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在宅医療の臨床指標を構築し、国民に「在宅医療のメリット」などを周知―厚労省・全国在宅医療会議

2016.7.6.(水)

 地域医療構想の実現や地域包括ケアシステムの構築において、「鍵を握る」と言われる在宅医療だが、必ずしも国民に正しい情報が伝わらず、十分に推進できていない。そこで在宅医療の全体像が「見える」ようにし、在宅医療のメリットなどを国民に分かりやすく情報提供していく―。

 こういった目的で設置された「全国在宅医療会議」の初会合が6日に開催されました。

 比較的長期なスパンで「在宅医療の臨床指標を構築。それに基づいて在宅医療のメリットを可視化し、国民に適切に情報提供していく」ことなどが目指されます。

7月6日に開催された、「第1回 全国在宅医療会議」

7月6日に開催された、「第1回 全国在宅医療会議」

エビデンスに基づく「在宅医療のメリット」などが明確に情報提供されていない

 いわゆる団塊の世代(1947-51年の第1次ベビーブームに生まれた方)がすべて75歳以上の後期高齢者となる2025年に向けて、医療(とくに慢性期医療)・介護ニーズが飛躍的に高まります。そのため、政府は病院・病床の機能分化・連携を推進するための地域医療構想や、地域包括ケアシステムの構築を進めています。地域包括ケアシステムでは言わずもがなですが、地域医療構想でも「療養病棟に入院する医療区分1の患者の70%が在宅に移行する」こととされるなど(関連記事はこちらこちら)、今後「在宅医療」をいかに充実させていくかが重要なポイントとなります。

 しかし、現実を見ると▽エビデンスに基づいた「在宅医療のメリット(QOLの向上など)」が明確に示されていない(つまり国民がメリットを感じていない)▽医療者側には「在宅医療の推進は医療費削減にある」という誤解がある▽在宅医療は小規模な組織体制で提供されており、さまざまな考え方や手法が存在する(標準化されていない)▽国民の多くは自宅で最期を迎えたいとの希望を持つが、家族の負担を考慮し、実際の入院から在宅への移行は多くない―といった課題があります(関連記事はこちらこちらこちら)。

 厚生労働省は、こうした課題を解消することが必要と考え、▽在宅医療を実効性のあるものとして推進する▽国民の視点に立った在宅医療の普及啓発を図る▽在宅医療に関するエビデンスを蓄積する―ことを目的とした「全国在宅医療会議」を設置したのです。厚労省の椎葉茂樹審議官(医政担当)は、「医療提供者、学識者、行政が三位一体となって在宅医療の体制整備・普及啓発に向けた議論をしてほしい」と期待を寄せています。

9月にWG設置し、「在宅医療の臨床指標設定」などの重点分野を整理

 6日の初会合では、会議の下部組織となるワーキンググループを9月以降に設置し、そこで「在宅医療を推進するための重点分野」を策定することが決められました。

 上記のように在宅医療にはさまざまな課題があり、これらをすべて一度に解決することは困難です。そこで優先順位をつけ、「重点分野」に絞った具体的・効果的な対策を立てていくことにしたものです。

 では「重点分野」とは、具体的にどのようなテーマなのでしょう。厚労省医政局地域医療計画課在宅医療推進室の伯野春彦室長は、(1)在宅医療の特性を踏まえた適切な臨床指標の設定(2)効果的な情報発信方法―の2項目を例示しています。

 構成員からは、例示以外にも「ターミナルケアの定義明確化」(武久洋三構成員:日本慢性期医療協会会長)、「訪問看護師の人材確保」(齋藤訓子構成員:日本看護協会常任理事)、「人工栄養(胃瘻など)の妥当性」(太田秀樹構成員:全国在宅療養支援診療所連絡会事務局長)、「小児や若年成人に対する在宅医療」(宮田章子構成員:日本小児科学会副会長)なども重点分野とすべきとの意見が出されました(関連記事はこちらこちらこちら)。伯野室長は、ワーキンググループで議論しながら、また会議の大島伸一座長(在宅医療推進会議座長、国立長寿医療研究センター名誉総長)とも相談し、重点分野を固める考えです。

 ところで、例えば(1)の臨床指標を設定すると仮定した場合、「在宅医療にふさわしい指標はどのようなものか」を設定→「指標に基づき、在宅医療の効果はどこにあるのか」を研究→「在宅医療の効果・メリットを国民に適切に周知する方法」の検討、などを行う必要があると伯野室長は見通します。これには一定の時間が必要になると見られ、新田國夫座長代理(日本在宅ケアアライアンス議長)は「2年程度かけてつくり上げることになるのではないか」との見解を示しています。

 なお、2018年度から第7次医療計画がスタートし、「5疾病5事業+在宅」の内容も見直されることになります(関連記事はこちらこちら)。医療計画策定指針を厚生労働大臣が示すのは2017年度中であり、会議の議論は、2018年度からの医療計画に直接には反映されない(時間的に間に合わない)模様です。

第2回会合は年明け(2017年)3月、重点分野の確認など行う

 また6日の会合では、構成員から在宅医療全般に関してさまざまな意見が出されました。

 鈴木邦彦構成員(日本医師会常任理事)は、「在宅医療は『かかりつけ医』の延長であるべき」とし、日医として在宅医療に携わる医師向けの研修や、在宅医療そのものの支援を行っていくことを強調しました。

 また城谷典保構成員(日本在宅医療学会理事長)は、「在宅医療は独立したものではなく、プライマリ・ケアの一つである」とした上で、「診療報酬、医療提供体制、かかりつけ医、総合診療専門医などの議論がそれぞれで動いているが、全体像が見えるように整理する必要がある」と指摘。在宅介護のコーディネータ役を担っている鷲見よしみ構成員(日本介護支援専門医協会会長)も同旨の考えを述べています。これは冒頭に示した会議の設置目的とも合致する内容です。

 一方、在宅医療を継続するためには、急変時の後方病床の整備や家族のレスパイト(息抜き)も欠かせない視点です。この点について折茂賢一郎構成員(全国老人保健施設協会副会長)は「緊急ショート」の整備・充実を進めるべきと訴えています。

 第2回目の全国在宅医療会議は年明け(2017年)3月頃に開かれ、前述のワーキンググループで整理された「重点分野」の確認などを行います。そこでも在宅医療の推進に関する基本的な議論が行われると見られますが、委員から出された意見の中には「中央社会保険医療協議会で議論すべきもの」「社会保障審議会・介護給付費分科会で議論すべきもの」などもあり、すべての項目が本会議で議題となるわけではありません。

在宅医療研究を進めるため、厚労省ホームページで関連データを公開

 ところで、厚労省は在宅医療の推進に向けた研究を行いやすい環境を整備する一環として、ホームページ上で在宅医療関連データの公開を始めました(6日スタート)(厚労省のサイトはこちら)。

厚労省は7月6日から、ホームページにおいて在宅医療関連データの公開を開始。在宅医療研究の推進が期待される

厚労省は7月6日から、ホームページにおいて在宅医療関連データの公開を開始。在宅医療研究の推進が期待される

 そこでは、市区町村別に▽在宅療養支援病院数(単独機能強化型、連携機能強化型、従来型)▽在宅療養支援診療所数(同)▽訪問診療を行う診療所数と実施件数▽看取りを行う診療所数と実施件数▽訪問看護ステーション数と職員数▽介護保険3施設の数▽小規模多機能型居宅介護事業所数▽自宅死の割合▽老人ホーム死の割合―などが整理されています。

 この点について川越雅弘構成員(国立社会保障・人口問題研究所社会保障基礎理論研究部長)は「在宅医療・介護連携が市町村の事業となった。これまで医療提供体制の整備にタッチしてこなかった市町村が、どのように活用すべきなのか、どのように対策に結びつけていけば良いのかなども示す必要がある」と指摘。伯野室長も、「会議の意見を踏まえて、データを充実していく」考えを示しています。

 なお、厚労省公開データの一部を見ると、「在支診の整備が進んでいる地域のほうが、自宅死の割合が低い」という不可解な状況が見てとれます。自宅死の割合には、「在支診の整備状況」以外にもさまざまな要素が関係していると考えられ、これを機に、こうした点を明確にしていく総合的な研究が行われることが期待されます。

厚労省の公開データを見ると、「在支診の整備が進んでいる地域のほうが、自宅死の割合が低い」という不可解な状況になっている。このため、より総合的な研究が求められている。

厚労省の公開データを見ると、「在支診の整備が進んでいる地域のほうが、自宅死の割合が低い」という不可解な状況になっている。このため、より総合的な研究が求められている。

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