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診療報酬改定セミナー2024 看護モニタリング

【介護職員等ベースアップ等支援加算】処遇改善効果が現れているが、「小規模訪問介護」などでの取得支援が必要―介護事業経営調査委員会

2023.6.19.(月)

昨年(2022年)10月からスタートした【介護職員等ベースアップ等支援加算】については、9割を超える事業所・施設で取得され、介護職員を中心とするスタッフの「継続的な賃金改善」がなされるなど、処遇改善効果が上がっている—。

しかし、例えば小規模な訪問介護事業所では「事務負担が重く加算取得できない」ところも少なくないことから、緊急的な支援等を行う必要があるのではないか—。

6月16日に開催された社会保障審議会・介護給付費分科会の「介護事業経営調査委員会」で、こういった議論が行われました。

介護医療院などでは「賃金バランス」から加算取得を控えるところも依然として多い

2021年11月19日に閣議決定された新たな「コロナ克服・新時代開拓のための経済対策」、12月20日に成立した2021年度補正予算を踏まえ、介護職員について、賃上げ効果が継続される取り組みを行うことを前提として、昨年(2022年)2-9月まで収入を3%程度(月額9000円)引き上げるための補助金交付が行われました。
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来年(2022年)2-9月における補助金の概要(介護給付費分科会1 211224)



あらに、一昨年(2021年)12月22日の後藤茂之厚生労働大臣・鈴木俊一財務大臣合意で「10月以降は介護報酬で同様の処遇改善(介護職員の収入を3%程度改善できる処遇改善)を行う」方針が決定され、補助金を引き継ぐ、新加算【介護職員等ベースアップ等支援加算】が創設されました。

介護職員等ベースアップ等支援加算の概要(介護給付費分科会(2) 220228)

介護職員等ベースアップ等支援加算を含めた、3つの処遇改善加算の全体像(介護給付費分科会(3) 220228)



これら「補助金」と「ベースアップ等支援加算」の取得状況などを「介護従事者処遇状況等調査」の中で詳しく調査することとなり、今般、次のような結果報告が行われました。を決定しました。

(1)介護職員等ベースアップ等支援加算(2022年9月以降)を取得している施設・事業所における介護職員(月給・常勤の者)の基本給等を見ると、同加算取得前(2021年12月)から取得後(2022年12月)にかけて「1万60円・4.4%」増加している

(2)介護職員処遇改善支援補助金(2022年2-9月)を交付された施設・事業所における介護職員(月給・常勤の者)の基本給等を見ると、同補助金交付前(2021年12月)から交付後(2022年9月)にかけて「9210円・4.0%」増加している

▽2022年度の処遇改善に関連する加算等の取得率は、▼介護職員等ベースアップ等支援加算(2022年9月以降):91.3%▼介護職員処遇改善支援補助金(2022年2-9月):88.7%▼介護職員等特定処遇改善加算(2019年度から):75.0%▼介護職員処遇改善加算(2012年度から):94.5%—である

(3)介護職員等ベースアップ等支援加算(2022年9月以降)について、賃金改善等の実施状況を見ると次のようになっている
▽ベースアップ(基本給引き上げなど)等のみで対応:71.1%、ベースアップ等とそれ以外の併用:28.1%
▽ベースアップ等の内容は、▼手当の新設:65.9%▼既存手当の引き上げ:17.5%▼給与表の改定:15.8%▼定期昇給:14.4%—など
▽介護職員以外の対象職種は、▼生活相談員・支援相談員:45.1%▼看護職員:45.1%▼事務職員:31.5%▼ケアマネジャー:29.9%▼リハビリ専門職・機能訓練指導員:27.9%—など

(4)介護職員等ベースアップ等支援加算(2022年9月以降)を届け出ない理由としては、▼賃金改善の仕組みを設けるための事務作業が煩雑:40.3%▼計画書や実績報告書の作成が煩雑:35.7%▼賃金改善の仕組みの定め方が不明:24.8%—などが多い

介護職員等ベースアップ等支援加算などの状況(介護事業経営調査委員会1 230616)



加算取得率が9割を超えていること(2)、相当程度の賃上げがなされていること(1)、賃上げが継続的になされる手法で取り組まれていること(3)などから、「介護職員等ベースアップ等支援加算は『介護職員の処遇改善』という目的を相当程度達成できている」ことが伺えます。ただし、加算が「介護職員の確保・定着に結びついている」かについて、さらに詳細な調査や、他調査とのクロス分析などを組み合わせて見ていく必要があります。



もっとも、加算を取得していない事業・施設も「全体で8.7%」あります。

サービス種類別に「加算を取得していない事業所等の割合」を見ると、▼介護老人福祉施設 (特別養護老人ホーム):2.1%▼介護老人保健施設:7.3%▼介護療養型医療施設:26.6%▼介護医療院:15.4%▼訪問介護:12.9%▼通所介護:9.1%▼通所リハビリ:11.6%▼特定施設入居者生活介護:4.3%▼小規模多機能型居宅介護:5.4%▼認知症対応型共同生活介護:4.4%—とバラつきがあります。

サービス種類別の加算取得状況(介護事業経営調査委員会2 230616)



介護療養・介護医療院で取得が進まない背景には、従前と同じく「法人内の病院(医療保険適用)スタッフとの賃金格差を出さないため」という点があります。2024年度には診療報酬・介護報酬の同時改定がなされるため「医療保険と介護保険の制度の違いを埋める処遇改善」に期待する声もあります。今後の社会保障審議会・介護給付費分科会、中央社会保険医療協議会論議で、どういった議論が行われるのか注目する必要があるでしょう。

加算を取得しない理由(介護事業経営調査委員会3 230616)



また、訪問介護でも1割超の事業所が加算を取得できておらず、その理由としては「賃金改善の仕組みを設けるための事務作業が煩雑である」「計画書や実績報告書の作成が煩雑である」との声が多くなっています(一般の処遇改善加算よりも、この点を問題にする声が多い)。

訪問介護事業所の規模別に非取得割合を見ると、▼利用者数200回以下:22.7%▼201-400回:16.7%▼401- 600回:12.2%▼601-800回:10.0%▼801-1000回:2.9%▼1001回以上:8.6%—と、概ね「規模が小さいほど、加算を取得できていない」状況が伺えます。上述の「賃金改善の仕組み構築」「計画書や実績報告書の作成」といった事務を担えるスタッフの確保が難しいことなどが背景にあると考えられます。

この点について堀田聰子委員(慶応義塾大学大学院健康マネジメント研究科教授)や松本庄平委員(福祉医療機構経営サポートセンターリサーチグループグループリーダー)、泉千夏委員(EY新日本有限責任監査法人FAAS事業部シニアマネージャー)は「小規模事業所でも加算を取得できるようなサポートを行う必要性が再確認された」と指摘。とりわけ人材不足が顕著な「訪問介護」について、堀田委員らは「緊急の対応が必要ではないか」と訴え、厚生労働省も「小規模事業所へ何らかの支援・配慮が必要である」との考えを示しています。もっとも「加算の要件等で配慮を行う」のか、「要件をクリアできるような支援を行う」のかなど、支援・配慮の方法は様々あり、今後、具体的な検討が進められます。

訪問介護では人材不足が深刻(介護保険部会1 220516)



なお、泉委員らは「回答率が下がった」点を問題視しています(有効回答率59.4%、前年度から4.6ポイント低下)。この背景には「調査負担の増加」があるのではないかと考えられます。

今般の調査では、▼補助金の導入前(2021年12月時点)▼補助金導入後(2022年9月時点)▼ベースアップ等支援加算導入後(2022年12月)—の3時点の給与等を調べました。前年度も含めた通常の調査では、「改定前」と「改定後」との2時点の給与等を調べるため、今般の調査は回答負担が重くなっていると考えられるのです(もっとも「調査時点を増やしたため、調査内容の簡素化」も行われており、1.5倍(2時点→3時点)に調査負担が増えたわけではない)。

この点、厚労省では「回答率の向上に向けた方策を検討・実施していく」考えを強調しています。

調査結果は、近く開かれる介護給付費分科会に報告されます。



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