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GemMed塾 看護モニタリング

認知症治療薬「レケンビ」(レカネマブ)、保険適用された際に巨大な市場規模になる可能性踏まえ「薬価の特別ルール」検討—中医協(1)

2023.9.27.(水)

新たな認知症治療薬「レケンビ点滴静注200mg」「同点滴静注500 mg」(一般名:レカネマブ(遺伝子組み換え))が9月25日に薬事承認され、遅くとも90日以内に保険適用することが求められる—。

ただし、対象患者数が多くなると予想され、保険適用された場合には「1500億円を超える巨大な市場規模になる」可能性も否定できない。このため「本剤に限定した薬価算定の特例ルール」を検討する—。

9月27日に開催された中央社会保険医療協議会・総会でこうした方針が固められました。今後、具体的な特例ルールを薬価専門部会で議論し、それを中医協総会で承認した後に、下部組織である薬価算定組織で具体的な値決め(薬価案の作成)が行われます。

なお、同日には診療報酬調査専門組織「入院医療等の調査・評価分科会」の中間まとめ報告なども行われており、別稿で報じます。

認知症患者数の増大踏まえると、市場規模が巨大になる可能性否定できず

医療技術が高度化し、優れた医薬品が登場してきています。優れた医薬品について「高額の薬価が設定され、多くの患者に使用される」ことは患者・製薬メーカーにとって好ましいことですが、「医療保険財政」の側面からは手放しで喜ぶこともできません(医療費・薬剤費が増加すれば医療保険財政が厳しくなる)。

このため、2022年度の薬価制度改革では「年間1500億円超の市場規模が見込まれる医薬品が承認された場合には、通常の薬価算定手続きに先立ち、直ちに中医協総会に報告し、当該品目の承認内容や試験成績などに留意しつつ、薬価算定方法の議論する」とのルールが設けられています。すでに、このルールに基づき「新型コロナウイルス感染症治療薬であるゾコーバ錠」にかかる特別薬価ルールが設けられています(関連記事はこちらこちら)。



9月25日に新たな認知症治療薬「レケンビ点滴静注200mg」「同点滴静注500 mg」(一般名:レカネマブ(遺伝子組み換え))が薬事承認され、遅くとも90日以内に保険適用することが求められています。

新たな認知症治療薬「レケンビ」が薬事承認され、今後、保険適用することになる(中医協総会(1)1 230927)



この点、次のように「対象患者数が多くなる」「薬価を一定程度高額に設定する」点を考慮すると、市場規模が「1500億円を超過する」可能性が高くなると厚生労働省保険局医療課の安川孝志薬剤管理官は判断。中医協総会に「本剤に関する薬価特別ルールを検討してはどうか」と提案しました。

【患者数について】
▽メーカーは本剤の対象となりうる患者数を542万人(アルツハイマー病による軽度認知症外(MCI):380万9000人、軽度のアルツハイマー型認知症:161万人)と推計している

レケンビの対象となりうる患者数は542万人と推計されている(中医協総会(1)2 230927)



▽もっとも、本剤の安全使用(アミロイド関連画像異常(ARIA)などの重篤な副作用発現の可能性あり、最適な薬物療法を提供できる施設に限定した投与)のために、厚労省で最適使用推進ガイドラインを作成することから、投与対象患者は上記よりは限定される

レケンビでは最適使用推進ガイドラインが作成される見込み(中医協総会(1)3 230927)



【薬価について】
▽先行薬事承認されている米国では、「年間366万円」となる価格が設定されている



▽本剤は抗体医薬品であり、既存の認知症治療薬(アリセプト錠、1日薬価125円40銭)とは「異なる価格帯」(桁が異なる程度の薬価)となると予想される

抗体医薬品は、化学合成品よりも「高い薬価」が算定されるのが通例(中医協総会(1)4 230927)



例えば、米国と同程度の「年間366万円」となる薬価が設定されれば、患者要件・施設要件を厳しくし「5万人」に投与対象が限定(対象となりうる患者の1%に限定)されたとしても、年間の医薬品市場規模は「1830億円」に膨らみ、上記の「1500億円超」基準を突破してしまう可能性があります。

このため「特別ルールを検討する」提案について中医協委員からは異論は出ず、承認されました。今後、下部組織の薬価専門部会で具体的な制度設計を行い、それを中医協総会で承認。その考え方に沿って、下部組織である薬価算定組織で「値決め」(薬価案の作成)を行い、最終的に中医協総会で薬価を決定します。遅くとも90日以内(つまり年内)に保険適用することが求められ、急ピッチで薬価専門部会での議論が進むと予想されます。

関連して診療側の長島公之委員(日本医師会常任理事)や患者代表である支払側の高町晃司委員(日本労働組合総連合会「患者本位の医療を確立する連絡会」委員)からは「安全性確保を最優先に検討してほしい」との指摘も出ています。上述したように、レケンビには「アミロイド関連画像異常(ARIA)などの重篤な副作用発現の可能性」があり、例えば「投与後2か月、3か月、6か月、以降6か月に1回、MRI検査を実施しARIA発現の有無を確認できる」ような体制を整えた施設でのみ投与可能となる見込みです(最適使用推進ガイドラインで規定)。薬価収載時には「最適使用推進ガイドラインを遵守する」べき旨が留意事項通知などで示されると考えられますが、こうした「安定使用のための要件」も同時に薬価専門部会等で検討されます。



なお、実際の投与患者がどの程度になるのかを現時点で正確に予測することは困難です。例えば最適使用推進ガイドラインで一定の施設要件(診断、ARIA画像所見の判断等ができる医師、必要なスコア評価やARIA判断等ができるチーム体制や検査体制等を有する施設任限定する)が定められたとして、多くの医療機関の努力でその要件をクリアすれば「対象施設の増加→対象患者の増加→市場規模の拡大」が生じます。

このため、薬価制度では「実際の患者数・市場が、予想をはるかに超えて大きくなった場合」の対応として「市場拡大再算定ルール」を設けています(予想を大きく超え、一定の規模以上になった場合に薬価を引き下げるルール)。上述したゾコーバ錠については「市場規模を迅速に把握するために、特別にNDB以外のデータを活用する」ルールが設けられましたが、本剤(レケンビ)において特別ルールを設けるのかなどは、今後の薬価専門部会論議を待つ必要があります。

新薬レケンビ、「介護費用の削減」効果も期待できるが、それをどう勘案すべきか

ところで、認知症には「医療」だけで対応することは困難で、「介護」での対応が極めて重要となります。逆に考えると、「認知症治療薬」は「介護の負担、介護の費用を削減する」効果も期待できます。本剤を開発したエーザイ社も、この点を重視し、薬価基準収載希望(保険適用の希望)にあたって、有効性・安全性に係る試験成績データのほかに、「介護費用等に基づく評価」に関するデータも提示しています。

エーザイ社は「介護費用削減効果」も薬価設定の際に勘案してほしいと要望している(中医協総会(1)5 230927)



中医協に対して、「介護費用の削減効果」などを薬価にどう反映させるべきか、が問われていると言え、今後、具体的な「薬価特別ルール案」を議論する薬価専門部会で、その取扱いが検討されることになります。

この点については、中医協の下部組織である費用対効果評価専門部会で「介護費用の削減効果を、医薬品・医療機器の価格調整に反映させるべきか否かを今後検討・研究していく」ことが議論されていることを踏まえ、長島委員は「当初の薬価設定では介護費用は勘案せず、保険適用後の費用対効果評価の段階で『介護費用を勘案するか否か』を検討することになる」と指摘しました。

関連して、同じく診療側の池端幸彦委員(日本慢性期医療協会副会長、福井県医師会長)は「本剤を使用した認知症患者」と「本剤を使用しなかった認知症患者」との介護負担の状況などを将来に向けて研究してはどうか(プロスぺクティブな研究)とも提案しています。「介護費削減の効果などを将来の薬価再算定時に勘案する」ことを目指す提案ですが、厚労省保険局医療課医療技術評価推進室の木下栄作室長は「かなり長期間に及ぶ研究・調査になろう。どういった調査・研究が考えられるか、専門の研究者と相談していきたい」と答弁するにとどめています。

新薬レケンビが認知症施策の中で、どういった役割を果たすのかも明確にせよ

さらに中医協では、本来の議題である「レケンビの保険適用、薬価設定」という範囲を超え、「認知症施策の中で、新薬レケンビの登場をどうとらえるべきか」という大きなテーマに関する意見も出されました。

例えば、「安全性確保はもちろん、本剤が有効な患者が適切に本剤投与を受けられる環境の整備が重要である。認知症施策全体の中で『どのような患者が本剤にアクセスすべきか』などを明確に位置づけることも必要ではないか」(長島委員)、「認知症患者へは、地域の関係者・関係機関が一体となって対応することが重要である。そうした対応の中で本剤がどういった役割を果たすのかを明確にしておくべきである」(支払側の安藤伸樹委員:全国健康保険協会理事長、診療側の茂松茂人委員:日本医師会副会長)、「本剤は事前報道などもあり、国民・患者の期待が極めて大きい。本剤の投与対象にならなかった認知症患者等へのフォローも十分に検討すべき」(支払側の松本真人委員:健康保険組合連合会理事)等の意見が出ています。

さらに長島委員は「国民の期待が非常に大きいが、実態、正確な情報に基づかない過度な期待はマイナス面が大きい。正しい情報を、丁寧に、分かりやすく示すことが極めて重要である」と厚労省に強く要望しています。



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