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小児がん拠点病院、地域の小児がん医療の水準を引き上げる「牽引」役も果たせ―小児がん拠点病院指定要件WG(1)

2022.6.27.(月)

「小児がん拠点病院」は、地域の小児がん医療の水準を引き上げる「牽引役」とならなければならない。このため、地域ブロック協議会の運営者としての役割も果たすことが求められる—。

小児がん拠点病院においても、成人拠点病院と同様に「多職種カンファレンスの実施・充実」「相談支援センターの充実」「よりセカンドオピニオンを受診しやすい環境の醸成」などを行うことが求められる—。

6月27日に開催された「小児がん拠点病院等の指定要件に関するワーキンググループ」(以下、ワーキング)で、こういった見直し内容が概ね固められました。もっとも細部についてさまざまな意見が出ており、松本公一座長(国立成育医療研究センター小児がんセンターセンター長)と厚生労働省で調整のうえ、7月(2022年7月)に開催される親会議「がん診療提供体制の在り方に関する検討会」に報告します。

本稿では、「小児がん拠点病院」の指定要件見直しに焦点を合わせ、「小児がん連携病院」に関しては別稿で報じます。小児がん医療について「均てん化」と「集約化」をどう考えるべきか、という難しい議論が行われています。

●厚労省の提示した指定要件見直し案はこちら(今後、構成員意見等を踏まえて修正される可能性があります)
(参考)現行の指定要件はこちら

「小児がん拠点病院」が地域の小児がん医療の水準を引き上げる牽引役となれ

Gem Medでお伝えしているとおり、今夏(2022年夏)に「がん診療連携拠点病院」や「がんゲノム医療中核拠点病院」「がんゲノム医療拠点病院」「小児がん診療病院」などの指定要件が見直されます。見直し論議を行うために、厚生労働省の「がん診療提供体制の在り方に関する検討会」を親組織として、▼成人拠点▼小児拠点▼ゲノム拠点―の3ワーキングを設置し、それぞれの指定要件について議論がすすめられてきています((関連記事はこちら(がん診療提供体制検討会)こちら(がん診療連携拠点病院等について3)こちら(がん診療連携拠点病院等について2)こちら(がん診療連携拠点病院等について)こちら(がんゲノム医療中核拠点病院等について)こちら(小児がん拠点病院))。

成人拠点・小児拠点・ゲノム拠点等の指定要件を整合性を確保して見直すため、がんゲノム医療中核拠点病院等の指定期間を延長する(がん診療提供体制検討会2 211027)



6月27日のワーキングでは、▼小児がん拠点病院▼小児がん連携病院—などの指定要件見直し案を概ねで固めました。本稿では、前者の「拠点病院」に焦点を合わせます。見直し内容は多岐にわたるため、ポイントを絞って見ていきましょう。

まず、現行の指定要件(整備指針)では「当面の間、拠点病院を全国に10か所程度整備する」方針が示されていますが、実際を見ると当初から「15か所」の拠点病院が指定されています。

小児がん中央機関、小児がん拠点病院の指定状況



この点、例えば「現行の『10か所程度』の目標に近づけるために小児がん拠点病院を絞り込んでいくべきか」、あるいは「現状の15施設に指針を合わせていくべきか」、さらに「拠点病院の拡大(施設増を目指していくべきか)」という議論がありましたが、▼現状の15施設で「症例が分散しており、10施設程度へ集約化していくべき」との状況にはない▼地域バランスを考慮する必要がある—という点を踏まえ、「当面の間、拠点病院を全国に15か所程度整備する」と見直す方向が固められました。

小児がんは「希少がん」であり、病態解明や治療法開発を促進するためには「集約化」が欠かせません。一方、患者の「小児である」との特性を踏まえれば「アクセスに十分に配慮しなければならない」という要請もあります。両者のバランスをとって現在の「15施設指定」という形が維持されており、今般の議論で「バランスがとれている」点が確認されたと言えそうです。

拠点病院には、▼地域における小児がん医療・支援を提供する中心施設となる▼小児がん患者に対し、医療はもちろん、ライフステージに応じた支援を提供する▼AYA世代(Adolescent and Young Adult、一般的に15-39歳)には、就学、就労等の状況や心理社 会的状況が様々であることから、個々の状況に応じた医療・支援を行う▼専門家による集学的治療・緩和ケアの提供、心身の全身管理の実施、患者・家族への心理社会的な支援、適切な療育・教育環境の提供などを行う▼小児がんの臨床研究などを主体的に推進する—といった役割が求められますが、今般、これらに加え、次のような役割を果たすべきことがより明確化されます。

(1)地域における小児がん診療のさらなるネットワーク化をすすめ、地域において適切な連携のもと小児がん医療・支援を提供するため「地域ブロック協議会」を設置し、その運営の中心を担う(都道府県や関係機関が地域ブロック協議会に積極的に参加することが期待される)

(2)長期フォローアップに関して、がんに対する経過観察、がん治療等による合併症や二次がん、患者・家族の相談支援等の領域毎に、「地域内で対応可能な医療施設を明確」にし、がん診療連携拠点病院等や、地域医療機関との連携体制を整備する

(3)地域ブロックにおける相談支援の充実のために、地域ブロック協議会に「相談支援に携わる者の連携する場(相談支援部会等)」を設け、研修や情報収集等を含め小児がん連携病院等との連携体制を整備する



(1)から(3)のいずれも「小児がん拠点病院が地域の要となって、地域医療連携を強化し、地域全体のがん医療の水準を引き上げる」ことを目指すものです。関連して「地域がん連携病院」の類型を一部見直す方針も固められており、これは別稿で報じます。

「小児がん拠点病院」、成人拠点に倣って「多職種カンファレンスの充実」を

次に具体的な指定要件のうち「診療機能」について見てみると、例えば、次のような見直しが行われます。

(1)小児がん患者の病態に応じた適切ながん医療を提供できるよう、以下のカンファレンスを定期的に開催する((iii)のカンファレンスは月1回以上)
(i)個別もしくは少数の診療科の医師を主体とした日常的なカンファレンス
(ii)(i)に加え、看護師、薬剤師、必要に応じて公認心理師や緩和ケアチーム代表者等を加えた症例への対応方針を検討するカンファレンス
(iii)手術、放射線診断、放射線治療、薬物療法、病理診断、緩和ケア等に携わる専門的な知識・技能を有する医師に加え、多職種も含めた、がん患者の診断・治療方針等を意見交換・共有・検討・確認等するためのカンファレンス

(2) ▼院内の他診療科▼小児がん連携病院▼がん診療連携拠点病院(成人拠点)—など、地域の医療機関と協力し、小児がん患者に対して、移行期医療や成人後の晩 期合併症対応等も含めた「長期フォローアップ体制」を構築する。また、自ら病歴を確保・保存することや疾病理解、健康管理などに関した患者教育、患者啓発に努める

(3)地域のがん・生殖医療ネットワークに参画し、 患者等の希望も踏まえた生殖機能の温存の支援を行う体制を構築

(4)小児がん診療に携わる全ての診療従事者により、全ての小児がん患者に対し適切な緩和ケアが提供される体制を整備する。これを支援するために、組織上明確に位置付けられた「緩和ケアチーム」を整備する。自施設で対応できない場合には地域のがん診療連携拠点病院等との連携体制を整備する

(5)がんゲノム医療中核拠点病院等と連携して、がんゲノムプロファイリング検査等に試料を提出するための体制も整備する

(6)小児がん患者とその家族に対して診療に関する説明を行う際には、他施設におけるセカンドオピニオンを心理的な障壁なく活用できるよう説明する



成人拠点の診療機能に倣い、▼カンファレンスの定義明確化と充実▼緩和ケア体制の充実▼セカンドオピニオンの受診勧奨—などが盛り込まれています。なお、成人拠点に関する議論では「より厳格な要件設定とすべき」との意見も出ており、小児拠点の要件についてもさらなる厳格な要件設定が行われる可能性もあります(関連記事はこちら)。

「小児がん拠点病院」の専門職人材配置充実を目指す

また具体的な指定要件のうち「診療従事者」については、次のような充実(病院サイドにとっては厳格化)が行われることになりそうです。

【専門的な知識・技能を有する医師の配置】要件
▽専任の「小児がんの薬物療法」に携わる専門的な知識・技能を有する医師を1人以上配置する(原則常勤、専従が望ましい)

▽専任の「小児がん手術」に携わる専門的な知識・技能を有する医師を1人以上配置する(原則常勤、専従が望ましい)

▽放射線療法に携わる専門的な知識・技能を有する医師を1人配置する

▽緩和ケアチームに、「身体症状の緩和に携わる専門的な知識・技能を有する医師」「精神症状の緩和に携わる専門的な知識・技能を有する医師」をそれぞれ1人以上配置する(各医師について常勤が望ましい)

▽専従の病理診断に携わる専門的な知識・技能を有する医師を1人以上配置する(原則常勤)



また、医師以外の職種については、専門知識・技能に関する資格名を詳細に記載することは避け、それらは別に示される「Q&A」などに落とし込まれます。▼新たな専門資格が創設された際に追加しやすくなる▼各専門資格について記載を充実しやすくなる(要件に書きにくい部分を記載できる)—こととなり、指定する側(都道府県や国)にとっても、指定を受ける側(病院)にとってもメリットがあると考えられます。米田光宏構成員(国立成育医療研究センター小児外科系専門診療部外科診療部長、小児がんセンター副小児がんセンター長・腫瘍外科診療部長(併任)、国立がん研究センター中央病院小児外科長)や滝田順子構成員(京都大学大学院医学研究科発達小児科学教授)は「Q&Aの記載を明確かつ充実させる必要があり、内容についても議論させてほしい」と要望しています。

なお、「小児」患者に対応する特性に鑑みて、「小児科領域に関する専門的な知識・技能を有する公認心理師、社会福祉士や精神保健福祉士、保育士を配置していること。加えて、心理社会的支援、成長発達支援、環境援助、治癒的な遊びの提供等の、医療環境にある子どもや家族への療養支援に関する専門的な知識・技能を有する者を1人以上配置する」という要件項目も設けられます。

小児がん患者は、「病院に入院する」という特殊環境で成長するため、心身の発達に関する特別な支援が必要となります。この点、現行の指定要件(整備指針)にも「チャイルド・ライフ・スペシャリスト」(CLS)などの記述がありますが、我が国では養成が十分に進んでいないことなどを踏まえて、▼今後、どういった養成課程が必要であるのか研究を進めていく▼当面の間(研究、養成が進むまで)は、「資格の有無に関わらず同様の専門性を持った人材が幅広く配置されるようにしていく」—との考えの下、上記のような整理が行われています。

小児がん拠点病院・連携病院における、子供の心理支援を行う者の配置状況(小児がん拠点病院指定要件ワーキング(1) 220627)

「小児がん拠点病院」で、患者が利用可能なネット環境整備をどう考えるべきか

他方、その他の環境整備として「小児患者に対応できる集中治療室の設置」「患者とその家族が利用可能なインターネット環境を整備することが望ましい」との見直しが行われます。

後者については、入院中も必要な教育を受けられるような「オンライン授業」の受講や、例えば、今般の新型コロナウイルス感染症流行時のように面会制限がある場合にも「家族とのビデオ通話」が可能となる環境整備を求めるものです。

この点、松本座長や米田構成員などの医療提供サイド代表者はもちろん、舛本大輔構成員(全国小児がん経験者ネットワークシェイクハンズ!副代表)といった患者代表者からも「望ましい要件」よりも一歩すすめて「義務化・要件化を行ってほしい」との要望が出ています。

非常に重要な視点ですが、「診療の質は極めて優れているが、ネット環境が整っていないために小児拠点病院の指定からもれてしまう」といった事態も避ける必要があり、松本座長と厚労省担当者で調整が行われます(ちなみに現在の15拠点病院は、すべてオンライン授業を受講できる環境が整えられている)。

小児がん拠点病院でも「人材育成」「相談支援体制」の充実が必須要件に

さらに、「人材育成」等に向けて、次のような取り組みを行うことが小児がん拠点病院に要請されます。上述のように「地域内の小児がん診療の水準向上」が小児がん拠点病院に求められる大事な役割の1つであり、「人材育成」が小児がん拠点病院に課せられた欠かせない業務の1つとなってきます。

▽自施設において、「診療体制」(上述)その他要件に関連する取り組みのために必要な人材の確保や育成に積極的に取り組む。特に「診療の質を高めるために必要な学会が認定する資格等の取得」についても積極的に支援する

▽小児がん拠点病院の長は、当該拠点病院において「がん医療に携わる専門的な知識・技能を有する医師」などの専門性・活動実績等を定期的に評価し、当該医師等がその専門性を十分に発揮できる体制を整備する

▽自施設の医療従事者等を中心に、▼小児がん対策の目的や意義▼患者や家族が利用できる制度や関係機関との連携体制▼自施設で提供している診療・患者支援の体制—について学ぶ機会を年1回以上確保する(自施設のがん診療に携わる全ての医療従事者が受講することが望ましい)



あわせて、成人拠点と同様に「相談支援センターの充実」に向けて次のような新要件設定などが行われます。

▽国立がん研究センターがん対策研究所による「がん相談支援センター相談員基礎研修」(1)(2)を受講後、国立成育医療研究センターが実施する「小児がん相談員専門研修」を修了した専任の相談支援に携わる者を1名以上配置する(職種としては、看護師等の医療職のほか、社会福祉士ないし精神保健福祉士の資格を有する者を配置することが望ましい)

▽相談支援に携わる者は、対応の質の向上のために「小児がん拠点病院相談員継続研修」等により定期的に知識の更新に努める

▽小児がん患者・家族が心の悩みや体験等を語り合うための「患者サロン」等の場を設ける。その際には、十分な経験を持つ患者団体等と連携して実施するよう努める。 なお、オンライン環境でも開催できることが望ましい

▽相談支援センターについて、診療の経過の中で患者が必要とするときに確実に利用できるよう「繰り返し案内」を行う。なお、がん治療の終了後も長期的に利用可能な旨も併せて説明する



あわせて相談支援センターの業務として次のような点が明確化されています(追加)。

▽小児・AYA世代のがん患者の発育、教育、就学、就労等の療養上の相談および支援(なお、自施設での対応が困難な場合は、がん診療連携拠点病院等の相談支援センター等と連携を図り、適切に対応する)

▽がん・生殖医療に関する相談および支援

▽長期フォローアップに関する相談および支援

▽がんゲノム医療に関する相談および支援

▽アピアランスケアに関する相談および支援

▽患者の兄弟姉妹を含めその家族に対する支援



成人拠点病院の議論の中では「主治医が告知後に『このあと、必ず相談支援センターを訪れる』ように勧奨すべき」「相談支援センターの場所を確認するだけでも良いので、患者が一度は必ず相談支援センターを訪れるようにすることを義務付けるべき」などの意見が出ています(関連記事はこちら)。

医療・医学が進んだ今でも、がんの告知を受けた患者や家族の心理的負担は極めて大きく、「相談支援センターで話を聞いてもらう」だけでも幾分の心理的負担軽減が図られると期待されます。

指定要件に盛り込むべきか否かはさておき、多くの医療従事者が患者に対し、日頃から「相談支援センターで話をしてみてください」と案内をすることが非常に重要と考えられます。



なお、小児がん拠点病院と連携して、地域の小児がん患者に対応する「小児がん連携病院」については、指定類型の見直しが行われます。「集約化」と「均てん化」のバランスをどう考えるかという重要論議が行われており、別稿で詳しく報じます。



見直し内容は、今後、親組織である「がん診療提供体制の在り方に関する検討会」に報告され、そこでの議論を待つことになります。



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