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GemMed塾 2024年度版ぽんすけリリース

「正常分娩を保険適用すべきか」との議論スタート、「産科医療機関の維持確保」や「保険適用の効果」などが重要論点に—出産関連検討会

2024.6.27.(木)

出産にかかる経済的負担の軽減に向けて「正常分娩の保険適用」などをどう考えていくか—。

また、妊産婦の安心・安全を高めるために「妊娠から産後1年間程度までの各種支援」をどう充実していくべきか—。

こうした議論が6月26日に開催された「妊娠・出産・産後における妊産婦等の支援策等に関する検討会」(以下、出産関連検討会)で始まりました。今後、構成員・参考人からの意見や、正常分娩にかかる費用の実態調査結果などを踏まえて議論を行い、来春(2025年春)頃に意見を取りまとめます。

「正常分娩の保険適用」については、出産関連検討会では「論点を整理する」にとどめ、その後に社会保障審議会・医療保険部会や中央社会保険医療協議会などで具体的な議論が進められる見込みです。

「正常分娩の保険適用で、地域の産科医療機関閉院が増加するのでは」と心配する声も

Gem Medでも報じている通り、我が国では少子化が進行しており、昨年(2023年)には、1人の女性が生涯出産する子の数に相当する合計特殊出生率が全国で1.20、東京都では0.99にまで落ち込むという衝撃的なデータが示されました。

少子化の進行は、「社会保障財源の支え手」はもちろん、「医療・介護サービスの担い手」が足らなくなることを意味します。さらに社会保障制度にとどまらず、我が国の存立そのものをも脅かします(国家の3要素である「領土」「国民」「統治機構」の1つが失われ、日本国そのものが消滅しかねない)。

そこで、政府は昨年(2023年)12月に「子ども未来戦略」を取りまとめ、その中で各種少子化対策(出産育児一時金の42万円から50万円への引き上げ、出産費用の見える化など)について効果検証を行うとともに、「2026年度を目途に、出産費用(正常分娩)の保険適用の導入を含め、出産に関する支援等の更なる強化について検討を進める」方針を打ち出しました。



この方針を踏まえて厚生労働省・子ども家庭庁が共同して出産関連検討会を設置。そこでは「正常分娩の保険適用」にとどまらず、妊娠・出産・産後(概ね1年程度)に関する様々な支援策の更なる強化に向けた検討を行うこととしたものです。具体的な検討事項としては、(1)出産に関する支援等の更なる強化策(医療保険制度における支援の在り方、周産期医療提供体制の在り方)(2)妊娠期・産前産後に関する支援等の更なる強化—の2つの柱が立てられました(関連記事はこちら)。

キックオフ会合となった6月26日の出産関連検討会では、政府(厚労省、子ども家庭庁)から▼医療保険による出産支援を行っていること(出産育児一時金の42万円→50万円への引き上げ出産費用見えるかに向けた「出産なび」の開設)▼都道府県の医療計画において「周産期医療体制」について「集約化・重点化」と「患者アクセスの確保」とのバランスを地域ごとに慎重に判断する考えを盛り込んでいること▼妊産婦が安心して出産・子育てを行えるよう「妊婦健診の費用助成」、「出産後間もない時期の産婦に対する健康診査の費用助成」、「退院直後の母子に対する心身のケアや育児のサポート(産後ケア事業)」などの自治体実施—などについて報告が行われるとともに、構成員間で自由討議が行われました。

その中で目立ったのは「正常分娩の保険適用」に関する意見です。

現在、医療保険制度では「正常分娩の費用を賄えるように出産育児一時金を支給する」仕組みが設けられています。一時金額は「出産費用を賄える」ように設定されていますが、「出産費用が上がる」→「それに合わせて一時金額を引き上げる」→「一時金引き上げを踏まえて医療機関が出産費用を引き上げる」という事態が生じてしまっています。そこで医療保険部会でも、一部委員から「正常分娩を保険適用することで、出産費用を国がコントールすることができ、妊産婦の経済的負担を軽減できるのではないか」との意見が出ていました(関連記事はこちら)。傷病の治療と同様に「正常分娩」を全国一律の●●点を設定するイメージです。この意見も踏まえて、上記の「子ども未来戦略」などが決定されたとも言えます。

しかし、6月21日の出産関連検討会では、▼「正常分娩の保険適用」により分娩取り扱いをやめる産科クリニックが多く出ることが危惧される。その場合、大学病院や周産期母子医療センターにもローリスクの正常分娩患者が殺到し、現場が立ちいかなくなってしまう。仮に保険適用するとしても、現在の周産期医療提供体制が維持されるよう、ソフトランディングを目指すべき(亀井良政構成員:日本産科婦人科学会常務理事)▼十分かつ正確な情報がないままに「正常分娩の保険適用=良いこと、妊産婦の経済負担が軽減される」という構図が独り歩きしていないか。十分な議論を行うべきである。東京などの産科医療機関では、70万円、80万円といった高額なコストが妊産婦1件当たりにかかると思うが、それだけの点数を設定してもらえる保障はない。そうなればコスト割れで産科医療機関を閉院するところが数多く出てくることが懸念される(前田津紀夫構成員:日本産婦人科医会副会長)▼「正常分娩の保険適用」については、目的が不透明で、内容・成果も見通せず、現時点では賛否を判断できない。また現役世代の保険料負担増を抑える必要もある。正確なデータに基づく冷静な議論が必要である。産科医療機関の維持・確保は保険と切り離して考えるべきである(佐野雅宏構成員:健康保険組合連合会会長代理)▼都市と地方とでは出産費用の額も、周産期医療提供体制も大きく異なる。産科医療機関の閉鎖による「お産難民」が出ないようにする必要がある(末 松則子委員:三重県鈴鹿市長)—などの冷静な意見が相次ぎました。

なお、出産関連検討会で「正常分娩を保険適用するか否か、する場合に保険適用範囲をどこまでとし、何点に設定するか」といった具体的な議論の詰めは行われません。これら詳細は医療保険部会や中医協で議論され、出産関連検討会では「正常分娩の保険適用」に向けてどういった論点があるかを整理することになります。既に上述のように「地域の周産期医療提供体制維持」や「効果(現在の出産育児一時金に比べて、保険適用したほうが妊産婦の経済的負担は本当に小さくなるのか)」などの論点が出ており、今後、「正常分娩の保険適用」に向けて検討すべき事項を洗い出していきます。

「正常分娩の保険適用」論議に向け、出産費用構造や産科医療機関経営などのデータ収集

ところで、正常分娩の保険適用論議においては、佐野構成員の指摘するように「データに基づく議論」が必要です。出産なびにおいて、全国の大半の産科医療機関(2000施設超)における出産費用のデータは集積されていますが、保険適用論議をする際にはより詳細なデータが必要です。例えば正常分娩と一口に言っても、妊婦の状況は多様であり、当然、費用にも幅が出てきますし、産科医療機関の規模や機能も様々です。

このため早稲田大学政治経済学術院の野口晴子教授を中心に「分娩を取り扱う医療機関等の費用構造の把握のための研究」が進められています。全国の分娩取扱施設(全数)を対象とした施設情報(ベッド数や医師数など)・病棟情報(スタッフ数、オンコール待機者数など)・外来情報に関する調査のほか、調査対象を一定程度絞り混んで▼業務時間情報(医療従事者が分娩期のケア等に従事している時間数)▼患者情報(妊婦の概要、分娩の概要(分娩時間等)、行われた医療行為(陣痛促進、 会陰切開等)、助産ケア(授乳指導等)、付帯サービスの有無(お祝い膳等)、新生児へ提供した医療、費用、分娩についてのタイムスタディ)▼産科医療機関の経営実態(損益計算書、資産・負債、キャッシュ・フロー、設備投資額)—に関する調査を行うものです。

昨年度(2023年度)にはパイロット調査も行われましたが「回答医療機関の負担が非常に大きい」「回答医療機関に偏りが出る(経営状況の良い医療機関、財政的に裕福な地域にある医療機関が多く回答する)」などの問題点が明らかになっており、上記の調査について工夫(偏りが出ないように回答率の低い地域等で多くの医療機関を調査対象とする、調査項目を厳選して回答負担を軽減する)が検討されます。

この点について、産科医代表として参画する亀井構成員・前田構成員は「回答負担が極めて大きい(1症例に数時間を費やす)。その結果、回答医療機関等に偏りが生じ、実態と乖離した結果が出て、それをもとに保険適用論議が行われては困る」旨の不安を強調しました。サンプル調査では「経営状態の良い医療機関」が多く回答しており、そのデータをもとに保険適用を議論すれば「経営状況が良好なので、保険点数(診療報酬点数)はそれほど高くしなくてもよいのではないか」という結論に近づきますが、この場合には「経営状況の芳しくない産科医療機関」は「赤字経営となり、分娩を取りやめる」という選択をするかもしれません。こうなれば、地域の周産期医療提供体制が崩壊してしまいかねません。

今後、こうした心配の声も踏まえて、野口教授を中心とする研究班で「有効回答数が確保され、偏りが生じないような工夫」を検討していきます。調査は本年(2024年)8-9月頃に実施される予定です。



このほか6月26の出産関連検討会では、▼ハイリスク分娩では「小児科医が待機するが、新生児への特段の治療は必要ない」というケースもある。この場合、小児科については特段の診療報酬対応は行われる図、そうした不合理の解消も検討してほしい(細野茂春構成員:日本周産期・新生児医学会理事)▼子ども家庭庁の実施する「産後ケア事業」を利用したが、子育ての不安解消に極めて有用であった。しかし利用率が1割程度にとどまっているという。適切なタイミングでの情報提供(産科医療機関退院時など)が重要ではないか(新居日南恵構成員:特定非営利活動法人manma理事)▼出産費用の経済的支援のほか、さまざまな支援策があることが分かったが、そうした情報が妊産婦にあまり伝わっていないのが実際ではないか(李輝淳構成員:赤ちゃん本舗コミュニティデザイン統括部長)—といった声も出ています。

「正常分娩の保険適用」がどうしてもクローズアップされますが、上述のように「妊娠期・産前産後に関する支援等の更なる強化」も検討項目の柱の1つとなっており、「支援策の強化」「支援策の情報提供」推進論議にも注目が集まります。



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