2023年度以降、保険医療機関等で「オンライン資格確認等システムの導入」を義務化すべきか—社保審・医療保険部会(1)
2022.5.25.(水)
オンライン資格確認等システムについて「2022年度中に概ねすべての保険医療機関・薬局での導入を目指す」との目標が定められているが、状況は厳しい—。
さらなる導入促進に向けて、「2023年度から保険医療機関・薬局では原則としてオンライン資格確認等システムの導入を義務化する」「オンライン資格確認等システムの導入に向けた財政支援を拡充する」「2022年度診療報酬改定で新設された【電子的保健医療情報活用加算】の在り方を検討する」「将来的に被保険者証(保険証)を廃止し、マイナンバーカードの保険証利用に一本化する」ことなどを検討してはどうか―。
5月25日に開催された社会保障審議会・医療保険部会においてこういった議論が行われました。細部について様々な意見(反対意見も含めて)が出ていますが、全委員が「オンライン資格確認等システムの導入促進」という同じ方向を向いていることが確認されたと言えます。
【電子的保健医療情報活用加算】については、中央社会保険医療協議会において具体的な取り扱いの検討が行われます。
目次
2023年度以降、保険医療機関等では「オンライン資格確認等システム」を義務化すべきか
オンライン資格確認等システムが昨年10月(2021年10月20日)から本格稼働しています。次のような流れで、医療機関等の窓口において「受診した患者が、どの医療保険に加入しているのか」を瞬時に確認する仕組みです。
▼患者が、健康保険被保険者証機能を持つ「マイナンバーカード」を医療機関等窓口のカードリーダーにかざす
↓
▼医療機関等のパソコン端末から、オンラインで社会保険診療報酬支払基金(支払基金)・国民健康保険中央会(国保中央会)のデータに「当該患者がどの医療保険(健康保険組合や国民健康保険など)に加入しているのか」を照会し、回答を得る
後述するように、「患者がどの医療保険に加入しているのかの確認」(資格確認)にとどまらず、「患者の診療情報(レセプト情報、電子カルテ情報)を医療機関同士で共有する」仕組みなど、いわゆるデータヘルス改革の基盤にもなるシステムであり、「早期にすべての医療機関等がオンライン資格確認等システムを導入し、運用する」ことが期待されます。
しかし、まだまだ運用医療機関等が少ないのが実態で、本年(2022年)5月15日時点の状況を見ると次のような状況にとどまっています。
▼医療機関等全体:顔認証付きカードリーダー申し込み済が57.9%、オンライン資格確認の準備完了が24.7%、運用開始が19.0%
▼病院:顔認証付きカードリーダー申し込み済が78.9%、オンライン資格確認の準備完了が42.2%、運用開始が35.5%
▼医科クリニック:顔認証付きカードリーダー申し込み済が45.9%、オンライン資格確認の準備完了が17.5%、運用開始が13.0%
▼歯科クリニック:顔認証付きカードリーダー申し込み済が49.9%、オンライン資格確認の準備完了が17.2%、運用開始が12.9%
▼保険薬局:顔認証付きカードリーダー申し込み済が81.9%、オンライン資格確認の準備完了が41.4%、運用開始が32.8%
厚生労働省は「2022年度中(2023年3月末まで)に概ねすべての医療機関・薬局での導入を目指す」との目標を掲げていますが、現状のペース(月間9000施設が導入)では「2023年3月時点で全体の6割弱での導入にとどまってしまう」格好です(ただし病院・薬局は100%達成可能見込み)。オンライン資格確認等システムは、Gem Medで繰り返し報じているとおり「診療情報(レセプト情報、電子カルテ情報)を医療機関間で共有する」ための基盤ともなるため「導入を加速化し、目標(2022年度末までに概ね全医療機関での導入)を達成する」ための仕掛けが必要です。
そこで厚労省は「目標達成に向けて、一段上の取り組みをする必要がある」と判断し、今般、次のような取り組みを行ってはどうかと医療保険部会に提案しました。
(1)オンライン資格確認の「入口」とも言えるカードリーダーの申し込みから、医療機関への配送までに4か月程度の時間がかかることなどを踏まえ、今年度(2022年度)上半期に、申し込み状況に応じた集中的な取り組みを行う(個別医療機関の導入状況などを踏まえたメール送付や相談対応などを行う、関連記事はこちら)
(2)目標(2022年度末までに概ね全医療機関での導入)達成に必要な「導入ペース」を勘案し、「今年(2022年)9月時点で概ね5割の導入」という中間目標を置き、進捗管理・導入促進を図る(現在は上述のとおり「月間9000件」ペースで増加しているが、これを9月までは「月間1万5000件」、10月以降は「月間1万9000件」に増加させていく)
(3)2023年4月から、保険医療機関・薬局において「オンライン資格確認等システムの導入」を原則義務化する
(4)医療機関・薬局でのオンライン資格確認等システム導入を進め、国民のマイナンバーカードの被保険者証(保険証)利用が進むよう、 関連する財政支援措置を見直す
(5)保険証の取り扱いを見直す
(a)2024年度中を目途に「保険者による保険証発行の選択制導入を目指す
(b)さらに、将来的には保険証利用機関(訪問看護、柔整あはき等)のオンライン資格確認導入状況等を踏まえ「保険証の原則廃止」を目指す(ただし、加入者からの求めがあれば保険証は交付される)
5月25日の医療保険部会では、主に(3)—(5)の「新たな取り組み」に関する議論が行われました。
まず(3)は、保険診療を行う医療機関等が遵守すべき事項のベースとなる「保険医療機関及び保険医療養担当規則」(いわゆる療養担当規則、療担)を改正し、保険医療機関等では「オンライン資格確認等システムを導入しなければならない」旨を規定する提案です。療養担当規則には、例えば▼適切な診療や指導などを行わなければならない(例えば「不必要な診療」を行ってはならないなど)▼経済上利益提供で患者を誘因してはいけない(例えば診療にあたっての値引きなど)▼領収書等を交付しなければならない—などが規定されており、診療報酬点数表や施設基準などの「上位法令」(厚生労働省令)にあたります。
この中に「オンライン資格確認等システムの導入」が義務付けられるということは、「非導入医療機関等では、保険診療を原則として行えない」ことを意味する、非常に重い意味合いを持つことになります。
医療保険者代表の1人である佐野雅宏委員(健康保険組合連合会副会長)は「オンライン資格確認等システムの入り口と言える『カードリーダーの申し込み』すらしていない医療機関等が全体で4割超あり、その状況はここ1年ほど変わっていない。この現実は重く受け止める必要があり、義務化は当然のことと考える」と厚労省提案に賛同。同じく保険者代表である安藤伸樹委員(全国健康保険協会理事長)はもとより、病院代表の立場でもある池端幸彦委員(日本慢性期医療協会副会長)も「将来の『より質の高い医療提供』実現のために、皆が痛みを分け合っていく必要がある」として、佐野委員と同様に厚労省提案に理解を示しました。
これに対し、松原謙二委員(日本医師会副会長)や林正純委員(日本歯科医師会常務理事)、森昌平委員(日本薬剤師会副会長)の、いわば三師会代表委員は「医療現場の実情にも十分に配慮してほしい」旨を強く訴えました。
3委員ともに「オンライン資格確認等システムの導入促進は非常に重要である」という点では佐野委員らと同じ考えです。しかし、「小規模の医療機関等」「高齢者が経営する医療機関等」「離島やへき地などに位置する医療機関等」では、オンライン資格確認等システムの導入・運用に当たり大きなハードルがあることも事実です。この点への配慮なしに「システム導入ができなければ保険診療の世界から出ていってほしい」となれば、当該医療機関等をかかりつけにしている患者が行き場を失ってしまうことも考えられます。3委員は、こうした点を踏まえて「丁寧に慎重な議論を行うべき」と求めています。
このほかにも、▼地域によっては、また医療機関によっては「ベンダーの対応が後手後手になっている」ケースもある▼そもそも、離島やへき地など、インターネット環境の整備が不十分なところをどう考えるのか▼歯科ではレセプト請求を「紙」ベースで行っている医療機関も少なくなく、そこをどう考えるか—といった問題もあります。
今後、医療保険部会や中医協(療養担当規則の具体的な見直し論議は中医協で行う)で、両者の意見を踏まえて検討を行っていくことになるでしょう。
2022年度改定で新設された【電子的保健医療情報活用加算】の在り方を中医協で検討へ
また(4)は、オンライン資格確認等システムの導入促進に向けて「医療情報化基金」(2019年度スタート)などの財政支援措置拡充に向けて、厚労省と財務省等で調整を行っていくことしてはどうか、との提案です。
この点に異論は出ておらず、▼(3)でシステム導入を義務化するのであれば、システム導入費等を全額公費で補助する考えもある(安藤委員)▼システム導入を義務化するのであれば、少なくともイニシャルコスト(導入費)は『すべて国で負担する』との対応をしてほしい(池端委員)—などの要望が出ています。
2021年3月までは「レセコン改修費について国の定めた上限額までは100%の補助を行う」こととされていました。当初は「2021年3月にオンライン資格確認等システムを運用開始する」こととされていたためで、その後は補助割合が「50%」に減額されました(従前の補助率に戻った)。今後、過去の経緯なども参考に厚労省・財務省間で「財政支援(補助金)の拡充」に向けた調整が進められることでしょう。その際、「国家財政(予算)は税金を主な原資としており無尽蔵ではない」点にも留意が必要です(関連記事はこちら)。
ところで、2022年度診療報酬改定では、オンライン資格確認等システムを活用して診療情報にアクセスし、その情報を診療などに活かす医療機関を評価する【電子的保健医療情報活用加算】が新設されました(関連記事はこちらとこちら)。
Gem Medで報じているとおり、また上述のとおり、オンライン資格確認等システムは「医療機関間の診療情報(レセプト情報、電子カルテ情報)共有」の基盤でもあり、すでに「薬剤情報」「特定健康診査情報」については共有が始まっています(関連記事はこちら)。
マイナンバーカードを保険料利用して医療機関を受診するにあたり、資格確認と同時に「自身の患者情報をこの医療機関(受診医療機関)で閲覧してよいか」の確認が行われます。例えば、過去に処方された薬剤と、これからの診療で必要となる薬剤との間に「重複」や「併用禁忌」などの関係があれば、その薬剤を避けた処方が可能になるなど、「効果的・効率的で質の高い医療提供」が可能になります。
この「質の高い医療」を受ける対価として【電子的保健医療情報活用加算】が創設されたのです。
しかし、国民の間には、こうした背景や趣旨などが必ずしも十分に伝わっておらず、「加算は患者負担増につながる。マイナンバーカードの保険証利用を促進しなければならないにもかかわらず、患者負担を上げるのはおかしいのではないか」との声も一部出ています。まずは、上述の「より良い医療を受けるための負担増」であることを、分かりやすく丁寧に十分に周知していくことが重要ですが、厚労省では医療保険部会や中医協で「【電子的保健医療情報活用加算】の在り方を検討していく」方針を示しており、今後、両会議体で活発な議論が行われることになります(具体的な議論は中医協で行われる)。
この点で思い出されるのが、2018年度診療報酬改定で導入された【妊婦加算】です。妊婦が、例えば風邪などにかかった際に「妊婦の診療はできない」と内科医師に断られるケースが少なくない点を踏まえ、「妊婦に対して配慮した診療を行う」ことを評価する、つまり「質の高い医療提供」を評価する加算として創設されました。しかし、一部の新聞・テレビ等が「妊婦税である」などと面白おかしく騒ぎ立て、せっかくの加算が廃止されてしまいました(その後、【連携強化診療情報提供料】に生まれ変わっている。同じ趣旨の点数であり、患者負担も発生するが、こちらにはそうした批判はない)。こうした「点数や制度の趣旨を理解しない」動きが生じないよう期待したいところです(関連記事はこちら)。
保険証を廃止し、「マイナンバーカードの保険証利用」への一本化も検討
また(6)は、(a)保険者判断で「保険証交付」廃止を可能とする→(b)状況を見て「保険証交付」を日本全国で廃止する—という2段階の提案です。
健康保険法施行規則(厚生労働省令)第47条などでは保険者に対し「被保険者証の交付」を求めています。しかし、交付事務は保険者にとって大きな負担となるため、一部の健康保険組合などからは「マイナンバーカードの被保険者証利用に一本化し、保険証の交付をやめたい」との声も出ています。
こうした声を踏まえて(a)の「保険者判断による交付廃止」を可能とするような法令改正を行ってはどうか、さらに、マイナンバーカードの保険証利用が進めば「保険者全体(つまり日本全体)で保険証の交付を原則廃止する」ことが可能になるため、そうした仕組みとしてはどうか、と厚労省は提案しています。
この提案に対し保険者サイド(佐野委員や安藤委員)は賛成していますが、松原委員は「オンライン資格確認等システム導入の際には『マイナンバーカード』と『保険証』の両方を併用する考えが厚労省から示されたはずである」「高齢患者などの中には『マイナンバーカードでの医療機関受診』は『実印を持ち歩け』と同じように負担を感じる人も少なくない」など、慎重に検討すべきとの考えを述べています。
今後、「保険証の廃止で派生する問題はないのか」など、より具体的な議論・検討が行われていきます。
このように細部に関しては様々な意見(反論、異論も含めて)があるものの、「オンライン資格確認等システムを拡充していく」方向そのものに反対する意見は出ていません。菅原琢磨委員(法政大学経済学部教授)は「オンライン資格確認等システムは、データヘルス改革の基盤であり、さらに将来のデジタル社会基盤整備の呼び水となるものだ。その意義を関係者全員が確認し、一体感を持って進めていく必要がある。目先の課題に屈せず、国全体が一丸となる必要がある」と強調しています。
さらに、国全体が一丸となる際に重要なテーマとして「オンライン資格確認等システム、マイナンバーカード、さらに『診療情報連携』による国民・患者へのメリット」をより具体的に、かつ分かりやすくPRしていく点が挙げられました(袖井孝子委員:高齢社会をよくする女性の会副理事長、村上陽子委員:日本労働組合総連合会副事務局長ら)。「良いものである」「メリットがある」と分かれば、国民はその方向に必ず向かうことでしょう。今一度、患者・国民にとってのメリットを具体的に洗い出し、PRし直すことも重要です(関連記事はこちら。
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