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診療報酬改定セミナー2024 2024年度版ぽんすけリリース

看護必要度に問題あれば「大改定」対応は困難、最適な病床戦略・機能分化妨げる―日本病院学会でGHCが実データ分析

2016.6.24.(金)

 6月23日から24日にかけて開催されている「第66回日本病院学会」で、GHCは「地域医療構想下における戦略的病院経営 ~岩手県立中央病院の事例をもとに~」と題したランチョンセミナーを開催しました。セミナーは23日に実施し、演者は代表取締役社長の渡辺幸子、座長はGHCマネジャーの本橋大樹が務めました。

 セミナーでは岩手県立中央病院の実データ分析のほか、2016年度診療報酬改定における「重症度、医療・看護必要度」の改定内容についても言及。対応を誤れば「7対1入院基本料」の算定返上にもなりかねない看護必要度データ(Hファイル)の提出義務化による急性期病院への影響について、「看護必要度データは病院経営にとって最重要指標になった。精度に問題があれば、大問題。大改定になるだろう18年度診療報酬改定、同じ診療・介護報酬同時改定になる24年度を見据えた最適な病床戦略や機能分化を打ち立てることはできない」と警鐘を鳴らしました。

GHC代表の渡辺幸子

GHC代表の渡辺幸子

18年度改定が「大改定」になる理由出そろった

 渡辺はまず、実データ分析の講演の前に、今後の診療報酬改定の動向と「看護必要度ショック」について指摘。18年度診療報酬改定は、6年に一度の介護報酬改定と重なる同時改定の年であるほか、医療計画・介護保険事業計画の見直しも重なります。そのため、GHCだけではなく、多くのメディアや医療関係者は18年度の診療報酬は大改定になると予測しています。

 さらに渡辺は、「大改定として記憶に新しい12年度診療報酬改定を担当した厚生労働省の鈴木康裕氏(当時は保険局医療課長)が保険局長に、迫井正深氏(当時は医療課企画官)が医療課長になり、18年度診療報酬改定を担当することになった」と21日付の厚生労働省の人事に言及(関連記事『【対談】オバマケアが変える「医療の質」とは―スモルト×鈴木康裕(前編)』『看護必要度見直しの影響を2016・17に調査、療養病棟の状況も2年度にわたって調べるべきか―中医協総会』)。実績のある厚労省担当者が着任したことで、18年度診療報酬改定が大改定になる可能性がより高まったとして、今後の病院の対応が非常に重要になると強調しました。

「7対1返上」や戦略立案できない可能性も

 大改定に向けた対応で特に渡辺が注目しているのは、「重症度、医療・看護必要度」です。16年度診療報酬改定は、「全体的に見るとマイナーチェンジ」との指摘もありますが、25年に向けた急性期病床削減を背景とした病床の機能分化と医療連携に取り組む上で、非常に大きな改定項目があったことは欠かせないポイントです。

 7対1入院基本料の施設基準で、重症度、医療・看護必要度の基準を満たす患者割合が15%から25%(200床以下は23%の経過措置あり)へと大きく引き上げられました。そのため、25%の基準値をクリアするため、多くの医療機関が頭を悩ませていますが、むしろ重要な論点は「重症度、医療・看護必要度の生データの提出が義務化された」ことと渡辺は強調。GHCの調査によると、多くの病院で看護必要度の生データは精度に問題があることが分かっています。

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 例えば、GHCが病院ダッシュボード「看護必要度分析」で分析したA病院では、16年度改定後の重症患者割合は26.1%でぎりぎり基準値をクリアしています(図表1)。しかし、GHCが指摘しているデータ精度の問題をDPCデータとマッチングし補正した後の値で見ると、重症患者割合は19.6%と新基準値を満たさない状況でした。看護必要度の生データ提出義務化後、看護必要度のデータ精度に過剰または過少評価の問題があり、クリアできると思っていた基準値を実際には満たせていない状況が続くと、当局から指摘を受け、7対1入院基本料の返上という事態に発展する可能性も考えられます。

 さらには、こうして本当の重症患者割合が分からないままでは、18年度の大改定はもちろん、その次の24年度同時改定に対応するための病床戦略や機能分化・連携プランを立てることもできません。そのため渡辺は「看護必要度は病院経営上の重要ポイントの一つであり入口。今後の戦略的病床戦略・病床管理のカギになる」と訴えました。

岩手県では29%前後の病床が消滅?

 実データ分析ではまず、病院大再編を目指す「地域医療構想」下において、岩手県立中央病院のある岩手県と盛岡医療圏がどのような状況にあるのかを確認しました。

 国は、25年の岩手県全体の「高度急性期」と「一般急性期」を足した医療ニーズは4300床と試算し、もし13年の「一般病床」1万1298床が全て急性期と仮定した場合(実際は一般病床の中に回復期が含まれます)、その38%で足りると試算しています(図表2)。つまり、国の試算通りに病院大再編が進めば、62%の一般病床が急性期以外の回復期や慢性期の病床への転換が必要であり、全体では29%前後の病床は必要なくなることになります。

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 盛岡医療圏についてさらに詳しく見てみると、13年時点ですべての病床が過剰傾向にあります(図表2)。人口10万人当たり機能別病床数の内訳は、一般病床数は全国平均が701床なのに対して、盛岡医療圏は941床で過剰になっています。国際的な視野から見ると、OECD(経済協力開発機構)に加盟する先進国の人口10万人当たり一般病床数(平均)は330床なので、2.9倍という状況です。

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 つまり地域医療構想下で、盛岡医療圏はすべての病床の削減、病床再編がドラスティックに行われる可能性が高いと言える状況にあるわけです。

半分の規模で症例数は一番手に肉薄

 それでは、岩手県立中央病院のデータ分析の一部をご紹介いたします。まずは、「病院ダッシュボード」の「マーケット分析」を活用し、岩手県立中央病院の強みと弱みを見てみます。まず、岩手県立中央病院の病床数は685床で、1166床の岩手医科大学附属病院に次ぐ二番手の規模になります(図表4)。

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 強みと弱みの分析では、「マーケット分析」の新機能「SWOT分析」を活用しました。SWOT分析は、組織が外部環境や内部環境を「強み (Strengths)」「弱み (Weaknesses)」「機会 (Opportunities)」「脅威 (Threats) 」の4つのカテゴリーで要因分析する経営戦略策定方法の1つです。「マーケット分析」の「SWOT分析」では、医療圏内での自病院の強みと弱みをデータに基づき正確に分析するため、領域別、疾患別に自病院のシェアとボリュームを瞬時に知ることができます(関連記事『自病院の強みと弱みは何か、データに基づく正しいSWOT分析の要点』)。

 SWOT分析の結果、岩手県立中央病院は岩手医科大学附属病院の3分の2程度の病床数であるにもかかわらず、多くの疾患で強みを発揮し、規模的には二番手ながら症例数が岩手医科大学附属病院に肉薄しています(図表5、6)。さらに、具体的な疾患別症例数で見ていくと、神経系疾患、消化器系疾患(手術あり)、呼吸器系疾患などは医療圏トップに位置しています(図表7)。一方、筋骨格系疾患(手術あり)については岩手医科大学附属病院に大きく引き離されており、近年、さらに症例数が減少傾向にあります(図表8)。

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 このように、SWOT分析や疾患別に経年比較などをすることで、今後の戦略立案の道標になりえるのが、「マーケット分析」の魅力です。

加算に強み、在院日数に課題か

 岩手県立中央病院のDPCデータ分析の概要を見てみましょう。「病院ダッシュボード」は、信号色のシグナルを軸に、視覚的にパッと見て「優秀」か「改善の余地あり」かが分かる次世代型経営支援ツールです。改善のポイントを探るため、分析に時間と労力を割くのではなく、改善活動に労力が割けることを目指しているためです。

 「俯瞰マップ」で500床以上の病院とベンチマークしてみると、青から黄色のシグナルがほとんどを占めています(図表9)。全般的に優秀ではありますが、例えば黄色シグナルの「期間II超割合」などには改善の余地がありそうです。当日の講演では、ここから疾患別分析、疾患別に「ロードマップ」と呼んでいる大、中、小項目に分類した改善ポイントをシグナル表示する機能を使って分析しましたが、参加者限定の詳細分析講演だったため、ここでのご説明は省かせていただきます。

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 また、俯瞰マップで青か緑のシグナルで優秀だった加算算定状況ですが、「病院ダッシュボード」の「チーム医療Plus」機能(オプションサービス)を用いれば、「薬剤管理指導料」や「総合評価加算」などの主要な加算項目ごとに、自病院の加算算定状況を他病院の算定率と比較分析することなどができます。ここでも当日の講演では詳細分析し、優秀な算定状況の医療機関と比較し課題がある加算項目、また項目別の改善ポテンシャル金額を明らかにし、改善ポイントが瞬時に分かる「病院ダッシュボード」の強みを明らかにしました。

急性期病院は介護との連携に注力を

 講演では、16年度診療報酬改定を経て、渡辺が加算項目として最も注目している退院支援や医療介護連携に関連する項目について触れました。

 医療から介護、介護から医療と地域内で循環する高齢患者の“退院調整”は、入院時から即刻始まります。具体的には、高齢者の特性に応じた入院早期の対応を総合的に評価する「総合評価」、退院困難な患者抽出および患者・家族との面談や多職種カンファレンスを実施する「退院支援」、ケアマネジャーと退院後に必要な具体的な介護サービス内容などについて共同して指導する「介護支援連携」など、患者が医療と介護のケアサイクルの中で、入院時の病院の対応によって地域全体でシームレスに質の高いケアを提供できるかどうかが決まります。

 こうした関連加算を見ていくと、退院後を視野に入れた対策を入院時に描けていなければ、医療介護連携がうまく行きません。このように解説した上で、渡辺は「急性期病院は介護と無縁と思っていたら、これからの時代は生き残れない」と強調しました。

新機能「看護必要度分析」をリリース

 講演内容の詳細はこちらでは省かせていただきますが、「病院ダッシュボード」を活用すれば、視覚的に、瞬時に、病院の改善ポイントを把握することができます。ほかにも、「病院ダッシュボード」には「財務分析」、オプション機能では「外来分析」(関連記事『外来分析で逆紹介推進やパス改善に活用』)、「手術分析」(関連記事『手術室の稼働率80%、済生会福岡総合の強さの秘密を分析』)「材料ベンチ」(関連記事『病院大再編促す地域医療構想を乗り切る3つの条件』)などがあります。

 4月にリリースした新機能の「看護必要度分析」は、冒頭で解説した「看護必要度ショック」に対応する機能を搭載しています(関連記事『看護必要度、「データ監査」に衝撃 相澤病院、教育と仕組み化で精度を大幅改善』『「看護必要度ショック」は経営・病床戦略の最重要課題』)。分析作業に汗をかかず、改善活動に汗をかくべきとお考えの病院経営の関係者は是非、この機会に「病院ダッシュボード」の導入をご検討ください。

解説を担当したコンサルタント 本橋 大樹(もとはし・だいき)

motohashi 株式会社グローバルヘルスコンサルティング・ジャパンのコンサルティング部門マネジャー。
米国ウィスコンシン大学経済学部卒業。外資系医療機器会社、医療系コンサルティング会社を経て、入社。医療データサイエンティストの育成や病床機能分化の策定、医療材料や委託コストの削減などコスト削減ソリューション全般を得意とする。足利赤十字病院(事例紹介はこちら)、津島市民病院(事例紹介はこちら)など多数の医療機関のコンサルティングを行うほか、コスト削減に関する社内の新規プロジェクトチームのリーダーを務める。
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