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脳血管障害等の入院医療費縮減には1日単価圧縮を、糖尿病等の院外医療費縮減には生活習慣改善による受診率減を—健保連

2023.6.13.(火)

2021年度における生活習慣病の医療費を分析すると、医科入院・入院外ともに「疾患ごとの特性」を踏まえた医療費適正化対策が重要であることを確認できる—。

例えば、脳血管障害の入院医療費圧縮には「入院期間短縮」や「単価減」を進める必要あり、糖尿病の外来医療費圧縮には「生活習慣改善などの予防策」+「後発品使用等による単価減」を進める必要がある—。

健康保険組合連合会が6月9日に公表した2021年度の「生活習慣関連疾患医療費に関する調査」から、こういった状況が明らかになりました(健保連のサイトはこちら)。

なお2020年度分析より、従前(2019年度の状況に関する記事は こちら、2018年度の状況に関する記事は こちら、2017年度の状況に関する記事はこちら、2016年度に関する記事はこちら)と分析の手法・視点が大きく異なっており、「過去データと比較して、●●疾病の受診率や医療費が増えているのか、減っているのか」などを見ることが困難な状況です。

脳血管障害の入院医療費圧縮には、入院期間短縮や単価減を進める必要あり

主に大企業の会社員とその家族が加入する健康保険組合(健保組合)の連合組織である健康保険組合連合会(健保連)では、加入者のレセプトなどをさまざまな角度から分析して各種提言を行うなど、かねてからデータヘルスに積極的に取り組んでいます。

「医療費が膨張し、健保組合をはじめとする保険者の財政、さらに我が国の財政を圧迫している」状況下では、「医療費の水準を国民が賄える水準に抑えていく」ことが極めて重要です(医療費適正化)。その一環として「加入者が自分自身で生活習慣や医療機関受診行動を変容させる」ことも極めて重要であり、保険者(健保組合等)が加入者の行動変容に向けて「データに基づいた支援」を行っているのです。

今般、健保連は、1308組合におけるレセプト(2億5758万8904件)を対象に、2021年度の生活習慣病(▼糖尿病▼脳血管障害▼虚血性心疾患▼動脈閉塞▼高血圧症▼高尿酸血症▼高脂血症▼肝機能障害▼高血圧性腎臓障害▼人工透析―の10疾患)医療費について分析を行いました。

まず2021年度における健保組合加入者の医科・調剤医療費を見ると約3兆7577億円で、前年度から18.8%の大幅増となりました。もちろん「コロナ感染症で2022年度医療費が大幅に減少(マイナス13.2%)した」ことの反動もありますが、2019年度に比べて「3.2%の増加」となっています。

このうち医科入院医療費は約8671億円(前年度から11.4%増)で、うち生活習慣病10疾患分は約524億円・6.0%(前年度から0.3ポイント低下)を占めています。

この「医科入院における生活習慣病10疾患医療費」(約524億円)を100として、疾患別の構成を見ると(1)脳血管障害:39.8%(前年度から0.8ポイント増)(2)虚血性心疾患:27.3%(同0.5ポイント増)(3)糖尿病:12.0%(同0.5ポイント減)(4)人工透析:9.4%(同0.1ポイント減)(5)高血圧症:8.3%(同0.6ポイント減)—などが多くなっています。「脳血管障害のシェアが増加している」ことなどが気になります。

入院の「生活習慣病医療費」シェア(健保連、2021年度生活習慣病医療費分析1 230609)



ところで「医療費を適正化する(縮減する)」という視点に立って分析を行う際には、▼「患者を減らす」(例えば、生活習慣を改善して病気にかからないようにしたり、不要な医療機関受診を控えるなど)ことを目指すのか▼「1人当たり医療費を少なくする」(例えば、検診等によって病気を早期発見し、早期治療に結びつけたり、不要な検査や医薬品投与を是正したりするなど)ことを目指すのか—と分けて考えることが有用です。

本稿では、後者の「1人当たり医療費」を詳しく見てみましょう。

医療費統計において「1人当たり医療費」は「医療費÷加入者数」(加入者1人当たり医療費)で計算することが多く、トップ5は(1)脳血管障害:766円(前年度から2円増)(2)虚血性心疾患:527円(同2円増)(3)糖尿病:232円(同13円減)(4)人工透析:182円(同4円減)(5)高血圧症:161円(同13円減)—となりました。5疾患の顔ぶれは前年度から変わっていません。

次に、これら「加入者1人当たり医療費」を、▼受診率(1000人当たり件数)▼1件当たり日数▼1日当たり医療費—の3要素に分解してみましょう。1人当たり医療費の高さが何に起因するのか(医療機関を受診する回数が多いからなのか(受診率)、治療期間が長いからなのか(1件当たり日数)、1日当たりの医療資源投入量が多いからなのか(1日当たり医療費))を探り、対策を立てやすくするためです。2021年度における「加入者1人当たり入院医療費」の高い疾患では、次のような背景が分かりました。こちらも前年度と同様の傾向です。

(1)脳血管障害:「1件当たり日数」で最も長く(17.8日、前年度から0.2日増)、「1日当たり医療費」が3番目に高い(2万6528円、前年度から349円増)

(2)虚血性心疾患:「1日当たり医療費」が2番目に高い(3万1491円、全ねどから27円減)

(3)糖尿病:「受診率」が2番目に高い(5.3、前年度から変化なし)

(4)人工透析:「1日当たり医療費」が最も高い(3万3285円、前年度から588円増)

(5)高血圧症:「受診率」が最も高い(6.4、前年度から変化なし)

ここから、脳血管障害・虚血性心疾患・人工透析については「1日当たり医療費」の縮減ができないか(例えば後発医薬品への置き換えなど)、糖尿病・高血圧症では「受診率」を低減できないか(端的に患者を減らすための予防策を充実するなど)が、最優先の検討課題であることを再確認できます。

入院の「加入者1人当たり医療費」等(健保連、2021年度生活習慣病医療費分析2 230609)



なお、2020年度→21年度のデータを比較すると「多くの生活習慣病で受診率が下がっている」ことが分かりますが、これが「実際の患者減」を意味するのか、「コロナ感染症による受診減」にとどまるのかは明確ではありません。今後もデータを中長期的に見ていく必要があります。

入院の「加入者1人当たり医療費」等伸び率(健保連、2021年度生活習慣病医療費分析3 230609)



ところで「加入者1人当たり医療費」は、医療費÷加入者で計算する際の分母に「受診していない者」(健康な人など)を含めてしまっています。そこで、「実際に当該疾病で医療機関に入院した人」にどれほどの医療費がかかっているのかを表す「受診者1人当たり医療費」を見ると、トップ5は次のようになっています(上位3疾患でとりわけ高い)。
(1)人工透析:597万2496円(前年度から2.4%増)
(2)脳⾎管障害:588万1451円(同2.2%増)
(3)虚⾎性⼼疾患:368万8924円(同2.9%減)
(4)動脈閉塞:108万6946円(同0.2%増)
(5)高血圧性腎臓障害:64万1267円(同18.7%減)

入院の「受診者1人当たり医療費」(健保連、2021年度生活習慣病医療費分析4 230609)

糖尿病外来医療費圧縮には、「生活習慣改善などの予防策」+「後発品使用等による単価減」を

次に、医科入院外の状況を見てみましょう。医科入院外医療費は約2兆7270億円(前年度から20.1%増)で、うち生活習慣病10疾患分は約4042億円・14.8%(前年度から0.9ポイント減)を占めています。

この「医科入院外における生活習慣病10疾患医療費」(約4042億円)を100として、疾患別の構成を見ると、(1)糖尿病:34.2%(前年度から1.1ポイント増)(2)高血圧症:23.9%(同0.8ポイント減)(3)高脂血症:18.0%(同0.2ポイント減)(4)人工透析:15.8%(同0.8ポイント減)(5)高尿酸血症:3.2%(同0.1ポイント増)—などが多くなっています。糖尿病患者の比率が大きく増している点が気になります。

入院外の「生活習慣病医療費」シェア(健保連、2021年度生活習慣病医療費分析5 230609)



「加入者1人当たり入院医療費」に目を向けると、トップ5は(1)糖尿病:5086円(前年度から390円増)(2)高血圧症:3556円(同54円増)(3)高脂血症:2677円(同155円増)(4)人工透析:2344円(同10円減)(5)高尿酸血症:482円(同47円増)—となりました。

これら「加入者1人当たり医療費」を、▼受診率(1000人当たり件数)▼1件当たり日数▼1日当たり医療費—の3要素に分解すると、次のような背景が分かります。

(1)糖尿病:「1日当たり医療費」が2番目に高く(8081円、前年度から11円減)、「受診率」が3番目に高い(492.9、前年度から40.2増)

(2)高血圧症:「受診率」が最も高く(683.3、前年度から31.3増)、「1日当たり医療費」が4番目に高い(4407円、前年度から218円減)

(3)高脂血症:「受診率」が2番目に高い(678.9、前年度から56.8増)

(4)人工透析:「1日当たり医療費」(3万84円、前年度から18円増)、「1件当たり日数」(12.6日、前年度から増減なし)がいずれも飛びぬけて最も高い

(5)高尿酸血症:「受診率」が4番目に高い(167.8、前年度から13.7増)

ここから、高血圧症・高脂血症については「受診率」を下げること、つまり「患者を減らすための予防策」(=生活習慣の改善)をより強力に進めることの重要性を再確認できます。

また人工透析については、後発品の使用等による「単価(=1日当たり医療費)の圧縮」などが極めて重要となります。

さらに糖尿病については、両者の取り組み(生活習慣改善による受診者減、医療費単価の圧縮)を同時に進めていくことが重要です。

入院外の「加入者1人当たり医療費」等(健保連、2021年度生活習慣病医療費分析6 230609)



なお、2020年度→21年度のデータを比較すると「受診率は上がっている」「1件当たり日数の短縮が進んでいる」ことなどが分かります。コロナ禍で、例えば「受診間隔の延伸により1件当たり日数を減らす」ことが現場で行われたものと思われます。今後も、データを中長期的に見ていく必要があります。

入院外の「加入者1人当たり医療費」等伸び率(健保連、2021年度生活習慣病医療費分析7 230609)



さらに、実際に当該疾病で医療機関を受診入院した人にどれほどの医療費がかかっているのかを表す「受診者1人当たり医療費」を見ると、トップ5は次のようになっています。
(1)人工透析:456万3123円(前年度から0.1%減)
(2)糖尿病:12万7718円(同0.5%減)
(3)脳⾎管障害:10万816円(同0.8%増)
(4)高血圧症:6万3297円(同4.9%減)
(5)高脂血症:4万7830円(同2.7%減)

入院外の「受診者1人当たり医療費」(健保連、2021年度生活習慣病医療費分析8 230609)



人工透析については、例えば2018年度・20年度・22年度の診療報酬改定で「適正化」(例えば合併症治療薬の後続品登場を踏まえた点数の引き下げなど)が行われていますが、その効果も中長期のデータを眺めながら分析する必要がありそうです。



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