都道府県の「がん診療連絡協議会」強化し、拠点病院間の連携強化、県内がん医療水準の向上目指す―がん診療提供体制検討会(1)
2022.7.26.(火)
各都道府県において、がん診療連携拠点病院等が参画する「がん診療連絡協議会」の機能を強化し、拠点病院間の連携強化、地域のがん診療等水準向上を目指す—。
全てのがん診療従事者が、すべてのがん患者に対して「必要な緩和ケア」を提供できる体制を構築する—。
がん患者・家族が「必ず一度はがん相談支援センターを何らかの形で訪れる」ことを、がん拠点病院の「望ましい」要件に位置づける—。
7月21日に開催された「がん診療提供体制の在り方に関する検討会」(以下、検討会)で、こういった内容の「がん診療連携拠点病院等の指定要件(整備指針)」見直し案が概ね了承されました。
構成員から出された意見を踏まえ、土岐祐一郎座長(大阪大学大学院医学系研究科外科系臨床医学専攻・外科学講座消化器外科学教授)と厚生労働省で最終調整を行い、7月中に指定要件(整備指針)見直し内容が確定(厚生労働省健康局長通知発出)される見込みです。
なお、「小児がん診療病院等」「がんゲノム医療中核拠点病院等」の指定要件(整備指針)見直し内容も概ね固められており、別稿で報じます。
目次
がん拠点病院等の「都道府県連絡協議会」設け、連携強化・がん診療水準向上目指す
Gem Medでお伝えしているとおり、今夏(2022年夏)に「がん診療連携拠点病院」(成人拠点)や「がんゲノム医療中核拠点病院」「がんゲノム医療拠点病院」「小児がん診療病院」などの指定要件が見直されます。
【関連記事】
●成人拠点等:こちらとこちらとこちら
●小児拠点等:こちらとこちらとこちら
●ゲノム中核拠点等:こちらとこちら
●がん診療体制の在り方検討会(親会議):こちら
7月21日の検討会では、▼がん診療連携拠点病院等(成人拠点等)▼小児がん診療病院等▼がんゲノム医療中核拠点病院等—の3類型について、指定要件(整備指針)見直し内容を概ね了承しました。本稿では「成人拠点」等の見直し内容に焦点を合わせます。
成人拠点等の指定要件(整備指針)見直し内容はすでに報じているとおりで、次のような点が重要ポイントと言えそうです(関連記事はこちらとこちらとこちら)。
▽「都道府県がん診療連携協議会」の位置付け・機能を強化するとともに、県内の全拠点病院等の参画をもとめ、「県内の拠点病院等の連携強化」「県全体のがん医療水準の向上」などを目指す
▽▼全ての拠点病院等が対応すべき項目(我が国に多いがんへの集学的治療など)▼役割分担の上で連携を推進すべき項目(希少がん対応など)—を区分し、「都道府県がん診療連携協議会」で、県内拠点病院等の役割分担(後者の「役割分担の上で連携を推進すべき項目」をどの拠点病院等が担うか)を議論・整理し、それを共有・公表する【均てん化と集約化のバランス確保】
▽個々の拠点病院等だけでなく、「都道府県やがん医療圏単位」でのBCP(事業継続計画)策定を求める(望ましい要件)
▽地域がん診療連携拠点病院だけでなく、「都道府県拠点病院」「特定領域がん診療連携拠点病院」「地域がん診療病院」においても要件未充足の場合の「特例型」類型を設ける(特例型にはイエローカードを出し、要件充足を促す)
▽拠点病院空白医療圏の患者の受療動向等を勘案し、実情や人口減少等の将来のニーズに即した「がん医療圏」の再検討を促す(関連記事はこちら)
●厚労省の提示した指定要件見直し案はこちら(今後、構成員意見等を踏まえて修正される可能性があります)
(参考)現行の指定要件はこちら
患者に「セカンドオピニオン受診を促す」ことなど、がん拠点病院の要件に
また、6月20日のワーキングで示された見直し案から、例えば次のような点について変更が行われています(ワーキングでの意見を踏まえた修正)。
▼都道府県がん診療連携協議会の役割の1つに「地域における医療情報の共有の取り組みについて、がんの分野からも検討、体制整備に取り組む」旨を位置づける
▼拠点病院に求められるカンファレンスについて、「臨床倫理的、社会的な問題を解決するための、具体的な事例に則した、患者支援の充実や多職種間の連携強化を目的とした院内全体の多職種によるカンファレンス」を明確に位置づける
▼がん診療に携わる「すべての診療従事者」が、すべてのがん患者に対し「必要な緩和提供を行う」旨をより明確化する
▼セカンドオピニオンについて「すべてのがん患者とその家族に対して、他施設でセカンドオピニオ ンを受けられることについて説明する」「その際、心理的な障壁を取り除くことができるよう留意する」旨を義務付ける
▼緩和ケアチームの専従医師や放射線治療に携わる常勤診療放射線技師などについて「専門資格保有者が望ましい」旨を明示する
▼相談支援センターに関して、「外来初診時から治療開始までを目処に、がん患者・家族が『必ず一度は相談支援センターを訪問(必ずしも具体的な相談を伴わない、場所等の確認も含む)することができる体制』を整備する」ことを望ましい要件として明示する
▼都道府県拠点病院においては、相談支援センターに「国立がん研究センターによるがん相談支援センター相 談員基礎研修(1)-(3)を修了した専従の相談支援に携わる者を2人以上配置する」ことを望ましい要件として規定する
▼すべてのがん拠点病院等が集学的治療を行わなければならない「我が国に多いがん」について、「大腸がん、肺がん、胃がん、乳がん、前立腺がん、肝・胆・膵のがん」に絞る(従前案では血液がんなども盛り込んでいた)
「相談支援センターを必ず一度は訪れる」旨を「必須化」すべきか
こうした見直し案に対し「反対意見」は出ていませんが、委員からは多くの要望が出ています。
患者代表として参画する天野慎介構成員(全国がん患者団体連合会理事長)は、「従前から問題視されている点が十分に改善されていない」として、例えば次のような点を指定要件(整備指針)に盛り込むよう強く要望。今後、土岐座長と厚労省とで「指定要件(整備指針)に盛り込むべきか、Q&Aなどに記載すべきか、次回見直しに向けた宿題事項とするか」などを最終調整します。
▼「多他職種によるAYA世代支援チーム」設置(望ましい要件)について、「関連学会の研修受講者」配置を求めるべき
▼BCP要件に関連して、災害時や感染症蔓延時に「自院の診療状況」(診療制限を行っているのか否か、がん診療についてどの医療機関に相談すればよいのかなど)の情報提供を義務化すべきである
▼相談支援センターの業務負担増に鑑み、「都道府県拠点病院では専従3名、地域拠点病院では専従2名+専任1名、地域がん診療病院では専従2名」(厳しい場合には、少なくとも都道府県拠点病院で専従3名、地域拠点病院では専従2名)への相談支援員配置基準強化を義務化すべき
▼相談支援センターに「必ず一度は訪問する」旨の望ましい要件(上述)について、「義務化」「必須化」すべき
▼地方の拠点病院では「セカンドオピニオン受診を嫌悪する」医師が依然として一部おり、患者は行き場所を失う恐怖を感じている。こうした事態について「拠点病院の指定取り消し」事由に盛り込むべき
人員配置要件の強化は「望ましい」ことではあるものの、拠点病院等にとっては「大きな負担増」「病院の自由度を奪う」ことにもなり、また「人員不足」(限られたマンパワーを全国の拠点病院で奪い合うことになる)という問題もあるため、「どこまで実現できるか」を慎重に検討する必要があります。要件を満たさない場合には「拠点病院の指定取り消し」→「診療報酬(A232【がん拠点病院加算】)が取得できない」「患者の減少」→「経営の悪化」「がん診療レベルの低下」という悪循環をも生みかねないこともある点に留意が必要です。
なお、天野構成員は「一部拠点病院において敷地内で、同一医療機関と誤解を招きかねない名称の医療機関において、治験等に基づかない免疫療法を実施している事例がある。この問題への対応も検討すべき」と訴えており、厚労省担当者は「指定要件(整備指針)とは別の対応を厳しく行う」旨の考えを明示しています(関連記事はこちら)。
また、前回の指定要件(整備指針)見直しで盛り込まれた「高度型」(望ましい要件を複数満たし、実績が地域で最も優れている)については、「地域間でバラつきが大きく、ある地域の高度型よりも、他地域の一般型の方が実績が高いケースもある」「望ましい要件などの充足状況を公表することでも要件充足へのインセンティブとなる」などの問題があり、今般の見直しで「発展的に解消」(=類型の廃止)することになりました。
拠点病院の中にも「診療実績」や「望ましい要件の充足」状況に大きな差があることが従前より問題視されています。この問題を解消する方策の1つとして、多くの拠点病院が「質向上に向けて競争する」ことが考えられ、これまでは「高度型を設置して競争を促す」考えを採用していました。今後は「情報公表により競争を促す」考えにシフトしますが、「競争→全体としての質向上」が図られているかを今後検証し、「より優れた仕組み」を逐次研究・検討していくことになるでしょう。
天野構成員の指摘などを踏まえ、土岐座長と厚労省で最終調整を行い、「今月中」(2022年7月中)を目標に指定要件(整備指針)見直しに関する厚労省健康局長通知が発出される見込みです。
なお、小児がん診療病院等・がんゲノム医療中核拠点等の指定要件(整備指針)見直し案については別稿で報じます。
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