75歳以上後期高齢者の急増などにより健保組合財政は厳しさを増し、2024年度は86.6%が赤字―2024年度健保組合予算
2024.4.24.(水)
主に大企業に勤める会社員とその家族が加入する健康保険組合の財政状況を見ると、今年度(2024年度)は昨年度(2023年度)に比べて厳しさを増し、▼健保組合全体での赤字額が前年度から965億円増加し、6578億円となる▼赤字組合の割合は前年度から7.5ポイント増加し、86.6%となる—。
こうした状況が、4月23日に健康保険組合連合会が発表した2024年度の「健保組合予算早期集計結果の概要」から明らかになりました(健保連のサイトはこちらとこちら(概要版))(前年度の記事はこちら、前々年度の記事はこちら)。
目次
保険料収入が増加したが、医療費増・拠出金増で健保組全体の赤字は6578億円に膨張
主に大企業の社員とその家族が加入する「健康保険組合」の連合組織である健康保険組合連合会(健保連)は、2024年度予算データの報告があった1353組合の数値を集計・分析し、健保組合全体(1379組合)の状況を推計しました。
2024年度は、経常収入9兆53億円(前年度に比べ3981億円・4.5%増)に対し、経常支出9兆6631億円(同4848億円・5.3%増)となり、健保組合全体で「6578億円の赤字」となる見込みです。前年度に比べて赤字総額が956億円「増加」しています。
赤字組合の割合は、今年度(2024年度)は86.6%となり、前年度から7.5ポイントも増加する見込みです。コロナ感染症が落ち着き、公費支援等が終了しましたが、健保組合財政は「非常に悪化し、厳しくなっている」ことが分かります。
協会けんぽ以上の保険料率を設定している健保組合、24.6%に増加
健保組合収入の根幹である「保険料収入」は前年度から3811億円・4.5%増加し、8兆8851億円。大企業を中心に「賃上げ」が進んでいることなどを背景に、「保険料収入の大幅」が生じています。
また平均保険料率は9.32%(前年度から0.05ポイント上昇)、収支均衡のために必要となる実質保険料率は10.27%(同0.17ポイント上昇)となり、加入者の負担が重くなっていることが分かります。
また、協会けんぽの平均保険料率(10.0%)以上の料率を設定している健保組合は全体の24.6%で、前年度から2.0ポイント増加しています。多くの健保組合が「厳しい財政状況にある」ことをここからも確認できます。
高齢者医療費を支える拠出金負担、2022年度からの高齢者増とともに「急騰」している
一方、支出の内訳をみると、▼保険給付費(加入者の医療費の70%)が前年度から2945億円・6.2%増の5兆756億円▼高齢者等の医療費を支える拠出金が同じく1701億円・4.6%増の3兆8774億円—などとなっています。
拠出金の内訳は、▼75歳以上の後期高齢者の医療費を支える後期高齢者支援金:2兆2769億円(前年度比3.8%増)▼医療保険制度における70-74歳の加入者割合を調整する前期高齢者納付金:1兆6003億円(同5.7%増)—など。
高齢者を支える拠出金等増加の背景には「高齢者人口の増加」があります。2022年度から人口の大きなボリュームゾーンを占める『団塊の世代』が75歳以上の後期高齢者になり始め、2025年度には全員が後期高齢者となります。後期高齢者は若い世代に比べて、傷病の罹患率が高く、1治療当たりの日数が非常に長く、結果、1人当たり医療費が若年者に比べて2.4倍と高くなります(関連記事はこちら)。このため、「高齢者の増加」→「医療費の増加」→「現役世代が負担する拠出金等の増加」が生じています。
来年度(2025年度)予算においても、「拠出金等の増加」(=健保組合の負担増)が続くと考えられます。
なお、コロナ感染症が落ち着く中で、健保組合加入者においては「徐々に患者が医療機関に戻ってきている」状況も伺えます(関連記事はこちら)。これに伴って医療費も増加していくため、健保組合の支出も増加していくと考えられます。
▼給付費(健保組合加入者の医療費負担)▼拠出金等(高齢者の医療費を支えるための負担)—の2つを「義務的経費」として捉え、「拠出金等が義務的経費に占める割合」を健保組合ごとに見てみると、▼40%未満:31.4%(前年度から4.1ポイント増加)▼40%以上50%未満:50.9%(同8.6ポイント減少)▼50%以上:17.7%(同4.5ポイント増加)—となりました。「拠出金負担が重くなっている」健保組合と、「拠出金負担が軽くなっている」健保組合との二極分化が少し進んでおり、状況を注視する必要があります。
医療保険制度の理念は「医療が必要な人を、皆で支える」ことにありますから、「負担能力のある若人」が「負担能力が小さく、傷病に罹患しやすい高齢者」を支えること、そのものは合理的かつ当然と言えます。しかし、「自らの加入者以外の医療費への負担の方が大きい」健保組合が2割を近い状況は「好ましい」ものではありません。
こうした状況に疑問を感じる人が増えれば、「社会連帯」「皆で傷病者を支える」という医療保険制度の基盤が崩れていってしまう点に危機感を持つ必要があります。
この点、「高齢者であっても所得の高い層には医療費をより多く負担してもらう」全世代型社会保障の仕組みが検討され、健康保険法等改正が行われました(関連記事はこちら)。もっとも、この改正は「ゴール」ではなく、「改革の第一歩」と位置付けられており、今後も「高齢者の負担を高め、現役世代の負担増を抑える」方策の検討が続けられます。
健保組合加入者の平均介護保険料は年間で平均11万7949円に増加
また、健保組合加入者の介護保険料率(2号保険料)については、全組合の平均で1.78%(前年度と同水準)。被保険者1人当たりの年間介護保険料は前年度から1842円・1.6%増加し、11万7949円となりました。
上述のとおり、2022年度から団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となりはじめ、2025年度には全員が後期高齢者となります。その後、2025年度から2040年度にかけて、高齢者の増加ペース自体は鈍化するものの、支え手となる現役世代人口が急速に減少していくことが分かっています。
少なくなる一方の現役世代で、増加する一方の高齢者を支えなければならず、今後、現役世代1人当たりの「高齢者医療費を支える拠出金」負担や「介護保険料」負担は増加の一途をたどります。しかし、現役世代の負担は「限界」に来ており、医療保険や介護保険をどのように支えていくのかという議論を国民全体で続けていかなければなりません。
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