看護師・薬剤師など「へき地」への派遣を認めるべきか―社保審・医療部会(1)
2020.11.6.(金)
へき地での医療従事者不足を少しでも解消するために、医師と同様の枠組みで、▼看護師▼准看護師▼薬剤師▼臨床検査技師▼診療放射線技師―についても例外的に派遣を認めるべきか―。
また福祉・介護施設において、看護師の「日雇い派遣」を例外的に認めるべきか―。
こうした議論が11月5日に開催された社会保障審議会・医療部会で行われました。医療部会委員からは「労働者保護」や「医療安全」などを十分に考慮すべきとの慎重意見も出ており、今後、労働政策審議会で議論が行われます。
なお、医療部会では、このほかにも「新型コロナウイルス感染症などを踏まえた医療提供体制の再構築」「医師の働き方改革」「外来医療機能の明確化・連携の強化」なども議題となっており、これらは別稿で報じます。
へき地への「看護師や薬剤師等の派遣」を認めるべきか
医療関連業務については、原則として「労働者派遣」は禁止されています。紹介予定派遣を除いて「事前の面接」「履歴書等による確認」などは行えない(労働者派遣法で禁止されている)ことから、医療機関側が派遣されてくる医療従事者を特定できず(どのような人が派遣されてくるかが分からない)、結果「チーム医療に対する支障が生じる」などの懸念があるためです。
ただし、へき地においては、医師不足が深刻なことから、例外的に「医師の派遣」が認められています(2006年から)。
この点、地方自治体からは「医師だけでなく他の医療職種についても、へき地への派遣を認めてほしい」との強い要望があります。医師だけでは適切な医療提供が困難なためです。そこで厚生労働省は、▼看護師▼准看護師▼薬剤師▼臨床検査技師▼診療放射線技師―についても例外的に「派遣」を認める方向を検討してはどうかとの考えを提示しています。
もっとも「チーム医療への支障」が生じないように、▼派遣を可能とする「へき地」の範囲を限定する(離島などに限定)▼へき地の広範な医療ニーズに対応できるよう、事前の研修(へき地の医療機関において業務を円滑に行うために必要な研修)を必須とする▼派遣を受け入れる医療機関において「へき地で円滑な業務が可能となるような教育訓練」を行う—という枠組みを設けることが条件です。「へき地への医師派遣」と同じ枠組みです。
厚労省は、「今後、労働政策審議会で議論を行い、年内に結論を得たい」との考えを示しており、自治体代表として参画する遠藤直幸委員(全国町村会、山形県山辺町長)は「へき地では医療従事者不足が深刻である」と訴え、看護師等のへき地派遣解禁を強く求めました。
しかし、医療部会では慎重な検討を求める意見も出ています。佐保昌一委員(日本労働組合総連合会総合政策推進局長)は「労働者保護の関係から賛成しがたい」とした上で、へき地の医療確保に必要なためにやむを得ずに実施する場合でも▼都道府県が関与するなどし、労働者の保護に努める▼地域等の限定を厳格に行い、安易に拡大しない▼「派遣による人材確保」が常態化しないように努める―ことなどを強く求めています。
また井伊久美子委員(日本看護協会副会長、香川県立保健医療大学学長)は、反対姿勢こそ見せていませんが、▼労働者が派遣に偏らないように努める▼派遣の実態を把握する▼都道府県のナースセンターとの連携を行う—などの対策をとるよう要請しています。
一方、安部好弘委員(日本薬剤師会副会長)は、へき地における医療提供体制確保のために重要であることから「賛成」の意を明確に示したうえで、「安全な医療提供に支障が生じないような仕組みの構築」「根本的に地域の薬剤師不足・偏在を解消する方策の検討」を求めています。
福祉・介護施設における「看護師の日雇い派遣」を認めるべきか
また厚労省は、福祉施設・介護施設において「看護師の日雇い派遣」を可能とする方向についても検討を行っています。
日雇い派遣は、▼必要な雇用管理がなされない▼派遣労働者の保護に欠ける―などの問題があり、原則「禁止」されています(例外的にソフトウェア開発や添乗、書籍編集、通訳などで可能)。
この点、▼福祉・介護施設では「緊密な連携が必要な高度なチーム医療」は一般的に行われない(入所者の日常的な健康管理業務が中心)ため、看護師の派遣が認められている▼離職中の看護師の中には多様化するライフスタイル等に合わせて日雇派遣で働くことを求める声がある—ことなどを踏まえて「福祉施設・介護施設における看護師の日雇い派遣」を可能とすべきかどうかが検討されています。
佐保委員・井伊委員は、このテーマについて「さらに慎重に検討すべき」と強く要請しています。とりわけ井伊委員は、「福祉・介護施設でも点滴や注射などの医療行為が頻発することから、医療安全の確保が非常に重要だが、日雇い派遣では『申し送り』も十分に行えない」「看護師の多くが日雇い派遣に対し医療安全が課題であると考えている」「日雇い派遣のニーズはそれほど多くない」ことなどを指摘しています。
このテーマについても労働政策審議会で議論されますが、こうした慎重意見をどう考えるのか注目されます。
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