救急外来の看護師負担軽減、「看護配置基準設定」すべきか、「タスク・シフティング」すべきか—救急外来医療職種在り方検討会(1)
2022.12.28.(水)
救急外来における看護職員の負担軽減に向け、「まず看護配置基準などを定める」べきか、それとも「まずタスク・シフティングを進める」べきか—。
先頃開催された「救急医療の現場における医療関係職種の在り方に関する検討会」(以下、検討会)で、こういった議論が行われました。来年(2023年)3月の意見とりまとめを目指し、今後も議論が深められます。
同日には「救急救命士の業務範囲拡大」に関する議論も行われており、こちらは別稿で報じます。
看護サイドは「医学看護の専門知識を持つ看護師」により、円滑な情報共有が可能と指摘
医療法では、一般病院・特定機能病院ともに「外来では患者30人に対し1人以上」(=30対1以上)の看護配置を求めています。しかし、救急外来の態様は病院によって千差万別です。救急外来と外来を一体的に運用している病院もあれば、別個に運用している病院もあります。このため、「救急外来における看護配置基準」は定められていません。
しかし、救急現場の看護職員からは「極めて多忙であり、医師働き方改革などでさらに看護職員が多忙になる。そうした中では、救急外来の看護配置基準を定めるべき」との声が出ています。
人員配置基準を考える上では、現場の実態(どの職種がどの程度の時間、どのような業務を行っているのか)を正確に把握したうえで、「医師は●名、看護師は●名が必要である」などと考えていく必要があります。
この現場実態について、10月13日の前回会合に続き、任和子参考人(京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻教授)から「救急外来における医師・看護師等の勤務実態把握のための調査研究」結果が報告されました。
前回会合では、東北地方・首都圏・近畿地方の3病院(大学病院および公的病院)において救急外来に配置されている看護師の詳細なタイムスタディ結果が示され、例えば▼救急外来の看護師は、すべての勤務帯において「連絡・調整等」に多くの時間を割いている(業務時間の2割強から5割強)▼連絡・調整等の中身は「患者情報の共有・申し送り」「看護職員間の報告・連絡・相談」「記録(コンピュータ入力)」「記録(手書き入力)」「電話応対(職員間)」「患者やその家族からの電話対応(受診相談を含む)」などである—ことなどが示されました(関連記事はこちら)。
さらに今回、救急外来看護師の業務内容がさらに詳細に示されました。最も多くの時間が割かれている「連絡・調整等」業務の内訳を詳しくみると、とりわけ「患者情報の共有・申し送り」「看護職員間の報告・連絡・相談」「記録」に時間がとられていることが明らかにされました。
また、現場からは「看護職員専門知識を活かして、情報共有や連絡、記録を正確・迅速かつ円滑に行っている」との声が出ています。
こうした研究結果を踏まえて、淺香えみ子構成員(日本救急看護学会理事)は「救急現場の情報共有などでは、医学看護の専門知識が必要になるとともに、患者の家族構成や生活実態をなどを踏まえた微妙な調整を行っている」こと、井本寛子構成員(日本看護協会常任理事)は「救急外来以外(一般外来や病棟など)からのヘルプでは、円滑な業務実施が難しい」ことを強調し、「救急外来においては、看護配置の手厚い基準を設定する必要がある」と強く訴えました。
一方、加納繁照構成員(日本医療法人協会会長)は「データを踏まえれば、看護職員でなければ実施できない業務はそれほど多くなく、救急救命士や事務スタッフなどへ相当の業務をタスク・シフティングできることが明らかになった。しっかりタスク・シフティングを行えば、救急外来において、極めて多忙な看護職員の業務を10分の1から3分の1に軽減することも可能ではないかと考えられる」と指摘。植田広樹構成員(日本臨床救急医学会評議員)も「情報共有や相談など救急救命士が担える業務も少なくないことが明らかになった。是非、任せてほしい」と、深澤恵治構成員(チーム医療推進協議会)も「今回のデータからは、なんでもかんでも看護職員に任せてしまっている状況が見え、医療現場の構造的な問題と言える。この構造を変えずに看護配置基準を定めても負担軽減にならないのではないか。まずはタスク・シフティング、多職種連携を進めるべきである」とコメントしています。
「救急外来の看護職員の負担を軽減したい」との目的・ゴールは全構成員が共有しています。しかしアプローチ方法については、「まず看護配置基準を設け、専従・専任の看護配置を行うべき」と求める看護サイドと、「まずタスク・シフティングを進めるべき」と求める医師・メディカルスタッフサイドとの間で若干考え方が違っています。
年度末(2023年3月まで)の意見取りまとめに向け、さらに議論が深められます。
なお、任参考人は、前回会合で示した「3次救急(救命救急センター)と2次救急においては、▼専門看護師・認定看護師・特定行為研修修了者を配置している施設では、救急車受け入れ台数が多く応需率が高い▼トリアージ担当看護職員を配置している施設では、救急車の受け入れ台数とウォークイン年間件数が多い▼看護補助者の配置がある施設では、救急車受け入れ台数及び応需率ともに有意に高い—」との調査研究結果に加え、新たに「病床規模との関連」データも示しました。
そこでは「大規模な病院ほど、専門性の高い看護師配置、トリアージ担当看護配置、看護補助者配置がなされ、救急車受け入れ台数が多い」ことなどが明らかにされました。当然、大規模病院ではベッド数も多く「救急患者を受け入れるキャパシティがある」ことから当然の結果とも言えるため、このデータからすぐさま「救急外来には、専門性の高い看護師や看護助手を配置すべき、基準化すべき」という結論に結びつけることは難しいかもしれません。
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