2025年に看護職員はどれだけ必要か、高度急性期や急性期の機能ごとに推計―看護職員需給分科会
2016.3.28.(月)
いわゆる団塊の世代がすべて75歳以上となる2025年に向けて、看護職員はどれだけ確保されていればよいのか、またその数をどのように推計していくべきなのか―。
こういったテーマについて、医療従事者の需給に関する検討会「看護職員需給分科会」で検討が始まりました。
年内(2016年内)にも報告書を取りまとめる予定です。
社会保障・税一体改革において、国は2025年には看護職員の必要数は「約200万人」と推計しました。しかし、2014年時点の看護職員数は約160万人、年間3万人のペースで新たな看護職員を確保したとしても、2025年時点で約7万人(さまざまな前提を置くと約3-13万人)不足します。
そこで安倍内閣は2015年6月に閣議決定した「経済財政運営と改革の基本方針(骨太方針)2015」の中で、地域医療構想などとの整合性や地域間での医療従事者の偏在を是正する観点などを踏まえて、より詳細に「医師・看護師などの需給について検討する」ことを厚生労働省に指示しています。
この指示を踏まえて、28日に開催された看護職員需給分科会の初会合では、厚生労働省から看護職員の需要と供給を推計するための手法の大枠が示されました。手法はまだ固まっていませんが、年内に新たな看護職員の必要数が推計される見込みで、これが社会保障・税一体改革で推計された「約200万人」から、どこまで増減するのかが注目されます。この推計値如何によっては、今後の看護職員確保・定着促進に向けた取り組みにも一定の影響が出てくる可能性があります。
ベースとなる考え方は、「将来の医療需要(患者数)」に対し、どの程度の看護職員が必要となるかを推計する(都道府県が厚労省から配付されるツールを用いて推計を行い、それを集計して全国ベースの推計を行う)というもので、医師の需給推計と同様です。ただし、看護職員については「1人の看護職員がさまざまな業務を兼務している」「現在でも負担が過重である」といった固有の事情があることから、これらをどう考慮していくかが重要なポイントとなります。
厚労省が28日に示した需要推計の大枠を見てみると、例えば次のような考え方が示されています。
【一般病床・療養病床】
▽現在の看護職員数を地域医療構想の4機能(高度急性期、急性期、回復期、慢性期)に按分し、地域医療構想と同じ手法で推計した「医療機能ごとの病床数」を用いて、機能ごとに必要な看護職員数を推計する
▽各機能のどれだけの看護職員を配置するかについては、▽入院基本料や特定入院料の施設基準▽病床機能報告にある実際の看護職員配置▽医療資源投入量―などを参考に検討する
【精神病床】
▽性・年齢階級別の入院受療率や将来の性・年齢階級別推計人口、患者調査、社会医療診療行為別調査を用いて、機械的に医療需要(病床数)を推計し、いくつかの仮定(入院期間に応じた機能区分を行い、それぞれで看護職員配置に傾斜を付けるなど)を置いた上で将来必要となる看護職員数を推計する
【無床診療所】
▽性・年齢階級別の外来受療率や将来の性・年齢階級別推計人口、患者調査、社会医療調査を用いて、機械的に医療需要(患者数)を推計し、いくつかの仮定を置いた上で1施設当たりの看護職員数などを推計する
【訪問看護】
▽介護保険事業計画における見込み量や、性・年齢階級別の利用件数や将来の性・年齢階級別推計人口を用いて、医療・介護それぞれの看護職員数などを推計する
【介護サービス】
▽介護保険事業計画における見込み量を用いて、将来の看護職員数などを推計する
また、病棟以外(手術室、外来、看護管理者、教育部門、検査部門、材料部門、地域医療連携部門など)の医療需要については、地域医療構想と同様の手法で医療需要を推計してよいか、また地域医療構想では「慢性期医療の需要の一部を将来的に在宅医療や介護施設で賄う」旨の考え方が示されているが、これをどのように反映させるべきか、といった論点も示されています。
一方、看護職員の供給数については、▽新規就業者数、再就業者数、離職率を用いて「年次の増減数」を算出する▽年次増減数を最新値に積み上げて、将来の看護職員供給数を推計する―との考えが示されています。ここでは、厚労省が進めている「復職支援の強化」「定着促進・離職防止」に向けた取り組みをどのように見込むかも重要なポイントとなります。
こうした考え方に対し、28日の分科会ではさまざまな意見が委員から出されました。
例えば勝又浜子構成員(日本看護協会常任理事)は、「看護管理者などは高度急性期や急性期の4機能にどのように按分するのか」と疑問を提示。また、太田圭洋構成員(日本医療法人協会副会長)は、「現場では、診療報酬の施設基準よりも看護職員を多く配置している。また病床機能報告では、例えば回復期にどの程度の看護配置が必要かなどが固まっていない。これらが固まる前に推計をすれば、実態とは食い違ったものになってしまうのではないか」と指摘しています。
この点について厚労省医政局看護課の担当者は、「実情に即することが重要と考えており、慎重に検討したい」と答えています。ただし、小林美亜構成員(千葉大学医学部附属病院病院長企画室地域医療連携部特任准教授)は、「病床機能報告制度で、現在、どの機能の病棟にどれだけ看護職員を配置しているかは分かる。ある程度の仮定を置くことで、実態を把握できるのではないか」との考えを示しました。
また太田圭洋構成員は「夜勤に従事する看護職員数も推計すべきテーマではないか」と指摘。これについて厚労省看護課の担当者は「難しい課題である。どのように推計すべきか知恵を絞りたい」と述べるにとどめています(関連記事はこちら)。
一方、島崎謙治構成員(政策研究大学院大学教授)は、「医師の需給推計は大学医学部の入学定員設定に活用されるが、看護職員の需給推計はどのように活用するのか。都道府県が行える看護職員確保の取り組みには限界がある。これまで7回にわたって看護職員の需給見通しを推計しているが、それと実態とをすり合わせた検証などを行っているのか」とコメント。
また伏見清秀構成員(東京医科歯科大学医療政策情報学教授)も、これに関連し「都道府県が何をすべきなのかがやや不明確である。厚労省は集計ツール配付するとしているが、例えば『慢性期医療と在宅医療の役割分担』などは、かなり詰めなければ都道府県レベルでの推計は難しい」と指摘し、今回の需給推計において都道府県が行う取り組みをより明確にすべきと強調しています。
厚労省は、委員から出された意見を踏まえて、より具体的に「看護職員の将来需給を推計する手法」を詰め、6月開催予定の次回会合に示す見込みです。
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