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GemMed塾 看護モニタリング

医療・介護ニーズのある高齢者、自宅復帰に向けて「入院中の排泄ケア」に注力を―高齢者住宅財団

2016.5.11.(水)

 医療・介護ニーズのある高齢入院患者の退院先を決定する要因には、「経済的要因」「家族要因」「心身の状態要因」の3つがあり、このうち「心身の状態要因」としては排泄に関する自立の有無が重要なポイントとなる。住み慣れた自宅への復帰(地域居住)を進めるために、入院中の「排泄ケア」に積極的に取り組む必要がある―。

 高齢者住宅財団は、10日に公表した「医療・介護ニーズがある高齢者等の地域居住のあり方に関する調査研究事業」報告書の中で、こういった提言を行っています(高齢者住宅財団のサイトはこちら)。

自宅復帰者と、施設などへの入所者を比べると、排泄の自立に大きな差

 高齢者のケアにおいては、可能な限り「住み慣れた地域での生活」(地域居住)を継続することが望ましいと指摘されます。QOLを高め、議論はあるものの医療費・介護費に及ぼすインパクトも施設居住に比べて小さいと考えられるからです。

 高齢者住宅財団は今般、医療・介護ニーズのある高齢者が地域居住を継続するためには、どのような条件が必要となるのかについて、実地調査を踏まえて分析し、報告書にまとめました。

 調査では、急性期病院を退院した患者が、「自宅に戻るケース」(517名・56.4%)と「自宅以外に入院・入所するケース」(400名・43.6%)を比較し、どのような要因によって退院先が規定されるのかを分析しています。自宅以外としては、介護付有料老人ホーム(特定施設)、サービス付高齢者向け住宅、有料老人ホーム(特定以外)などが多くなっています。

 自宅退院(入院前を同じ居住地に退院)と自宅外退院(入院前と異なる居住地に退院)とを比較すると、例えば次のような違いのあることが分かりました。

(1)同居者がいるケースは、自宅退院では80.9%、自宅外退院では53.8%

入院前と同じ(自宅退院)患者群では、同居者ありの割合が明らかに高い

入院前と同じ(自宅退院)患者群では、同居者ありの割合が明らかに高い

(2)自宅外退院では、自立度が「低く、かつ悪化の程度が大きい」患者の割合が高い

入院前と同じ(自宅退院)と入院前と異なる(自宅外退院)とで自立度の状況を見ると、自宅退院のほうが自立度が高いことが伺える

入院前と同じ(自宅退院)と入院前と異なる(自宅外退院)とで自立度の状況を見ると、自宅退院のほうが自立度が高いことが伺える

(3)ADLのうち「排泄」について、自宅外退院では一部介助・全介助の割合が高い(自宅退院と11.8ポイントの差がある)

入院前と同じ(自宅退院)と入院前と異なる(自宅外退院)とで排泄の自立状況を見ると、自宅外退院では全介助と一部介助の割合が多いことが分かる

入院前と同じ(自宅退院)と入院前と異なる(自宅外退院)とで排泄の自立状況を見ると、自宅外退院では全介助と一部介助の割合が多いことが分かる

(4)認知症について、自宅外退院では入院から退院にかけて割合が増加し、症状の維持・改善の割合が低い

入院前と同じ(自宅退院)と入院前と異なる(自宅外退院)とで認知症の状況を見ると、自宅外退院のほうが認知症患者が多いことが分かる

入院前と同じ(自宅退院)と入院前と異なる(自宅外退院)とで認知症の状況を見ると、自宅外退院のほうが認知症患者が多いことが分かる

(5)自宅外退院では、毎月15万円以上の負担が可能な人が多い(40.5%)

入院前と異なる(自宅外退院)群では、毎月15万円以上の負担が可能な人の割合が圧倒的に多い

入院前と異なる(自宅外退院)群では、毎月15万円以上の負担が可能な人の割合が圧倒的に多い

経済的要因で有料老人ホームなどに入院できず、やむを得ない自宅退院もある

 では、どのような施策を進めれば地域居住を推進できるのでしょう。報告書では、前述の調査・分析結果をベースに、地域居住に関する(A)経済的要因(B)家族要因(C)心身の状態要因―の3要因を挙げ、それぞれについて提案を行っています。

 まず(A)の経済的要因ですが、調査結果(5)から導かれるように、経済的な能力が低いため『やむを得ず自宅に退院している』人が一定程度いることが分かります。逆に言えば、「支払可能であれば自宅よりも『世話付きの居住施設・住宅』を選ぶ」という意識があるということです。報告書では、経済格差がケア格差につながらないよう「低所得高齢者等住まい・生活支援モデル事業」(厚労省の予算事業、サイトはこちら)が目的とする地域居住支援は退院支援でも有効であると強調しています。

 (B)の家族要因としては、調査結果(1)から明らかになったように「同居家族による支援」が地域居住においては極めて重要であることが挙げられます。報告書は、今後は独居・高齢者夫婦のみの世帯が増加することを踏まえ、「日常生活支援などの『家族的支援』の充実が自宅復帰・地域居住の大きなポイントになる」と指摘しています。

 また、退院先を選定するに当たり急性期病院では「本人の希望」「家族の希望」も重視しています(意思疎通不能・家族がいない人を除くと、本人希望の聴取は92.0%、家族希望の聴取95.0%に上る)。

 ただし、病院への個別ヒアリングでは「家族が介護力不足を挙げていても、本当の理由でないことも多い」「病院の退院に向けたスピード感と、家族の判断のスピード感には違いがある」ことなどが明らかになっており、退院支援や自宅復帰の推進に向けてこうした点も十分に考慮する必要がありそうです。

 さらに(C)心身の状態要因に関しては、調査結果(3)から分かるように「排泄の自立」の有無が、自宅退院に向けて非常に重要なポイントであることが分かります。報告書では、「入院中に自立に向けた排泄ケアに意識的に取り組むことが求められる」と提言しています。

 この点、日本慢性期医療協会の武久洋三会長も同様の見解を述べており、十分に勘案する必要があるでしょう(関連記事はこちらこちら)。

 このほか報告書では、「地域資源との連携」が自宅退院・地域居住に向けて重要なポイントである点も指摘。特に、インフォーマルな支援について把握を進めるよう求めています。具体的には、ケアマネジャー(介護支援専門員)・訪問看護師・訪問診療医はもちろん、本人がもともと持っていたインフォーマルな支援も活用しながら、地域で医療・介護ニーズのある高齢者を支えることが重要と言えそうです。2016年度の診療報酬改定では退院支援に関する報酬体系が大幅に見直され、より退院支援体制を整備している医療機関が高く評価されることになります(関連記事はこちらこちら)。こうした点も踏まえながら、より早期に、適切な居住地への退院を促していくことが重要です。

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