今後の気候変動(温暖化)により「熱中症による救急搬送要請」が増加し、搬送困難事例が増大すると見込まれる—国立環境研究所
2024.5.31.(金)
今後の気候変動(温暖化)により「熱中症による救急搬送要請」が増加し、搬送困難事例が増大すると見込まれる。
救急搬送困難事案を回避するため、▼気候変動の原因となる温室効果ガス削減に向けた取り組み▼熱中症リスクを低減するための取り組み▼救急車の適正利用—などが重要になる—。
国立環境研究所(茨城県つくば市)が5月29日に、こうした研究結果を公表しました(国環研のサイトはこちら)。
救急搬送困難事案を回避するための取り組みが重要で、救急車適正利用もその1つ
読者諸氏の記憶にも新しいように、昨年(2023年)は世界的に観測史上最も「暑い年」となり、わが国もそうでした。今後も気候変動が進展すれば、さらに暑い年を迎えることになり、甚大な「熱中症被害」が生じることが懸念されます(本年(2024年)は、昨年(2023年)よりも暑くなると予想されている)。
そうした中で国環研では、「気候変動により、熱中症による救急車要請や搬送者数がどの程度増加するのか」、さらに「こうした救急車要請にどの程度対応できるのか」を明らかにする研究を実施。
具体的には、「東京都」を対象に、▼基準年(1985-2014年)▼21世紀半ば(2021-2050年)▼21世紀後半(2071-2100年)—の3期間(それぞれ50年間)について、「気温」・「熱中症による救急車要請数」・「要請に対応するための救急車稼働率」を推計しています。
▽50年間の気温
→各年の最も高い日の最高気温(日最高気温)を抽出し、そこから推計
▽救急車要請数
→救急車要請数は、暑さを示す気候指標(日最高気温など)との間に深い関係があることを踏まえた予測モデルを構築(7-17歳、18-64歳、65歳以上の3つの年齢層別)
→予測モデルに、推計された50年気温を代入して、各期間の救急車要請数を予測
▽救急者稼働率
→救急車要請数(予測)から、熱中症救急搬送のピーク時(14時)の救急車要請数を推定
→この救急車要請数に対応するための救急車の稼働率を評価(将来の人口変化を考慮したうえで「人口当たりの救急車の台数」は一定とした
こうした予測をもとに「熱中症による救急車稼働率」を推計すると、次のような結果が得られました。稼働率100%は「すべての救急車が稼働中である」ことを示し、100%超とは「救急搬送困難事案が発生する」ことを示します。
【基準年】(1985-2014年)
▽救急者稼働率は「50%」
【21世紀半ば】(2021-2050年)
▽SSP1-RCP2.6(後述)で「110%」の救急車稼働率
▽SSP5-RCP8.5(後述)で「200%」の救急者稼働率
【21世紀後半】(2071-2100年)
▽SSP1-RCP2.6で「135%」の救急車稼働率
▽SSP5-RCP8.5で「738%」の救急車稼働率
国環研では、「21世紀半ば、21世紀後半には、熱中症のみで救急車の稼働率が100%を超える救急搬送困難事案の発生が予測される」、「その傾向は気候変動が最も進む21世紀後半のSSP5-RCP8.5で顕著となる(738%」)」とコメント(基準年からの増加分の1-2割は将来的な人口変化によるもの)。
さらに、熱中症以外の理由での救急車要請も存在する(脳梗塞や心筋梗塞、交通事故など)ため「現状でも救急搬送困難事案が発生する可能性がある」、「将来は予測以上に救急搬送困難事案の発生可能性が高まる」と懸念し、「救急搬送困難事案を回避するため、▼気候変動の原因となる温室効果ガス削減に向けた取り組み(下記SSP、RCP参照)▼熱中症リスクを低減するための取り組み▼救急車の適正利用—などが重要になる」と提言しています。
ところで、SSP(共有社会経済経路シナリオ)とは「将来の社会経済発展の傾向を仮定したシナリオ」、RCP(代表的濃度経路シナリオ)とは「人間活動に伴う温室効果ガス等の大気中の濃度が将来どう変化するかを想定したシナリオ」で、IPCC第6次評価報告書では、次のように整理しています。「数字が大きいシナリオ」ほど、温室効果ガス濃度が高くなると予測しています(SSP1-RCP2.6<SSP2-RCP4.5<SSP5-RCP8.5)。
▼SSP1-RCP2.6
→持続可能な発展の下で、気温上昇を摂氏2度未満に抑える政策を導入し、21世紀広範に二酸化炭素(CO2)排出正味ゼロとする見込みのシナリオ
▼SSP5-RCP8.5
→化石燃料依存型の発展の下で、気候政策を導入しない二酸化炭素(CO2)最大排出量をっ見込むシナリオ
▼SSP2-RCP4.5
→中道的な発展の下で気候政策を導入するシナリオ(2030年までの各国の国別削減目標(NIDC)を集計した排出量上限にほぼ位置する)
国環研では「50年気温の推定値には不確実性が含まれる。この不確実性低減に向けて、今後、より多数の実験結果を用いて、より精度の高い50年気温を算定し、47都道府県を対象とした熱中症の救急搬送困難事案の評価を行う」考えも示しています。
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