かかりつけ医持たない人の多くが「かかりつけ医情報の不足」感じる、自治体・医師会のPRが重要な鍵—日医総研
2022.6.9.(木)
新型コロナウイルス感染症で、患者の医療機関受診行動は適正化しているが、収束後には8割の人が「元に戻る」と考えている—。
患者・国民が「かかりつけ医」に期待する役割は、非常にバラエティに富んでいる—。
「かかりつけ医がいないが、持ちたいと思っている」人の多くが「かかりつけ医に関する情報の不足」を感じており、例えば「得意な診療科」「連携先医療機関」「診療実績」などの情報を自治体や地域医師会のパンフレット・ホームページなどで提供することを希望している—。
日本医師会総合政策研究機構(日医総研)が6月8日に公表したワーキングペーパー「日本の医療に関する意識調査 2022年臨時中間調査」から、こうした状況が浮かび上がってきました(日医総研のサイトはこちら)。
目次
コロナ収束後、8割の人が「受療行動は元に戻る」と回答
この調査では、全国の20歳以上の男女1152名を対象に▼新型コロナウイルス感染症によって国民の意識(生活全般)がどう変化したか、医療機関受診に関する考え方がどう変化したか▼「かかりつけ医」についてどう考えているか—を、面接員が個別面接形式で聞き取っています。
まずコロナ感染症によって医療機関への受診がどう変化したのかを見ると、次のような状況が分かりました。1-2割程度、「医療機関受診が難しくなった」ケースがあるようです。
▽コロナ禍で、緊急性の低い手術・処置が延期になった人は16.7%ですが、「健康状態が良くない」人(13名)に限定すれば38.5%と高くなる
▽コロナ禍で、以前からかかっていた医療機関の外来受診・入院診療を受けづらくなった人は17.2%(ある6.2%+少しある11.5%)ですが、「健康状態が良くない」人(77名)に限定すると22.1%(ある9.1%+少しある13.0%)と高くなる
また、コロナ禍では「『医療機関の直接受診はコロナ感染リスクがあるので控えたいが、最低限の医療を受けたい』という国民の希望がある」との規制改革推進会議の要望を踏まえて、オンライン診療・電話診療が臨時特例的に大幅緩和(初診患者に対する電話診療まで認めらている)されています(関連記事はこちら)。
従前よりもオンライン診療等のハードルが下がったことを受け、オンライン診療による医療機関受診を経験した人も相当数おられます。
この点に関連して、「今後も必要に応じてオンライン診療を受けたいか」を聞くと、次のような状況が明らかになりました。年代によってICT機器への馴染みや、疾患罹患状況が異なるため、「オンライン診療」への受け止め方も異なることを確認できます(若者では持病が少なく、高齢になるほど様々な疾患を抱える人が増える)。
▽全体では、「受けたい」が31.8%、「受けたくない」が44.4%、「わからない」が23.8%
▽年齢階級別に見ると、20-50歳代では「受けたい」が40%台(30歳代では47.6%とほぼ半数)だが、60歳以上では過半数が「受けたくない」と考えている
上述のように、コロナ禍では患者の受療行動が大きく変化したことが分かっています。例えば外来では「軽微な症状で医療機関を受診することは控えよう」という受療行動の適正化が生じています(このほかにも公衆衛生面の向上による感染症の減少などにより、外来患者が大幅に減少している、関連記事はこちら)。
こうした行動変容がコロナ感染症収束後にも継続するのか、あるいは元に戻ってしまうのかが気になります。この点、「変わると思う」(受療行動を適正化する)と答えた人は全体では11.6%(20-44歳では13.4%、45-64歳では12.4%、65歳以上では9.7%)にとどまり、8-9割の人が「変わらないと思う」(元に戻る)と答えています。
残念とも思える調査結果ですが、中には「コロナ禍では必要な受診を控えており、それが元に戻る」と考えている人などもいると思われ、今後、実際の受療行動を詳しく調査していくことが必要でしょう。
かかりつけ医に期待する役割などは、患者・国民によってさまざま
次に「かかりつけ医」に関する意識を見てみましょう。
まず、「かかりつけ医がいる」と答えている人は、全体では55.7%で、年齢が上がるにつれて多くなっていくことわかります。過去の調査と比べて「大きく増加している」状況にはありません。
次に、「かかりつけ医は、どの医療機関の医師か」を見ると、年齢にかかわらず「診療所の医師」と考える人が8-9割を占めますが、1割弱が「大病院の医師」と回答しています。
では、「なぜ、その医師をかかりつけ医としているのか」という理由に目を移すと、▼身近で何でも相談できる▼住まいや職場の近所—といった声が5割超となっていますが、ほかにも▼現在・以前の病気の主治医である▼必要なときに専門医等を紹介してくれる▼自分・家族の病歴などをよく知っている▼総合的な診療能力をもっている▼最新の医療情報を熟知している—と、非常に幅広い意見があることが分かりました。
例えば「自分・家族の病歴などをよく知っている」という理由でかかりつけ医を選択する人は、「自宅の近所で長年にわたって地域医療を支えている診療所や中小病院の医師」がかかりつけ医というイメージであると推察されます。
一方、「最新の医療情報を熟知している」「現在・以前の病気の主治医である」という理由でかかりつけ医を選択する人は、「規模の大きな病院の医師」をかかりつけ医と考えていることが伺えます。
かかりつけ医のイメージは、人によって大きく異なることが再確認できるデータと言えるでしょう。
また「かかりつけ医に期待する役割・機能」についても、▼どのような病気でもまずは診療できる▼専門医等への紹介をしてくれる▼健康管理のための助言や指導等を行ってくれる▼患者に寄り添う、親身な対応をしてくれる▼健診・検診・ワクチン接種などを行ってくれる▼これまでの病歴・処方を把握してくれている▼夜間・休日の問い合わせに対応してくれる▼感染症などに対応してくれる▼複数医師で連携してくれている▼在宅医療を行ってくれる▼介護サービスにつないでくれる—など、多様な要望を患者・国民サイドが持っていることが確認できました。
「かかりつけ医がいないが、欲しい人」は「かかりつけ医の情報不足」を訴える
では、こうした「かかりつけ医」に関する情報が足りているか、いないのかを見ると、「かかりつけ医がいる」と答えた人では足りているが80.4%(足りている29.3%+まあ足りている51.1%)に上りますが、「かかりつけ医がいない人」(いると良いなと思っている人も含む)では6―7割が「足りない」と感じていることが分かりました。
「かかりつけ医」に関する情報にたどり着けないために、「かかりつけ医を持っていない」人も一定程度いると考えられます(「かかりつけ医はいないが、いると良いな」と思っている人がその典型)。
さらに、かかりつけ医について「どういった情報を、どこから得られればよいか」を見ると、次のような状況が浮かび上がってきます。
【どこから情報を得られると良いか】
▽自治体の広報誌やパンフレットなど:50.5%
▽自治体のホームページ:42.2%(「かかりつけ医がいない」人で要望が多い)
▽地域医師会のパンフレットなど:28.3%(「かかりつけ医がいない」人で要望が多い)
▽地域医師会のホームページ:25.9%(「かかりつけ医がいない」人で要望が多い)
▽講演会など:14.0%
【どのような情報があると良いか】
▽得意分野:91.7%が希望
▽連携先病院・クリニック:同90.7%
▽かかりつけ医としての診療実績:同85.4%
▽患者・利用者からの評価:同83.5%
▽かかりつけ医としてのキャリアや教育:同81.4%
▽夜間・休日対応:同79.1%
▽在宅医療の実施状況:同72.0%
自治体(都道府県や市町村)や地域医師会が広報誌やパンフレット、ホームページなどで上記の情報を充実させることが、「かかりつけ医」普及に向けた第一歩になりそうです。日医総研では「稼働している全国都道府県での医療機能情報提供制度のサイトの充実・活用や、地域での情報提供・普及活動などを通じて、情報発信を積極的に推進することが喫緊の課題である」と訴えています。
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