協会けんぽ6年連続黒字決算、準備金も1.3兆円に膨らみ、保険給付費等の1.9か月分に―全国健康保険協会
2016.7.12.(火)
2015年度の協会けんぽの医療分の収支は2453億円の黒字となり、6年連続の黒字決算となった。また不測の事態に備えるための準備金は1兆3100億円で、保険給付費の1.9か分を確保できている―。
協会けんぽを運営する全国健康保険協会が8日に発表した「協会けんぽの決算見込み(医療分)について」から、このような状況が明らかになりました(前年度の状況はこちら)(協会のサイトはこちら)。
目次
準備金は1兆3100億円、保険給付費などの1.9か月分を確保
協会けんぽは、主に中小企業のサラリーマンとその家族が加入する公的医療保険です。
2015年度の決算(見込み)を見ると、収入は9兆2418億円で、前年度に比べて1383億円・1.5%の増加となりました。一方、支出は8兆9965億円で、前年度に比べて2656億円・3.0%増加しています。この結果、2015年度の収支差は2453億円の黒字で、黒字幅は前年度に比べて1273億円減少しています。
協会けんぽは、2009年度に5000億円近い赤字決算となり、財政を回復させるために▽国庫補助割合を16.4%へ引き上げる▽保険料率を引き上げる(現在は10.00%)▽後期高齢者支援金の計算において、一部総報酬割の導入する(これにより支援金が減少する)―などの特別措置が行われました。
これらの特別措置や、後発医薬品の使用推進などといった協会自身の取り組みも手伝い、協会けんぽの財政は10年度から黒字に転換。6年連続の黒字決算となっています。
また不測の事態に備えるために積み立てておく準備金は、2015年度に1兆3100億円に膨らむ見込みで、これは保険給付費などの1.9か月分に相当します。
賃金増や被保険者増により、収入は実質的に前年度比2.7%増
2015年度に収入が増加した要因について、全国健康保険協会では▽被保険者の賃金(標準報酬月額)が0.9%増加した▽被保険者数が3.2%増加した―ことを挙げています。ただし協会は「被保険者の賃金は、リーマンショック前の水準には回復していない」とし、まだ安心できる状況にはないと警告しています。
なお、前年度(2014年度)には「RFO(年金・健康保険福祉施設整理機構)の精算に伴う1000億円強の臨時収入」がありましたが、これを除いて2014年度と15年度を比較すると収入は2.7%増加している格好です。
また、後期高齢者支援金の計算方法変更(総報酬割部分を従前の3分の1から2分の1に拡大)などによって、国庫補助等は744億円減少しています。
保険給付費が前年度に比べ4.4%と大幅に増加、高額薬剤の影響か
2015年度には支出も増加しています。この要因について協会では「保険給付費」と「高齢者医療にかかる拠出金」の双方が増加したことを指摘。
前者の「保険給付費」については、「1人当たり医療給付費」が前年度に比べて4.4%と大きく伸びている点に注目できます。
協会けんぽの1人当たり医療給付費の伸びは、2010年度には3.5%増でしたが、11年度2.4%増、12年度1.9%増、13年度1.7%増、14年度2.0%という水準にとどまっていましたが、15年度には4.4%と大きく伸びています。
これは協会けんぽに限った話ではなく、医療保険全体で同様の傾向にあります。5月26日に開催された社会保障審議会・医療保険部会では、2015年度の特に後半から医療費の伸び率が大きくなっており、そこには「ソバルディ」や「ハーボニー」といった超高額薬剤の影響が大きいと指摘されています(関連記事はこちら)。
ほかにもオプジーボなどの超高額薬剤の開発や適応拡大が続いており、「高額薬剤」が医療保険における当面の最重要課題の1つになることは間違いないでしょう(関連記事はこちらとこちらとこちら)。
健保法の規定を大きく上回る準備金、2015年度の国庫補助は減額調整
収入・支出の双方が伸びた結果、2015年度には6年連続の黒字決算となり、不測の事態に備えるための準備金はさらに積みましされ1兆3100億円となりました。これは保険給付費などの1.9か月分に相当します。
健康保険法は、協会けんぽに対して「保険給付費や拠出金などの1か月分」を準備金として積み立てることを求めており(法第160条の2)、この指示はクリア(大きく上回っている)できていることになります。
このため2015年の医療保険制度改革で導入された「積立額が法定の準備金額を上回る場合には、国庫補助額を減額する」仕組みが発動されました(関連記事はこちらとこちら)。
このような財政安定状況を踏まえると、「限界に来ている」と指摘されて久しい保険料水準についても見直し論議が出てくる可能性もゼロではありません。しかし、前述のように将来的に医療費が増加していくことを踏まえると、保険料率の引き下げは現実的な方策とは考えにくいようです。
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