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B・C指定に向け、医師労働時間短縮状況を「社労士と医師等」チームが書面・訪問で審査―医師働き方改革推進検討会

2019.11.7.(木)

年間1860時間までの時間外労働が例外的に認められる、いわゆるB・C水準医療機関の指定に向けて、医師の労働時間短縮に向けた取り組みが進んでいるかを、都道府県や医療機関から独立した「社会保険労務士と医師・看護師」のチームで書面審査・訪問審査を通じて分析し、評価を行うこととする―。

11月6日に開催された「医師の働き方改革の推進に関する検討会」(以下、今検討会)で、こうした方向が概ね了承されました。

ただし、構成員からは「具体的な評価イメージを示す必要がある」「有志の病院で評価のトライアルを行ってはどうか」「評価結果の公表方法は慎重に検討すべきである」などのさまざまな注文もついています。

11月6日に開催された、「第4回 医師の働き方改革の推進に関する検討会」

医師労働時間短縮の取り組み状況などを評価し、その結果をB・C指定に反映

2024年4月からすべての勤務医に新たな時間外労働の上限規制が適用されます。原則として「年間960時間以下」が上限となりますが【いわゆるA水準】、救急医療など地域医療に欠かせない医療機関【いわゆるB水準】や、研修医など集中的に多くの症例を経験する必要がある医師【いわゆるC水準】では、「年間1860時間以下」までに上限が緩和されます。



ただし、B・C水準を安易に認めたのでは医師の健康・生命が確保できないことから、厳格な要件を課し、それをクリアしていることなどを確認したうえで、都道府県が指定することになります(B・C水準に指定されなければ、勤務医に年間960時間を超える時間外労働を課すことは一切認められない)。具体的には、▼医療機能が定められた類型(2次、3次救急など)に該当する(B水準)▼指定対象プログラムである(C水準)▼36協定で「年960時間を超える時間外・休日労働に関する上限時間の定めをする」ことがやむを得ない業務が存在する(B水準)▼36協定において「年960時間を超える時間外・休日労働に関する上限時間の定め」をする(C水準)▼地域の医療提供体制との整合性が図られている(B水準)▼医師労働時間短縮計画を策定している▼評価機能による評価を受審している▼追加的健康確保措置の実施体制を整備している▼労働関係法令の重大かつ悪質な違反がない―という7項目を設定することが10月2日の前回会合で固められました(前回会合の記事はこちら(C水準)こちら(B水準))。

11月6日の会合では、このB・C水準指定要件のうち「評価機能」について議論を深めました。

評価機能による評価の大枠は、「中立公正な第三者組織である『評価機能』が、各医療機関の医師勤務時間短縮計画に基づいて、労働状況の実態や労働時間短縮に向けた取り組みを評価する」ものです。都道府県は、この評価結果も参考にして「B・C水準として指定すべきか」を審査していくことになります。

評価機能については、▼業務内容をどう考えるか▼どういった組織・体制とすべきか▼―などの論点があります。

書面・訪問審査で、医療機関の「労働時間短縮」状況を評価・分析

まず業務内容を見てみましょう。業務が固まらなければ、「組織・体制」を考えることはできません(業務の内容・量により、組織の性格や人員体制等が変わってくる)。

厚労省は、評価機能には大きく(1)各医療機関の分析評価(メインの業務)(2)評価者の育成―の2つの業務があることを説明しました。

メインとなる(1)「分析評価」は、B・C指定を求めるすべての医療機関について▼書面審査▼訪問審査―を行うものです。

各医療機関の作成した「医師労働時間短縮計画」、さらに訪問による実地調査によって、▼労務管理体制▼労働時間短縮の取組▼労働時間の削減状況(労務管理等実施の成果)―などを分析し、評価します。具体的には「勤怠管理システムを導入しているか」「医師の時間外労働はどの程度か」「休暇を取得できているか」「タスク・シフティングはどの程度進んでいるか」「960時間を超える医師はどの程度いるのか」などを定量的に評価します。例えば一定の基準を設け、「タスク・シフティングの進捗状況は5段階評価中●点」「休暇取得状況は5段階評価中◆点」などと評点し、合計得点で「当該医療機関の勤務環境改善状況はA・B・C評価のうち〇評価である」などと判定するイメージが考えられそうです。

評価機能による評価項目案(医師働き方改革推進検討会1 191106)



なお、個別医療機関の取り組みは、地域医療提供体制にも大きな影響を及ぼします。例えば「X病院が労働時間短縮を強力に推し進め、救急外来を閉鎖したため、近隣のY病院に救急患者が殺到し、Y病院では労働時間短縮がなかなか進まない」などの事態も生じる可能性があります。こうした状況を見るため、評価機能の分析評価では、例えば▼手術件数▼救急車受け入れ台数―など医療提供体制に関する項目も対象となります。

このように医療機関の置かれている状況は千差万別であり、単純に「評価得点」のみで個別医療機関の取り組み状況を判断することは危険です。例えば、「地域で医療機能分化・連携の強化を進めたいが、周辺医療機関の協力が十分に得られないため、救急科の負担軽減が実現できない」「医師確保に向けた取り組みを進めているが、応募が少なく、医師の負担軽減が実現できない」など、さまざまな事情があります。厚労省は、そうした個別事情を「定性的な評価結果」として付記する考えも示しました。例えば「B評価。ただし○○○の状況の中で、○○に関するタスク・シェアリングが進んでいないと考えられる」などという評価結果がイメージされます。

2022年度に全B・C希望医療機関で書面審査、結果が低いところを23年度に訪問審査

評価機能による評価は、上述のように「書面審査」と「訪問審査」とで行われます。書面審査で全体像を把握し、疑問点等について訪問審査で詳しく確認するイメージで、まず、「2024年4月」に向けて、以下のようなスケジュールとしてはどうかとの考えが厚労省から示されました。訪問審査は「審査・評価を行う評価機能」側にも、「審査・評価を受ける医療機関」側にも大きな負担となること、B・C指定期間が「3年」とされる(前回会合で概ね固まる、関連記事はこちら(C水準)こちら(B水準))ことなどから、「3年に一度」としてはどうかと、厚労省は考えています。

▽2022年度に、すべてのB・C指定を希望する医療機関について「書面審査」を行う

▽2023年度に、「書面審査」結果が低い医療機関を対象に「訪問審査」を行う(この結果を踏まえて、強力な改善支援を行う)

▽2024年度から新たな時間外労働の上限適用(B・C水準が稼働する)

▽2024-26年度を1クールとして、この3年度の間にすべてのB・C医療機関について1回の「訪問審査」を行う

ここから、次のような整理が可能でしょう。

【当初のB・C指定】(2024年4月の指定、指定期間は3年間)
▽書面審査結果が優れている医療機関では、書面審査のみでB・C指定が行われる
▽書面審査結果が芳しくない医療機関では、訪問審査を受け(2023年度中)、改善状況を踏まえてB・C指定が行われる

【2度目のB・C指定】(2027年4月の指定)
▽すべての医療機関について、書面審査と訪問審査の双方の結果を踏まえてB・C指定が行われる

書面審査・訪問審査のスケジュール案(イメージその1)(医師働き方改革推進検討会3 191106)

書面審査・訪問審査のスケジュール案(イメージその2)(医師働き方改革推進検討会4 191106)

評価結果の「公表」について、方法・時期は慎重に検討すべきとの指摘多数

この評価結果は、都道府県と当該医療機関に通知されることはもちろん、さらに「公表」される見込みです。この点について多くの構成員から「公表の方法、時期などについて工夫が必要であり、慎重に検討すべき」との声が出ています。

地域医療構想の実現に向けて、「再編統合の再検証が求められる424の公立・公的病院等」の実現と診療実績が公表され、その際、「機械的に再編統合を求めるものではない」との注釈がつけられたものの、多くの地域医療関係者、地域住民が「再編統合が決定された。地域から病院がなくなる」と大きな誤解をしています(関連記事はこちらこちらこちらこちら)。こうした点から「公表」に不安を覚える構成員が多いと考えられます(例えば、段階的評価のみで「ブラック病院」などとして情報拡散されてしまうなど)。

この点、山本修一構成員(千葉大学医学部附属病院長)は「まず都道府県・当該医療機関にのみ通知を行い、評価結果に基づいた改善を各医療機関が行うことになる。その改善結果を公表するなどの工夫をしてはどうか」と具体的に提案。今後、検討および厚労省で公表方法等について詰めていくことになります。

評価結果が低い場合、都道府県や勤改センターによる強力な支援

評価機能の分析・評価により、(i)労働時間短縮が進んでいる医療機関(ii)労働時間短縮の取り組みを進めているが、効果が出ていない医療機関(iii)労働時間短縮の取り組みを十分に行っていない医療機関―が判明します。その際、(ii)(iii)の医療機関について「労働時間短縮が進んでおらず、B・C水準の要件をクリアしてない。指定はできない」と一刀両断に判断されてしまえば、地域医療に大きな混乱が出てきます。

そこで厚労省は、(ii)には「評価機能の『労働時間短縮のためには医師派遣等の措置、医療提供体制の見直しなどが必要』といった所見を付記し、それに基づいて都道府県が支援を行う」ことが、(iii)には「都道府県医療勤務環境改善支援センター等が、さらなる労働時間短縮の取り組み支援を行う」ことが必要との考えを提示。都道府県のB・C指定においては、こうした支援を受けたのちの状況を踏まえて判断することが求められます。

例えば、▼評価機能による評価で問題点が判明 → ▼問題点について医療勤務環境改善支援センターや都道府県の支援を受けて改善 → ▼改善状況を持って都道府県にB・C指定を申請 → ▼都道府県で審査し、地域の医療審議会等の意見も踏まえてB・C医療機関として指定する―といった流れが考えられそうです。

評価機能の評価と都道府県指定との関係(医師働き方改革推進検討会2 191106)

「社労士」と「医師または看護師」の2名で、各医療機関を審査・分析・評価

これまで見てきたように、評価機能は「個別医療機関の労務管理状況」を分析・評価するとともに、「労務管理の見直しが、当該医療機関の診療内容はもちろん、地域医療にどのような影響を及ぼしているか、また今後、及ぼす可能性があるのか」も見極めることが求められます。

そこで厚労省は、書面審査・訪問審査に当たっては、評価機能が必要な研修等を実施した▼社会保険労務士▼医師または看護師―の2名がチームを組んで実施することが必要との考えを示しました(以下、評価者)。社労士が労務に関する調査・分析・評価を、医師または看護師が医療への影響を調査・分析・評価することになります。

厚労省は、B・C水準の対象となる医療機関は全国で1500施設になると推計しています(3次救急医療機関の9割、年間1000台以上の救急車を受け入れる2次救急医療機関等の7割などを合算したものがB水準、C水準は概ねB水準と重複すると考えられる)。この1500施設すべてについて、上述のように3年間で訪問審査を行う必要があることから、評価機能は「50-100名程度の評価者」(常勤換算で10-15人程度)を擁することが求められると厚労省は試算しました。

評価機能をどういった組織が担うか、現時点では不透明

ところで、「大人数の社労士および医師・看護師を擁する」かつ「医療機関や都道府県から独立いた公正・中立な」機関は現存していません(少なくとも厚労省は把握していない)。このため評価機能については、「新たな組織を設ける」「既存の組織の機能強化を図る」ことなどが必要となります。

この点、都道府県代表として今検討会に参画する家保英隆構成員(高知県健康政策部副部長)は「医療勤務環境改善支援センター(多数の社労士配置あり、医師配置はごくわずか)は都道府県の1組織であり、中立性・独立性は担保できない」との考えを改めて強調しています。

都道府県の医療勤務環境改善支援センターには、社会保険労務士は相当程度配置されているが、医師配置等はほぼない(医師働き方改革推進検討会5 191106)



例えば、病院団体や医師会(当然、医師を多く抱えている)が社労士を雇用等することなども考えられますが、その場合「医療機関からの独立性が確保できるのか」という問題が生じます。

すでに医療機関から独立した中立・公正な立場で病院機能評価を行っている「医療機能評価機構」において、人員配置や機能の強化を求め、評価機能として指定することなども考えられますが、現時点では「どういった組織が評価機能に指定されるのか」を見通すことは難しく、今後の議論等を見守る必要があるでしょう。

構成員からは「有志病院でトライアルを実施せよ」などの指摘も

こうした評価機能の業務や組織・体制について、構成員から明確な反論は出ていません。たただし、岡留健一郎構成員(日本病院会副会長)や今村聡構成員(日本医師会副会長)らは「具体的なイメージがわかない。果たして、これだけの業務をこの人数で期間内に行い、適切な分析・評価ができるのか判断が難しい」旨を指摘。例えば「有志の病院を対象に、書面審査・訪問審査、分析・評価のトライアル(試行)を実施してはどうか」との提案を行いました。

厚労省医政局医事課の佐々木健課長は、「具体的なイメージを詰め、提示する」考えを示しています。ただし「評価のトライアル」については、時間的制約もあり、どういった形で実施するのか、厚労省で検討を進めることになりそうです(制度の枠組みが決定したのちに、具体的な運用法を探る目的で行われる可能性もある)。

また、評価の受審費用について厚労省は「受審医療機関から徴収することが原則。金額等は今後検討する」との考えを示しましたが、今村委員や馬場武彦構成員(社会医療法人ペガサス理事長)は「公費での補填等が必要」と注文しています。



なお、検討会ではこれまでに、当初予定された論点(▼B・C水準特定の仕組み(関連記事はこちら(C水準)こちら(B水準))▼追加的健康確保措置の枠組み▼医師労働時間短縮計画、評価機能の在り方(今回)―)について一巡目の議論を完了(関連記事は こちら)。次回以降、これまでの議論を整理し、年内(2019年内)の意見取りまとめに向けて「さらに詰めるべき事項」について議論を深めていきます。

 
 
 
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