コロナ補助なくとも病院を安定運営できる診療報酬が本来の姿、「補助金による黒字で危機をしのげ」との考えは大きな問題—日病・相澤会長
2023.5.31.(水)
昨今の物価・人件費高騰について「病院は新型コロナウイルス感染症対策の補助金で潤っており、自らの資産でしのぐべき」との考えがある。本来の「補助金がなくとも黒字経営が可能」な仕組み(診療報酬など)を考慮せず、「一時的に黒字なので、それで危機をしのげ」とされることは問題である—。
地域医療構想では、本来は「入院」だけでなく、外来や在宅も含めて「地域で、個々の病院等がどのような役割を担い、どのように地域貢献していくか」を考えるべきものである。様々な機能を持ち、様々な役割を果たす病院が加盟する日本病院会こそが、そうした点について責任ある提言を行っていく—。
日本病院会の相澤孝夫会長は、5月30日の定例記者会見でこのような考えを述べました。
入院・外来・在宅なども含め「地域で医療機関はどのような役割を果たすか」を考えよ
Gem Medでも報じているとおり、財政制度等審議会が5月29日に建議「歴史的転機における財政」をとりまとめ、鈴木俊一財務大臣に提出。そこでは、▼2024年度の診療報酬・介護報酬同時改定において、改定率の引き上げは、必要性を慎重に議論すべき▼賃金・物価高騰への対応が要請されているが、「コロナ補助金などで増加した医療機関の純資産等で対応すべき▼診療所の新規開業について「一歩踏み込んだ規制」を検討すべき—などの提言を行っています。
このうち賃金・物価高騰への対応について相澤会長は、「コロナ関連の補助金で病院経営が一時的に改善している点を踏まえ『1年程度は、病院資産でつなげよ(持ちこたえられよ)』と考えているのではないか」と分析。
ただし、「病院経営はコロナ関連補助金で『やっと黒字』になっているが、本来は補助金がなくとも安定期な黒字が確保されるべきである。その点を考慮する議論はまったくなされていない。『一時的にしのげ』という話とは別に、『日本の病院の在り方をどう考えていくのか』をしっかり議論していかなければならない。『一時的な黒字だけを取り上げ、病院経営は問題なし』とされることは問題である」と強く訴えています。
また、2024年度の同時改定をはじめ、診療報酬について「公定価格、公的価格として適正な方向に進んでいるのかを考える時期に来ている。入院基本料についても『機能の応じた報酬』『実績(例えば重症患者の受け入れ)に応じた報酬』などを考える必要があり、今、日本の医療は大きな曲がり角に来ていると感じている。国、医療機関、医療者が一致協力して、診療報酬も含めた医療の在り方を真剣に考えるべきだ」との考えを示しています。
従前より、「日本の医療の在り方に関するグランドデザインを描き、そこから個別の制度設計論議を行うべき」と相澤会長は訴えており、上記のコメントも、この訴え・考えに沿うものと言えるでしょう。
ところで、日本病院会では5月27日に社員総会を開き、新執行部体制がスタートしています。
この点に関連して、「地域医療構想とは何かを改めて考える必要がある。現在の地域医療構想は『入院』のみを射程としているが、外来や在宅、場合によっては予防や検診・健診も含め、どのように医療機関が役割分担をして地域医療を守るかが地域『医療』構想であるはずだ。その際、我が国の人口はどんどん減少していき、人口密度の低い地域では極めて大変な状況になる。病院は、地域でどのように医療提供を継続し、どのように地域貢献をしていくべきか。これは現在の延長線上ではなく、従前と異なる形態が求められているのではないか。そうした方向を新たな任期(2年間)の中で考えていきたい。その際には、医療界のみならず、国民や地方自治体、国も交えて真剣に議論していかなければならない」と強調しています。
あわせて、「日本病院会には私的病院、公立・公的病院、大学病院などさまざまな設立母体の病院が加盟しているが、その垣根を超えて議論・活動を行っている。地域・病院ごとに求められる役割は変わってくるが、まずは『基本的な考え方』をしっかり固め、そのうえで『地域の事情』を考慮すべきではないか。はじめから『地域ごとに状況は異なる』と下のでは議論にならない。2030年から40年にかけて、地域の医療ニーズが大きく変化していくと予想されており、これまでの延長線では立ち行かなくなる。さまざまな病院が加盟する日本病院会にそこ、日本の医療がどのような方向に向かうかを議論し、提言していく責務があると考えている」ともコメントしています。
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