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2022年度改定基本方針を了承、医療提供体制改革・医師働き方改革が重点課題—社保審・医療保険部会

2021.12.9.(木)

12月9日に開催された社会保障審議会・医療保険部会で、2022年度診療報酬改定の基本方針案が了承されました。(1)新型コロナウイルス感染症等にも対応できる効率的・効果的で質の高い医療提供体制の構築【重点課題】(2)安心・安全で質の高い医療の実現のための医師等の働き方改革等の推進【重点課題】(3)患者・国民にとって身近であって、安心・安全で質の高い医療の実現(4)効率化・適正化を通じた制度の安定性・持続可能性の向上—の4つの柱が打ち立てられました。

同日には社保審・医療部会も開催され、両部会での意見を踏まえて部会長間(医療保険部会の田辺国昭部会長(国立社会保障・人口問題研究所所長)と医療部会の永井良三部会長(自治医科大学学長))で最終調整を行い、基本方針が決定されます。基本方針は近く中央社会保険医療協議会に報告されますが、後藤茂之厚生労働大臣からの正式な諮問(「基本方針を踏まえて改定内容を検討せよ」との諮問)は年明け(2022年1月)に行われます。

12月9日に開催された「第148回 社会保障審議会 医療保険部会」

医療提供体制改革が重点課題の1つ、急性期医療の集約化はどう進むか

2022年度の次期診療報酬改定に向けた議論が中央社会保険医療協議会を中心に佳境に入りつつあります(末尾にこれまでの議論に関する記事を整理)。

改定内容(点数や要件、施設基準など)は中医協で議論し、最終決定されます。しかし、かつて中医協を舞台に汚職事件が発生しました。事件の背景には「中医協の権能が大きくなりすぎたためである」と指摘され、▼基本方針を社会保障審議会の医療保険部会と医療部会で決定する▼改定率(つまり財源配分の大枠)を内閣が予算編成過程で決める▼基本方針と改定率を受け、中医協で改定内容を詰める―という役割分担が行われています。

基本方針策定論議は今夏(2021年夏)から医療保険部会・医療部会で進められてきました。12月9日の医療保険部会には、厚生労働省保険局医療介護連携政策課の水谷忠由課長から、これまでの議論を踏まえた「基本方針案」が示され、概ね了承されています。

2022年度の次期改定の柱は、冒頭に示したように次の4本です。
(1)新型コロナウイルス感染症等にも対応できる効率的・効果的で質の高い医療提供体制の構築【重点課題】
(2)安心・安全で質の高い医療の実現のための医師等の働き方改革等の推進【重点課題】
(3)患者・国民にとって身近であって、安心・安全で質の高い医療の実現
(4)効率化・適正化を通じた制度の安定性・持続可能性の向上

2022年度診療報酬改定の基本方針案の概要(医療保険部会・医療部会 211209)



重点課題の1つめである「効率的・効果的で質の高い医療提供体制の構築」に関しては、▼コロナ感染症への対応▼医療計画の見直しも念頭に置いた「新興感染症等に対応できる医療提供体制の構築」に向けた取り組み▼医療機能や患者の状態に応じた入院医療の評価▼外来医療の機能分化等▼かかりつけ医、かかりつけ歯科医、かかりつけ薬剤師の機能の評価▼質の高い在宅医療・訪問看護の確保▼地域包括ケアシステムの推進のための取り組み―といった方向性が示されています。

コロナ感染症へ対応する中で「我が国では医療機関数が多すぎ、限られた医療資源(例えば医師・看護師などの医療人材)が散在してしまっているために、重症患者等に適切に対応することが困難な状況に陥っている」ことが確認され、「急性期・高度急性期医療提供体制の集約化」が重要な検討課題の1つに据えられています。まさに「新興感染症等に対応できる医療提供体制の構築」が求められており、2022年度はもちろん、将来の診療報酬改定においても重要な検討テーマとなることでしょう。

「看護職員の賃金引き上げ」を診療報酬で行うこと見据え、医療保険部会委員からも注文

また(2)の「働き方改革」に関して、医師以外の医療従事者ではすでに、医師では2024年度から「新たな時間外働上限」が設けられます。すべての勤務医に対して新たな時間外労働の上限規制(原則:年間960時間以下(A水準)、救急医療など地域医療に欠かせない医療機関(B水準)や、研修医など集中的に多くの症例を経験する必要がある医師(C水準)など:年間1860時間以下)を適用するとともに、一般労働者と比べて「多くの医師が長時間労働に携わらなければならない」状況に鑑みた、追加的健康確保措置(▼28時間までの連続勤務時間制限▼9時間以上の勤務間インターバル▼代償休息▼面接指導と必要に応じた就業上の措置(勤務停止など)―など)を講じる義務が医療機関の管理者に課されるものです。

医師働き方改革の全体像(中医協総会1 210721)



2024年度から「新たな時間外労働上限」が稼働するため、▼勤務医の業務量そのものを減らす(例えば医師以外でも実施可能な業務は他職種にタスク・シフティングしていく)▼すべての病院で労務管理を徹底する▼B水準・C水準等の指定を行っていく―などの準備を2023年度までに完了させておかなければなりません。このため、2022年度の次期診療報酬改定でも「医師をはじめとする医療従事者の働き方改革」を強力にサポートしていく必要があります。

基本方針では、例えば▼医療機関内における労務管理や労働環境の改善のためのマネジメントシステムの実践に資する取り組みの推進▼各職種が専門性を十分に発揮するための勤務環境の改善、タスク・シェアリング/タスク・シフティング、チーム医療の推進▼業務の効率化に資するICTの利活用の推進、その他厳しい勤務環境の改善に向けた取り組みの評価▼地域医療確保を図る観点から早急な対応が必要な救急医療体制等の確保▼新たな「コロナ克服・新時代開拓のための経済対策」を踏まえた、看護職員等の収入引き上げ等に係る必要な対応についての検討と、負担軽減に資する取り組みの推進—といった方向性を示しました。

このうち「『コロナ克服・新時代開拓のための経済対策』を踏まえた、看護職員等の収入引き上げ」については、「診療報酬での対応も視野に、2021年末の予算案編成過程で検討していく」こととなっており、「診療報酬で対応する」とも「診療報酬ではなく、補助金で対応する」とも決まっていません。

12月9日の医療保険部会では、このテーマについて「仮に診療報酬で対応する」ことになった場合を見据え、▼自宅療養・宿泊療養患者に訪問看護を提供する看護職員の処遇改善も検討すべきである(袖井孝子委員:高齢社会をよくする女性の会副理事長)▼現場の看護職員の収入が実際にアップするような実効性ある内容とし、事後検証もしっかり行うべきである(佐野雅宏委員:健康保険組合連合会副会長、安藤伸樹委員:全国健康保険協会理事長)▼現場の看護職員の収入が実際にアップするような対応を行うべきである。診療報酬対応とした場合、患者負担・保険者負担も増加するため、国保財政への支援を考えてほしい(前葉泰幸委員:全国市長会相談役・社会文教委員/三重県津市長)▼医療提供者も日本国民で有、安心できる生活の確保が必要である。看護職員はもとより看護補助者などの収入引き上げにしっかり対応してほしい(池端幸彦委員(日本慢性期医療協会副会長、福井県医師会長)—など多数の意見が出されています。

例えば、今年末(2021年12月)の2022年度予算案編成過程で「診療報酬で対応する」ことが決まった場合には、具体的な枠組みを中医協で検討することになります。すでに「基本診療料(初診料や再診料、入院基本料など)の引き上げ」を求める意見や、「介護報酬の介護職員処遇改善加算を参考にすべき」との意見などが出ており、中医協では上記のような医療保険で示された意見も踏まえて検討していくことになるでしょう。

アウトカム評価による「医療の質向上」、医療費適正化も診療報酬改定の重要視点

3つ目の柱である「患者・国民にとって身近であって、安心・安全で質の高い医療」に関しては、▼患者が安心・安全に医療を受けられるための体制の評価や医薬品の安定供給の確保等▼医療におけるICTの利活用・デジタル化への対応▼アウトカムにも着目した評価の推進▼重点的な対応が求められる分野について、国民の安心・安全を確保する観点からの適切な評価▼口腔疾患の重症化予防、口腔機能低下への対応の充実、生活の質に配慮した歯科医療 の推進▼薬局の地域におけるかかりつけ機能に応じた適切な評価、薬局・薬剤師業務の 対物中心から対人中心への転換の推進、病棟薬剤師業務の評価—などが打ち出されました。

中医協では「個別事項」や「技術的事項」などとして扱われる分野が多く該当し、例えば「がん医療の充実」に向けた診療報酬での評価、「難病対策の充実」に向けた診療報酬での評価などがまず思い浮かびます。

また、「アウトカム」に着目した評価を打ち出している点にも注目が集まります。診療報酬では▼体制(ストラクチャー、例えば看護職員を何名配置しているかなど)▼過程(プロセス、例えば●●の行為を実施しているかなど)▼結果(アウトカム、どのような成果が出ているかなど)—の3つの視点で評価を行います。「体制」や「過程」に着目する評価項目が多いのが現実ですが、例えば、回復期リハビリ病棟における「リハビリテーション実績指数」など「結果・アウトカム」に着目した評価項目も導入されてきています。

もちろん、アウトカム評価には、いわゆるクリームスキミング(成果の出やすい患者のみを選別し、成果の出にくい患者を忌避する)が生じる危険性もあります。こうした点に十分に配慮しながら「アウトカム評価を進めよ」というメッセージが医療保険部会から強く示されている点を重視して、今後も含めた診療報酬改定の内容を議論していくことになるでしょう。



他方、(4)の「効率化・適正化を通じた制度の安定性・持続可能性の向上」に向けては、▼後発医薬品やバイオ後続品の使用促進▼費用対効果評価制度の活用▼市場実勢価格を踏まえた適正な評価等▼医療機能や患者の状態に応じた入院医療の評価(再掲)▼外来医療の機能分化等(再掲)▼重症化予防の取組の推進▼医師・病棟薬剤師と薬局薬剤師の協働の取組による医薬品の適正使用等の推進▼効率性等に応じた薬局の評価の推進—などが打ち出されました。

医療技術の高度化(例えば脊髄性筋萎縮症の治療薬「ゾルゲンスマ点滴静注」(1億6707万円)白血病等治療薬「キムリア」(3350万円)などの超高額薬剤の保険適用が相次ぎ、さらにキムリアに類似した、やはり超高額な血液がん治療薬も次々に登場)、少子高齢化の進展(来年度(2022年度)から団塊世代が75歳以上の後期高齢者となりはじめ、2025年度には全員が後期高齢者となる。その後2040年度にかけて高齢者の増加ペース自体は鈍化するが、現役世代人口が急速に減少する)により、我が国の医療保険財政は厳しさを増していきます。このため「医療費の伸びを、我々国民が負担できる水準に抑える」(医療費適正化)方策が欠かせません。

この「医療費適正化」の視点は診療報酬改定においても極めて重要で、「団塊の世代が75歳以上の後期高齢者になり始める」2022年度に行われる次期改定での取り組み内容にも注目が集まっています。

医療費適正化方策の代表例の1つである「後発医薬品の使用促進」に関しては、現在の「後発品使用割合の高さに着目した加算」から「後発品使用割合の低さに着目した減算」に軸足を移していくべきか否かが議論の俎上に上っており、基本方針を踏まえて中医協でどういった議論が行われるのか注目する必要があります。





【これまでの2022年度改定関連記事】
◆入院医療の全体に関する記事はこちら(入院医療分科会の最終とりまとめ)こちら(入院医療分科会の中間とりまとめを受けた中医協論議)こちら(入院医療分科会の中間とりまとめ)こちら(入院総論)
◆急性期入院医療に関する記事はこちら(新指標4)こちら(新指標3、重症患者対応)こちら(看護必要度5)こちら(看護必要度4)こちら(看護必要度3)こちら(新入院指標2)こちら(看護必要度2)こちら(看護必要度1)こちら(新入院指標1)
◆DPCに関する記事はこちらこちらこちら
◆ICU等に関する記事はこちらこちらこちらこちら
◆地域包括ケア病棟に関する記事はこちらこちらこちら
◆回復期リハビリテーション病棟に関する記事はこちらこちらこちらこちら
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◆短期滞在手術等基本料に関する記事はこちらこちら
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◆新型コロナウイルス感染症を含めた感染症対策に関する記事はこちらこちら
◆医療従事者の働き方改革サポートに関する記事はこちらこちら
◆がん対策サポートに関する記事はこちらこちら
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◆認知症を含めた精神医療に関する記事はこちらこちら
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◆透析医療に関する記事はこちら
◆データ提出等に関する記事はこちら
◆調剤に関する記事はこちらこちらこちら
◆後発医薬品使用促進・薬剤使用適正化、不妊治療技術に関する記事は後こちらこちらこちら
◆医療経済実態調査(第23回調査)結果に関する記事はこちら
◆消費税対応の是非に関する記事はこちら
◆薬価・材料価格調査に関する記事はこちら
◆基本方針策定論議に関する記事はこちら(医療保険部会4)こちら(医療部会4)こちら(医療部会3)こちら(医療保険部会3)こちら(医療部会2)こちら(医療保険部会2)こちら(医療部会1)こちら(医療保険部会1)



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