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「出産費用の保険適用」では保険料上昇への「納得感」醸成が必須、地域の産科医療提供体制の後退は許されない—出産関連検討会

2024.9.12.(木)

「出産費用の保険適用」を考える際には、その目的・メリット・効果予測を明確にするとともに、保険料上昇に関する被保険者・加入者の「納得」が極めて重要である—。

地方ではすでに産科医療提供体制が脆弱になっており、保険適用によって「さらに後退する」ようなことがあってはならない—。

9月11日に開催された「妊娠・出産・産後における妊産婦等の支援策等に関する検討会」(以下、出産関連検討会)では、こうした意見発表が行われました。今後、ヒアリング結果(今回、前回前々回)を踏まえて論点整理を行い、来春(2025年春)頃の意見取りまとめに向けて議論を深めていくと見られます。

なお、「正常分娩の保険適用」に関しては、出産関連検討会で「論点等を整理する」にとどめ、その後に社会保障審議会・医療保険部会や中央社会保険医療協議会などで具体的な議論が進められる見込みです。

我が国では「無痛分娩」を安全に行う体制がまだ十分には整っていない点に留意を

Gem Medでも報じている通り、我が国では少子化が進行しており、昨年(2023年)には、1人の女性が生涯出産する子の数に相当する合計特殊出生率が全国で1.20、東京都では0.99にまで落ち込むという衝撃的なデータが示されました。

少子化の進行は、「社会保障財源の支え手」はもちろん、「医療・介護サービスの担い手」が足らなくなることを意味します。さらに社会保障制度にとどまらず、我が国の存立そのものをも脅かします(国家の3要素である「領土」「国民」「統治機構」の1つが失われ、日本国そのものが消滅しかねない)。

そこで、政府は昨年(2023年)12月に「子ども未来戦略」を取りまとめ、その中で各種少子化対策(出産育児一時金の42万円から50万円への引き上げ、出産費用の見える化など)について効果検証を行うとともに、「2026年度を目途に、出産費用(正常分娩)の保険適用の導入を含め、出産に関する支援等の更なる強化について検討を進める」方針を打ち出しました。



この方針を踏まえて厚生労働省・子ども家庭庁が出産関連検討会を設置。(1)出産に関する支援等の更なる強化策(医療保険制度における支援の在り方(正常分娩の保険適用など)、周産期医療提供体制の在り方)(2)妊娠期・産前産後に関する支援等の更なる強化—について、来春(2025年春)頃を目途に結論を出すべく、議論を続けています(関連記事はこちらこちらこちらこちら)。

9月11日の会合では、自治体・医療保険者・医療提供者サイドから意見発表が行われました。

医療保険者代表である佐野雅宏構成員(健康保険組合連合会会長代理)は、改めて(1)出産費用を保険適用する目的の明確化(2)産科医・分娩機関の維持(3)給付と負担の関係・バランスの維持(4)出産費用等の見える化—の4点を十分に議論する必要があると強調。

(1)では、出産費用を保険適用することで「国民にどういったメリットがあるのか」「少子化対策にどういった効果があるのか」を明確にすることの重要性を指摘しています。この点、2022年度の診療報酬改定では「不妊治療の保険適用」が行われ、同年度に900億円程度給付費が増加する一方で、一定の出生数増加効果が認められたのではないかと推測しました。

事前に「保険適用の効果を予測する」ことは困難ですが、仮定を置いた推計を行い、それも踏まえた議論が必要になってきそうです。

また(2)については「出産費用の保険適用」と「産科医療提供体制の維持」とは分けて議論すべきであり、分娩施設の体制維持・確保、産科医の確保、地域偏在の解消などは「出産費用の保険敵の目的」とすべきではないとコメントしています。

さらに(3)では、▼既存の医療保険制度との関係(自己負担割合をどう考えるか、既に保険適用されている異常分娩(帝王切開など)をどう取り扱うのか、保険給付の対象範囲、すなわち無痛分娩や個室ベッド代などのどこまでを保険給付とするのかなど)▼出産費用を保険適用した場合に、現行の出産育児一時金をどう考えるのか—という、いわば制度上の論点を十分に議論術と提案。

また、(4)に関しては「被保険者・加入者の納得感」、とりわけ保険料が上がる点(出産費用を保険適用すれば、当然、給付費・医療費が増加し、それを賄うための保険料負担等が上昇する)を十分に議論すべきと訴えています。この論点の重要性は、松野奈津子構成員(日本労働組合総連合会生活福祉局次長)も指摘しています。



他方、医療提供サイドからは、▼無痛分娩のニーズが高まっているが、我が国では安全に無痛分娩を提供できる体制が十分に整っておらず、事故も生じている(不十分な体制で無痛分娩を実施することが背景にある)▼麻酔管理に十分習熟した医師が行う硬膜外無痛分娩は、母体重篤合併症率の減少等につながるため、関連学会・団体が安全性を高める活動をしており、これらを推進していく必要がある—ことが、照井克生参考人(日本産科麻酔学会理事長、埼玉医科大学総合医療センター産科麻酔科教授)から紹介されました。この点について前田津紀夫構成員(日本産婦人科医会副会長)も「我が国の現状を振り返ると、理想的な無痛分娩の提供は限られた施設でしたか実施できない。無痛分娩を礼賛せず、適切な施設選択が重要である」と、濵口欣也構成員(日本医師会常任理事)は「麻酔科医が産科麻酔のトレーニングを積むと同時に、産科医の麻酔技術獲得を推進していくことが重要ではないか」と、佐野構成員は「無痛分娩の有用性は理解できるが、それを保険制度の中でどう考えるかは慎重に検討すべき」との考えを述べています。



また、自治体サイドからは家保英隆構成員(全国衛生部長会会長/高知県理事(保健医療担当))が、▼とりわけ地方では、分娩施設、特に産科クリニックが激減しており、産科医療機関へのアクセスが困難になってきている▼周産期医療圏の集約化などが進んでいるが、住民の産科医療機関へのアクセスが良くなっているわけではない▼基本的な分娩費用についても、大都市と地方では大きな格差がある—ことなどをデータを用いて解説したうえで、「地域の分娩取扱医療機関の減少・運営困難を加速してはいけない」との考えを強調しました。

この点について濵口構成員は「出産費用の保険適用によって、産科医療提供体制が後退するようなことがあってはいけない」と、佐野構成員は「産科医療提供体制の確保は重要であるが、それと保険制度とは別個に考えるべき」と、亀井良政構成員(日本産科婦人科学会常務理事)は「産科医療機関の集約化が進み、1施設当たりの医師数が増えている(人件費増)。その一方で分娩件数が減り(収益減)、産科医療機関経営は厳しさを増している。出産費用の保険適用で、産科医療機関がさらに急激に減少し、安全な分娩体制が崩壊することを危惧している」と、田倉智之構成員(日本大学医学部主任教授)は「産科医療機関の収益性が悪化している。非常に難しいテーマだが、機能別(困難事例に対応する母子周産期医療センター、一般事例に対応する産科クリニックなど)の集約化を検討していく必要がある」との見解を述べています。

少子化に伴う分娩件数減少により、産科医療機関経営を維持するためには「集約化」が必要となってきます(集約化しなければ、1医療機関当たりの収益は減少を続けてしまう)。一方、集約化は「医療機関へのアクセスを困難にする」ことを意味し、これは「少子化に拍車をかけてしまう」ことにもつながりかねません。地域の産科医療提供体制をどのように維持していくのかが、きわめて重要な検討テーマの1つです。



このほか、三重県鈴鹿市、広島県安芸郡府中町、日本小児科医会から「産後ケア」事業などの状況が報告されました。構成員からは「自治体等が妊婦・産婦を積極的にサポートしている状況が理解できたが、それが妊婦・産婦へ十分に伝わっていない。事業の充実と合わせて、積極的な広報に期待したい」との声が出ています。



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