入院患者の退院支援、「体制に着目した評価」に大幅な組み替え―中医協総会
2016.1.28.(木)
これまで入院日数に着目した点数設定となっていた退院調整加算について、2016年度の診療報酬改定では「退院を支援する体制」に着目した点数設定とし、大幅な組み替えを行う―。このような方針が、27日に中央社会保険医療協議会総会に示された短冊から明らかになりました。
また入院基本料の施設基準となっている「看護師夜勤時間」の計算方法見直しなどの詳細も明らかになっています。
在宅復帰の促進には、「ADLの低下を防ぐ」「院内感染リスクを低減する」「在院日数の短縮につながり医療費を適正化する」などの効果があります。現在、診療報酬上でもさまざまな早期退院を支援する項目があり、中でも「退院調整加算」が代表的と言えます。
退院調整加算は、「入院早期から退院困難な患者(がん、要介護認定未申請、入退院を繰り返しているなど)を抽出し、退院支援計画を策定し、その計画に基づいて退院させる」ことを評価するもので、入院日数に応じた点数(早期退院ほど高い点数)が設定されています。
この退院調整加算について、2016年度の次期改定では大幅な見直し(組み替え)を行うことが分かりました(関連記事はこちら)。
まず「退院調整加算」という名称が廃止され、「退院支援加算」となります。退院支援加算は大きく3種類設けられ、次のような位置づけとなります。
(1)退院支援加算1:新設
(2)退院支援加算2:退院調整加算の組み替え
(3)退院支援加算3:新生児特定集中治療室退院調整加算の組み替え
(1)の退院調整加算1は、退院支援に向けた体制を非常に手厚くしている医療機関を評価するもので、「現行の退院調整加算の厳格化版」と言えるかもしれません。具体的な施設基準は次のように設定されます。
▽現行の退院調整加算の施設基準を満たすこと
▽退院支援・地域連携の専従看護師・社会福祉士が、各病棟に専任で配置されていること(退院支援業務について2病棟まで併任可能)
▽一定数以上の医療機関・介護事業所などと転院・退院体制について事前に協議し、連携していること
▽連携先の医療機関・介護事業所などの職員と、当該医療機関の退院支援・地域連携職員が、一定以上の頻度で面会し、転院・退院体制の情報共有などを行っていること
▽介護支援連携指導料の100床当たり算定回数が、一定以上であること
▽廊下などの見やすいところに、分かりやすく退院支援職員とその業務を掲示すること
退院支援の専任者が、他の医療機関や介護施設と緊密な連携をとることは早期退院を促すために極めて重要です。メディ・ウォッチでも紹介した大阪府の生長会府中病院では、こうした取り組みを点数設定前から行って効果を上げており(関連記事はこちら)、ここに診療報酬が追い付いてきたと見ることもできそうです。
また、具体的な業務(算定するための要件)としては、現在の退院調整(前述)に加えて、▽他院に出向くなどして担当者と面会し、転院・退院体制の状況を共有する▽退院支援職員が、入院後一定期間内に退院困難患者などを抽出する▽退院困難患者・家族と入院後一定期間内に退院後の生活を含めた話し合いをする▽入院後一定期間内に病棟看護師・退院支援職員・退院調整部門の看護師などがカンファレンスを行って退院調整に当たる―ことが必要です。
単に人員を配置するだけではなく、具体的な取り組みを含めて評価するものと言えます。
(2)の退院支援加算2は、現行の退院調整加算を組み替えたものです。退院調整加算は入院日数に応じた評価となっていますが、これを廃止している点が注目されます。
この点について厚生労働省保険局医療課の宮嵜雅則課長は、「体制をしっかり整えることが退院調整にとって非常に有効であることが分かったため、そこを第一に評価する体系に組み替えた」旨を説明しています。
ところで、入院日数に応じた評価の廃止は、平均在院日数の短縮などにブレーキがかからないだろうかとの心配もありますが、この点について厚労省保険局医療課の担当者は「在院日数に応じた評価としては、一般病棟入院基本料の加算などさまざまなものがある」点を強調し、今般の見直しでブレーキがかかることはないとの考えを示しています。
また(3)の退院支援加算3は、新生児特定集中治療室退院調整加算をベースにしたもので、施設基準などは同じ形になる見込みです。
このほか退院支援については、▽地域連携診療計画管理料などを「地域連携診療計画加算」に組み替える▽救急搬送患者地域連携紹介加算・同受入加算などを廃止する▽介護支援連携指導料や退院時共同指導料の評価充実▽入院医療機関の看護師が患者宅を訪問し療養上の指導を行うことを「退院後訪問指導料」として評価する―といった見直しも行われます。
入院基本料に共通する施設基準の1つとして「看護師の1人当たり月平均夜勤時間が72時間以下であること」(いわゆる夜勤72時間要件)があります。現在、夜勤専従者や月の夜勤時間が16時間以下の看護師は、計算対象から除外されていますが、厚労省は「より多くの看護師で夜勤負担を分け合うべきではないか」との考えの下、最終的に「7対1病棟および10対1病棟」と「それ以外の病棟」で計算対象から除外する短時間夜勤の看護師を分ける考えを提示しました。例えば、「7対1・10対1では月当たり夜勤時間が●時間以下の看護師は含めない、それ以外では月当たり夜勤時間■時間以下の看護師は含めない」といった定め方になる見込みです。
この考え方には平川則男委員(日本労働組合総連合会総合政策局長)や菊池令子専門委員(日本看護協会副会長)から、「看護師の総数を減らしても夜勤72時間要件を満たせることになり、1人当たりの夜勤負担が増える可能性がある。慎重な検討をすべき」との要望が出されています(関連記事はこちらとこちら)。
また夜勤に関しては、▽月平均夜勤時間超過減算の割合(現在は20%)を見直す▽夜勤72時間要件のみを満たせない場合の「夜勤時間特別入院基本料」の新設―も提案されています。後者は、前者の「月平均夜勤時間超過減算」と「特別入院基本料」の間に位置するクッションの役割を果たすものです。
また入院医療に関連して、「身体疾患で入院した認知症患者」への病棟対応などを向上するために、「認知症ケア加算」が新設されます。各種の入院基本料や特定入院料の加算という位置づけです(関連記事はこちら)。
まず、▽認知症患者の診療に十分な経験・知識のある常勤医師▽認知症看護に従事した経験を持ち、適切な研修を修了した専任の常勤看護師▽認知症患者の退院調整経験のある専任の常勤社会福祉士・常勤精神保健福祉士―で構成されるチームを設置し、身体拘束の実施基準を含めた認知症ケア手順書を作成・活用する医療機関では、「認知症ケア加算1」を算定することが可能です。
具体的な取り組みとしては、▽認知症症状の悪化予防▽適切な看護計画の作成と実施▽多職種チームによる患者家族や病棟職員への助言▽院内研修―などが期待されます。
また、▽認知症患者の入院する病棟に、認知症看護などの研修を受けた看護師を複数配置▽身体拘束の実施基準を含めた認知症ケア手順書を作成・活用―する医療機関では、「認知症ケア加算2」の算定が可能です。
加算の算定対象は、「認知症高齢者の日常生活自立度判定基準」でランクIII以上となった人が想定されています。
なお、2016年度の次期改定では、救急患者の受け入れ体制を強化するために、▽「時間外、休日、深夜における再診後に、緊急で入院となった場合」にも再診料・外来診療料の時間外などの加算を算定可能とする▽夜間休日救急搬送医学管理料の評価を充実する―などのほか、救急医療管理加算1の対象に「緊急カテーテル治療・検査」「t-PA療法」が必要な患者が追加される見込みです(関連記事はこちら)。
【関連記事】
退院調整加算の施設基準を厳格化、地域連携パスなどは「退院調整加算の加算」に組み替え―中医協総会
病院DBからデータを提示、診療現場が自ら「改善」の必要性に気づき、取り組む風土を―生長会府中病院
看護師の夜勤時間の計算方法を見直すべきか、支払側と診療側で議論は平行線―中医協総会
看護師の夜勤72時間要件、夜勤16時間以下の看護師を計算に含めるべきか―中医協総会
認知症ある患者のサポート加算新設へ、多職種チームでの介入を評価―中医協総会
回復期リハに新たなアウトカム評価を導入、リハ効果が一定以下の場合に疾患別リハ料を適正化―中医協総会
7対1などの看護必要度、M項目に脊椎麻酔・救命等に係る内科的治療後の患者も追加―中医協総会
ICUの看護必要度A項目を見直すとともに、重症患者割合を引き下げる方向―中医協総会
地域包括ケア病棟の手術・麻酔を包括外(出来高算定)に、点数据え置き―中医協総会
DPCの地域医療指数に、「高度・先進的な医療提供」の評価項目を追加―中医協総会
改善効果の低い回復期リハ病棟、疾患別リハを1日6単位までに制限―中医協総会