オンライン資格確認等システム、まず「国の補助の範囲内」で導入を進めてはどうか―日病・相澤会長
2021.3.1.(月)
オンライン資格確認等システムが3月下旬(2021年3月下旬)から稼働するが、まず厚労省の示す標準事業額の範囲内(カードリーダー3台まで)でシステムを導入し、徐々に拡大を検討していくことが妥当ではないか―。
標準的なシステムであっても、システムベンダー側から高額・不明瞭な見積もりが提示されることがあるが、その場合には厚生労働省が必要な調整を行ってくれることとなっており、その協力も得ながら、自院に合ったオンライン資格確認等システムの導入を進めていくべきである―。
日本病院会の相澤孝夫会長は、3月1日の定例記者会見においてこういった考えを明らかにしました。
オンライン資格確認等システム、将来「全国で患者個々人の治療歴」等を参照可能に拡大
Gem Medでお伝えしているとおり、今年(2021年)3月下旬から「オンライン資格確認等システム」が稼働します。
公的医療保険制度(健康保険制度)は、加入者(被保険者)が保険料を納め、病気やケガなどの保険事故に遭遇した際に、保険から給付(年齢や所得に応じて医療費の7-9割を給付、さらに高額療養費制度などによる手厚い給付も行われる)が行われる仕組みです。
医療保険に加入していない人にはこうした給付が行われません(全額自己負担となる)。このため、医療機関等の窓口では「患者がどの医療保険に加入しているのか」を被保険者証(保険証)で確認します(資格確認)。しかし現在、この資格確認は、事実上「レセプト請求の中で行う」こととなるため、医療機関窓口で「この患者は、被保険者証本人に記載されている本人なのか」「提示された被保険者証は有効か」を確実に確認することができません。
したがって、例えば「A社で働いていたサラリーマンが、退職後にも在職中の被保険者証(保険証)を返還せずに使用して診療を受ける」という事例が少なからず生じています(1か月当たり30万―40万件)。これは「自分が加入していない医療保険等に費用を負担させる」こととなり許されません(退職後は、別の医療保険(新たな勤め先の健康保険や、自営業や無職の場合には国民健康保険)に加入し、その医療保険を利用しなければならない)。
そこで、医療機関等を受診した際に、窓口で迅速かつ簡易に「当該患者が医療保険に適切に加入しているか」を確認できるオンライン資格確認等システムが導入されるのです。資格確認は例えば次のような流れで行われます。
▼患者が、健康保険被保険者証機能を持つ「マイナンバーカード」を医療機関等窓口のカードリーダーにかざす
↓
▼医療機関等のパソコン端末から、オンラインで社会保険診療報酬支払基金(支払基金)・国民健康保険中央会(国保中央会)のデータに「当該患者がどの医療保険(健康保険組合や国民健康保険など)に加入しているのか」を照会し、回答を得る
このオンライン資格確認等システムを導入する医療機関等では、▼カードリーダーの設置▼資格確認用のパソコン等の設置▼レセプトコンピュータシステムの改修―が必要となり、また医療機関等によっては▼特別なネットワーク環境の整備(新たな回線の設置など)▼電子カルテシステム等の改修―なども行う必要が出てきます。
機器導入やシステム改修には費用が発生するため、厚労省は標準的な部分について「費用の助成」を行っており、病院では次のような補助が行われます(従前は50%補助→現在は100%補助)。
▽カードリーダーについて「3台」まで無償提供
▽レセコン改修等については、カードリーダーの台数に応じて次の費用を助成する
▼1台:標準事業額(210万1000円)を上限に実費を補助する(上限までは100%補助)
▼2台:標準事業額(200万2000円)を上限に実費を補助する(上限までは100%補助)
▼3台:標準事業額(190万8000円)を上限に実費を補助する(上限までは100%補助)
ただし、病院がすでに構築している医事会計システム(レセコン等)は千差万別であり、また電子カルテと医事会計システムの連動状況などもさまざまであり、理想的なオンライン資格確認等システムの導入を行うためには、多額の費用が発生し、上記の標準事業額に収まらないケースが出てきます。
また日本病院会の相澤会長が理事長・最高経営責任者を務める社会医療法人財団慈泉会「相澤病院」(長野県松本市、460床)では、▼歯科を保有するためにカードリーダーが4台以上必要となる▼新たに別の光回線を引く必要がある―ために、標準事業額よりも数百万円高い見積もりがシステムベンダーから提示されています。
他方、患者サイドの「被保険者証として利用可能なマイナンバーカード」保有状況を見ると、今年(2021年)2月7日時点で「7.8%」にとどまっています(マイナンバーカードの交付そのものは人口の25.3%)。つまり9割超の患者は、現行の被保険者証を利用して医療機関等を受診することになるのです。このため医療機関等サイドには「利用者がごくごく限定される中で、多額の費用を投下してオンライン資格確認等システムを導入すべきだろうか」という様子見をしているところも少なくないようです(今年(2021年)2月7日時点では、顔認証付カードリーダーは医療機関等全体では28.5%、病院に限っても38.0%にとどまっている)。
ただしオンライン資格確認等システムは、将来的には例えば「全国の医療機関等や患者自身が、患者個々人の▼薬剤▼手術・移植▼透析―などの情報を確認可能とする仕組み」(EHR:Electric Health Record)などにも拡大される(オンライン資格確認等システムのインフラを活用して、健康・医療・介護情報の利活用を行えるようになる)ことから、今からすべての医療機関等で準備を進めておくことが重要です。
例えば、意識不明の状態で救急搬送された患者、認知症高齢者などの治療を行う際に、当該医療機関等がEHR情報にアクセスして「当該患者の過去の薬剤投与歴や手術歴」などを正確に確認し、適切かつ安全な医療を効果的・効率的・迅速に提供することが可能になると期待されています。
こうした状況を踏まえて日病の常任理事会において、「まず、標準事業額の範囲内で、オンライン資格確認等システムを導入し、徐々に拡大を検討していく」ことを推進する方針を決定したことが相澤会長から報告されました。まず「カードリーダー3台以内」の導入というイメージです。
もっとも、カードリーダー3台以内の導入であっても、「標準事業額の190-210万円」を超える見積もりが提示されるケースもあります。
上述した四病協の会長・副会長病院へのアンケート調査では、システムベンダーから次のように高額かつバラつきの大きな見積もりが提示されています。
▽総額:平均で398万4324円、最高で1228万180円(ただし最高額は2病院分)
【内訳】
▼オンライン資格確認の導入に必要なパソコン:平均で74万2555円、最高で183万8700円
▼ネットワーク環境整備費:平均で74万7983円、最高で300万円
▼レセコン改修費:平均で186万1143円、最高で470万3600円
▼電子カルテ改修費:平均で151万9419円、最高で432万6950円
上述のように病院によってシステムや環境がさまざまなために「●円が妥当」と一律に言い切ることはできません。ただし、厚生労働省保険局医療介護連携政策課の山下護課長は「あまりに高額な見積もり、内容が不明瞭な見積もり」を提示するシステムベンダーに対しては厚労省が直接聞き取りを行い、必要があれば調整を行う考えを示しています。相澤会長は「日病内でも、この厚労省の協力も活用しながら、オンライン資格確認等システムの導入を進めていく」方針を固めたことも併せて紹介しています。
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