看護師の夜勤時間の計算方法を見直すべきか、支払側と診療側で議論は平行線―中医協総会
2015.12.16.(水)
入院基本料の施設基準にある「看護師の月平均夜勤時間」を計算するにあたり、現在は除外されている「16時間以下の看護師」を含めるべきか否か―。このテーマについて、中央社会保険医療協議会の診療側と支払側の間で議論は平行線を辿っています。
年明け(2016年)1月からの議論で、どのような調整が行われるのか注目されます。
病院の入院収入の核となる「入院基本料」を届け出るためには、さまざまな施設基準を満たすことが必要です。その1つに「夜勤を行う看護職員の1人当たりの月平均夜勤時間数が72時間以下であること」(いわゆる夜勤72時間要件)があります。
これは、病院全体で見て1人当たりの平均夜勤を72時間までと定める規定ですが、現在、計算対象から「月当たりの夜勤時間数が16時間以下の看護師」や「夜勤専従者」が除外されています。
厚生労働省保険局医療課の宮嵜雅則課長は11月25日の総会に、「月当たりの夜勤時間数が16時間以下の看護師」も計算対象に含めてはどうか、との提案を行いました。
この提案について診療側の委員は賛意を唱えています。その理由として、「夜勤16時間以下の看護師を計算対象に加えることで、長時間夜勤をしている看護師の負担が減り、労働環境が良くなる」ことを挙げています。
一方、支払側の委員は「長時間(頻回)の夜勤が可能な看護師の負担がかえって増える可能性もある」と強く反対していました。
16日の中医協総会では、この点が再び議題となりましたが、診療側と支払側の議論は平行線を辿っています。
支払側の平川則男委員(日本労働組合総連合会総合政策局長)は、「夜勤16時間以下の看護師を計算対象に含めれば、夜勤72時間要件はクリアしやすくなる(分母の増加が、分子の増加よりも大きいため)。すると、現在、長時間の夜勤をしている看護師(つまり夜勤回数が多い)の負担をより重くしても、72時間要件を満たせるので、かえって労働環境が悪化するのではないか」と指摘します。
さらに平川委員は、「72時間要件をクリアできるので看護師を減らしても大丈夫」と考える病院が出る可能性を指摘。「看護師の減員による負担増」「長時間夜勤の増加による負担増」という二重の負担が生じかねないとの懸念を示しました。
また菊池令子専門委員(日本看護協会副会長)も、平川委員と同旨の見解を述べ「夜勤72時間要件が看護師の夜勤を制限する唯一の規定である。現行のまま維持してほしい」と要望しています。
これに対し、診療側の松原謙二委員(日本医師会副会長)は「現行の計算方法では、夜勤16時間以下の看護師が増えれば、他の看護師で平均夜勤72時間をクリアしなければならないので、『夜勤専従看護師の確保』や『夜勤16時間以下の看護師の異動(解雇もあり得る)』をせざるを得ない」と改めて説明し、厚労省の見直し案によって夜勤16時間以下の看護師の雇用が拡大すると見通しています。
また平川委員の指摘する「看護師の減員」については、「7対1の届け出ができなくなってしまう。その心配はない」と断言しました。たしかに多くの病院が看護師確保に苦労する中では、看護師の減員を選択する病院はごく少数派に止まると考えられます。
このように、いわば医療機関の経営者である「診療側委員」vs労働者代表を交えた「支払側委員」「看護職代表の専門委員」という構図は、11月25日と同様です。宮嵜医療課長は「働き方が多様化する中で、『夜勤時間の短い人は計算に含めません』という現在のメッセージが好ましいのかという問題意識がある。改めて論点などを整理して示したい」とコメントしており、年明け(2016年)からの詰めの議論を行う中で、この点がどのように調整されるのか、注目が集まります。
なお宮嵜医療課長は、看護師51万人を対象に「月当たりの総夜勤時間」を調べた結果を提示しました。そこからは、1か月当たりの夜勤時間が64時間以上72時間未満の看護師が最も多いことや、1か月当たり112時間以上の長時間夜勤を行っている看護師が3%ほどおり、これは「夜勤専従者」と考えられることなどが明らかになっています。
ただし、集計からは「夜勤16時間以下の看護師」がどの程度なのかを正確に把握することはできません(16時間未満と16時間以上32時間未満で区分されているため)。
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