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外来診療 経営改善のポイント 看護必要度シミュレーションリリース

医療費の地域差、最大要因は「後期高齢者の高頻度かつ長期間の入院」—厚労省

2019.12.13.(金)

2017年度の1人当たり医療費(市町村国保+後期高齢者医療)は全国平均では56万4527円だが、都道府県別に見ると最高の福岡県(66万7044円)と最低の新潟県(48万7487円)との間で1.36倍の格差がある―。

医療費の地域差の原因を探ると、医療費の高い地域では「後期高齢者が高い頻度で長期間入院している」ことが分かり、不要な入院の是正、ベッド数の適正化などの対策が重要である―。

厚生労働省は12月10日に2017年度の「医療費の地域差分析」を公表し、こういった状況を明らかにしました(厚労省のサイトはこちら)(前年度の記事はこちら)。

1人当たり医療費、依然として「西高東低」の傾向続く

2022年度から団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となりはじめ、2025年度には全員が75歳以上に到達することから、今後、急速に医療費が増加していくと予想されます。その後、2040年度にかけて高齢者の増加ペース自体は鈍化するものの、支え手である現役世代人口が急速に減少していくことが分かっています。このように「少なくなる一方の支え手」で「増加を続ける高齢者」を支えなければならないことから、公的医療保険制度の基盤は極めて脆くなっていくのです。

こうした状況の中では、「医療費の伸びを我々国民の負担できる水準に抑える」(医療費適正化)ことが不可欠であり、その一環として「1人当たり医療費の大きな地域格差を是正していく」方向が、いわゆる骨太方針(経済財政運営と改革の基本方針)で指摘されています(関連記事はこちら(骨太方針2019)こちら(骨太方針2018)こちら(骨太方針2017)こちら(骨太方針2016))。

まず「1人当たり医療費の地域差」を分析するにあたり、「地域の人口構成に大きな影響を受ける」点に留意しなければいけません。高齢者が多い地域では必然的に全体の医療費が高くなり、人口数で除した1人当たり医療費も高くなりますが、これを「怪しからん」と批判することはできません(高齢化=悪ではない)。そこで「1人当たり医療費の地域差」を分析するにあたっては、「地域ごとの年齢構成(高齢者割合など)の差」を補正・調整することが重要です(年齢構成を同じくする補正)。本稿では主に、補正・調整を行った「1人当たり年齢調整後医療費」について見ていきます。

市町村国保加入者と後期高齢者医療制度加入者を合計した「1人当たり年齢調整後医療費」は2017年度には、全国平均で56万4527円(前年度に比べて2万596円・3.8%の増加)となりました。

都道府県別に見ると、最高は福岡県の66万7044円(全国平均の1.182倍、前年度に比べて0.007ポイント低下)。次いで、▼高知県:66万5294円(同1.178倍、同0.001ポイント低下)▼佐賀県:65万4235円(同1.159倍、同0.009ポイント低下)―と続きます。上位3位の顔ぶれは前年度(2016年度)から変わっていません

逆に、最も低いのは新潟県48万7487円(同0.864倍、同0.003ポイント低下)。次いで、▼岩手県:49万9987円(同0.886倍、同0.001ポイント上昇)▼千葉県:50万5679円(同0.896倍、同0.002倍上昇)―と続きます。下位3位の顔ぶれも前年度から変わっていません。

2017年度の都道府県別1人当たり医療費(年齢調整後)の概要(2017年度医療費地域差分析1 191210)



最高の福岡県と最低の新潟県では1.36倍の開きがありますが、前年度からわずか(0.01ポイント)ながら地域差が縮小している状況が伺えます。数字をみると「1人当たり医療費高い」県の全国平均に対する倍率が低下しており、「是正」に向けた取り組みを進めている可能性が伺えます。

ただし医療費の地域差を、日本地図を色分けした医療費マップで見てみると、依然として「西日本で高く、東日本で低い」(西高東低)傾向が継続していることを再確認できます。

1人当たり医療費には西高東低の傾向がある(2017年度医療費地域差分析2 191210)

入院医療費の地域差、不要かつ長期の入院がないか確認を

次に、1人当たり医療費に「地域差が生じる原因」を探ってみましょう。このためには、医療費を次の3要素に分解することが有用です。

【1日当たり医療費】
いわば「単価」
→単価の高低の評価は容易には行えませんが、例えば「不必要な検査をしていないか」「後発医薬品の使用は進んでいるか」などを考えるヒントになります

【1件当たり日数】
一連の治療について、入院ではどれだけの日数がかかり、外来では何回(=日数)医療機関にかかるのか
→例えば、同じ疾病、同じ重症度の患者間で入院日数が大きく異なれば、「退院支援がうまく機能しているのか」などを考えるヒントになります

【受診率】
どれだけの頻度で医療機関にかかるのか
→例えば「頻回受診、重複受診がないか」などを考えるヒントになります



ここで医療費の地域差において「入院」「入院外」「歯科」がどれだけ影響しているのかを見ると、「入院」の影響が大きいことが分かります。そこで、入院医療を3要素に分解して、地域差にどの要素が影響しているのか(寄与度)を見てみましょう。

医療費の地域差には、入院医療費が大きく影響している(2017年度医療費地域差分析3 191210)



入院医療費の高い地域(高知県、福岡県、鹿児島県など)では、▼「受診率」と「1件当たり日数」が医療費を高める方向に寄与している▼「1日当たり医療費」は医療費を低くする方向に寄与している―傾向があることが分かります(前年度と同じ傾向)。一方、入院医療費の小さな地域(静岡県、新潟県、岩手県など)では、「『受診率』が医療費を低くする方向に寄与している」ことが分かります(やはり前年度と同じ傾向)。

また、逆方向から見ると、医療費の3要素には次のような傾向があることが分かります。

▽「1日当たり医療費」は、医療費の高い地域では「医療費を低くする」方向に、医療費の低い地域では「医療費を高める」方向に寄与している

▽「1件当たり日数」は、医療費の高い地域では「医療費を高める」方向に、医療費の低い地域では「医療費を低くする」方向に寄与する

▽「受診率」は、医療費の高い地域では「医療費を高める」方向に、医療費の低い地域では「医療費を低くする」方向に寄与する

入院医療では、受診率と1件当たり日数が医療費押上げに大きく影響している(2017年度医療費地域差分析4 191210)



これらを総合すると、▼1人当たり医療費の高い地域では、高い頻度で入院し、かつ濃度の薄い医療を長期間受けている▼1人当たり医療費の低い地域では、入院の頻度が低く、かつ高濃度の医療を短期間受ける―と言えるでしょう。

またグラフからは「受診率が入院医療費の地域差に大きく寄与している」ことが分かります。今後、「入院医療が必要となる疾病」について罹患率に差があるのか(疾病構造の地域差)を調べるとともに、「入院の必要性がない患者を入院させてはいないか」という点を確認する必要があるでしょう。

また、1人当たり医療費の高い地域を中心に「在院日数の短縮」に向けた取り組みを進めることも効果的であると分かります。そこでは「ベッド数が多すぎる→稼働率を高めるために在院日数を不適切に長くしている(あるいは短縮に向けた取り組みを放棄している)」という事態が生じていないかを確認することも非常に重要です。

入院外医療費の地域差、不要受診や訪問診療等はないか確認を

次に、入院外医療費(調剤を含む)について、同様に▼1日当たり医療費▼1件当たり日数▼受診率—の3要素に分解した寄与度を見てみると、入院医療と同様に次のような状況が伺えます。

▽入院外医療費の高い地域(広島県、大阪府、佐賀県など)
「受診率」と「1件当たり日数」が医療費を高める方向に寄与し、「1日当たり医療費」は医療費を低くする方向に寄与している

▽入院外医療費の小さな地域(新潟県、沖縄県、富山県など)
「受診率」や「1件当たり日数」が医療費を低くする方向に寄与している

入院外医療においても、受診率と1件当たり日数が医療費押上げに影響している(2017年度医療費地域差分析5 191210)



グラフからは、入院外では「とりわけ『1件当たり日数』が地域差に大きく寄与している」ことが分かります。したがって、「一連の治療において、不必要な外来受診・訪問診療などが行われていないか」を確認することが必要でしょう。

後期高齢者で「社会的入院」が生じていないかの確認を

次に、医療費において「どの年齢層の医療費が地域差に寄与しているのか」を見ると、高齢者、とくに「75歳以上の後期高齢者」の影響が大きなことが分かります。

医療費の地域差において、75歳以上の後期高齢者(赤色部分)の影響が大きい(2017年度医療費地域差分析6 191210)



そこで、後期高齢者に限定して、入院医療費(ここでも地域差への寄与度は入院外や歯科に比べて入院で大きい)を3要素に分解し、地域差にどの要素が影響しているのか(寄与度)を見てみると、上記(市町村国保+後期高齢者)と同じく「▼受診率▼1件当たり日数―が、地域差に大きく影響している」ことが分かりました。

後期高齢者の入院医療費の高い地域では、受診率と1件当たり日数の寄与度が医療費押上げに影響している(2017年度医療費地域差分析8 191210)

後期高齢者でも、医療費の地域差には入院医療費が大きく関与している(2017年度医療費地域差分析7 191210)



これまでのデータを総合すると、「1人当たり医療費が高くなる」最大の要因は「後期高齢者が、高頻度かつ長期間入院している」点にあると伺えます。「本当に入院医療が必要な傷病で、入院をしているのか」「いわゆる社会的入院などの是正は進んでいるのか」などを適切に分析する必要があります。

年齢調整後の1人当たり医療費、市町村別では北海道雨竜町が最高

次に、市町村別に「市町村国保+後期高齢者医療の1人当たり実績医療費」(年齢調整をしていない医療費)を見てみると、最も高いのは北海道雨竜町の93万3209円(前年度は3位)。次いで高知県大豊町の89万9283円(同1位)。次いで北海道積丹町の88万8860円(同4位)となりました。顔ぶれは前年度から大きく変わっていません。

逆に1人当たり実績医療費が低いのは、下から▼東京都小笠原村:22万4645円▼東京都御蔵島村:27万9309円▼長野県川上村:31万169円―などです。離島や山間地が目立ち、医療資源が少ないため、必然的に医療費が低くなる地域となっています。



さらに、年齢構成を調整した上で、医療費が全国平均からどれだけ乖離しているのかを示す「地域差指数」を市町村別に見てみると、高いほうから▼北海道雨竜町:1.459(前年度から0.010低下)▼北海道壮瞥町:1.440(同0.016上昇)▼北海道積丹町:1.371(同0.020低下)―などです。

逆に地域差指数が低いのは、低いほうから▼長野県王滝村:0.652▼長野県大鹿村:0.655▼新潟県津南町:0.673―などです。
 
 
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