医師はもちろん看護師・薬剤師など医療従事者全体の働き方改革を2022年度診療報酬改定でサポート―中医協総会(1)
2021.12.8.(水)
2022年度の次期診療報酬改定は「2024年度から本格稼働する医師働き方改革」に向けた最後の診療報酬見直しの機会となる。医師の働き方改革により他職種への業務が多くなることから、医療従事者全体の働き方改革が必要であり、これを診療報酬でもサポートしていく必要がある―。
そこで、2022年度改定では、医師にとどまらず、看護師、看護補助者、薬剤師、医師事務作業補助者など、多職種の活躍を評価する幅広い加算について要件の見直しなどを行うこととしてはどうか―。
12月8日に開催された中央社会保険医療協議会・総会では、こういった議論が行われました。
目次
【地域医療体制確保加算】、小児救急や産科救急を担う病院にも算定対象拡大してはどうか
2022年度の次期診療報酬改定に向けた論議は佳境に入ってきました。12月8 日の中医協総会では▼医療従事者の働き方改革▼後発医薬品の使用促進▼医薬品の適正使用推進—などを主な議題としました。本稿では、主に「医療従事者の働き方改革」に焦点を合わせます。
Gem Medで繰り返しお伝えしているとおり、2024年4月から、【医師の働き方改革】がスタートします。
改正医療法(良質かつ適切な医療を効率的に提供する体制の確保を推進するための医療法等の一部を改正する法律)でB・C水準の枠組みや、追加的健康確保措置の義務化などが行われたことを受け、「医師の働き方改革の推進に関する検討会」において、施行に向けた詰めの議論(▼医師勤務時間短縮計画(時短計画)の作成▼時短計画の評価▼勤務間インターバルや連続勤務時間制限、代償休息の付与方法―など)が詰められ、現在、厚労省で施行に向けた準備が進められています。
▽C2水準に関する議論の記事はこちらとこちらとこちら
▽評価センターによる評価の議論の記事はこちらとこちら
▽追加的健康確保措置に関する記事はこちら
▽医師勤務時間短縮計画に関する記事はこちら
▽労務管理、地域医療への影響に関する記事はこちら
医師以外の医療従事者についても働き方改革が求められ、すでに「通常は年間360時間まで、例外的に年化720時間まで」の時間外労働上限などが定められています。
医師の働き方改革を進める中では、とりわけ「医師は医師免許保有者でなければ実施不可能な業務に集中し、医師免許保有者でなくとも実施可能な業務は他職種に移管していく」というタスク・シフティングが重要です。このため医師の働き方改革を進めれば、他の医療職種の業務も増加することから、「医師を含めた医療従事者の働き方改革」を2024年度およびその先を見据えて強力に進めていく必要があるのです。
診療報酬でも「医療従事者の働き方改革」をサポートする必要があり、2020年度には、例えば年間2000件以上の救急搬送患者を受け入れ、勤務医の負担軽減・処遇改善に積極的に取り組んでいる急性期病院を評価する【地域医療体制確保加算】の創設などが行われています。2022年度の次期診療報酬改定は「2024年度の医師働き方改革(改正労働基準法等)の本格稼働」に向けた最後の診療報酬改定であり対応の強化を図っていくことが必要でしょう(2024年度改定まで待って手当てしたのでは間に合わない)。
厚生労働省保険局医療課の井内努課長は、(1)医師事務作業補助体制加算(2)手術・処置等の時間外加算(3)周術期における薬学的管理業務(4)病棟薬剤業務実施加算(5)特定行為研修を修了した看護師の活用(6)看護師の処遇改善(7)看護補助者の活用(8)看護職員の夜間負担軽減(9)ICTを活用した医療従事者の負担軽減(10)地域医療体制確保加算―の論点を提示し、中医協に議論を要請しました。内容は膨大ですので、順不同にポイントを絞って見ていきましょう。
まず(10)の【地域医療体制確保加算】は、上述のとおり、▼勤務医の負担が大きいと考えられる(例えば年間2000件以上の救急搬送患者を受け入れるなど)▼勤務医の負担軽減・処遇改善に積極的に取り組んでいる―急性期病院を評価するものです。冒頭に述べた、960時間超の時間外労働が認められる「B水準・C水準医療機関」等に該当すると思われる病院を対象に、「労働時間短縮に今から取り組んでほしい」というメッセージが発せられた形です。
主に大病院で取得・算定が進んでおり、「医師働き方改革の診療報酬によるサポート」が一定の効果を生んでいることが伺えますが、▼産科救急・小児科救急・精神科救急医療を担う病院において、地域に必要な医療提供を担い、勤務医の負担が重い(産科や小児科で宿日直が多く、労働時間も長い)が、要件を満たさない(救急搬送件数が少ない)ために加算取得ができない▼医師の負担軽減に向けた取り組み状況・内容には格差・バラつきがあり、また「医師労働時間短縮計画ガイドライン」で求められる内容と、加算で求められる負担軽減内容に若干の差異がある―という課題も出ています。
このため中医協では、診療側・支払側の双方から▼加算対象の拡大(産科救急や小児救急の実施医療機関を加える)▼医師労働時間短縮計画ガイドラインを踏まえた施設基準へと見直す―方向が示されました。
あわせて「個々の医療機関における負担軽減実施策の内容を把握できる仕組みをセットで考えるべき」(支払側の安藤伸樹委員:全国健康保険協会理事長)、「労働時間短縮の効果・アウトカムはそう容易には現れない点を勘案した施設基準とすべき。医師働き方改革の成果を出すには先行投資(新たな人材確保など)が必要であり、それを賄える報酬設定を考慮すべき」(診療側の城守国斗委員:日本医師会常任理事)といった要望が出ています。
こうした要望も踏まえ、上記の方向で【地域医療体制確保加算】の見直し案を厚労省で詰めていくことになるでしょう。
看護職員の処遇改善を診療報酬で行うべきか、その際には基本料の引き上げで対応すべきか
また(6)の「看護補助者の処遇改善」にも大きな注目が集まっています。11月19日に閣議決定された新たな「コロナ克服・新時代開拓のための経済対策」では、地域で新型コロナウイルス感染症医療など一定の役割を担う医療機関に勤務する看護職員を対象に「賃上げ効果が継続される取り組みを行う」ことを前提に、段階的に収入を3%程度引き上げていく方針が打ち出されました。
併せて11月26日に閣議決定された2021年度補正予算案では、まず「来年(2022年)2月から収入を1%程度(月額4000円)引き上げるための措置」(補助金支給)を実施する方針を決定。「来年(2022年)10月以降」については、「診療報酬での対応も視野に入れて、予算編成過程で検討していく」こととなっています。
「診療報酬で対応する」とも「診療報酬ではなく、補助金で対応する」とも決まっておらず、また政府で方針を決定するために「中医協でこれらを決する」ことはできません。仮に政府で「診療報酬で対応する」方針が決まった暁に、中医協で「では具体的にどういった点数設定を行っていくか」と議論していくことになるのです。
この点、診療側の城守委員は「看護職員の処遇改善が極めて重要である」と前置きをしたうえで、「看護職員に限定せず、幅広い医療職種について恒久的な賃金引き上げが必要な状況である。それに見合う財源を確保するために、診療報酬での対応としては【基本診療料】(初診料や再診料、外来診療料、入院基本料、特定入院料など)の引き上げを行うべき」と提案。また、同じく診療側の有澤賢二委員(日本薬剤師会常務理事)は「特定職種の処遇改善について、診療報酬での対応は馴染まないのではないか」との考えを示しています。
一方、支払側の安藤委員は「仮に診療報酬で看護職員の処遇改善を行うとなれば、改めて点数設定論議を行う必要がある。その際、重要なのは、どのような手法を採用するにせよ『確実に対象となる看護職員の給与アップにつながる』ことである。その点についても検証も必要である」とコメント。
また同じく支払側の佐保昌一委員(日本労働組合総連合会総合政策推進局長)は、安藤委員と同じく「確実に看護職員の処遇改善に結びつく」仕組みが重要とし、例えば、介護報酬では「介護職員の処遇改善に使途を限定し、賃金引上げや職場環境改善などを要件とする【介護職員処遇改善加算】などが設けられている」点を参考にすべきと提案しました。
また、やはり支払側の松本真人委員(健康保険組合連合会理事)は「仮に診療報酬で対応するのであれば【介護職員処遇改善加算】などを参考にするべきで、城守委員の提案する『基本料での対応』は認められない」と指摘。さらに「診療報酬での対応では患者負担増につながる。その分を他で吸収できるようなメリハリを全体でつけるべき」とも提案しています。松本委員は、例えば「新たに看護職員処遇改善加算等を設ける場合には、別の点数の引き下げを行い、全体として医療費や患者負担が増加しないようにせよ」という、いわゆる財政中立の視点を重視していると言えます。
このように、中医協委員の考えも現時点では区々です。まず今年末の2022年度予算案編成過程で「看護職員の処遇改善をどういった手法で行うのか」の決定を待ち、そこで「診療報酬で対応する」ことが決まった場合には、新たて具体案を中医協で練っていくことになるでしょう。
看護補助者の活躍に期待し、直接ケアを行う補助者の業務や看護職向けの研修など評価へ
看護に関連して、(5)特定行為研修を修了した看護師の活用(7)看護補助者の活用(8)看護職員の夜間負担軽減―については例えば次のような考え方が示されました。
▽(5)について、専門性の高い看護師(認定看護師や専門看護師)が配置要件となっている診療報酬項目(例えば【栄養サポートチーム加算】など)について、「特定行為研修修了者」も含めてはどうか
▽(7)について、看護補助者の活用が「看護職員の負担軽減」等に向けて極めて重要であるが、看護補助者獲得は難しくなってきている。看護補助者の活用には「看護職と看護補助者とのチームワーク」が極めて重要であり、補助者対象の研修は比較的進んでいるが、看護職対象の研修実施は低調である点をどう考えるか。また「直接ケアを行う看護補助者」の増員に期待を寄せている医療現場の声にどう応えるか
→看護補助者配置を評価する加算(【急性期看護補助体制加算】や【夜間急性期看護補助体制加算】など)について、点数の引き上げや「看護職員向けの研修実施」の要件化などを検討してはどうか
→「直接ケアを行う看護補助者」を配置し、適切な研修等のうえで直接ケアを担当する場合の評価充実を検討してはどうか
▽(8)については、看護職員の夜間負担軽減のために、例えば【夜間急性期看護補助体制加算】などで、▼11時間以上の勤務間インターバル確保▼連続夜勤は2回まで▼夜勤後の暦日の休日確保▼看護補助者の夜間配置—といった選択的「負担軽減策」導入が要件化されているが、その取り組みが充実してきている。また回復期リハビリ病棟では、看護職の夜間勤務が必要で(夜間に転棟して重症になる患者も少なくない)、そのための「夜間配置の充実」→「夜間業務負担軽減」と行っているが、診療報酬での十分な評価がなされていない。こうした点をどう考えるか
→【夜間急性期看護補助体制加算】などの選択的「負担軽減策」要件を厳格化(例えば導入が進む11時間以上の勤務間インターバル確保など)を行い、さらなる負担軽減充実を図ってはどうか
→回復期リハビリ病棟での夜間看護配置・業務負担軽減を診療報酬で十分に評価してはどうか
診療側の城守委員、支払側の松本委員ともに、こうした「看護職員の負担軽減に対する診療報酬での評価を充実する」方向に賛同。関連して城守委員は「看護補助者確保が難しく、人材紹介会社に多額の手数料を支払わなければならなくなってきている。こうした点も加味した報酬設定を検討してほしい」と要望、また同じく診療側の池端幸彦委員(日本慢性期医療協会副会長、福井県医師会長)は「看護補助者として医療機関で働く介護福祉士なども少なくない。介護施設等に勤務すれば【介護職員処遇改善加算】などの対象となって賃金引き上げが行われるが、医療機関に勤務する場合にはこうした手当などがなされない。こうした不合理・格差の是正を検討すべきである」と要望しています。
周術期における薬剤師の活躍で医療の質が向上、診療報酬でも評価へ
また薬剤師については、(3)周術期において薬剤師が専門性を発揮することで医療の質が高まる点(インシデント・アクシデントの発生抑制、業務の効率化など)を踏まえた評価を行ってはどうか(4)病棟薬剤業務実施加算について小児入院医療管理料算定病棟での取得を認めてはどうか―という論点が浮上しました。
いずれにも明確な反対意見は出ていませんが、▼小児入院医療管理料算定病棟での薬剤業務時間には大きなバラつきがあり、評価にあたっては丁寧な検討が必要である(診療側の城守委員)▼病棟薬剤業務実施加算の算定を地域包括ケア病棟や回復期リハビリ病棟でも認めるべき(診療側の有澤委員)▼薬剤師の活躍で、医療の質がどのように高まるのか長期的なフォロー・検証を行っていくべき(支払側の松本委員)—との注文が付いています。これらも踏まえて、今後、厚労省で具体的な点数・要件設定などを考えていくことになります。
医師事務作業補助者の雇用安定・キャリアアップに向け、加算の点数・要件も見直すべきか
また(1)の医師事務作業補助体制加算、(2)の時間外加算、(9)のICT利活用については、次のような論点が浮上しています。
▽(1)の医師事務作業補助体制加算は「医師の負担軽減に資する」有用な加算との評判が高い。さらなる医師の負担軽減に向けて「医師事務作業補助者の雇用安定・キャリアパス確保(経験年数が3年以上になると医師の負担軽減効果が非常に大きくなる)などを進められないか
→例えば、【医師事務作業補助体制加算】の点数アップ・経験年数の長い補助者活用のさらなる点数アップなどにより、雇用安定確保などを進めてはどうか
▽(2)の時間外加算について、「医療機関の当直人数」によって予定手術前述の当直等負担が変わってくる施設基準となっており、一部には「連続当直」の実態もある点をどう考えるか
→手術・処置等の【時間外加算】の施設基準を見直し、より勤務医の負担軽減の実効性が高まるようにできないか
▽(9)のICT利活用について、オンラインカンファレンスやオンライン研修などをさらに推進してはどうか
このうち(1)については、「経験年数の長い医師事務作業補助者の雇用継続のためには点数の引き上げが必須である(現在では加算点数が引き上げる)」とする診療側の城守委員・支払側の佐保委員と、「医師事務作業補助者の教育充実などは重要であるが、加算点数の引き上げは慎重に検討すべき」とする支払側の松本委員との間に若干の温度差がありそうです。また城守委員は「現在、医師事務作業補助体制加算を取得するためには『年間緊急入院患者数●百名以上』などの施設基準を満たす必要があり、急性期入院医療に偏り過ぎている。基準・要件の見直しが必要である」とも付言しています。
また(2)や(9)の論点に異論・反論は出ておらず、佐保委員は時間外加算について「勤務医の当直等について、適切に負担軽減を行っている病院と、そうでない病院とでは評価にメリハリをつけるべき」との考えを示しています。
時間外加算は、2014年度の診療報酬改定で、手術・1000点以上の処置について、休日・時間外・深夜に行った場合に当該手術・処置点数の「160/100」を上乗せ、つまり点数2.6倍にするものです。時間外等に対応する医師の負担を考慮したものですが、当該加算を取得するためには▼年間の緊急入院患者(意識障害や呼吸不全など)数が200名以上▼全身麻酔手術が年間800件以上▼医師の負担軽減・処遇改善体制の整備▼加算算定診療科での交代制勤務・チーム制の導入▼予定手術前の当直が加算算定診療科全体で年間12日以内(当直医師が毎日6名以上配置されている場合には24日以内)―などといった要件(施設基準)が課されています。これらを見る限り「時間外等の手術・処置は大病院に集約すべき、そのために医師も大病院に集約させる必要がある」とのメッセージと読み取れます。勤務医が多くなれば、1人1人の勤務医の負担が減少すると期待され、例えば新型コロナウイルス感染症対策などでも有用です。2022年度の次期診療報酬で、こうした「急性期機能の集約化」がどのように進められるのかにも注目する必要があります。
【これまでの2022年度改定関連記事】
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◆調剤に関する記事はこちらとこちらとこちら
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