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協会けんぽ10年連続の黒字決算だが、新型コロナの影響等もあり楽観視できない―全国健康保険協会

2020.7.8.(水)

昨年度(2019年度)の協会けんぽの医療分の収支は5399億円の黒字となり、10年連続の黒字決算となった。また不測の事態に備えるための準備金は3兆3920億円で、保険給付費の4.3か月分を確保できている―。

しかし、2022年度からいわゆる団塊の世代が後期高齢者となり始め、拠出金等負担が今後急増していくこと、新型コロナウイルス感染症の影響で今後、収入減が予想されることなどから、協会けんぽの財政は楽観視できない—。

協会けんぽを運営する全国健康保険協会が7月3日に発表した、2018年度の「協会けんぽの決算見込み(医療分)について」から、こういった状況が明らかになりました(協会のサイトはこちらこちら(概要))。

協会けんぽ財政の推移、近年黒字になっているが、新型コロナの影響もあり楽観視は危険(2019年度協会けんぽ決算2 200703)

協会けんぽ決算の推移(2019年度協会けんぽ決算1 200703)

被保険者が4.4%増加したが、うち2.1%は「大規模健保組合の解散」によるもの

協会けんぽは、主に中小企業の会社員とその家族が加入する公的医療保険です。

昨年度(2019年度)の収入は10兆8697億円で、前年度に比べて5235億円・5.1%の増加となりました。収入増の主な要因は「保険料収入」の増加(前年度に比べて4510億円・4.9%増加)で、▼保険料を負担する被保険者(会社員本人)の増加(前年度から4.4%増)▼保険料のベースとなる賃金(標準報酬月額)の増加(前年度から0.7%増)―の主に2つの要因があります。

被保険者数の増加率「4.4%」は、全国健康保険協会による医療保険の運営が始まった2008年度以降、最大の増加率となりました(従前は国(社会保険庁)が政府管掌健康保険を運営していた)。ただし、4.4%のうち2.1%は、「大規模健康保険組合(人材派遣健康保険組合等)の解散による一時的な影響」(健保組合が解散し、その被保険者・被扶養者が協会健保に加入した)です。協会では「この影響を除くと、被保険者数の伸びは2017年度をピークに鈍化している」と見ています。今後も収入増が続くかどうかの見通しは難しく、また2020年度からは新型コロナウイルス感染症の影響で「賃金減」や「企業の倒産」「リストラ」などが生じていると考えられ、協会けんぽの収入が減少に転じる可能性もあります。

大規模健保組合の解散などで、協会けんぽの加入者が増加し、給付費も大幅増

一方、支出は10兆3298億円で、前年度に比べて3653億円・6.1%増加しました。「加入者(会社員本人+家族)の増加に伴う保険給付費(つまり医療費)の増加」(加入者が増えれば患者も増え、医療費も増える)と、「高齢者医療制度(75歳以上)などを支えるための拠出金等の増加」によって支出が増えています。

前者の保険給付費を、「加入者数」と「1人当たり医療費」に分解して見てみましょう(保険給付費(医療費)=1人当たりの医療費×加入者数)。

まず「1人当たり医療費」は、医療技術の高度化(超高額医薬品の登場等)などにより増加する傾向にあります。この点、2011年度から14年度までは、対前年度伸び率は1%台後半から2%台前半にとどまっていました。しかし、2015年度に高額な新薬(画期的なC型肝炎治療薬のハーボニーなど)が登場して対前年度伸び率は4.4%に急騰(関連記事はこちら)。その反動もあり、2016年度には低い伸び率(1.1%増)となりました(関連記事はこちら)。その後、こうした急激な変動はなく、従前の水準に戻っていましたが、2019年度には「前年度から3.2%増」と比較的高い伸びとなっています。

2019年度には、消費税率引き上げ(8%→10%)に伴う臨時の診療報酬改定が行われました(本体:プラス0.41%、薬価等:マイナス0.48%)。1人当たり医療費の伸び率が「プラス3.2%」と高い水準になっている背景について、詳しく分析していく必要があるでしょう。

また、後者の拠出金等については、2019年度には前年度から1254億円の増加となっています。前述したとおり、大規模健保組合の解散に伴う保険給付費増(医療費増)があることから、拠出金等負担割合は35.0%(前年度から0.9ポイント低下)にとどまっています。しかし2022年度から、いわゆる団塊の世代が75歳以上となり「後期高齢者医療制度」に加入し始めることから、今後「拠出金等の金額・割合が年々大幅に増加していく」と考えられます。

10年連続の黒字で準備金も3兆円を超えるが、新型コロナ等の影響を懸念

この結果、2019年度の収支差は5399億円の黒字となりました。黒字幅は前年度に比べて550億円減少しました。

協会けんぽは、2009年度に5000億円近い赤字決算に陥ってしまったため、財政を回復させるために▼国庫補助割合の16.4%への引き上げ▼保険料率の引き上げ(現在は10.00%)▼後期高齢者支援金計算における、段階的な総報酬割の導入(これにより後期高齢者の支援金負担、つまり支出が減少する)―などの特別措置が行われました。

これらの特別措置や、後発医薬品の使用推進などといった協会自身の取り組み、さらには賃金水準の上昇などによって、協会けんぽの財政は2010年度から黒字に転換。2019年度にも黒字となり、10年連続の黒字決算となりました。ただし、前述のように「後期高齢者の増加」や「新型コロナウイルス感染症」により、財政基盤は厳しくなっていくと推測され、今後の状況を注視することが重要です。

なお大災害などにより「収入が大幅に減少し、一方で医療費が急増する」ような不測の事態に備えるために積み立てが義務付けられている準備金は、2019年度には3兆3920億円に増加しました。これは保険給付費などの4.3か月分に相当します(大規模災害等で収入が途絶えても、4.3か月は医療費を支出できるだけの積み立てがなされている)。

健康保険法では、協会けんぽに対して「保険給付費や拠出金などの1か月分」を準備金として積み立てることを求めており(法第160条の2)、この指示は現時点では、十分クリアできています。(大きく上回っている)できています。

協会けんぽの財政状況は、これまで「安定」してきたものの、▼医療の高度化推進(超高額な脊髄性筋萎縮症の治療薬「ゾルゲンスマ点滴静注」(1億6707万円)や、やはり超高額な白血病等治療薬「キムリア」(3350万円)などの保険適用等、関連記事はこちらこちらこちらこちら)▼高齢化の進展(2022年度から団塊の世代が後期高齢者となりはじめる)▼新型コロナウイルス感染症による収入減―などが予想され、「楽観視はできない」と言えます。

協会けんぽの財政構造をみると「赤字」基質であることに変化はない(2019年度協会けんぽ決算3 200703)

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