医療・介護連携に向けて「主治ケアマネ」の創設や、事業所単位の連携促進を―医療介護総合確保促進会議
2016.7.4.(月)
医療と介護の連携が強く求められる中で、「主治医ならぬ主治ケアマネジャーを制度的に位置づける必要がある」、「各職種個人単位はもちろん、事業所単位の顔の見える関係を構築する必要がある」「好事例の全国展開を考えるとき、先進的な自治体が有する課題も共有する必要がある」―。
4日に開かれた医療介護総合確保促進会議で、医療・介護連携を進めるに当たり、このような非常に前向きな意見が多くの構成員から出されました。
年内(2016年内)に促進会議で「総合確保方針」改訂案を取りまとめ、その後、2016年度内に医療計画や介護保険事業(支援)計画の策定指針に落とし込まれる見込みです。
目次
2018年度からの医療計画・介護保険事業(支援)計画に向け、総合確保方針を改訂
2018年度から第7次医療計画(関連記事はこちらとこちらとこちら)と第7期介護保険事業(支援)計画(関連記事はこちらとこちらとこちらとこちらとこちら)がスタートします。これに向けて、厚労省の検討会や審議会で計画の策定方針に関する議論が進められています。
時期を同じくして新たな計画がスタートする背景には、「地域における医療及び介護の総合的な確保を推進するための関係法律の整備等に関する法律」(医療介護総合確保推進法)で両計画の整合性確保が求められたことがあります。2025年にいわゆる団塊の世代がすべて後期高齢者となり、医療(とくに慢性期医療)・介護ニーズが飛躍的に高まることを受け、地域包括ケアシステムの構築が急がれるからです。
そのため、厚労省は「医療介護総合確保促進会議」において、両計画の上位指針である「総合確保方針」の改訂に関する議論を今春からスタートさせました(関連記事はこちら)。
4日の会合では改訂の最大のポイントとなる「地域包括ケアシステムの具体化に向けた現場での医療介護連携の促進」に関して、次のような論点が提示されました。
(1)入院時、退院時に備えた切れ目のない医療、介護提供に関する視点(例えば、多職種による退院支援ルールの策定や活用、多職種による退院時ケアカンファレンスの実施など)
(2)居宅などにおける看取りを含めた切れ目のない医療・介護提供に関する視点(例えば、多職種による同行訪問の実施など)
(3)多職種連携に関する視点(例えば、多職種によるグループワークなどの合同研修会の参加や開催など)
継続したケアマネジメント実施のため、「主治ケアマネ」の制度化を
構成員からは、こうした論点をより発展させる視点から非常に前向きな意見が数多く出されました。審議会や検討会では、ともすれば「対立」や「パイの奪い合い」にも見える議論が行われがちですが、『連携』に向けては、職種や立場の垣根を超えた、「より良いものにしていこう」という強い意欲が感じられます。
医療・介護連携においては、両者を上手にコーデイネートする職種が必要です。この職種として介護支援専門員(ケアマネジャー)が注目されますが、「福祉分野出身のケアマネは医療分野に弱い」「ケアマネ自身が医療職に壁を感じている」「ケアマネが自身の技量に不安を感じている」と指摘されます。厚労省もこの点を重視し、ケアマネに対する研修制度の充実(必須の実務研修の時間を大幅に拡大し、医療・介護連携や疾患ごとのケアマネジメントケース学習といった内容を追加するなど)を行っています。
このケアマネ研修の充実は多くの構成員から高く評価され、厚労省老健局振興課の三浦明課長も「地域におけるハブの機能をケアマネが果たしてくれると期待できる」とコメントしています。
ただし武久洋三構成員(日本慢性期医療協会会長)は、研修制度の充実を高く評価した上で、「制度的な対応も同時に行うべき」と強調します。例えば、Aケアマネが担当していた要介護者が入院したケースを考えると、退院後に居宅に戻ればAケアマネが再び担当することが予想されますが、介護保険施設に入所したり、小規模多機能型などの地域密着型サービスを利用すると、Aケアマネではなく、施設や少多機のケアマネが担当することになり、「継続したケアマネジメント」が困難になります。武久構成員はこの点が大きな課題であるとし、「主治医ならぬ『主治ケアマネ』を制度的に位置づける必要がある」と訴えているのです。
個人でなく、「事業所間での連携」促進も必要
「連携推進には制度的な対応が必要」と指摘する構成員は少なくありません。
西澤寛俊構成員(全日本病院協会会長)は、医療・介護連携にあたり「各職種個々人の連携」だけでは単なる勉強会や研修会に終わってしまうケースが多く、さらに「事業所間の連携」も重視しなければいけないと指摘します。馬袋秀男構成員(民間介護事業推進委員会代表委員)も同旨の見解を述べています。
また、東憲太郎構成員(全国老人保健施設協会会長)の代理で出席した折茂賢一郎参考人(同協会副会長)は、「医療ではフリーアクセスが保障されているが、介護では要介護認定が前提となる。すると、『退院直後の要介護認定の申請は認められない』とする市町村もあり、退院から介護サービス受給までに間隙が生じてしまう。この点の仕組みを見直すことも検討すべき」旨を提案しています。
一方、相澤孝夫構成員(日本病院会副会長)は、「残念ながら病院の医師・看護師の多くは、在宅医療の現場を理解できていない。1、2度、訪問診療に同行しただけでは実際のところは理解できない。そうした前提に立って連携策を考える必要がある」と指摘。さらに、「医療の必要度が高い在宅要介護者では、主体となる職種は訪問看護師である。しかし医療の必要度が低くなると、主体となる職種は訪問介護員となる。そうした点にも注意して連携を考えていかなければならない」と強調しました。
また、「顔の見える関係」の構築について、千葉潜構成員(日本精神科病院協会常務理事)や中野朋和構成員(日本介護福祉士会副会長)は「各職種個人のボランティアによって成り立っている」とし、インセンティブの考慮や会議の効率化(介護報酬の加算を算定するためだけに開催する会議もある)などが必要と指摘しています。
連携の好事例だけでなく、地域の「課題」に関する情報共有も重要
ところで連携の好事例について厚労省は「全国での展開」を期待し、積極的に情報提供しています。例えば大分県では、積極的に地域ケア会議を開催し、個別のケアプランについて評価・見直しを実施することで高齢者のQOL向上を目指しています。
今村聡構成員(日本医師会副会長)は、こうした情報共有を高く評価した上で、「好事例とされている地域にも課題があるはずで、それもセットで情報共有してほしい」と要望しています。課題と対策には大きな関係があり、両者を把握することで「自分の地域ではどのようにカスタマイズすれば実施できるか」が明確になるためです。
これに関連して白川修二構成員(健康保険組合連合会副会長)は、「地域包括ケアシステムの構築が全国レベルでどの程度進んでいるのかが明確でない。一度、厚労省でマップを作成して提示してほしい」と求めました。
なお、平川則男委員(日本労働組合総連合会総合政策局長)は、自治体の人事異動に触れ「思い切って専門職の養成を行うなど、総務省や関係団体と協議する必要がある」と指摘。これに関連して、医療計画と介護保険事業(支援)計画の担当者が異なる点についても何らかの考慮が必要かもしれません。
厚労省保険局医療介護連携政策化課の黒田秀郎課長は、「年度内に医療計画と介護保険事業(支援)計画の策定指針を作成する。それに間に合わせるために、年内にも総合確保方針の改訂を行う。医療介護連携だけでなく、医療計画や介護保険事業(支援)計画の議論がある程度煮詰まってきた時点で、促進会議から検討会や審議会に具体的な検討項目を提示し議論を依頼することもあろう」との考えを述べています。
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