周産期医療体制の確保・維持に向けた「新たな検討の場」を設置し、分娩取扱施設の集約化・重点化のあり方など議論を—産科婦人科学会ほか
2025.5.19.(月)
周産期医療体制の確保・維持に向けた「新たな検討の場」を設置し、分娩取扱施設の集約化・重点化のあり方や母体・胎児集中治療室の医師配置要件などを集中的に議論する必要がある—。
日本産科婦人科学会、日本産婦人科医会、日本周産期・新生児学会、全国周産期医療(MFICU)連絡協議会(以下、4団体)が5月7日、厚生労働省医政局の森光敬子局長に宛てて、こうした内容を盛り込んだ要望書「『持続可能な周産期医療体制のあり方』に関する抜本的検討の場早期設置のお願い」を提出しました(日本産科婦人科学会サイトはこちら)(関連記事はこちら)。
出生数減少・診療報酬算定の要件厳格化などで周産期医療体制の確保が難しくなっている
周産期医療をめぐっては、「出生数は減少」と連動して「分娩施設の減少」が生じています。
他方、診療報酬について見てみると、2024年度の診療報酬改定ではA303【総合周産期特定集中治療室管理料】(1日につき)の「1 母体・胎児集中治療室管理料」(7417点)に関して▼常時「母体・胎児集中治療室」(MFICU)内に勤務している専任医師が、「宿日直を行う医師」ではない▼専ら産婦人科・産科に従事する医師が常時2名以上院内に勤務し、うち1名は専任とし、「母体・胎児集中治療室」(MFICU)で診療が必要な際に速やかに対応できる体制をとる—のいずれかを満たすことが明確化されました(関連記事はこちら)。この見直し(要件の厳格化)によって母体・胎児集中治療室管理料を算定できない施設が倍増している状況が明らかになっています。
このように産科医療機関の経営を取り巻く環境は厳しく、今のままでは「現行の質の高い周産期医療体制の維持・確保が不可能となり、重大な破綻が生じてしまう」と4団体は指摘したうえで、国民にこうした状況を十分に認識してもらうために、地域医療構想や医療計画に関する検討の場とは別に、新たな「我が国の将来の周産期医療体制のあり方を、関連領域の専門家と市民代表とともに幅広く検討する場」が必要と強調。
この「新たな検討の場」設置を求める理由として4団体は、▼働き方改革推進に伴う周産期医療現場の医師の配置や勤務条件の変化や関連領域の診療体制の変化が、周産期医療提供に及ぼす影響を検討する必要がある▼急速な出生数の減少が地域周産期医療体制に及ぼしている影響を、医療計画整備指針、周産期医療体制の構築に関する指針等に反映させる必要がある▼重症産科症例の診療体制上の課題を検討する必要がある—ことをあげ、例えば次のような論点を中心に議論することも求めています。
▽周産期医療の重要性・特殊性に係る国民の認識を深めるための方策
▽分娩取扱施設の集約化・重点化のあり方
▽妊産婦の医療機関等への受診に伴う負担の軽減策
・妊婦健診:セミオープンシステム、ICTを活用した遠隔健診など
・通院・搬送手段の確保:行政による支援策メニューの拡大(タクシー・救急車・ドクターヘリ等の活用を含む)
・先行事例の全国展開策
▽重症産科症例の診療体制の見直し(上述の「母体・胎児集中治療室の医師配置要件」は、以前より現場の実情との乖離が指摘されており、周産期母子医療センターにおける重症産科症例の診療体制について、抜本的な検討が必要)
▽周産期医療に従事する医師を確保するための方策
あわせて2026年度診療報酬改定論議が始まっており、また2027年度には第8次医療計画の中間見直しが行われ、その後、第9次医療計画に向けた検討が始まりますが、それらと連携した「周産期医療体制」の検討論議が必要と訴えています(関連記事はこちらとこちら)。
周産期医療をめぐっては「出産費用の自己負担ゼロ」に向けた議論が今後本格化します。産科医療機関サイドは「出産費用の保険適用などによって周産期医療体制が崩壊する」ことを強く心配しており、上記の「新たな検討の場の設置」を強く求めているものと言えます。今後の動きに要注目です。
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