しに過ぎません(関連記事はこちら)。
さらに委員会では、「介護保険施設(特養ホームなど)や居住系サービス(グループホームなど)において、介護サービスに係る費用とそれ以外の費用とを、どう按分するべきかの研究を行う」方針も示しています。介護保険では、医療保険と異なり「混合介護」(保険給付と保険外給付の併用)が正面から認められているので、その部分を適切に切り分けることが介護報酬論議では重要になってくるためです(関連記事はこちら)。
このような実態調査と概況調査の見直し方針は、14日に開かれる予定の介護給付費分科会に報告されます。そこでの了承を経てから、厚労省は概況調査の調査票(詳細な調査内容)の作成に入ることになります。
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