Generic selectors
Exact matches only
Search in title
Search in content
Post Type Selectors
0617ミニセミナー病院ダッシュボードχ ZERO

出産に係る基礎データを収集・解析、「お祝い膳」などの付帯サービスを多くの施設が「入院料込み」で実施—出産関連検討会(2)

2025.4.21.(月)

「出産目的で入院する妊産婦の最も多くみられる入院日数」(平均)を見ると、帝王切開分娩では7日程度、経腟分娩で初産婦5-6日程度、経産婦5日程度(施設種別で大きな差はない)となっている—。

「お祝い膳」や「写真撮影」、「エステ」などのサービスが相当程度の医療機関で提供されているが、多くの施設では「料金が個別に明示されず、入院料等に含まれている」—。

産科病棟の構成を見ると、全体の68%が「混合病棟」となっている—。

4月16日に開催された「妊娠・出産・産後における妊産婦等の支援策等に関する検討会」(以下、出産関連検討会)では、こうした調査結果速報値報告も行われています(正常分娩の保険適用論議等に関する記事はこちら)。

出産に関する基礎データを収集し、「正常分娩の保険適用」論議などにつなげる

出産関連検討会では、 2023年12月の「子ども未来戦略」に基づき、▼周産期医療提供体制の確保▼出産に係る妊婦の経済的負担の軽減(正常分娩の保険適用など)▼希望に応じた出産を行うための環境整備—などの議論が続けられています。

これと並行して「分娩を取り扱う医療機関等の費用構造の把握のための研究」も行われています。正常分娩の保険適用・診療報酬設定などの議論をするためには、「お産にかかるコストはどの程度なのか」「お産にはどのような職種が何名程度かかわっているのか」などの基礎データが必要不可欠なためです。

●研究結果の速報値はこちら



4月16日の会合では「速報値」が報告されています。調査結果は膨大なため、本稿では医療機関(総合・地域周産期母子医療センター、一般病院(資料では「その他の病院」)、診療所)を中心に眺めてみます。

まず、分娩にかかる診療・ケア・サービスの内容を見ると次のような状況が明らかになりました。

▽「夜勤帯・休日に、分娩において緊急事態が生じた際に駆け付けられるように待機している人数(院内、平均)」は、▼産婦人科医師については一般病院(資料では「その他病院」)と診療所が多い▼小児科医師は、総合・地域周産期母子医療センターで多い—

▽1か月間の全分娩数(平均)は、総合・地域周産期母子医療センター:43件、一般病院:36件、診療所:36件

▽無痛分娩は、総合・地域周産期母子医療センターの42%、一般病院の48%、診療所の44%で実施され、平均設定価格は、総合・地域周産期母子医療センターと一般病院では約12万円、診療所は約9万円

▽「出産目的で入院する妊産婦の最も多くみられる入院日数」(平均)は、帝王切開分娩では7日程度、経腟分娩で初産婦5-6日程度、経産婦5日程度(施設種別で大きな差はない)

▽付帯サービスの状況は以下のとおり
・「お祝い膳」:総合・地域周産期母子医療センターの79%、一般病院の84%、診療所の76%、助産所の31%で提供し、8割超の施設で「料金が個別に明示されず、入院料等に含まれる」
・「写真撮影」:総合・地域周産期母子医療センターの19%、一般病院の50%、診療所の57%、助産所の45%で提供し、6割超の施設で「料金が個別に明示されず、入院料等に含まれる」
・「エステ」:総合・地域周産期母子医療センターの7%、一般病院の24%、診療所の50%、助産所の33%で提供し、7割超の施設で「料金が個別に明示されず、入院料等に含まれる」

産科医療機関での提供サービス等(出産関連検討会(2)1 250416)



この結果については、▼回収率が低く、昨年(2024年)11月21日の医療保険部会で示されたデータとの乖離が大きいことから、医療現場の肌感覚ともずいぶんかけ離れている点に十分留意すべき(亀井良政構成員:日本産科婦人科学会常務理事、石渡勇参考人:日本産婦人科医会会長)▼医療機関等において人員配置の状況は大きく異なっており、保険適用論議に当たってはその点を十分に勘案しなければならない(濵口欣也構成員:日本医師会常任理事)▼入院から分娩、退院に至る標準的な流れを明確にする必要があるとともに、各プロセスで「どういった診療行為・ケアが行われるのか」も明確にしていく必要がある(佐野雅宏構成員:健康保険組合連合会会長代理)▼大都市と地方では状況が大きく異なる。地域別の分析なども行ってほしい(家保英隆構成員:全国衛生部長会会長/高知県理事(保健医療担当)、田倉智之構成員:日本大学医学部主任教授)—などの意見が出されました。



また、医療提供体制の状況を見ると、次のような点が見えてきています。

▽病院1施設あたりの「病棟・ユニット数」は約1.1、「1病棟・ユニット当たりの病床数」は約30床

▽病棟構成全般をみると「混合病棟」が68%と最も多く、なかでも「婦人科および他科診療科での混合病棟」が38%

▽「病棟における産科患者の入院割合」は、総合・地域周産期母子医療センターで60%、一般病院で47%

▽「全室個室」の割合は、総合・地域周産母子医療センターで19%、一般病院で25%

▽「1日当たりの室料差額料金」(平均)は、総合・地域周産期母子医療センターで4万3233円、一般病院で2万5107円

▽産婦人科医師では分娩期で診療時間・待機時間が長いが、看護師では産褥入院中でケア時間が長い

産科病棟の状況(出産関連検討会(2)2 250416)

病床数と入院料など(出産関連検討会(2)3 250416)



このうち混合病棟について井本寛子委員(日本看護協会常任理事)は、「日本看護協会の調査では8割が混合病棟であり、一部に男女混合の病棟もある点を危惧している。混合病棟における『産科の区域特定』が必須である。また、混合病棟では『ショートステイ形式の産後ケア』を受けにくいという課題もあり、今後、対策を検討していく必要がある」とコメントしています。



また妊産婦の状況を見ると、次のような状況です。

▽分娩の状況(医療機関)は、「帝王切開」が8%、「無痛分娩」が11%、正常な経腟分娩等を含む「その他の分娩」が81%

▽「帝王切開」の割合は、総合・地域周産期母子医療センターが14%で最も多い

▽妊産婦別の分娩施設割合を見ると、総合・地域周産期母子医療センターと一般病院では「初産婦」の割合が高いが、診療所と助産所は「経産婦」の割合が高い

▽分娩経験や分娩の状況によらず、「ほぼ80%以上の分娩が住所のある都道府県内で完結」している

▽「産婦合計負担額」(お産にかかる費用全体)の平均値は、▼無痛分娩:60万3338円、帝王切開:51万1299円、その他の分娩:48万5636円▼経産婦:47万6365円、初産婦:52万3711円▼総合・地域周産期母子医療センター:53万7358円、診療所:51万3405円、一般病院:50万3551円、助産所:44万8154円—という状況

▽正常な経腟分娩等を含む「その他の分娩」における娩出2時間前後に関わった職種別延べ人数は、産婦人科医:0.8人、助産師:2.3人、看護師:0.4人

この点に関連して、帝王切開の中にも「当初から帝王切開での分娩を予定していた」ケースと「正常分娩を目指していたが、途中でやむを得ず帝王切開に至った」ケースとでは状況が全く異なるため、そうした点も見えると良い、との意見が濵口構成員や亀井構成員から出されています。



また、妊産婦健診、産後ケアの状況を見ると、次のような状況が明らかになりました。

▽平均的な妊婦健診(病院+診療所)費用(平均)は11万3425円(中央値11万5800円)で、このうち「望ましい基準」(厚労省告示に定められる健診推奨項目)に含まれない健診項目(以下、基準外)の費用(平均)は1万882円(中央値3460円)

▽平均的な妊婦健診の受診回数は、平均で13.4回(中央値も13.4回)

▽産後ケア事業の短期入所型(1泊2日ショートステイ型)の費用(平均)は病院・診療所で4万2768円、助産所で5万1462円



さらに、産科医療機関等の経営状況を見ると次のような状況です。

▽病院(74施設)の年度別の損益率を見ると、2022年度:マイナス5.4%、2023年度:マイナス6.9%
・総合・地域周産期母子医療センター(39施設)では、2022年度:マイナス5.9%、2023年度:マイナス6.9%
・一般病院(35施設)では、2022年度:マイナス8.1%、2023年度マイナス6.5%

▽診療所(43施設)では、同様に2022年度:プラス6.3%、2023年度:プラス3.6%

▽2023年度の産婦人科医師の給与(平均)は、病院全体(65施設):1621万8170円、総合・地域周産期母子医療センター(32施設):1430万3900円、一般病院(33施設):1807万9260円、診療所(44施設):2544万6140円

▽助産所における給与(平均)は、管理者(15施設):420万8539円、助産師(48施設):317万3848円

産科医療機関の経営状況(出産関連検討会(2)4 250416)



▼サンプル数が少ないため、この数字のみをもって「産科医療機関の経営」を語ることはできない。総合周産期母子医療センターなどでは「補助金」が多く投入されている点を勘案する必要がある(亀井構成員)▼会計基準が施設の種類別、経営主体別などで異なるため、比較することはできない点に留意すべき。また平均給与は「年齢」などの差も大きく、単純比較は行えない(今村知明委員:奈良県立医科大学教授)—との意見が出されています。



研究代表である野口晴子参考人(早稲田大学政治経済学術院教授)は、今後、データの精査を進めるとともに、追加調査なども行う考えを示しています。

出産関連検討会では、近く(今春)意見のとりまとめを行い、それを踏まえて社会保障審議会・医療保険部会や中央社会保険医療協議会などで「正常分娩の保険適用」論議がさらに進められます。今般の調査結果・更なる分析結果は、こうした議論の参考資料になると見込まれます。



病院ダッシュボードχ ZEROMW_GHC_logo

【関連記事】

医学的な観点で「標準的な出産に係るケア・サービス」の保険適用を検討するが、「少子化対策」の視点も必要不可欠—出産関連検討会(1)
「出産費用の保険適用」で「妊婦の経済負担軽減」と「地域の周産期医療提供体制確保」とをどう両立していくべきか—出産関連検討会
「出産費用の保険適用」によって「地域の周産期医療提供体制が崩壊」してはならない点を確認、出産ナビを順次、拡充・改善—出産関連検討会
「出産費用の保険適用」と「地域の周産期医療提供体制確保」とをセットで議論すべきか、別個に議論すべきか—出産関連検討会
出産費用の保険適用には賛否両論、「出産育児一時金の引き上げを待って、医療機関が出産費用引き上げる」との印象拭えず—出産関連検討会
「出産費用の保険適用」では保険料上昇への「納得感」醸成が必須、地域の産科医療提供体制の後退は許されない—出産関連検討会
妊婦は「出産費用の軽減」とともに、「出産費用内訳の見える化」「丁寧な情報提供」などに期待—出産関連検討会
「正常分娩を保険適用」により産科医療機関が減少し、妊産婦が「身近な場所でお産できる」環境が悪化しないか?—出産関連検討会
「正常分娩を保険適用すべきか」との議論スタート、「産科医療機関の維持確保」や「保険適用の効果」などが重要論点に—出産関連検討会
高齢者にも「出産育児一時金」への応分負担求める!「全国医療機関の出産費用・室料差額」を公表し妊婦の選択支援—社保審・医療保険部会
「マイナンバーカードによる医療機関受診」促進策を更に進めよ、正常分娩の保険適用も見据えた検討会設置—社保審・医療保険部会