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GemMed塾 新制度シミュレーションリリース

介護報酬算定時の「勤務形態一覧」提出義務など簡素化、「根拠資料提出義務の簡素化」も検討―介護文書負担軽減専門委員会

2022.1.20.(木)

介護分野の事務負担を軽減するために、例えば認知症専門ケア加算などについて「国で標準的な様式」を作成する―。

また介護事業所・施設で大きな負担となっている、加算要件の「勤務形態一覧表」提出義務について、「一定要件の下で事業所・施設で独自に作成している資料添付でも良い」としているルールの周知徹底を図る―。

さらに、訪問介護の特定事業所加算などにおいて「要件を満たしていることの根拠資料」提出が義務付けられているが、これを「書類の準備を求めるが、提出は不要とし、ただし指定権者からの求めに応じて速やかに提出できるようにしておくことで良し」とのルールに見直せないかを検討する―。

1月20日に開催された、社会保障審議会・介護保険部会の「介護分野の文書に係る負担軽減に関する専門委員会」(以下、専門委員会)でこういった議論が行われました。

なお、「そもそも加算の体系、加算要件が複雑すぎることが問題であり。加算体系・要件の簡素化を介護報酬改定の中で検討すべきである」との声が多数出ています。

インセンティブ交付金による支援により、自治体の文書提出要件などの簡素化進む

来年度(2022年度)から、いわゆる団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となりはじめ、2025年度には全員が75歳以上に到達するため、今後、急速に医療・介護ニーズが増加していきます。その後、2040年度にかけて高齢者の増加ペースそのものは鈍化するものの、支え手となる現役世代人口が急速に減少していきます。「少なくなる支え手」で「多くの高齢者」を支えなければならず、公的医療保険・介護保険制度の財政基盤はもちろん、提供体制そのものが非常に脆くなっていくのです。

介護分野では従前から人材不足が大きな課題となっており、この課題が将来に向けてさらに大きなものとなっていくことが確実です。このため「人材確保・定着」をどう進めていくかが極めて重要で、その一環として「提出文書作成の負担が大きく、これを軽減してほしい」との強い要望が介護現場から強く出されています。厚労省は、専門委員会を設置し、下図のように段階的に文書の簡素化・標準化・ICT化を図っていく方針を明確にし(専門委員会中間報告)(関連記事はこちら)、順次、対応が図られてきています(関連記事はこちら)。

介護文書負担軽減に向けたスケジュール(介護文書負担軽減専門委員会1 200330)



1月20日の専門委員会では、厚生労働省から「中間報告を踏まえた文書の簡素化・標準化・ICT化の取り組み状況」などが報告されました。

まず「文書量の削減」や「押印義務の廃止」などの取り組み状況が厚労省から報告されています。こうした文書負担軽減は「介護事業所・施設の負担」を軽減するとともに、「自治体の事務負担」軽減にもつながることから、厚労省では文書負担軽減に取り組む自治体に対し財政的な支援(保険者機能強化推進交付金・介護保険保険者努力支援交付金、いわゆる「インセンティブ交付金」)を行っています。

このインセンティブ交付金等の効果は大きく、例えば▼運営規程等への職員の員数記載方法を「●人以上と記載することを認める」という簡素化は全都道府県、全政令指定都市・中核市で実現されており、市町村レベルでも80.6%が実施しています。また、「押印の見直し」は95.7%の都道府県、93.9%の政令指定都市・中核市、84.4%の市町村で実現されています。一方、「人員配置に関する添付資料の簡素化」は都道府県・政令指定都市でも7割弱にとどまっています。

自治体における文書負担軽減などの成果(介護文書負担軽減専門委員会1 220120)



専門員会の委員からは「インセンティブ交付金の継続・拡充」とともに、「実現率の低い項目への手当て」を行うべしとの要望が出ています。

また、こうした効果を認めつつも「例えば押印について、一部の自治体あるいは一部の書類では廃止されたが、他の自治体や他の書類では存続しているため、かえって事務が煩雑になってしまっている」(桝田和平委員:全国老人福祉施設協議会介護保険事業等経営委員会委員長)との指摘もあり、より詳しく実態を分析し、より実効性のある対応に改善していくことも重要なテーマであることが確認されています。

インセンティブ交付金における評価指標(介護文書負担軽減専門委員会2 220120)

勤務形態一覧表など「事業所・施設独自様式での提出可能」ルールを周知する

介護文書の標準化については次のような方針で取り組む考えが厚生労働省から示されました。自治体(保険者)による提出書類の様式がバラつきを抑える(標準化)ことで、書類を準備する介護事業所・施設の負担軽減を狙うものです。

(1)「自治体が独自に要件を確認するための届け出書などを作成している」加算(例えば認知症専門ケア加算、認知症加算、看取り連携体制加算など)について、「国が様式例を作成する」こととしてはどうか。あわせて国が介護職員処遇改善加算・特定処遇改善加算の変更届の様式例も作成してはどうか

文書負担標準化に向けた取り組み(その2)(介護文書負担軽減専門委員会4 220120)



(2)人員配置要件がある加算(例えばADL維持等加算、サービス提供体制強化加算など)の「(別紙7)従業者の勤務の体制及び勤務形態一覧表」の取り扱いについて、「各事業所・施設で使用している勤務割表(変更届け出の場合は変更後の予定勤務割表)等により、届け出対象となる従業者の職種、勤務形態、氏名、当該業務の勤務時間、職種ごとの配置状況等が確認できる場合は、当該書類をもって添付書類として差し支えない」との既存ルールを周知徹底してはどうか

(3)「前年度または前3か月の介護福祉士の割合」のように「一定期間における特定の資格等を持つ者の割合」が要件となっている加算(例えばサービス提供体制強化加算などについて、「各事業所・施設で使用している独自の勤務割表を提出する場合の補足資料として、割合の計算根拠を示す参考様式を別途作成する」こととしてはどうか。この場合、「(別紙7)従業者の勤務の体制及び勤務形態一覧表」を作成して提出する場合は、割合の計算根拠を示す参考様式の添付は要しないなど、負担増にならないように配慮する。

文書負担標準化に向けた取り組み(その3)(介護文書負担軽減専門委員会5 220120)

文書負担標準化に向けた取り組み(その4)(介護文書負担軽減専門委員会6 220120)



いずれの取り組みも介護現場や自治体の負担軽減につながると期待され、多くの専門委員から歓迎の声が出ています。とりわけ(2)の勤務形態一覧表については「現場の負担が大きい」(例えば事業所・施設で作成している書類を、自治体ごとに求められる形に書き直す負担などが大きい)との声がかねてより出ており、「事業所・施設で使用している書式の流用」を認めるルールの周知は大きな効果を生みそうです。

解釈誤りや不備の少ない加算を選別し、「加算根拠資料の提出を不要とする」簡素化

もっとも標準化だけでなく「文書作成負担そのものの簡素化」を進めることが重要です。そこで厚労省は、加算等の要件を満たすことの「根拠資料」について、介護職員処遇改善の例にならって「根拠書類を準備し、指定権者(保険者)からの求めがあった場合に速やかに提出できる」体制を整えておけばよいこととしてはどうか、との考えを提示しました。

例えば、訪問介護の特定事業所加算では、要件である▼計画的な研修の実施▼会議の定期的開催▼サービス提供責任者と一般訪問介護員等の情報伝達・報告体制の整備▼定期健康診断の実施▼緊急時における対応方法▼介護福祉士割合―などについて「根拠資料」を添付して届け出を行うことが求められています。

こうした根拠資料について、「作成、準備」は求めるものの、届け出は不要とし、例えば指導が行われる際などに「求めに応じて速やかに提出できる」ようにしておけばよい、との簡素化を行うイメージです。

相当程度の負担軽減が期待できますが、一方で「事業所・施設サイドで要件の解釈を誤っていた場合には、当該根拠資料を確認でその誤りが判明することになる。その場合には遡って加算の返還を行うなどの過誤調整が必要となる。かえって事務負担が増加してしまうのではないか」との懸念もあります。自治体サイドはもちろん、事業所・施設サイドにも同様の懸念があることが1月20日の専門委員会で明らかにされました。

このため厚労省では「解釈の誤り・過誤調整が少ない加算」を対象に、こうした簡素化を進める考えを提示。そのため、近く「加算の届出時の不備の発生状況等の実態を把握し、不備の多い加算の種類・要件や不備の内容を明らかにする」考えを明らかにしました。どういった加算で「解釈の誤りが少ない」のか、どういった加算で「解釈の誤りの多いのか」が今後明確になることでしょう。その際、「解釈の誤りの多い加算」については、当該要件の妥当性などを検証・検討していくことも重要でしょう。

この点、専門委員会はもちろん、介護報酬を議論する社会保障審議会・介護給付費分科会において「加算の簡素化、加算要件の適切性確保」などを求める声が多数出ています。自治体代表の1人である山本千恵委員(神奈川県福祉子どもみらい局福祉部高齢福祉課長)も「加算の簡素化の必要性」を強く指摘しています。例えば、新たな介護職員の処遇改善加算(2022年10月創設予定)が創設されますが、介護給付費分科会では「3つの処遇改善加算が設けられ、非常に複雑である」との指摘も出ています。

2024年度の次期介護報酬改定での重要テーマの1つとなりそうです。

実地指導を「個別指導」に名称変更、項目・内容によってはオンラインによる指導も可能

また1月20日の専門委員会では、実地指導について次のような見直しを行う考えが厚労省当局から示されています。

▼実地指導の名称を「個別指導」とする(新型コロナウイルス感染症の影響などもあり「実地」でなく「オンライン」による指導が増加し、今後も増加すると認められるため、実態に合わせた名称とする)

▼個別指導の内容を、(1)介護サービスの実施状況指導(2)最低基準等運営体制指導(3)報酬請求指導―の3点と明確化する

▼施設・設備や利用者等の状況以外の「実地でなくても確認できる内容」(上記(2)(3))については、介護 保険施設等の負担増(効率化に逆行)にならないよう十分配慮し、情報セキュリティの確保を前提として「オンライン会議システム等を活用することが可能」である旨を明記し、メリハリをつけた個別指導実施を可能とする

▼個別指導の実施頻度について、原則「指定等の有効期間(6年)内に少なくとも1回以上」とする(施設サービス・居住系サービスについては、現行での実施状況等を踏まえ「3年に1回以上」の頻度で実施することが望ましい)

▼個別指導の標準化・効率化を推進するため、「標準的な確認すべき項目・文書による実施」「所要時間の短縮」「同一所在地や関連する法律に基づく指導・監査の同時実施」「確認する書類等の期間の限定」「電磁的記録により管理されている書類等のディスプレイ上での内容確認」「事務受託法人の活用」などを明記する



この点に関連して遠藤健委員(全国介護付きホーム協会顧問)は「介護サービスの質担保について、これまでは事前規制を主眼としてきたが、そろそろ指導等の事後規制に軸足を移していくべき」とコメント。また清原慶子委員(杏林大学客員教授/ルーテル学院大学客員教授)は「オンライン指導を推進していくべき」旨の考えを強調しています。

この10月(2022年10月)から一部自治体・介護事業所を対象にオンライン指定申請開始

他方「ICT化」に関しては、次のような介護事業所・施設の指定等にかかる電子申請・届出システムの導入スケジュール案が示されました

▽2021年度(この3月まで)に電子申請等システムに参加する自治体を募集し、調整を行う(第1期参加自治体が確定)

▽今年(2022年)10月頃から電子申請等システムを第1期自治体において運用開始する

▽今年(2022年)夏に「第2期の参加自治体」募集を開始し、第2期の運用は2023年度から開始する

文書負担標準化に向けた取り組み(その1)(介護文書負担軽減専門委員会3 220120)



電子申請・届け出が実現すれば、例えば「様式」についてはパソコンで必要事項を入力し、添付書類もオンラインでの「貼り付け」で済むことになります。システム如何によっては「ミスの減少」も期待され(例えば「実人員<常勤人数」などあり得ない数値が入力された場合にアラートを出すなど)、事業所・施設サイド、自治体サイドの双方にとって大きな負担軽減となります。

数多くの自治体が参加することに期待が集まり(参加自治体が少なければかえって事務が煩雑になる)、自治体サイドからの「技術的・経済的な支援」要望に国がどう応えるのかに注目が集まります。



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