救急外来の「看護職員配置基準」設定、優れたサービスを行う看多機・訪問看護の評価充実などを要望—日看協
2023.5.30.(火)
外来・救急外来における「看護職員配置基準」を設け、さらに「ナース・プラクティショナー」の制度化検討を進めよ—。
2024年度の次期介護報酬改定に向け、優れた取り組みを行う「看護小規模多機能型居宅介護」や「訪問看護」の評価充実を図れ—。
日本看護協会は5月22日に、このような内容の要望書を加藤勝信厚生労働大臣と大西証史老健局長に宛てて提出しました(日看協のサイトはこちら)。
外来・救急外来における「看護職員配置基準」を設けよ
まず加藤厚労相へは、(1)外来における人員配置標準の見直しと強化(2)救急外来における人員配置基準の見直しと強化(3)ナース・プラクティショナー制度の創設に関する検討—の3点を要望しています。
このうち(1)は、患者の状態・ニーズ、医療技術が変化し、これに伴って「病院の機能が多様化」している点を踏まえて、外来の人員配置基準(1948年以来「30対1」のまま)について、▼特定機能病院の基準▼地域医療支援病院の基準—といった具合に見直すことを求めました。なお、日看協の調査によれば、外来看護職員1人当たりの患者数(中央値)は、特定機能病院・3次救急では24.2人、地域医療支援病院では15.3人、その他病院では12.9人、病院全体では14.3人となっています。
また(2)では、救急外来における看護職員の適正配置による「救急医療の質の向上」「看護職員の業務負担軽減」などを目指し、▼救急外来における看護職員の人員配置基準を新設し評価する▼「救命救急センターの充実段階評価」の中に、「看護職員の配置」「専門性の高い看護師の配置」に関する項目を追加する—ことを要望しています。
この点については、厚生労働省の「救急医療の現場における医療関係職種の在り方に関する検討会」でも議論が行われ、▼救急外来において「看護配置基準の設定」を求める声もあるが、慎重に検討していく▼まず「看護職員から多職種へのタスク・シフティング」を進める必要がある—との見解を取りまとめています(関連記事はこちら)。この「看護配置基準の設定」を求める声は、もちろん看護サイドから出ており、今回も要望も含め、今後どういった動きにつながるのか注目する必要がありそうです。
また(3)は、「医師の指示がなくとも、一定の医行為を実施できる看護職員」(ナース・プラクティショナー、NP)の制度化を改めて求める要請です。
一定の研修(特定行為研修)を修了した看護師には、医師の包括的指示の下で一定の医療行為を行うことが認められていますが、日看協では「特定行為研修制度では対応できない医療ニーズがある」「医師の指示が得られず、症状が悪化する患者もいる」ことを踏まえ、NP制度化を改めて加藤厚労省に要望しています。
2024年度介護報酬改定に向け「看多機」や「訪問看護」などの評価充実を
他方、大西老健局長に宛てては、2024年度の次期介護報酬改定に向けて、(a)地域共生社会に向けた看護小規模多機能型居宅介護(看多機)の機能強化・設置促進(b)訪問看護・介護施設における安定的な看護提供体制の整備(3)専門性の高い看護師の活用による医療ニーズ対応や感染対策の充実—の3点を求めました。
まず(a)は、看多機について、▼在宅看取りが困難な要因を有する利用者へのターミナルケアについて、【ターミナルケア加算】の単位数引き上げを行う▼【看護体制強化加算】の算定要件のうち「利用者総数に占める緊急時訪問看護加算を算定した利用者の割合」(加算Iで80%以上、加算IIで50%以上)について、「重度者や看取り対応のために『泊まり』時に看護職員が緊急対応した実績(オンコール対応を含む)」による算定も含める▼登録定員・利用定員は、市町村が条例で定める上での「標準基準」であり、地域の実情に応じて「定員を独自に条例で定めることが可能である」旨を市町村に周知徹底する▼「訪問」機能について、共生型サービスの「居宅介護」の指定対象に加える▼共生型サービスの評価を引き上げる—ことを求めています。
看多機は、泊り・通い・訪問の3機能を併せ持つ「小規模多機能型居宅介護」(小多機)に、さらに看護機能を加え、「医療ニーズの高い要介護者に対し、泊り・通い・訪問の3サービスを複合的・一体的に提供できる」地域密着型サービスです。医療ニーズが高く、在宅生活の継続が困難な要介護者に、顔なじみのスタッフが3サービスを総合的に提供できるため、「地域包括ケアシステムの要となる」と大きく期待されています。2024年度改定に向けて、社会保障審議会・介護給付費分科会でどういった議論が進むのか注目が集まります。
また(b)では、訪問看護について、▼【看護体制強化加算】について、看護職員数(常勤換算数7名)要件・地域住民や地域の医療職・介護職への研修・相談対応の実績要件を加えたうえで「一段高い新区分」を設ける▼複数の訪問看護ステーションがICT活用等により密接かつ適切な連携体制を構築し、連携して24時間対応体制を確保する場合にも【緊急時訪問看護加算】の算定を認める▼訪問看護の【緊急時訪問看護加算】を算定する利用者の夜間・早朝加算および深夜加算について算定要件を見直し「緊急訪問の都度算定できる」ようにする▼【看護体制強化加算】の要件となる「ターミナルケア件数」について、介護保険のターミナルケア加算と、医療保険の訪問看護ターミナルケア療養費の「算定件数を合算可能」とする—こと、特別養護老人ホーム(介護老人福祉施設)について「重度者の安定した受け入れ・施設内での看取り体制の確保のため、『常勤看護師数が多く、看護師による夜間・緊急時の対応体制(オンコールを含む)がある施設』を、新たに【看護体制加算】の上位区分を設けて評価する」ことを求めています。
さらに(c)では、▼専門性の高い看護師が介護保険の訪問看護を行い、利用者の病態に応じた高度なケアおよび計画的な管理を実施した場合の評価を新設する▼特養ホームや認知症グループホームなどの入所・入居系サービスが「外部の医療機関等との連携により感染管理の専門性の高い看護師等を含む感染対策チームからの支援体制を確保し、施設・事業所の感染予防の体制整備を図る」ことを、【感染対策加算】として評価する—ことを求めています。
いずれも、看護機能を充実し、医療ニーズの高い要介護者に「より適切な対応を行える」事業所を、介護報酬上も高く評価せよという合理的な内容です。ただし、介護報酬の財源には上限があり「すべての要望を報酬に組み込む」ことは難しいのが実際です(仮に「効果あり」とのエビデンスが示されたとしても、財源が確保できず報酬上の評価が見送られることも少なくない)。今後の介護給付費分科会の議論、介護報酬改定率、さらに急浮上している「少子化対策財源」(一部に社会保障改革(=医療費・介護費の削減)により少子化財源を捻出する考えも出てきている)とも絡み、今後、複雑な議論が行われていきます。
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