エンハーツ点滴静注用、HER2遺伝子変異陽性の非小細胞肺がん治療に使用可能になった点踏まえ保険診療上の留意事項見直し—厚労省
2023.8.31.(木)
乳がん・胃がん治療に用いる「エンハーツ点滴静注用」について、「がん化学療法後に増悪したHER2(ERBB2)遺伝子変異陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺がん」治療にも使用可能になった点を踏まえ、保険診療上の留意事項も見直しを行う—。
またループス腎炎への効能効果追加が認められた「リツキサン点滴静注」や、寒冷凝集素症治療に用いる「エジャイモ点滴静注」についても、保険診療で使用する場合の留意事項を見直す—。
厚生労働省は8月23日に通知「留意事項の一部改正等について」を示し、こうした点を明らかにしました(厚労省サイトはこちら)。
エンハーツ点滴静注用、HER2関連検査の実施年月日等をレセプトに記載
今般の通知では、(1)リツキサン点滴静注100mg・同500mg(2)エンハーツ点滴静注用100mg(3)エジャイモ点滴静注1.1mg—の3医薬品について、効能効果等の一部変更が認められたことを踏まえて「保険診療でこれら薬剤を使用する場合の留意事項」を見直しています。
まず(1)の「リツキサン点滴静注」(一般名リツキシマブ(遺伝子組換え))は、下記の疾患について効能効果が認められています。
▽CD20陽性のB細胞性非ホジキンリンパ腫
▽CD20陽性の慢性リンパ性白血病
▽免疫抑制状態下のCD20陽性のB細胞性リンパ増殖性疾患
▽多発血管炎性肉芽腫症、顕微鏡的多発血管炎
▽難治性のネフローゼ症候群(頻回再発型あるいはステロイド依存性を示す場合)
▽慢性特発性血小板減少性紫斑病
▽後天性血栓性血小板減少性紫斑病
▽全身性強皮症
▽難治性の尋常性天疱瘡及び落葉状天疱瘡
▽視神経脊髄炎スペクトラム障害(視神経脊髄炎を含む)の再発予防
▽腎移植、肝移植におけるABO血液型不適合移植における抗体関連型拒絶反応の抑制
▽インジウム(111In)イブリツモマブ・チウキセタン(遺伝子組換え)注射液およびイットリウム(90Y)イブリツモマブ・チウキセタン(遺伝子組換え)注射液投与の前投与
保険診療で本剤を使用する場合には、「緊急時に十分に対応できる医療施設において、▼造血器腫瘍▼自己免疫疾患▼ネフローゼ症候群▼慢性特発性血小板減少性紫斑病▼後天性血栓性血小板減少性紫斑病▼全身性強皮症▼天疱瘡▼視神経脊髄炎スペクトラム障害(視神経脊髄炎を含む)—の治療、ならびに腎移植あるいは肝移植に対して十分な経験を持つ医師の下で、本剤投与が適切と判断される症例についてのみ投与する」との点に留意することが求められてきました。
先頃、本剤について「既存治療で効果不十分なループス腎炎」への効能効果追加が認められたことなどを踏まえ、上記留意事項が次のように見直されました。
▽本製剤の警告において、「本剤の投与は、緊急時に十分に対応できる医療施設において、適応疾患の治療、または臓器移植に十分な知識・経験を持つ医師のもとで、本剤の使用が適切と判断される症例のみに行うこと」とされているので、使用に当たっては留意すること
他方、(2)の「エンハーツ点滴静注用」(一般名:トラスツズマブ・デルクステカン(遺伝子組換え))は、▼化学療法歴のあるHER2陽性の手術不能または再発乳がん▼化学療法歴のあるHER2低発現の手術不能または再発乳がん▼がん化学療法後に増悪したHER2陽性の治癒切除不能な進行・再発の胃がん—について効能効果が認められている抗がん剤です。
今般、さらに「がん化学療法後に増悪したHER2(ERBB2)遺伝子変異陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺がん」への効能効果追加が認められたことなどを踏まえ、保険診療で使用する場合の留意事項について次のような追加・見直しが行われました。
▽化学療法歴のあるHER2低発現の手術不能または再発乳がんに用いる場合
→(従前までと変更なし)本製剤の効能効果に関連する注意に「HER2低発現の定義について臨床成績の内容を熟知し、十分な経験を有する病理医または検査施設における検査により、HER2低発現が確認された患者に投与すること」と記載されており、「HER2低発現を確認した検査の実施年月日をレセプトの摘要欄に記載する
→(追記)当該検査を実施した月のみ実施年月日を記載する
→(追記)本剤の初回投与に当たっては必ず実施年月日を記載する
▽(新)がん化学療法後に増悪したHER2(ERBB2)遺伝子変異陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺がんに用いる場合
→(新)本製剤の効能効果に関連する注意に「十分な経験を有する病理医または検査施設における検査により、HER2(ERBB2)遺伝子変異が確認された患者に投与すること」と記載されており、「HER2(ERBB2)遺伝子変異を確認した検査の実施年月日」をレセプトの摘要欄に記載する
また(3)の「エジャイモ点滴静注」(一般名:スチムリマブ(遺伝子組換え))は「寒冷凝集素症」への効能効果が認められており、保険診療で使用する場合には「本製剤の効能効果に関連する注意に『本剤の投与を開始する際には、溶血のため赤血球輸血が必要と考えられる患者を対象とすること』とされており、使用にあたっては十分留意する」点に注意する必要があります。
先頃、添付文書から「溶血のため赤血球輸血が必要と考えられる患者を対象とする」旨の注意が削除されたことを受け、保険診療で用いる場合の上記留意事項が削除されています。
【関連記事】
リツキサンのループス腎炎治療での使用、ソル・メドロール静注用の川崎病急性期治療での使用などを保険診療の中で認める―厚労省
抗がん剤のエンハーツ点滴静注、対象となる乳がん患者の限定を一部緩和—厚労省