がん拠点病院が存在しない医療圏への対策、効果的な糖尿病対策、精神疾患対策の評価指標などが今後の重要論点—第8次医療計画検討会(2)
2022.7.25.(月)
日本全国のどこに住んでいても優れたがん医療が受けられるように「2次医療圏に1か所以上のがん診療連携拠点病院を指定」することになるが、60の医療圏ではがん診療連携拠点病院の指定がなされていない点をどう解消していくか—。
国民病とも言われる「糖尿病」対策が鋭意進められているが、必ずしも十分な効果が現れているとは言えない。対策および指標について適切な見直しを行うべきではないか—。
精神疾患には「非常に多様な疾患」が含まれており、個々の疾患ごとに「対策の方向性と、対策を評価する指標」が定められているが、「精神疾患対策を全体として評価する指標」なども研究していくべきではないか—。
7月20日に開催された「第8次医療計画に関する検討会」(以下、検討会)では、こういった「5疾病」に関する議論も行われています。
目次
がん拠点病院空白地域の解消に向け「がん医療圏」の適切な設定なども進めていくべき
Gem Medで繰り返し報じているとおり「2024年度からの新たな医療計画(第8次医療計画)」に向けた議論が進んでいます(都道府県が作成する医療計画のベースとなる厚生労働法の指針論議)。
医療計画は、いわば「地域医療提供体制の設計図」であり、そこには、▼一定の医療を完結できる地域(医療圏)をどう設定するか▼医療圏におけるベッド数をどう考えるか(基準病床数)▼地域医療構想(高度急性期・急性期・回復期・慢性期等の機能ごとの必要病床数など)の実現に向けてどのような方策をとるか▼5疾病(がん、脳卒中、心血管疾患、糖尿病、精神病)・6事業(救急、災害、僻地、周産期、小児、感染症)+在宅医療について、どのように対策を進め、どのような目標値を設定するか▼医師確保をどのように進めるか▼効率的かつ効果的な外来医療提供体制をどのように構築するか—などを記載します。
7月20日の検討会では、このうち「5疾病」に焦点を合わせた議論を行いました。医療法では「生活習慣病その他の国民の健康の保持を図るために特に広範かつ継続的な医療提供が必要と認められる疾病」として、(1)がん(2)脳卒中(3)心血管疾患(4)糖尿病(5)精神疾患—の5つを定め、医療計画の中に「どの病院が対策の拠点となるのか」「拠点的な医療機関と一般医療機関との連携をどう進めるのか」「対策を評価する指標をどう設定するのか」などを詳しく記載しますが、これら5疾患対策は他の審議会など(例えば「がん」対策については「がん対策推進協議会」など)において、各分野の専門家と一般国民が「進むべき方向」などを議論しています。医療計画の記載内容も、この方向と整合性をとることが当然のように求められ、7月20日の検討会には「他の審議会などの検討状況」などが報告されました。
まず(1)のがん対策については、「2022年度中に新たな計画(第4期がん対策推進基本計画)を閣議決定する予定である」ことや、「近くがん診療連携拠点病院等の指定要件(整備指針)を見直し、2023年度から新要件に基づく指定が行われる」ことなどが報告されました。新指定要件では「都道府県内の拠点病院等が連携を強め、患者がどの医療機関にアクセスしたとしても円滑に適切ながん治療を受けられる体制を強化していく」などの方向が固められてきています(関連記事はこちら)。
そうした中で検討会では「拠点病院の空白医療圏」に注目が集まりました。
「日本全国のどの地域に住んでいても、優れたがん医療を受けられる体制を整える」(均てん化)という方針の下、高度ながん医療を提供する「がん診療連携拠点病院」を「2次医療圏に1か所」以上指定することとされています。しかし、現時点では「60の2次医療圏」(335医療圏のうち17.9%)で拠点病院が指定されていない「空白医療圏」となっています。厚生労働省も事態を放置せず「要件の一部を緩和した『地域がん診療病院』を指定し、隣接地域のがん診療連携拠点病院と密接に連携して、がん医療を提供する」施策などを進めていますが、地域住民のアクセスなどを考慮すれば「空白医療圏の解消」が重要であることは述べるまでもありません。
検討会委員からは、例えば「空白医療圏の中にも『拠点病院がないために本当に地域住民が困っている地域』と『隣接医療圏のがん診療連携拠点病院により十分カバーできている地域』とがあるのではないか、前者を明確にした対策を進めていくべき」(山口育子構成員:ささえあい医療人権センターCOML理事長)、「医療圏域そのものの見直しを考える必要があるのではないか」(大屋祐輔構成員:全国医学部長病院長会議理事)といった「空白医療圏解消に向けた取り組みの重要性」を訴える声が数多くでています。
「がんの医療圏」は「必ず2次医療圏としなければならない」わけではなく、地域の実情を踏まえた「一定の柔軟設定」(2次医療圏とは異なる「がん医療圏」の設定)が可能です。この点、厚労省担当者は「空白医療圏の中には、『がん診療連携拠点病院に相応しい(要件を満たす)医療機関が存在せず、新設も非現実的である』という地域がある。そうした地域のある都道府県では『2次医療圏と異なるがん医療圏』を積極的に設定するなどし、県内のがん医療提供体制を考えてもらう必要がある」との考えを示しています。例えば「がん診療連携拠点病院のあるA医療圏」と「がん診療連携拠点病院の独自設置が非現実的なB医療圏」について、がん医療については「患者のアクセスを十分に考慮したうえでのA医療圏とB医療圏との統合」などを積極的に検討していくことが重要です。
ほか、がん対策については、▼がん患者の長期フォローを行う地域密着病院の役割についても検討していくべき(加納繁照構成員:日本医療法人協会会長)▼子宮頸がんワクチンの考え方も明確化すべき(加納構成員)▼小児がん対策について、成人拠点病院との連携などを十分に進めるべき(吉川久美子構成員:日本看護協会常任理事)—などの幅広い意見がでています。
今後、がん対策推進協議会の議論なども踏まえて、秋以降の第2ラウンドでより具体的な議論が進められます。
また(2)の脳卒中、(3)の心血管疾患をあわせた「循環器病対策」については、基本法(健康寿命の延伸等を図るための脳卒中、心臓病その他の循環器病に係る対策に関する基本法)に沿った「循環器病対策推進基本計画」が策定され、これに基づく取り組みが進められています。▼循環器病に関する正しい知識の普及啓発(予防・早期発見につがなる)▼保健、医療、福祉サービス体制の充実(救急搬送体制の整備、急性期から回復期・維持期・生活期等の状態・疾患に応じた医療等体制の構築など)▼循環器病の研究推進—を柱とする計画で、現在、2020-22年度を対象とする第1期計画が進められています。来年度(2023年度)から新たな計画がスタートするため、こちらも「医療計画との整合性」が重要になります。
この点について検討会の今村知明構成員(奈良県立医科大学教授)は「昨今、多くの都道府県でロジックモデルによる指標作成が進められているが、従前からのS(ストラクチャー)・P(プロセス)・O(アウトカム)に関する指標との整合性確保が難しい。今後の重要論点に位置づけるべき」旨の指摘がなされました。
ロジックモデルとは「施策がその目的を達成するに至るまでの論理的な因果関係を明示したもの」と言え、例えば「脳卒中患者の減少」というアウトカムを実現するために、「脳血管疾患の危険因子を改善する必要がある」→「そのためには、特定健診の受診を高めていく必要がある」→「まず特定健診受診率を基礎指標の1つに置こう」などとブレイクダウンしていくイメージです。今村構成員は「従前のSPO指標に合わせると、ロジックモデル構築がとても難しい。指標設定論議の中で十分に検討すべき」と訴えています。
このほか、▼循環器対策の基本法の運用に向けて、地域密着型病の声もきいてほしい。拠点的な病院はもちろん重要だが、2次救急の役割も極めて重要である(加納構成員)▼脳卒中・心臓病等総合支援センターのモデル事業(地域で循環器疾患対策の普及啓発・相談支援を基幹的に行うセンターを設置し、地域全体の循環器疾患対策の水準を向上させていくことを目指す、モデル事業の結果を踏まえて全国展開を検討)が進められているが、支援センターへの診療報酬上の手当てなどの支援も考えてほしい(大屋構成員)—といった指摘が出ています。
糖尿病対策の効果が十分に上がっていない点をどう考えていくか
「国民病」(800万人が罹患しているとの研究結果もあり、さらに患者増が予想される)とも指摘される(4)の糖尿病については、▼予防(発症させない)▼重度化予防(重症化させない)▼透析予防(透析に至るまでの重度化を防止する)—という3段階での取り組みが進められています。さらに、今後に向けて「地域の実情に応じた医療提供体制の構築」「対策を評価する指標の見直し、研究」などが重要検討テーマになります。
この点、「健康日本21の暫定評価をみると血糖コントロールを除き、芳しい結果が出ていない。膨大な予算を糖尿病対策に投じているが、今の施策で良いのかを検証しなければならない。保健師が『お腹周りを測定する』だけでは時間の無駄である」(大屋構成員、吉川構成員)との厳しい指摘がなされています。
もっとも、糖尿病対策については「国民自身、患者自身の意識改革、行動変容」が極めて重要で、保健・医療体制の充実だけでは限界があります(どれだけ指導を行っ足り、優れた医薬品が登場したとしても、患者が行動を変えなければ意味がない)。このため山口構成員は「地域住民に『行動変容』(暴飲暴食を避ける、適度な運動をするなど)を促すような取り組みがさらに重要であり、またその取り組みを適切に事後検証し、改善を図ることが極めて重要である」(山口構成員)と指摘しています。
精神疾患対策の「全体」を評価する指標などの研究も重要ではないか
他方(5)の精神疾患対策については、▼精神障害者であっても、地域の一員として自分らしい暮らしを送れるような「地域包括ケアシステム」の構築▼多様な精神疾患等に対応できる医療連携体制の構築—の2軸に沿って進められており、今後もこの2軸が重要な視点となります。
第8次医療計画に向けては、▼医療計画・障害福祉計画・介護保険事業(支援)計画の3計画が緊密に連携し、医療、障害福祉・介護、住まい、就労等の社会参加、地域の助け合い、教育・普及啓発が包括的に確保された体制を整備していく▼「多様な疾患への対応」を適切に評価できる指標の研究・検討を進める▼適切な基準病床(地域における、言わば精神病床の上限)の設定に関する研究・検討を進める—方向が示されています。
検討会構成員からは、▼疾病構造が多様化する中で、現在の指標では柔軟対応が難しい面もある点に留意が必要でないか(櫻木章司構成員:日本精神科病院協会常務理事)▼多様な精神疾患対策の評価を統一して行えるような「横串指標」の研究を進めてほしい(今村構成員)▼認知症高齢者が増える中では、精神科専門病院のみならず「一般病院における精神疾患対策」を進める必要があり、後者も含めた施策を検討・推進しほしい(加納構成員)—などの意見が出ています。
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