2024年度の診療報酬・介護報酬でのプラス改定は「慎重」に、物価高騰への対応は医療機関の純資産増で対応すべき—財政審
2023.5.30.(火)
2024年度の診療報酬・介護報酬同時改定において、改定率の引き上げは、医療機関・介護施設の財務状況も見ながら、その必要性を慎重に議論すべき—。
賃金・物価高騰への対応が要請されているが、「コロナ補助金などで増加した医療機関の純資産(病院の財務状況を見ると「2020年度から21年度には事業費用の5%相当の規模で増加している」)等で対応すべき—。
診療所の新規開業について「一歩踏み込んだ規制」を検討すべき—。
財政制度等審議会が5月29日、こうした内容を盛り込んだ建議「歴史的転機における財政」をとりまとめ、鈴木俊一財務大臣に提出しました(財務省のサイトはこちらとこちら(概要)とこちら(参考資料1)とこちら(参考資料2)とこちら(参考資料3))。
医師の偏在解消に向け、「診療所の新規開設に対する一歩踏み込んだ規制」を要請
我が国の公的医療保険制度(健康保険)、公的介護保険制度では、財源の25%が国費となっています(ほか加入者の保険料、自治体負担、患者・利用者負担)。
▼医療技術の高度化(脊髄性筋萎縮症の治療薬「ゾルゲンスマ点滴静注」(1億6707万円)、白血病等治療薬「キムリア」(3350万円)の保険適用など)▼少子・高齢化の進展(2025年度には全員が75歳以上に到達し、2025年度から2040年度にかけて高齢者の増加ペース自体は鈍化するが、現役世代人口が急速に減少していく)—などにより、医療費・介護費は増加していきます。
医療費・介護費の増加に伴い、当然、その25%に相当する国費支出も増加を続けることから、「国家財政を圧迫する、国家財政を厳しくする」と指摘されます。そこで財政審では「国家財政を健全化させる(端的に「入りを増やし、出を抑える」)ために、医療費・介護費の伸びを我々国民の負担できる水準に抑える」方策の検討を独自に進め、建議として提言を行っています。
今般の建議でも社会保障改革に関して、例えば次のような意見・提言を行っています。
【医療・介護双方について】
(1)2024年度の診療報酬・介護報酬同時改定において、改定率の引き上げは、医療機関・介護施設の財務状況も見ながら、その必要性を慎重に議論すべき
【主に医療について】
(2)新型コロナウイルス特例(診療報酬、病床確保料、ワクチン接種支援など)について、予定されている経過措置を経た後に、早急に解消すべき。あわせてこれまでの支援(国費ベースでは21兆円)について、確実な正常化(廃止)を図るとともに、十分な効果検証を行うべき
(3)賃金・物価高騰への対応については、「コロナ補助金などで増加した医療機関の純資産(病院の財務状況を見ると「2020年度から21年度には事業費用の5%相当の規模で増加している」)等で対応すべき
(4)「医療法人の経営状況に関する詳細な情報のデータベース」において、「職種別の給与・人数」は任意提出でなく、必須提出項目とすべき(関連記事はこちら)
(5)病院の役割分担(地域医療構想)、診療所などのかかりつけ医機能の確保・強化、地域包括ケア(医療介護連携)を併せて進めるべき
▽地域医療構想の実現に向け、知事の権限(不足機能提供に向けた指示・要請など)について、一歩踏み込んだ法制的対応を行うべき
▽公立病院について、地域医療構想の実現に向け、他病院との連携・再編を進めるべき。また経営改善は「収入増」を目指すのではなく(これでは医療費が増加してしまう)、費用面からの具体的な取り組み(例えば薬剤・医療材料などの共同購入、委託業務の効率化、人件費の良く英など)から進めるべき
(6)「大都市において医師・診療所が過剰であり、地方では過少である」という偏在を解消するため、例えば神慮所の新規開設について諸外国例を参考にした一歩踏み込んだ規制(例えば、診療科別・地域別の保険医定員制など)を検討すべき
(7)看護配置に過度に依存した診療報酬体系から、患者の重症度・救急患者受け入れ・手術といった「実績」をより反映した診療報酬体系へ転換していくべき
(8)高額な医薬品について「費用対効果を見て保険適用するか否かの判断を行う」「有用性が低いものは自己負担を増やす、あるいは一定額までは自己負担とする」などの対応を早急に行うべき
(9)医療DXに関連し、例えば「患者の処方情報などを踏まえ、少ない処方薬数を高く評価する」仕組みなどの検討を行うべき
(10)ほか「リフィル処方箋の周知・広報の強化、積極的な取り組みを行う保険者へのインセンティブ付与、薬剤師がリフィル処方箋への切り替えを医師に提案することの評価」などを行うべき。リフィル処方箋による医療費適正化効果が未達成でれば、診療報酬でその分を差し引くべき(2022年度改定では「医療費が470億円(国費ベースではその4分の1)、0.1%圧縮される」と見込んだが、現実には「50億円、0.01%の圧縮」にとどまっているようだ)
【主に介護について】
(11)介護ニーズが高まるが、労働人口に限りがある中では、ICT機器の活用を通じた「業務負担軽減」「データに基づくサービスの質向上」「介護施設や通所介護事業所などにおける人員配置の効率化」を行うべき
(12)介護事業者全体について、保有資産を含めた財務状況の見える化、経営状況の定量的分析を行うべき
(13)介護事業所・施設について経営の協働化・大規模化を推進するべきである(社会福祉法人などの経営基盤強化、職員の処遇改善にもつながる)
(14)「給付と負担の見直し」を図るべき(関連記事はこちら)
▽利用者負担について「原則2割」化などを検討すべき
▽1号保険料(65歳以上)について「負担能力に応じた負担」の考え方に沿った見直しを行うべき
▽老人保健施設や介護医療院などでも、特別養護老人ホームと同様に「多床室の室料負担」を利用者に求めるべき
▽第10期介護保険事業計画(2027-29年度)に向け「要介護1・2者への訪問介護・通所介護の地域支援事業への移行」を目指すべき
▽第10期介護保険事業計画(2027-29年度)から、「ケアマネジメントへの利用者負担」を導入すべき
▽老健施設について、利用実態を踏まえた「特養ホームへの移行」「特養ホームに近い形の人員配置・報酬体系」を検討すべき
▽介護人材紹介会社について「一般の人材紹介よりも厳しい規制」を行うとともに、ハローワークや都道府県などを介した「公的人材紹介」を強化すべき
▽サービス付き高齢者向け住宅では、給付の適正化を図るべき
(15)要介護度の維持・改善などの「アウトカム」を重視した介護報酬体系へ移行すべき
「頷ける提言内容」もあれば、「練り切れていない、思い付きにとどまっている提言内容」もあります。今後、建議を受けてどういった検討・議論に発展するのか注目する必要があります。
なお、注目される少子化対策の財源については、「これから生まれる子供たち世代に先送りすることは本末転倒である」「全世代型社会保障の考え方に立ち、医療・介護などの社会保障の歳出改革を断行し、企業を含めた社会・経済の参加者全体が公平に支えあう」ことが必要との考えを示しています。財政健全化のためには「別途の少子化財源」捻出などは許されず、「医療費・介護費の縮減で対応せよ」との考えが明確に示されていると言えるでしょう(関連記事はこちら)。
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