病院の入院で重症患者受け入れ、外来で高額抗がん剤等用いるがん治療が進む―厚労省・社会医療統計
2019.6.28.(金)
2018年6月審査分の医科レセプトを集計・分析すると、入院で【手術】や【DPC】の点数が大きく増加しており、重症症例の受け入れが進んでいる状況が伺える。一方、入院外では【放射線治療】や【注射】の点数が伸びており、外来におけるがん治療(放射線療法や高額な抗がん剤を用いた化学療法)が進んでいると考えられる―。
このような状況が、6月27日に厚生労働省が発表した2018年の「社会医療診療行為別統計」の結果から明らかになりました(厚労省のサイトはこちら(概要)とこちら(統計表、e-Statサイト))(前年の状況はこちら)。
目次
入院で「手術」「DPC」の点数が増加、重症症例の受け入れ進む
社会医療診療行為別統計(社会医療統計)は、毎年6月審査分のレセプトをもとに、医療行為や傷病の状況を調べるものです。厚労省のナショナルデータベース(NDB)に蓄積されている全レセプトを集計対象にしています(従前は抽出調査で、名称も「社会医療診療行為別調査」であった)。
まず、医科の入院について見てみると、2018年における1件当たりの請求点数は5万3074.3点で、前年に比べ1084.6点・2.1%増加しました。
診療行為別に点数のシェア見ると、当然と言えますが【入院料等】が最も多く35.0%を占めています(1万8602.1点、シェアは前年に比べて1.4ポイント減)。ほか、【DPC】30.9%(1万6414.0点、同0.8ポイント増)、【手術】17.8%(9458.3点、同0.6ポイント増)、【リハビリ】5.6%(2958.6点、同0.1ポイント増)、【麻酔】2.2%(1184.3点、同増減なし)などが大きくなっています。DPCや手術などのシェアが拡大しており、「急性期病棟における出来高からDPCへの移行」「重症患者の受け入れ」などが進んでいると考えられます(関連記事はこちら)。
前年からの増減を診療行為別に見ると、【放射線治療】20.8%増、【病理診断】9.0%増、【精神科専門療法】8.6%増、【医学管理等】6.0%増、【DPC】4.8%増などで増加が目立つ一方、【投薬】6.3%減、【画像診断】6.0%減、【注射】3.0%減、【入院料等】1.7%減などでは、減少しています。出来高からDPC(投薬や注射などが包括評価される)への移行が原因とも考えられ、詳細な分析が待たれます。
次に、入院の1日当たり請求点数(患者単価)を見ると、2018年は3490.4点で、前年に比べ91.8点・2.7%の増加となりました。
診療行為別に点数のシェアを見ると、やはり【入院料】35.0%(1223.3点、シェアは前年に比べて1.4ポイント減)、【DPC】30.9%(1079.4点、同0.8ポイント増)、【手術】17.8%(622.0点、同0.6ポイント増)、【リハビリ】5.6%(194.6点、同0.2ポイント増)が大きく、上述の「1件あたり」と同様の傾向です。
前年からの増減を診療行為別に見ると、【放射線治療】21.6%増、【病理診断】9.7%増、【精神科専門療法】9.2%増、【手術】6.3%増、【DPC】5.5%増などが増加しており、一方、【投薬】5.7%減、【画像診断】5.4%減、【注射】2.4%減、【入院料等】1.1%減などで減少sいています。出来高からDPCへの移行が背景にあると思われますが、より詳細な分析に期待が集まります。
1件当たり日数は15.21日で、前年に比べ0.09日短縮しています。
入院外で「放射線治療」や「注射」の点数が増加、高額抗がん剤の影響も
次に医科入院外を見てみましょう。2018年における1件当たり点数は1359.1点で、前年に比べ17.4点・1.3%増加しています。
診療行為別にシェアを見ると、【検査】18.2%(前年から0.1ポイント増)、【投薬】15.4%(同0.9ポイント減)、【初・再診】14.9%(同0.3ポイント減)、【注射】10.5%(同0.8ポイント増)、【処置】10.0%(同0.2ポイント減)、【医学管理等】8.6%(同増減なし)、【画像診断】7.8%(同0.1ポイント増)などが大きくなっていますが、入院のような「圧倒的に大きなシェアを占める診療行為」はないことを再確認できます。
前年からの増減を見ると、【放射線治療】13.7%増、【注射】9.0%増、【リハビリ】6.1%増、【手術】5.8%増、【在宅医療】4.8%増など、多くの診療行為で増加しています。
【放射線治療】【注射】の増加が目立ちますが、ここからは、がん医療の「入院から外来へのシフト」さらに、「高額な抗がん剤の相次ぐ登場」などが大きく関係していると推測されます。
また1日当たり点数(患者単価)を見ると、2018年は875.3点で、前年に比べ21.6点・2.5%の増加となりました。診療行為別に前年からの増減を見ると、1件当たりと同様に、【放射線治療】15.1%増、【注射】10.3%増、【リハビリ】7.4%増、【手術】7.1%増、【在宅医療】6.0%増などで増加し、【麻酔】3.6%減、【投薬】3.0%減で減少しています。
1件当たり日数は1.55日で、前年に比べ0.02日短縮しています。
特定機能病院は入院・入院外ともに大幅増点、重症患者の受け入れ進む
次に病院の入院点数(医科)を見てみます。2018年における病院全体の1件当たり点数は5万4838.9点(前年に比べ1.9%増)、1日当たり点数(患者単価)は3531.2点(同2.6%増)となりました。「1件当たり」に比べて「1日当たり」の伸びが大きいことから、より医療資源投入量の多い重症患者を受け入れ、早期退院(入院日数の短縮は、一般に単価を引き上げる)が進んでいることが伺えます(1件当たり日数は15.64日→15.53日で、0.11日の短縮)。
病院の種類別に見てみると、やはり特定機能病院が最も高く、1件当たり7万2607.6点(前年に比べ1.3%増)・1日当たり7115.1点(同3.4%増)となりました。また、一般病院では1件当たり5万6341.3点(同2.1%増)・1日当たり4884点(同2.8%増)、療養病床を有する病院では、1件当たり5万2380.4点(同1.6%増)・1日当たり2499.3点(同1.8%増)、精神科病院では、1件当たり3万9000.5点(同2.0%増)・1日当たり1374.4点(同2.1%増)という状況です。
また、病院の入院外点数(医科)は、全体では、1件当たり2334.4点2258点(同3.4%増)、1日当たり1515.7点(同3.7%増)となりました。病院種類別に見ると、▼特定機能病院で1件当たり3667.6点3450.3点(同6.3%増)・1日当たり2641.1点(同6.0%増)▼一般病院で1件当たり2415.8点(同3.6%増)・1日当たり1621.5点(同3.7%増)▼療養病床を有する病院で1件当たり1774.2点(同0.4%増)・1日当たり1058.3点(同1.2%増)―などという状況です。特定機能病院などの高機能病院に軽症の外来患者が多くかかれば、本来の役割(重度者への診療)を果たせなくなってしまいます。2018年度の診療報酬改定では「特定機能病院や大規模病院で、紹介状なしに受診した場合、初診時5000円以上・再診時2500円以上の特別負担を課す」仕組みについて、対象を拡大(許可病床500床以上の地域医療支援病院→許可病床400床以上の地域医療支援病院)しており、こうした改定の効果を伺うことができそうです(関連記事はこちら)。
DPC病院で「急性期度」がさらに向上、非DPC病院との差が広がる
さらに、DPC病院と非DPC病院での比較を行ってみましょう(当然、医科入院が対象)。
まず1件当たり点数を見ると、DPC病院では6万633.3点(同2.3%減)、非DPC病院では4万6354.2点(同4.7%増)で、格差はさらに縮小しました。
一方、1日当たり点数(患者単価)は、DPCで6089点(同3.9%増)、非DPCでは2332.7点(同0.3%減)で、こちらは格差が拡大しています。
診療行為の中でも【手術】に着目すると、1件当たり点数は▼DPC:1万6464.1点(全体に占めるシェアは27.2%で、前年に比べて0.5ポイント増)▼非DPC:3230.1点(同7.0%で、同0.1ポイント増)—、1日当たり点数は▼DPC:1653.4点(同27.2%で、同0.5ポイント増)▼非DPC:162.5点(同7.0%で、同0.1ポイント増)—となっており、1件当たりで5.1倍、1日当たりで10.2倍の差があります。
さらに、1件当たり日数は、DPCでは9.96日(前年から0.63日短縮)、非DPCでは19.87日(同0.95日延伸)となっています。
こうしたデータから、DPC病院において急性期の度合いがさらに高まる(在院日数が短縮し、手術が必要な重篤症例を積極的に受け入れている)一方で、非DPC病院で「回復期化」が進んでいる可能性があります。非DPC病院について、診療内容の詳細な分析が待たれます。
75歳以上後期高齢者、在院日数等の短縮、医療費の適正化進む
また0-74歳の一般医療と、75歳以上の後期高齢者医療を比較してみると、次のような違いが浮かび上がりました。
【1件当たり点数】
▽入院:一般5万1139.2点(前年比2.2%増)、後期高齢者5万4976.1点(同1.8%増)
→後期高齢者が一般の1.08倍
▽入院外:一般1226.4点(同2.1%増)、後期高齢者1714点(同0.5%増)
→後期高齢者が一般の1.40倍
【1日当たり点数】
▽入院:一般4049.2点(同3.1%増)、後期高齢者3099.3点(同2.7%増)
→後期高齢者が一般の0.77倍
▽入院外:一般840.3点(同2.5%増)、後期高齢者951点(同2.4%増)
→後期高齢者が一般の1.13倍
【1件当たり日数】
▽入院:一般12.63日(同0.1日短縮)、後期高齢者17.74日(同0.16日短縮)
→後期高齢者が一般の1.40倍
▽入院外:一般1.46日(同0.02日短縮)、後期高齢者1.80日(同0.04日短縮)
→後期高齢者が一般の1.23倍
高齢化の進展により、後期高齢者の医療費が増加。これに伴って医療保険財政(若人からの支援も含めて)が厳しくなっていますが、一般と後期高齢者でとくに格差の大きな「1件当たり日数」については、後期高齢者で適正化・短縮化が進んでいることなどが確認できます。
なお、入院について、診療行為別に一般と後期高齢者を比較すると、後期高齢者では一般に比べて▼【手術】【DPC】【麻酔】のシェアが小さい▼【リハビリ】【処置】【画像診断】のシェアが大きい―ことが伺えます。改めて疾病構造や医療内容が一般と後期高齢者で相当異なっている状況が分かります。これを病院経営の視点で眺めると、高齢化が進行し、地域の患者構成が変化する中で、「注力すべき診療行為等」(診療科や設備など)も変化してくることが再認識できるでしょう。
最後に後発医薬品の使用状況を見ると、薬剤点数に占める後発品の点数割合は▼総数17.5%(前年に比べ1.5ポイント増)▼入院13.6%(同0.7ポイント増)▼院内処方(入院外・投薬)15.5%(同0.4ポイント増)▼院外処方18.1%(同0.9ポイント増)―となっており、後発品使用が確実に進んでいる状況を確認できます。
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