コスト急騰踏まえた「入院時食事療養費への緊急手当て」要望へ、オンライン資格確認義務化なら実費補助を—四病協
2022.5.26.(木)
入院時食事療養費は25年も据え置かれたままで、人件費や材料費の水準増を賄えていない。あわせて現下のウクライナ情勢で材料費や光熱水費が急騰しており、このままでは「入院患者への食事提供」ができなくなる。厚生労働大臣へ「緊急手当て」を近々に要望する—。
「オンライン資格確認等システムの導入」を2023年4月以降義務化する議論が始まっている。オンライン資格確認等システムの導入は極めて重要であり、推進方針に異論はないが、義務化するのであれば「病院のコスト(実費)を国費で補填・補助」するべきである―。
5月25月に開催された四病院団体協議会の総合部会でこうした方針・見解が固められたことが、総合部会終了後に記者会見で日本精神科病院協会の山崎學会長から明らかにされました。
入院時食事療養費、現下のコスト急騰等を賄えず「緊急の手当て」が必要
医療、とりわけ入院医療においては、「食事」も栄養補給として重要な治療の1要素となります。このため、医療保険からも「入院時食事療養費」が給付されます(現在、一般的なケースでは「1食当たり640円の食費を、患者が460円、医療保険が180円と分担して負担」する)。
入院時食事療養費(I)については、1997年の消費税率引き上げ(3%→5%)に伴う臨時の診療報酬プラス改定において「1900円→1920円」(1日当たり)に引き上げられましたが、その後「1日当たり→1食当たりに見直す」「患者負担を引き上げる」という見直しが行われているものの、金額自体は25年も据え置かれています。
しかし、25年前に比べて人件費や材料費の水準は高騰しています。レストラン等では、こうしたコスト増を価格に転嫁できますが、医療保険制度下では、病院サイドが「価格を引き上げよう」と独自に決めることはできません。
また、現下のウクライナ情勢で、材料費はもちろん、光熱水費(電気、ガス、水道)も高騰しています。
こうした中で、入院時食事療養費では、コスト増を賄い切れず「病院における食事提供」が困難になっている点が5月25日の四病協・総合部会でも確認され、「緊急な対応をしてほしい」との要望を後藤茂之厚生労働大臣に宛てて行う方針が決まりました(関連記事はこちら)。
山崎・日精協会長は、上述のように▼入院時食事療養費が事実上「25年も据え置かれている」点▼ウクライナ情勢で物価・光熱費が著しく高騰している点—を盛り込んだ要望書を早急に作成し近々に提出する考えを明確にしています。なお、山崎・日精協会長は▼学校給食においても同様の問題が出ており、自由民主党主導で特別手当がなされていることと整合を図るべき▼自由民主党の高市早苗政務調査会長に宛てて次期参議院選挙の公約に「病院給食の見直し」を盛り込んでほしい旨の要望をしている—ことも付言しています。
オンライン資格確認等システムの導入、義務化するなら実費を国費で補助すべき
また、5月25日の四病協・総合部会では「オンライン資格確認等システムの導入促進」も議題に上がりました。
Gem Medで報じているとおり、「2022年度中(2023年3月まで)に概ねすべての保険医療機関等でオンライン資格確認等システムを導入する」旨の目標に黄信号がともっており、厚生労働省は同日(5月25日)の社会保障審議会・医療保険部会に次のような「促進方針」案を提示しています(関連記事はこちら)。
▼2023年4月から、保険医療機関・薬局において「オンライン資格確認等システムの導入」を原則義務化する
▼医療機関・薬局でのオンライン資格確認等システム導入を進め、国民のマイナンバーカードの被保険者証(保険証)利用が進むよう、 関連する財政支援措置を見直す(2022年度診療報酬改定で新設された【電子的保健医療情報活用加算】の在り方検討も含む)
▼保険証の取り扱いを見直す
(a)2024年度中を目途に「保険者による保険証発行の選択制導入を目指す
(b)さらに、将来的には保険証利用機関(訪問看護、柔整あはき等)のオンライン資格確認導入状況等を踏まえ「保険証の原則廃止」を目指す(ただし、加入者からの求めがあれば保険証は交付される)
この点について山崎・日精協会長は「オンライン資格確認等システムの導入促進は非常に重要である。資格確認にとどまらず、診療情報(レセプト情報、電子カルテ情報)の医療機関間共有の基盤ともなる仕組みであり、普及を急ぐべきである」との四病協スタンスを確認したうえで、「問題は方法である。仮に厚労省提案のように義務化するのであれば、その費用(実費)を公費できちんと補填・補助すべきである」との考えを強調しました。
山崎・日精協会長は「これまで病院の負担でオンライン資格確認等システムの導入を進めてきている(補助が行われているが「補助額よりもはるかに実費が大きい」と山崎・日精協会長は指摘)。その点も勘案して、2022年度改定では、雀の涙ほどの点数だが【電子的保健医療情報活用加算】を創設してくれた。しかし、今度はこの加算について患者負担増になっていると『凍結・廃止』論が出ている。おかしな話だ」と述懐したうえで、「過去の経緯をきちんと振り返り、加算の在り方などについて中央社会保険医療協議会でしっかり議論すべきである」ともコメントしています。
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