一般病院の患者単価が減少、高額抗がん剤の登場で入院・入院外ともに【注射】点数増加―2019年社会医療統計
2020.6.25.(木)
2019年6月審査分の医科レセプトを集計・分析すると、入院・入院外ともに【注射】の点数が大きく増加しており、高額な抗がん剤の相次ぐ登場や、適応がん種の拡大などが背景にあると考えられる―。
また一般病院では「1日当たりの入院点数」、つまり患者単価が前年に比べて減少してしまっており、重症患者の確保策を強化するとともに、地域の状況を踏まえた「機能転換」の必要性についての検討も必要となる―。
このような状況が、6月24日に厚生労働省が発表した2019年の「社会医療診療行為別統計」の結果から明らかになりました(厚労省のサイトはこちら(概要)とこちら(統計表、e-Statサイト))(前年の状況はこちら)。
目次
入院で「注射」の点数が増加、高額抗がん剤の相次ぐ登場などの影響か
社会医療診療行為別統計(社会医療統計)は、毎年6月審査分のレセプトをもとに、医療行為や傷病の状況を調べるものです。厚労省のナショナルデータベース(NDB)に蓄積されている全てのレセプトを集計対象にしています(従前は抽出調査であり、名称も「社会医療診療行為別調査」であった)。
まず、医科の入院について見てみると、2019年における1件当たりの請求点数は5万4226.2点で、前年に比べて1151.9点・2.2%の増加となりました。
診療行為別に点数のシェア見ると、【入院料等】が最も多く35.4%を占めています(1万9205.6点、シェアは前年に比べて0.4ポイント増加)。次いで、▼【DPC】:30.9%(1万6760.2点、同増減なし)▼【手術】:17.6%(9547.2点、同0.2ポイント減少)▼【リハビリテーション】:5.5%(2982.1点、同0.1ポイント減少)▼【麻酔】:2.2%(1177.9点、同増減なし)―などが大きなシェアを占めています。2019年度には診療報酬改定がありましたが、消費税率引き上げ(8%→10%)に伴うもので、点数の組み換えなどは行われておらず、診療行為別の点数シェアに大きな変化はありません。
前年からの点数増減を診療行為別に見ると、増加しているのは▼【注射】:11.4%増▼【初・再診】:5.2%増▼【入院料等】:3.2%増▼【投薬】:2.7%増―など、逆に減少しているのは▼検査:3.1%減▼【画像診断】:2.4%減▼医学管理等:2.1%減▼在宅医療:1.3%減―などです。注射点数増加の背景には、相次ぐ「高額な抗がん剤」の登場・適応拡大などがあると見られます。また、2019年度には診療報酬点数の組み換えがないため、やはり点数の増減は大きくありません(2018年には、【放射線治療】で20.8%増、【病理診断】9.0%増などの大きな増減があった)。
次に、入院の1日当たり請求点数を見ると、2019年は3527.6点で、前年に比べて37.2点・1.1%の増加となりました。
診療行為別に点数のシェアを見ると、▼【入院料等】:35.4%(1249.4点、シェアは前年に比べて0.4ポイント増加)▼【DPC】:30.9%(1090.3点、同増減なし)▼【手術】:17.6%(621.1点、同0.2ポイント減少)▼【リハビリテーション】:5.5%(194.0点、同0.1ポイント減少)▼【麻酔】:2.2%(76.6点、同増減なし)―などが大きなシェアを占めています。上述の「1件あたり」と同様の傾向です。
前年からの増減を診療行為別に見ると、増加しているのは▼【注射】:10.2%増▼【初・再診】:4.0%増▼【入院料等】:2.1%増▼【投薬】:1.6%増―など、逆に減少しているのは▼検査:4.2%減▼【画像診断】:3.5%減▼医学管理等:3.1%減▼在宅医療:2.4%減―などです。
「1件当たり点数」に比べて、「1日当たり点数」で数字が小さく(増加幅が小さく、減少幅が大きい)なっており、これは「入院日数の延伸が生じてしまっている」(1件当たり日数は15.37日で、前年に比べ0.17日の延伸)ことに起因しています。
入院日数の不適切な延伸には、▼「院内感染」や「ADL低下」などのリスクが高まってしまう▼患者のQOLが低下してしまう(例えば職場への早期復帰を果たし、生活の安定を取り戻す)―など「医療の質」を低下させるとともに、▼急性期一般病棟(旧7対1・10対1一般病棟)等における「重症患者割合」(重症度、医療・看護必要度の基準を満たす患者の割合)が低下してしまう▼DPC特定病院群(旧II群)要件の1つである「診療密度」が低下してしまう—といった「経営の質」も低下させてしまいます。今後の入院日数の動向を注視するとともに、「延伸」の背景・要因等を分析していく必要があります。
入院外でも「注射」の点数が2桁増、高額抗がん剤の影響も
次に医科入院外を見てみましょう。2019年における1件当たり点数は1377.1点で、前年に比べて18.0点・1.3%の増加となりました。
診療行為別に点数のシェアを見ると、▼【検査】:18.2%(250.2点、シェアは前年から増減なし)▼【投薬】:14.7%(202.8点、同0.7ポイント減)▼【初・再診】:14.5%(199.3点、同0.4ポイント減)▼【注射】:11.5%(158.2点、同1.0ポイント増)▼【処置】10.0%(137.6点、同増減なし)▼【医学管理等】:8.4%(115.9点、同0.2ポイント減)▼【画像診断】7.7%(106.0点、同0.1ポイント減)▼【在宅医療】:7.1%(97.7点、同0.2ポイント増)―などが大きくなっています。入院のような「圧倒的に大きなシェアを占める診療行為」はないことを再確認できます。後述する「1日当たり点数」も同様の状況です。
前年からの点数増減を見ると、増加は▼【注射】:11.0%増▼【在宅医療】:4.2%増▼【処置】:3.8%増▼【手術】:2.6%増―など、減少は▼【投薬】:3.0%減▼【リハビリテーション】:2.1%減▼初・再診:1.5%減▼【精神科専門療法】:1.1%減―などです。入院と同じく、【注射】の点数増が大きくなっています。
また入院外の1日当たり点数(患者単価)を見ると、2019年は914.6点で、前年に比べて39.4点・4.5%の増加となりました。
診療行為別に前年からの点数増減を見ると、「すべてで増加」しており、とりわけ▼【注射】:14.5%増▼【在宅医療】:7.5%増▼【処置】:7.0%増▼【手術】:5.8%増▼【放射線治療】:5.3%増―などが目立ちます。
1件当たり日数は1.51日で、前年に比べ0.04日短縮しています。
一般病院で「単価」が低下、重症患者確保とともに「機能転換検討」の必要性も
次に病院の入院点数(医科)を見てみましょう。
2019年における病院全体の入院1件当たり点数は5万5971.3点(前年に比べ2.1%増)、入院1日当たり点数(患者単価)は3564.8点(同1.0%増)となりました。
「1件当たり」に比べて「1日当たり」の伸びが小さく、前述したように「在院日数の延伸」が生じてしまっていることが分かります(1件当たり日数は15.53日→15.70日で、0.17日の延伸)。今後の動向を注視していく必要があります。
病院の種類別に見てみると、やはり特定機能病院が最も高く、1件当たり7万4587.4点(前年に比べて2.7%増)・1日当たり7236.0点(同1.7%増)となっています。また▼一般病院:1件当たり5万7616.9点(同2.3%増)・1日当たり4876.1点(同0.2%減)▼療養病床を有する病院:1件当たり5万3233.5点(同1.6%増)・1日当たり2528.1点(同1.2%増)▼精神科病院:1件当たり3万9156.5点(同0.4%増)・1日当たり1378.5点(同0.3%増)という状況です。
一般病院において1日当たり点数、つまり「患者単価」が前年よりも減少してしまっている点が注目されます。点数の内訳をみると、入院料は増加しているものの、【手術】(2.2%減)、【麻酔】(3.7%減)などが減少しており、「重症患者を確保できないことによる減収」が生じていると考えられます。地域の医療機関との連携関係を強化して「重症患者を紹介」件数増加を狙うことが重要ですが、地域で患者数そのものが減少していることもあり、「機能の見直し」も重要な選択肢となってくるでしょう。
また、病院の入院外点数(医科)は、全体では、1件当たり2396.9点(前年に比べて2.7%増)、1日当たり1596.8点(同5.4%増)となりました。
病院種類別に見ると、次のような状況です。
▼特定機能病院:1件当たり3864.2点(同5.4%増)・1日当たり2852.0点(同8.0%増)
▼一般病院:1件当たり2476.2点(同2.5%増)・1日当たり1698.7点(同4.8%増)
▼療養病床を有する病院:1件当たり1793.4点(同1.1%増)・1日当たり1102.2点(同4.1%増)
特定機能病院などの高機能病院に軽症の外来患者が多くかかれば、本来の「重度者への診療」という役割を十分に果たせなくなってしまいます。2018年度の診療報酬改定では「特定機能病院や大規模病院で、紹介状なしに受診した場合、初診時5000円以上・再診時2500円以上の特別負担を課す」仕組みについて、対象を拡大(許可病床500床以上の地域医療支援病院→許可病床400床以上の地域医療支援病院)し、2020年度の今回改定でさらなる対象拡大(地域医療支援病院は許可病床200床以上に)されています。特定機能病院における入院外患者の単価が大きく伸びている背景には、こうした改定の効果があると考えられます。
DPC病院で「急性期度」の向上にブレーキがかかっていないか
さらに、DPC病院と非DPC病院との比較を行ってみましょう(当然、医科入院が対象)。
まず1件当たり点数を見ると、DPC病院では6万1956.3点(前年に比べ2.2%増)、非DPC病院では4万7415.0点(同2.3%増)となりました。また、1日当たり点数(患者単価)は、DPCで6089.6点(同0.0%増)、非DPCでは2376.4点(同1.9%増)となりました。両者の格差は2019年にはやや縮小しています。
診療行為の中でも【手術】に注目すると、1件当たり点数は▼DPC:1万6647.7点(全体に占めるシェアは26.9%で、前年に比べて0.3ポイント減)▼非DPC:3291.0点(同6.9%で、同0.1ポイント減)—、1日当たり点数は▼DPC:1636.3点(同26.9%で、同0.3ポイント減)▼非DPC:164.9点(同6.9%で、同0.1ポイント減)—となっており、1件当たりで5.1倍、1日当たりで9.9倍の差があります。
さらに、1件当たり日数は、DPCでは10.17日(前年から0.21日延伸)、非DPCでは19.95日(同0.08日延伸)となっています。
こうしたデータから、DPC病院では、非DPC病院に比べて「急性期度」が高い状況が再確認できます。ただし、2019年にはDPC病院で、手術点数のシェアが下がっていること、在院日数の延伸が見られることが気になります。DPC病院でも「重症の急性期患者確保」が難しくなっている可能性もあり、今後の動向を注視するとともに、場合によっては「DPC病院においても、地域の患者状況や競合病院の状況を踏まえて、機能の見直しを検討する」必要がありそうです。
75歳以上後期高齢者、在院日数等の短縮化がストップか
また0-74歳の一般医療と、75歳以上の後期高齢者医療を比較してみると、次のような違いが浮かび上がりました。
【1件当たり点数】
▽入院:一般5万2122.0点(前年比1.9%増)、後期高齢者5万6215.3点(同2.3%増)
→後期高齢者が一般の1.08倍
▽入院外:一般1244.1点(同1.4%増)、後期高齢者1721.2点(同0.4%増)
→後期高齢者が一般の1.38倍
【1日当たり点数】
▽入院:一般4105.9点(同1.4%増)、後期高齢者3139.9点(同1.3%増)
→後期高齢者が一般の0.76倍
▽入院外:一般876.4点(同4.3%増)、後期高齢者995.9点(同4.7%増)
→後期高齢者が一般の1.14倍
【1件当たり日数】
▽入院:一般12.69日(同0.06日延伸)、後期高齢者17.90日(同0.16日延伸)
→後期高齢者が一般の1.41倍
▽入院外:一般1.42日(同0.04日短縮)、後期高齢者1.73日(同0.07日短縮)
→後期高齢者が一般の1.22倍
高齢化の進展により、後期高齢者の医療費が増加。これに伴って医療保険財政(若人からの支援も含めて)が厳しくなっています。一般と後期高齢者でとくに格差の大きな「1件当たり日数」については、後期高齢者での適正化にストップがかかっている状況も伺え、今後の動向に注意が必要です。
なお、入院について、診療行為別に一般と後期高齢者を比較すると、後期高齢者では一般に比べて▼【手術】【DPC】【麻酔】のシェアが小さい▼【リハビリ】【処置】【画像診断】のシェアが大きい―ことが伺えます。改めて疾病構造や医療内容が一般と後期高齢者で相当異なっている状況が分かります。これを病院経営の視点で眺めると、高齢化が進行し、地域の患者構成が変化する中で、「注力すべき診療行為等」(診療科や設備など)も変化してくることが再認識できます。
最後に後発医薬品の使用状況を見ると、薬剤点数に占める後発品の点数割合は▼総数19.1%(前年に比べ1.6ポイント増)▼入院14.4%(同0.8ポイント増)▼院内処方(入院外・投薬)16.9%(同1.4ポイント増)▼院外処方19.7%(同1.6ポイント増)―となっており、後発品使用が確実に進んでいる状況を確認できます。
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