定員1人当たり建設費、病院では2264万円、首都圏の特養ホームでは1782万円、依然として建設費は高止まり―福祉医療機構
2023.7.6.(木)
病院を建設する際の「定員1人当たり建設費」は、昨年度(2022年度)には前年度から7.8%低下し、2264万1000円となった。しかし、これは調査サンプルの中で「単価の高い高度急性期病院などの割合が低下した」ことが主な要因であり、「建設費が安くなっている」わけではない—。
また特別養護老人ホームの定員1人当たり建設費を見ると、東京などの首都圏では、2010年度の2倍超となる1781万9000円となり、今後の急増する介護ニーズへの対応に不安が残る状況である—。
このような状況が、福祉医療機構(WAM)が6月28日に公表したリサーチレポート「2022年度(令和4年度)福祉・医療施設の建設費について」から明らかになりました(機構のサイトはこちら)(前年度(2021年度)の記事はこちら、2020年度の記事はこちら、2019度の記事はこちら、2018年度の記事はこちら)。
価格の高騰はもちろん、資材調達が難しくなってきており、今後の病院建設・大規模改築については「計画を慎重に立てる」必要があります(工期の伸びによる建設費の上昇、開設遅れによる収益減などが生じる)。
目次
病院の1人当たり建設単価、2022年度は2264万円に低下したが・・・
まず昨年度(2022年度)における病院の建設費を見てみると、全体の平米単価は全国平均で40万9000円となりました。前年度から1万4000円・3.3%下落し、これまでの「増加傾向」にストップがかかった格好です。
また病院の「定員1人当たり建設費」を見ると、昨年度(2022年度)は2264万1000円で、前年度に比べて188万7000円・7.8%下落しました。平米単価と同じく「上昇傾向にストップ」がかかっています。
もっとも、下落の要因について機構では「建設単価の高い一般病院のサンプルシェアが低下した」ことを掲げています。
調査における病院種類別の構成割合を見ると、一般病院は▼2020年度:76.2%▼21年度:80.0%▼22年度:54.8%—となり、21年度に比べて22年度は25.2ポイントも低下しています。
他方、病院種類別の平米単価を2016-21年度平均で見ると、▼一般病院(全病床に占める一般病床の割合が50%以上):36万9000円▼療養型病院(同じく療養病床の割合が50%以上):37万円▼精神科病院(同じく精神病床の割合が80%以上):30万1000円▼―となっており、一般病院と療養病院とで「それほど変わらない」ように見えます。しかし、一般病院の中には「ICU等を持つ高度急性期・急性期病院」が含まれ、下図のように「より高額な平米単価の病院」が含まれています。
病院の1人当たり建設費は2011年度に底(1130万8000円)を打ってから、一貫して上昇傾向にありました。例えば東京五輪・パラリンピックの開催に伴う建設資材の高騰に加えて、新型コロナウイルス感染症の影響(資材納期の遅延や工事の延期・中断など)、さらに現下のウクライナ情勢(やはり資材調達の遅延や、光熱費の急騰など)が背景にあります。今般、サンプル数の影響で「単価が下がった」ように見え、実態がつかみにくくなっていますが、機構では「建設費は高止まりの状況にある」と見ており、▼2024年度には、建設業に時間外労働の上限規制が適用され、「労務費の増大に伴う建設費のさらなる押し上げ」が見込まれる▼建設費が下落に転じる要素が見当たらず、建設費は長期的な高止まりが続くと予測される▼何らかの整備計画構想がある場合には、まずは当該計画の緊急性や必要性を十分に検討し、工事着手のタイミングを見計らうことが重要になる—との見解を示しています。
病院の新築・改築にあたっては、「どのようにコストを抑えるか」という視点が必要となり、そこでは「適切な病床数」の設定も非常に重要な要素となってきます。病床整備が過剰になれば、「空床の発生」→「空床を埋めるための、不適切な入院の発生(在院日数延伸など)」につながり、患者のADL・QOL低下や感染リスクの上昇、医療費の上昇などを招いてしまいます。「病院の規模は適切なのか?病院の機能は適切なのか?」などを、地域の医療ニーズ(中心となるニーズが急性期から回復期・慢性期ニーズに移行していないか)、近隣病院の動向、自院のリソース(医療資源)などを正確に分析し、「自院の適正な機能と規模」を探ることが必要不可欠です。
老健施設の1人当たり建設単価、2022年度は1294万円に
介護老健保健施設については、昨年度(2022年度)は▼平米単価:31万2000円(前年度から2万2000円・6.6%低下)▼1人当たり延床面積:43.1平米(同1.7平米・3.8%縮小)▼1人当たり建設単価:1294万円(同199万5000円・13.4%低下)―という状況です。
100床の老健施設を新築する場合、建設費のみに着目すると2011年度には8億9000万円余りでしたが、昨年度(2022年度)には12億9000万円余りとなり、コストは1.4倍近くになる計算です。
特養ホームの1人当たり建設単価、全国では1612万円、首都圏では1782万円
さらに特別養護老人ホーム(ユニット型)について、(1)首都圏(東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県)(2)全国―の地域別に見てみると、次のような状況です。
(1)首都圏
【平米単価】2010年度:21万7000円 → 2021年度:34万2000円(12万5000円・57.6%上昇)
【定員1人当たり建設単価】2010年度:869万8000円 → 2021年度:1781万9000円(912万1000円・104.9%増)
(2)全国
【平米単価】2010年度:19万9000円 → 2021年度:32万7000円(12万8000円・64.3%上昇)
【定員1人当たり建設単価】2010年度:1003万5000円 → 2021年度:1612万1000円(608万6000円・60.6%上昇)
特養ホームでは、建設費の上昇傾向をダイレクトに見ることができます。とりわけ首都圏では、1人当たり建設費が2010年度から「倍以上」に上昇しており、「高齢化に伴って急増する介護ニーズ」にどう対応していくかがこれまで以上に大きな課題になると考えられます。
なお介護分野のニーズは、ある地域では、今後も増加し続けるが、別の地域では、今後しばらくすると減少に転じるなど、非常に複雑です。地域の介護ニーズを詳しく精査した上で、施設の新設・改築計画を組んでいくことが必要です(関連記事はこちら)。
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