国がんの保有するがん患者の試料(血液や組織等)、企業等の独自研究に活用可能な「分譲提供」をスタート—国がん
2025.5.20.(火)
がん研究において必要不可欠な「試料」(患者の血液や組織など)について、これまで企業も含めた研究機関との「共同研究」への活用を行っているが、さらに「企業等の独自研究に活用できるよう分譲提供」を行う—。
国立がん研究センターが5月19日にこうした取り組みを行うことを公表しました(国がんのサイトはこちら)。
企業等にとって▼研究内容の機密性▼成果の独占▼派生する知的財産の帰属—などの大きなメリットがあり、さらなるがん研究の進展に大きく貢献すると期待されます。
企業独自の研究に活用するために「試料」を分譲提供
国立がん研究センターは、本邦における「がんの診断、治療、予防に関する対策」の中心拠点であり(関連記事はこちら)、国内外を問わず広くがん研究の支援も行っています。
がん研究を進めるにあたっては、研究に資する「血液・組織などの試料」が必要となることから、国がんでは、患者同意の下で「試料」(血液や組織などの生体試料)と、それらに紐づく診療情報や生活習慣に関する情報を収集、一括保管し、医学研究に利活用する【バイオバンク事業】を1994年からスタートし、多くの「共同研究」に活用しています。このバイオバンク事業によって、例えば、▼「胆道がん」の治療標的の同定・阻害剤の特定▼「肺腺がん」の新たな融合遺伝子の同定・治療薬の開発▼精密医療のための「遺伝子パネル検査」の開発—など、現在の医療に実装され始めている取り組みも少なくありません(関連記事はこちら)。
今般、国がんでは、さらなるがん研究の促進・発展に向けて、企業等への試料提供を、上述した「共同研究での活用」に加え、「独自のがん研究にも活用できる試料の分譲提供」を開始することを明らかにしました。分譲提供は、▼研究内容の機密性▼成果の独占▼派生する知的財産の帰属—などの点で企業等に大きなメリットがあり、さらなるがん研究の進展に大きく貢献すると期待されます。
【分譲提供方法】
▽下図のフローチャートに沿って、「試料の分譲申し込み」→「国立がん研究センターバイオバンクの分譲審査委員会での、5項目(研究の目的の妥当性、研究内容の妥当性、分譲する試料・情報の妥当性・適格性、分譲を希望する研究機関の研究実施体制の妥当性・適格性、その他分譲に必要な事項)の審査」→「審査合格の後にMTA(Material Transfer Agreement:物質移動合意書))締結」→「試料の提供」という流れで行う

国立がん研究センターバイオバンク保有「試料」の分譲提供フロー
【分譲試料】
▽希少がんを含む多様ながん患者由来の血液から採取された以下の2つの試料が分譲の対象となる
(1)DNA
・分注量(濃度):50μL/tube(150ng/μL以上)
・保管温度:摂氏マイナス80度
(2)血漿
・分注量:700μL/tube
・保管温度:摂氏マイナス80度
【費用】
▽「バイアルあたりの試料を準備する費用」に相当する実費相当額
【分譲提供開始に当たっての説明会】
▽分譲希望企業、検討予定企業向けの説明会を実施する
・2025年6月2日(月)13:00~13:30
・国立がん研究センター管理棟1階 第2会議室(現地およびTeams開催)
・詳細は(関連記事はこちら(国立がん研究センターバイオバンク ホームページ))。
国がんでは、▼バイオバンクやデータベースを構築し、広範に利用することで種々の疾患の理解や治療につながる▼国立がん研究センターバイオバンクの試料を用いて、2024年度末までに全国1040の研究機関と共同研究を行い、1228報の論文が作成されている—ことを紹介したうえで、研究数の増加によって「日本における研究の広い推進に寄与し、さらなる疾患の理解や新たな治療に発展する」と期待を寄せています。

国立がん研究センターバイオバンクの活用実績(2024年度末時点)
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