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地域単位で「疾患別の推奨医薬品リスト」(フォーミュラリ)を作成・運用し、地域単位での医療の標準化進めよ—厚労省

2023.7.11.(火)

地域単位で「疾患別の推奨医薬品リスト」(フォーミュラリ)を作成・運用することで、地域医療の標準化が進み、医療費適正化の効果も期待できる。フォーミュラリの作成・運用手順の考え方を示すので、これを地域で活用してほしい—。

厚生労働省は7月7日に通知「フォーミュラリの運用について」を示し、こうした考えを明らかにしました。診療報酬改定でも重要論点の1つになっています(関連記事はこちら)。

フォーミュラリは「医薬品使用を制限する」ものではない

フォーミュラリとは、医療機関等が作成した「医学的妥当性や経済性などを踏まえた医薬品使用方針」のことです。「●●疾患には第1選択としてA医薬品(特定の銘柄や成分)を使用する、◆◆疾患には第1選択としてX医薬品(特定の銘柄や成分)を使用する」といったリストをつくるイメージです。採用医薬品を集約化することで「経営の質」が向上する(医薬品の購入コストを抑えることが可能)ことはもちろんですが、何よりも「医療の標準化が進み、医療の質が向上する」という大きな効果が期待されます。また、後発品を優先選択肢に据えることで「医療費の適正化」にもつながります。

2021年の「経済財政運営と改革の基本方針2021」(骨太方針2021)においても「フォーミュラリの活用」方針が示されており(内閣府のサイトはこちら)、また、2024年度からの第4期医療費適正化計画の基本方針においても、医療機関にフォーミュラリの運用に向けた考え方を示してく考え方が示されており、今般の通知を参考に「地域、医療機関でフォーミュラリの活用を進めていく」ことが求められています。

まず、フォーミュラリは「医療機関単位」での作成・運用はもとより、「地域単位」で作成・運用することで、「地域単位での医療内容の標準化・医療の質向上」という効果がより発揮されると期待されます。

このため、通知でも「地域フォーミュラリ」(地域の医師、薬剤師などの医療従事者とその関係団体の協働により、有効性、安全性に加えて、経済性なども含めて総合的な観点から最適であると判断された医薬品が収載されている【地域における医薬品集、およびその使用方針】)の作成・運用が推奨され、本稿でも「地域フォーミュラリ」を単にフォーミュラリと呼ぶこととします。

フォーミュラリでは、疾患領域等に応じて使用医薬品が示されますが、もちろん医学・薬学的な理由により「示されたもの以外の医薬品を使用する」ことも可能です。ともすれば「医薬品の使用(処方)を制限するものではないか」と疑問を持つ方もおられますが、そうした誤解を払拭する必要があります。

地域医療関係者で、学会ガイドラインや臨床実態など踏まえて「推奨医薬品リスト」作成を

次にフォーミュラリの作成手順を見ると、次のような大きな考え方が示されています。

【だれが作成するのか】
▽医療機関の医師・薬剤師、薬局の薬剤師、地域医療を担う関係者からなる組織を設置し、地域医師会・薬剤師会等の関係団体の協力を得ながら、「関係者の協働と合議」の下で契約関係などの利益相反の開示を含め「透明性を確保」し対応する

▽地域の医療事情をきめ細かく反映させ、かつ実効性を高めるためには、行政機関(例:地方公共団体の薬務主管課、医務主管課)や保険者(例:健康保険組合、地方公共団体の国民健康保険主管課、後期高齢者広域連合)などの関与も可能な限り検討する

先行してフォーミュラリを実施・検討している事例を見ると、▼地域の三師会(医師会、歯科医師会、薬剤師会)が連携して主導(大阪府八尾市、茨城県つくば市)▼地域の中核病院が主導し、地域の医師会・薬剤師会と連携して運用(宮城県仙台市宮城野区)▼地域医療連携推進法人による実施(山形県北庄内の日本海ヘルスケアネット)―などがあります。

上述のように「地域単位で医療内容の標準化・医療の質向上」を進めることが目的であり、多くの関係者の参加・納得・理解を得ることが極めて重要である点を忘れてはなりません。

【対象医薬品】
▽後発医薬品(バイオ後続品を含む、以下同)があることを含め「同種同効薬が多く存在する疾患領域の医薬品」
(例)
▼アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬などの降圧薬
▼α-グルコシダーゼ阻害薬などの糖尿病用薬
▼HMG-CoA還元酵素阻害剤などの高コレステロール血症治療薬
▼抗ヒスタミン薬などの抗アレルギー薬

【フォーミュラリに採用する医薬品(収載薬)の選定】
▽「有効性」「安全性」「経済性」の観点で検討する
▽薬効群ごとに、後述の手続きに基づいて選定した医薬品を列挙する
▽可能であれば「推奨される順位」を参考として示す

【収載薬の選定】
▽「医薬品の安定供給を含めた製造販売業者の体制」「医薬品の適正使用のために有効性・安全性の評価」「経済性の観点」を考慮し、▼医薬品の適応範囲(効能・効果、用法・用量)▼品質、有効性、安全性等に関するデータ▼製剤の特徴など—を参考にする
▽添付文書、インタビューフォームといった資料のほか、「先発医薬品の承認審査時の審査報告書」「製造販売後の副作用の発生状況」「製造販売後臨床試験・調査の状況」「医薬品リスク管理計画の実施状況」「学術論文」などのデータを積極的に収集・分析する

▽検討のポイント
▼経済性の観点から「後発医薬品を選定」することが考えられるが、必ずしも最も低い価格の医薬品を選定する必要はない
▼同種同効薬で適応の範囲が異なる場合、「広い範囲の適応を有する医薬品」を選定する
▼服薬アドヒアランスを考慮し、「1日あたり投与回数(服用回数)の少ない医薬品」の選定を検討する

▽最新の診療ガイドラインを参考とするが、複数の医薬品が同列で推奨されることも多いため、The Cochrane Libraryなどの医療情報データベースを利用し、システマティックレビューや海外ガイドラインを参考に更なる検討を行う(海外文献を参照する際には、我が国における医薬品の適応範囲の違いや保険医療制度の差異などに留意する)

▽選定された収載薬が「地域における実臨床で活用できるかどうか」を確認するため、地域における処方状況などを事前に把握し、地域の医師、歯科医師、薬剤師等の関係者の意見も丁寧に収集し、十分に協議した上で最終決定

【リスト化に当たって】
▽収載薬の表記は、原則として有効成分の一般的名称による(特定の銘柄を示す販売名は記載しない)
▽製剤の特性(例:バイオ後続品における注入器など)、製造販売業者としての品質確保、安定供給等の取組などの理由により「特定の銘柄の製剤を選定する必要がある」場合には、具体的な販売名を明記できる(この場合、選定の合理的な理由(製剤の特性、企業の対応等)を記しておく)

なお、すべての疾患領域でフォーミュラリを作成することが理想とも思えますが、そのためには選定・協議に膨大な時間とエネルギーが必要となり、途中で「協議などが途絶えてしまう」ことも考えられます。このため、「地域の医療事情等に応じて、まず作成・運用が可能な範囲から作成・運用する」(医薬品の選定・協議が整いやすい分野からスタートする)ことが現実的である点にも留意が必要です。

フォーミュラリは作成しておわりではなく、地域医療の場に導入し、実際に活用を

フォーミュラリは「作成する」にとどまらず、地域医療の現場に導入し、実際に運用することが重要です。この点について通知では次のような考え方を示しています。

▽作成されたフォーミュラリについては、地域の医療機関、薬局のほか、医師会、薬剤師会等の関係団体、行政等の関係機関に丁寧に周知し、必要に応じて説明会を行う(地域医療関係者の理解・納得が何よりも重要である)

▽フォーミュラリの導入により、医薬品の使用に制限が生じるものではない
→例えば、既に治療を始めている患者については、あえてフォーミュラリの収載薬に切り替える必要はなく、投薬中の医薬品を継続することで差し支えない

▽後述の利益相反に十分配慮し、作成や更新に関する情報、運用の状況などについて「定期的に公表」するとともに、重要な情報については適時適切に公表する

医学医療の進歩、薬価改定など踏まえて、フォーミュラリは定期的に更新を

また、医療・医学は日々進歩し「新たな優れた医薬品」「新たな診療ガイドライン」「新たな効能・効果」が登場します。また、時間の経過により先発品の特許が切れ「後発品が登場する」こともあります。さらに、薬価は毎年度変動します。このため、フォーミュラリも「定期的に更新する」ことが必要です。医学・医療の進歩による果実を地域住民に還元することが重要です。フォーミュラリの更新に当たっては、次のような点に留意する必要があります。

▽フォーミュラリは、作成した後も「最新の情報に基づき適時適切に更新」する必要がある
(例)
▼新医薬品の薬価収載(年4回)や後発医薬品の薬価収載(年2回)などの時期にあわせて定期的に更新する
▼診療ガイドラインの改訂など、作成している疾患領域の薬物療法に変化が生じた際に更新する

▽フォーミュラリ更新の際には、地域の医療機関や薬局等の意見を聴取してフォーミュラリの運用状況を把握し、改善点などについて検討を行い、その結果を活用することも必要となる

「特定者への利益誘導になっていないか」との疑問を持たれないように留意せよ

フォーミュラリは、前述のように「推奨される医薬品のリスト」という性格を持ちます。そのリスト作成や運用において、例えば「特定の製薬メーカーの意向」「特定の製薬メーカーから支援を受けている医師(大学教授)の意向」などが強く反映されれば、地域の医療関係者などの理解・納得を得ることが難しくなります。そこで、次のように「利益相反」(COI)に配慮することが非常に重要となります。

▽製薬企業等の外部の関係者からの経済的、その他の関連する利益提供により、特定の医薬品の優遇など、「医薬品の選定過程で必要な公正かつ適正な判断が損なわれる、または損なわれるのではないか」と第三者から懸念が表明されないようにする

▽作成主体(上述)はCOI対応を明確にし、フォーミュラリの作成・運営にあたり公正かつ適正な判断が損なわれないようにしなければならない

▽COIに関する対応は、手続等の透明性と信頼性を確保するため、日本医学会の COI管理ガイドラインや関連学会のガイドラインを参考に、COIに関する指針等を策定・公表し、これを遵守することが必須である

フォーミュラリにより医療の標準化が進んだか、悪影響は出ていないかなどの評価も重要

さらに、フォーミュラリを導入したことで「医療の標準化が進んだのか」「医療費適正化が進んだのか」「医療現場に悪影響が生じていないか」などの効果・影響を評価し、もし問題があれば速やかに改善していくことが求められます。また「フォーミュラリの拡大」もそこでは重要な検討要素の1つとなります。この点については次のような考え方が示されています。

▽フォーミュラリの導入によって薬物療法の質に与える効果や影響を定量的に評価することが望ましい
▽フォーミュラリを作成・更新する際には、「評価のための指標」「情報収集・分析のための計画」も合わせて設定する
▽フォーミュラリの導入による薬剤費適正化も重要な視点であり、医療経済的な分析により、具体的にどの程度の効果があったか評価する
→例えば、「後発医薬品の使用による適正化効果額の試算」などを実施する
→その際、地域の行政機関や保険者、大学・研究機関の協力が得て、地域保健の情報やレセプト情報等を利活用したより具体的な評価・分析を行う



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