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診療報酬改定セミナー2024 2024年度版ぽんすけリリース

がん検診、受診率・精度向上とともに、職域と地域を束ねた「組織型検診」の構築が最重要課題―がん検診あり方検討会(1)

2022.7.19.(火)

がん検診の受診率目標を「60%」に引き上げるとともに、受診状況が正確に把握できるような仕組み構築に向けた研究を進める—。

また「がん検診」→「精密検査」→「治療」に適切につなげることを目指し、「がん検診の精度管理」充実を狙う—。

さらに、職域検診と地域検診(市町村検診)を束ねた「組織型検診」構築に向けた取り組みを進めていく—。

7月15日に開催された「がん検診のあり方に関する検討会」(以下、検討会)で、こうした内容の「第4期がん対策推進基本計画に対するがん検診のあり方に関する検討会からの提言」が取りまとめられました。今後、第4期がん対策推進基本計画を策定する「がん対策推進協議会」に報告されます。

なお、同日の検討会では「がん登録を利用したがん検診の精度管理」や「協会けんぽ・健康保険組合におけるがん検診の実施状況」なども議題に上がっており、これらは別稿で報じます。

がん検診受診率の目標値を引き上げるとともに、正確な受診状況把握手法を研究

我が国のがん対策は、おおむね5年間を計画期間とする「がん対策推進基本計画」に沿って進められています。現在は2018-22年度を対象とした第3期基本計画に基づいた施策が動いており、20223年度以降の「第4期がん対策推進基本計画」策定に向けた準備・議論がこれから進んでいきます(関連記事はこちら)。

がん対策推進基本計画の内容は、「がん対策推進協議会」で議論されます。検討会では、その議論に資するよう、「がん検診の在り方」に関する意見・提言をとりまとめました。提言は大きく(1)受診率の向上(2)精度管理(3)科学的根拠に基づく検診の推進—の3項目です(前回会合に関する記事はこちら)。



まず(1)の「受診率向上」に関しては、「受診率は上昇傾向にあるものの、多くのがん種で現在の受診率目標値50%を達成できていない」(2019年には男性の肺がんのみ50%をクリア)点などを重く見て、次の方向を打ち出しています。

(a)国民生活基礎調査によるがん検診受診率の目標値を「60%」に引き上げる

(b)「職域におけるがん検診の受診率」を継続的に把握でき、「個人単位の職域における受診状況」を自治体が把握できるよう検討を進める

(c)「職域におけるがん検診の適切な実施」に向け、事業主や保険者その他の関係者の意見を聴き、まず実施可能な取り組みや関連する課題の整理を行う

(d)「がん検診のアクセシビリティ向上策等の実証事業」や各自治体における取り組みなどから得られた知見を横展開し、科学的かつ効果的な受診勧奨策を推進する

(e)危機時に一時的に縮小することがあっても「がん検診提供体制自体のリカバリーが速やかに行われる」よう、リカバリーを促進する施策に関する研究を進める

がん検診の受診率は男性肺がんを除き、目標5割に達していない(がん検診あり方検討会2 220525)



このうち(a)では「受診率目標値を引き上げる(50%→60%)」とともに、「受診率を把握する方法は、当面、『自己申告による国民生活基礎調査』を用いる」考えが示されています。この考え方に反対する声は出ていませんが、中長期的に「個人単位で受診の有無を正確に把握できるような手法」(例えば「マイナンバーを活用する手法」など)を研究・開発するよう求める声が数多く出ています(祖父江友孝構成員:大阪大学大学院医学系研究科教授、若尾直子構成員:NPO法人がんフォーラム山梨理事長、中野惠構成員:健康保険組合連合会参与、井上真奈美構成員:国立がん研究センターがん対策研究所予防研究部部長ら)。

個人単位でがん検診受診の有無を把握できるようになれば、「受診率の正確な把握」が可能になるとともに、「受診していない人への効果的な受診勧奨」も可能となり、受診率向上につなげることが期待できます。

がん検診の「精度」を高めるとともに、精密検査に効果的につなげることが重要

一方、(2)の精度管理に関しては、例えば「指針(がん予防重点健康教育及びがん検診実施のための指針)に基づかないがん検診の実施率が高い(2018年度は85.4%)」状況などを重視し、次のような方針をと高い状況が続いている

(a)自治体検診の精度管理を「レセプトやがん登録情報を活用する方法」にシフトできるよう推進する

(b)都道府県は市町村のがん検診実施状況を踏まえ、市町村に対し必要な指導・助言等を行う

(c)精密検査受診率の目標値は「引き続き90%」とし、「精密検査受診率の低い市町村の実態把握」に努める

(d)職域検診の精度管理を可能とするため「保険者がレセプトやがん登録情報などを活用して感度、特異度、精密検査の受診状況などを把握できる」よう技術的支援を行う

(e)各自治体において「精密検査を実施できる医療機関リスト」(例:がん診療連携拠点病院等)の作成・公表を推進し、特に「職域においてがん検診の結果を通知する」際にこのリストを同封する

指針に沿わないがん検診を行う市町村が85.4%もある(がん検診あり方検討会5 220525)

精密検査受診率はがん種によってバラつきがある(がん検診あり方検討会4 220525)



がん検診には、必ず「検診で陽性となったが、実際にはがん出なかった」(偽陽性)、「検診で陰性であったが、次回検診や別の検診などでがんであることが分かった」(偽陰性)などが生じます。これらをゼロにすることは非現実的ですが、精度を高めていくことが重要です。

この点、検診結果と精密検査結果とを突合することで「検診の精度」を確認することが可能ですが、より把握しやすい「レセプト」(がん診療のデータを抽出できる)や「がん登録データ」(全国の医療機関はがんと診断された人のデータを都道府県知事に届け出ることが義務化されている)と検診結果との突合で「精度把握を行う」手法の研究・開発が進められており、さらに推進していく考えを打ち出しています。「レセプト・がん登録データを用いた精度管理」研究の代表者である弘前大学医学部附属病院医療情報部の松坂方士准教授が、この点に関する報告を行っており、こちらは別稿で報じます。

また、がん検診→「がんの疑い」(要精検)→精密検査→確定診断→治療につながるよう、▼精検受診率の引く市町村への支援((b)(c)など)▼精密検査を行える医療機関の情報周知((e)など)—の方針を明確化している点に注目が集まります。

構成員からは、「市町村検診と職域検診とを束ねて精度管理を進めていくことが重要である」(祖父江構成員)、「DXを活用した効率的な取り組みを進めるべき」(黒瀨巌参考人(日本医師会常任理事、近く構成員に正式就任))などの意見が出ています。祖父江構成員のコメントは、後述する(3)の組織型検診に向けたものとも言えます。

職域・地域を束ねた「組織型検診」構築が必要不可欠、新規検査手法の効果検証も重要

他方、(3)の科学的根拠に基づくがん検診に関しては、次のような方針が打ち出されました。

(a)「がん対策としての適切ながん検診」実施のため、現在行われている「対策型検診の水準」を上げ、▼適格な対象集団への受診勧奨▼プログラムの管理・評価—を行う「組織型検診」の構築に向けた議論を深める

(b)がん検診の進捗や課題を整理するため、▼がん検診の仕組み▼対象者への個別勧奨法▼がん検診受診率▼年齢調整罹患率▼年齢調整死亡率—について、諸外国との経年的な比較調査を実施する

(c)市町村において「指針に基づいて実施されるがん検診」と「指針に基づかないがん検診」を区別し、後者の「指針に基づかないがん検診」の効果検証が進むよう検討する。とりわけ「指針に基づくがん検診」が十分にできている市町村では、「指針に基づかないがん検診」の効果を検証したい研究者や企業をマッチングするような仕組みにを検討する

(d)新たな検査手法を、「対策型検診として実施する検診」に組み入れるまでのプロセスについて明確化し、検診項目の更なる適正化が進むよう検討する

がんの年齢調整死亡率、我が国は諸外国と比べて必ずしも「優秀」なわけではない(がん検診あり方検討会6 220525)



このうち(a)の組織型検診については、「市町村検診(地域検診)・職員検診の全体を見ることが必要不可欠である」との考えの下、多くの構成員はもちろん大内憲明座長(東北大学大学院医学系研究科特任教授・東北大学名誉教授)もその必要性を強く訴えています。今後、がん対策推進協議会などでどういった議論が行われるのか注目が集まります。この点、職員検診の状況)(協会けんぽ、健康保険組合のがん検診状況)が厚生労働省から報告されており別稿で報じます。

また(c)(d)にある「指針にもとづかないがん検診」については、「意味がない・非科学的である」と切って捨てるのではなく、「研究を進め、効果的であるか否かを検証し、効果的であると判明すれば指針などに盛り込んでいく」方向を明示したものである点に留意が必要です。

なお、「がん検診に関する研究」(諸外国との比較研究、指針に基づかない検査手法の効果研究など)について「予算を確保する」にとどまらず、「研究者・研究内容のコーディネート機能、データセンター機能」などを国などが担ってほしいとの強い要望が祖父江構成員から出ています。祖父江構成員は「数万人規模のデータを取り扱うことは、研究者レベルではなかなか難しい」と訴えています。

関連して、費用対効果研究の第一人者である福田敬構成員(国立保健医療科学院保健医療経済評価研究センターセンター長)は「新たな検査手法を指針に盛り込む際には、費用対効果も勘案すべきである。検診の費用対効果評価は困難だが、現在、評価手法の研究を行っている」と進言しています。



提言内容については、大内座長と厚労省で最終調整を行い、近く「がん対策推進協議会」に報告されます。



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