介護療養の「身体合併症もつ認知症高齢者」受入機能、地域包括ケアシステムでも維持を―日慢協
2016.4.12.(火)
介護療養病床では「経管栄養が必要な患者」「ターミナル期の患者」「身体合併症を有する認知症高齢者」を多く受け入れており、今後の地域包括ケアシステムの中では、こうした介護療養が担っている機能を代替できる施設や、医療療養病床などを整備しなければならない―。
日本慢性期医療協会は7日に、「医療が必要な要介護高齢者のための長期療養施設の在り方に関する調査研究事業」報告書の中で、このような提言を行っています(日慢協のサイトはこちら)。
介護療養や25対1医療療養の新たな移行先などを巡る議論にも、影響を与えそうです(関連記事はこちらとこちらとこちら)。
目次
介護療養は「身体合併症ある認知症高齢者の受け入れ」「ターミナル」に積極的
慢性期の入院医療を巡っては、▽25対1医療療養や介護療養の移行先▽地域医療構想の中で相当数の慢性期入院患者の在宅移行を見込んでいる▽第7期医療計画・第7次介護保険事業(支援)計画の策定▽診療報酬・介護報酬改定―などさまざまな動きがあり、今年(2016年)から来年(17年)にかけて、データを基にした総合的な議論が行われます(関連記事はこちらとこちらとこちらとこちら)。
日慢協はそうした中で、「介護療養と医療療養の差異はどこにあるのか」「地域包括ケアシステムの中で療養病床が果たすべき役割は何なのか」「医療が必要な要介護者をどういった施設で受け入れるべきか」といったテーマについて調査分析を行いました。医療療養897件、介護療養499件、地域包括ケア病棟111件から回答を得ています。
まず、介護療養と医療療養の差異を見てみましょう。ただし、一口に「介護療養」「医療療養」と言いますが、介護報酬・診療報酬上の加算届け出などによって細かく分類されます。それぞれがどのような特徴を持っているのか、日慢協の調査からは次のような点が明らかになりました。
【介護療養】
(1)療養機能強化型A【重篤な身体疾患を有患者・身体合併症を有する認知症高齢者、喀痰吸引・経管栄養・インスリン注射が実施された者がそれぞれ50%以上など】(関連記事はこちら)
→認知症高齢者の割合が高く(70.2%)、喀痰吸引を入院患者の50.4%、経管栄養を71.9%に提供。ターミナルケアの提供割合は20.8%、死亡退院の割合は51.2%で、「看取り」の場となっている。平均在院日数は646.2日と長い。
(2)療養機能強化型B【重篤な身体疾患を有患者・身体合併症を有する認知症高齢者が50%以上、喀痰吸引・経管栄養・インスリン注射が実施された者が30%以上など】(関連記事はこちら)
→認知症高齢者の割合は一定程度(62.4%)だが、喀痰吸引は34.9%、経管栄養は43.0%に止まり、医療処置は療養機能強化型Aよりも少ない。ターミナルケアの提供は、療養機能強化型Aよりは少ないが、一定程度実施している(11.0%)。平均在院日数は635.4日と長い。
(3)その他の介護療養
→認知症高齢者(60.1%)・喀痰吸引(33.3%)・経管栄養(55.8%)は療養機能強化型Bと同程度。ターミナルケアの提供が少なく(1.1%)、「在宅復帰へのワンステップ」として機能しているところもある。平均在院日数は585.0日で強化型よりも若干短い(医療療養よりも長い)。
(4)診療所の介護療養も「療養機能強化型」と「その他」に分かれる
【医療療養】
(5)在宅復帰機能強化加算を算定する20対1【在宅復帰率50%以上など】(関連記事はこちら)
→認知症高齢者の割合は低い(41.1%)。喀痰吸引(57.4%)・経管栄養(62.9%)は介護療養よりも多いが、加算なしの201対1医療療養よりも少ない。平均在院日数は200日未満である(介護保険を利用していない高齢者に対し急性期・亜急性期医療を提供し、早期退院させていると推測)。
(6)在宅復帰機能強化加算を算定しない20対1
→認知症高齢者の割合は低い(37.6%)。喀痰吸引(62.4%)・経管栄養(73.7%)といった医療処置は極めて多い。平均在院日数は加算有の20対1よりも長く、介護療養よりも短い(375.7日)。
(7)25対1
→認知症高齢者は少ない(30.3%)。喀痰吸引(37.8%)・経管栄養(46.9%)といった医療処置の実施割合は介護療養病床に近い。医療区分2・3の患者を約6割受け入れており、平均在院日数は介護療養よりも短い(256.1日)。
介護療養(特に療養機能強化型)では「医療処置の必要性が高い(身体合併症がある)認知症高齢者を多く受け入れ、ターミナルケアを積極的に実施している」ことが分かります。
一方、医療療養では「医療処置の必要性が高く、認知症のない患者を多く受け入れ、在宅復帰を促している」状況が見て取れます。
医療療養・介護療養が「急性期後で、一定の医療処置が必要な患者」を受け入れ
さらに日慢協の調査では、介護療養では「経管栄養が必要な患者」「ターミナル期の患者」「身体合併症を有する認知症高齢者」「他院で救急処置を終えた患者」「リハビリが必要な患者」を、また医療療養では「在宅復帰を目指す患者」「麻薬による疼痛コントロールが必要な患者」「人工呼吸器が必要な患者」を多く受け入れていることも分かりました。
急性期病院と医療療養・介護療養が連携し、「急性期病棟で一定の治療を終えたが、医療処置の必要な患者」の転院が進められている状況が伺えます。
介護療養の持つ機能、地域包括ケアシステムの中でも準備することが必要
こうした調査・分析結果を踏まえて日慢協は、次のような提言を行っています。
▽常時医療行為を必要とする中重度の要介護者を受け入れ、あわせて重篤な長期高齢入院患者のターミナルケアを提供できる医療体制を、「地域」で確保する必要がある
▽「経管栄養が必要な患者」「ターミナル期の患者」「身体合併症を有する認知症高齢者」、「他院で救急処置を終えた患者」、「リハビリを必要とする患者」の受け入れ体制を確保するために、医療療養病床や介護療養(特に療養機能強化型)の機能を代替する施設、および在宅システムを準備する必要がある
▽在宅療養患者などの救急搬送が増加すると考えられるため、医療療養などと「在宅療養患者の主治医」「介護老人保健施設」「特別養護老人ホーム」などとの連携強化が必要で、例えば医療ソーシャルワーカー(MSW)の配置増加などを考慮することが望まれる
介護療養や25対1医療療養については、2017年度末(2018年3月)で設置根拠となる経過措置が切れるため、新たな移行先の検討が進められています。厚生労働省は、近く社会保障審議会に新たな移行先の制度設計を行う特別部会を設置する方針で、今回の日慢協調査結果や提言がどのように反映されるのか注目されます(関連記事はこちらとこちらとこちら)。
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