がん検診の精度向上に向け、まず「検診データ」と「レセプト・がん登録データ」との突合推進―がん検診あり方検討会(2)
2022.7.20.(水)
がん検診の精度を高めるため、まず検診データ(陰性・陽性のいずれであったのか)と「レセプトやがん登録」データ(実際にがんであったのか否か)との突合が重要である—。
今後、地域がん検診(市町村検診)と職域がん検診(会社等の検診)とを束ねた「組織型がん検診」を構築・推進し、我が国の「がん早期発見」体制を充実していく必要があり、そのために、まず「職域検診」の実施状況を丁寧に把握・評価することが重要である—。
7月15日に開催された「がん検診のあり方に関する検討会」(以下、検討会)では、こうした議論も行われています(関連記事はこちら)。
がん検診の精度・性能を「レセプトやがん登録のデータ」を用いて検証することが重要
検討会では、今後の「がん検診」に向けて(1)受診率の向上(2)精度管理(3)科学的根拠に基づく検診の推進—の3項目に関する提言をまとめました(関連記事はこちら)。
このうち(2)の精度管理に関しては、「検診結果と精密検査結果との突合」手法から、「レセプト(がん診療のデータを抽出できる)やがん登録データ(全国の医療機関はがんと診断された人のデータを都道府県知事に届け出ることが義務化されている)と検診結果との突合」手法への移行方針が打ち出されています。
この点、「レセプト・がん登録データを用いた精度管理」研究の代表者である弘前大学医学部附属病院医療情報部の松坂方士准教授は、次のような考えを強調しています。
(1)有効ながん検診のためには、直接的な性能評価指標である「感度」「特異度」を用いた精度管理が必要であり、そのためには「がん登録情報の利用」(データ照合)が必須である
(2)「偽陰性症例は見逃しではない」など、がん検診に関する知識の普及が極めて重要である
(3)国際的にがん罹患率やがん死亡率などを比較し、がん検診の成果を検証することも重要である
まず(1)については、▼感度(がん有病者を「要精検」を正しく判断する指標)▼特異度(がん非有病者を「異常なし」と正しく判断する指標)—で検診の性能を評価することになりますが、後者「特異度」に関して、「異常なし」患者を正確に把握するためには、がん登録データを用いることが有用である旨を強調しています。
ただし、「異常なし」か否かを判断するためには「一定期間、当該患者を追跡する」必要があります。例えば、X年にがん検診で「陰性・異常なし」との結果が出た患者について、「数十年後にがんが発症した」からといって、「当該検診の精度が低い」とすることはできません。このため「一定期間、当該患者を追跡して、検診の『異常なし』判断が正しかったか否か」を判断することになりますが、その追跡期間を全国で揃えなければ、検診の精度を比較検証することができません。このため松坂准教授は「検診の精度比較のために定義を明確化する必要がある」と訴えています。この点、松田一夫構成員(福井県健康管理協会副理事長・がん検診事業部長)は、検診指針(がん予防重点健康教育及びがん検診実施のための指針)に定められた期間(原則として年1回、ただし胃がん・子宮頸がんでは2年に1回)を追跡期間とすることが妥当との考えを示し、多くの構成員もこれに賛同しています。
また、(2)では「検診に関する正しい知識の普及」(一部に「偽陰性は見落とし・見逃しである」などと報道されることもある)、(3)では「海外データとの比較に基づく、我が国のがん検診の精度の『評価』を行う」ことの重要性を松坂准教授は強調しています。
地域・職域を束ねた「組織型がん検診」構築に向け、職域検診の実施状況把握を
また、提言全体を通じて「職域検診」の実態把握などが、がん検診の大きな課題として注目されています(関連記事はこちら)。
この点、代表的な職域医療保険である「協会けんぽ」(主に中小企業の会社員とその家族が加入)と「健康保険組合」(主に大企業の会社員とその家族が加入)について、がん検診の実施状況が厚生労働省から報告され、次のような状況が明らかになりました。
▽協会けんぽの実施する生活習慣病予防検診において、一部に「がん検診」項目が含まれており、付加的ながん検診も実施されている
▽協会けんぽでは、がん検診受診者数が増加傾向にある
▽健保組合では「人間ドック」の中でがん検診を実施するケースが多い
▽健保組合のがん検診受診者数は、微増あるいは横ばいである
今後、協会けんぽの「がん検診」実施状況については全数調査に移行し、実態がより明確に把握されることになります。大内憲明座長(東北大学大学院医学系研究科特任教授・東北大学名誉教授)はじめ、多くの構成員が「地域(市町村)・職域を束ねた組織型検診の構築に向けて、こうした実態把握は極めて重要である」とし、厚労省の今後の取り組みにも期待を寄せました。
なお、中川恵一構成員(東京大学大学院医学系研究科特任教授)からは「規模別に見た、企業における検診実施状況」データが報告され、概ね「大規模な企業ほど、がん検診実施に力を入れている。ただし、中小・零細企業であってもがん検診に力を入れているところもあり、事業主(社長)の意識に大きく関連する」ことなどが明らかにされました。「従業員の健康確保」=「企業の存続」であると事業主に気づいてもらうために、どういった情報提供や支援などを行うべきか、今後の検討に注目が集まります。
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